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GRASPをデータメッシュアーキテクチャに適用すると

Last updated at Posted at 2025-11-11

前置き

GRASPは「誰がその責任を持つの?」を決定するための9つの指針であり、データメッシュの「データプロダクト」というオブジェクトに責任を割り当てる際、まさにそのままの考え方が使えます。

GRASPは、「コンポーネントの凝集・結合」の原則を、より具体的なパターンに落とし込んだものと考えると分かりやすいと思います。

そしてそれは、データプロダクトという「コンポーネント」を設計するための、強力な判断軸となります。

では早速、各原則のメカニズム、事例、そして注意点(トレードオフ)を詳細に振れていきましょう。

1. 情報エキスパート (Information Expert)

責務は、その責務を果たすために必要な情報を(直接)持っている「エキスパート」に割り当てる。

データメッシュへの適用メカニズム

「あるデータを変換・集計するロジック(責務)は、その変換に必要な生データを所有しているドメイン(情報エキスパート)に割り当てるべき」という原則です。

これは、データメッシュの 「ドメインオーナーシップ」 の根幹をなす考え方です。

中央のデータチームがデータを集めて処理するのではなく、データを最もよく知るドメインが処理します。

事例

「月次売上レポート」を作成するという責務は、誰が持つべきか?

情報エキスパートは、注文決済といった生のトランザクションデータを所有している「Salesドメイン」です。

よって、Salesドメインが自身のデータプロダクトとしてMonthlySalesReportを生成・提供する責務を負います。中央のアナリティクスチームではありません。

注意点(トレードオフ)

情報エキスパート(例:Salesドメイン)が、その責務を果たすための 技術力(データエンジニアリング) を持っていない可能性があります。

このギャップを埋めるのが「セルフサービス・データプラットフォーム」の役割です。

インラインコード

2. 高凝集 (High Cohesion)

責務の割り当ては、コンポーネントの凝集度が高くなるように(=関連する責務がまとまるように)行う。

データメッシュへの適用メカニズム

「データプロダクトは、単一の明確なビジネスドメイン(例:顧客、商品、注文)に関連するデータとロジックだけを持つべき」という原則です。

これは、あなたが昨日指摘したCCPやCRPの適用結果そのものです。

事例

「顧客」データプロダクトは、顧客の基本情報、連絡先、住所といった「顧客」に関するデータだけを持つべきです。(高凝集)

ここに「商品の在庫数」や「売上情報」といった、異なるコンテキストが混じり始めたら、それは「何でも屋」のデータプロダクトであり、低凝集状態です。

注意点(トレードオフ)

凝集度を高く保つ(=ドメインを細かく分ける)と、プロダクトの数は増えます。

その結果、プロダクト間の連携(JOIN)のオーバーヘッドが増加する可能性があります。

そのため、一旦論理的にはドメインごとにデータプロダクトを分けつつ、JOINといった利用時の利便性の制約を後からかけて、どのデータプロダクト同士はまとめておくかを決定しましょう。

これが、別記事で書いた、コンポーネントの凝集原則をデータプロダクトに用いた話に繋がります。

3. 疎結合 (Low Coupling)

責務の割り当ては、コンポーネント間の結合度が低くなるように行う。

データメッシュへの適用メカニズム

これはデータメッシュのスローガンそのものです。

データプロダクト同士は、互いの内部実装(どのDBを使っているか、など)に依存してはなりません。

事例

Marketingプロダクトは、Salesプロダクトが公開する「データ契約(Data Contract)」という安定したインターフェイス(APIやビュー)にのみ依存します。

Salesチームが内部のDBをPostgreSQLからSnowflakeに丸ごと入れ替えても、データ契約さえ守られていれば、Marketingプロダクトは一切影響を受けません。

これは、変更しても、契約に対して、リスコフの置換原則を満たせる場合の話です

注意点(トレードオフ)

疎結合を実現する非同期イベント連携などを採用すると、「結果整合性」 というトレードオフが必ず発生します。

Marketingが見ているデータは5分古い」といったことが許容できるかの判断が必要です。

4. 生成者 (Creator)

オブジェクトAの生成は、Aを集約する or Aを含む or Aを密接に利用するような、オブジェクトBに割り当てる。

データメッシュへの適用メカニズム

「新しい"派生"データプロダクト(A)を生成(Create)する責務は、そのインプットとなるデータを消費し、その結果を密接に利用するドメイン(B)に割り当てるべき」ということです。

事例

Customerプロダクト(顧客情報)とSalesプロダクト(販売履歴)をインプットとして、
「優良顧客セグメント」という新しいデータプロダクトを作りたいとします。

この場合、生成者は、そのセグメント情報を密接に利用する「Marketingドメイン」です。

Marketingドメインがこの2つのプロダクトを購読し、HighValueCustomerSegmentプロダクトを生成・所有するCreatorとなります。

注意点(トレードオフ)

生成者(Marketingドメイン)は、インプットとなるCustomerSalesプロダクトへの依存を背負うことになります。

5. コントローラ (Controller)

システム全体への入力イベントを処理する責務は、UI層の背後にあり、ユースケースを調整するオブジェクトに割り当てる。

データメッシュへの適用メカニズム

データメッシュの世界では、「システムへの入力イベント」とは「データプロダクトへのクエリ(問い合わせ)」や「ガバナンスルールの適用要求」にあたります。

コントローラは、データプロダクトの「公開インターフェイス(Output Port)」そのものです。

事例

データ利用者がSalesプロダクトのデータを要求したとします。

このリクエスト(イベント)を最初に受け取るのは、Salesプロダクトが公開しているAPIゲートウェイやSQLビュー(Output Port)です。

このコントローラが、リクエストの認証・認可(セキュリティ)を行い、正当であれば内部のデータストレージ(BigQueryなど)へのクエリ実行を委譲します。

注意点(トレードオフ)

コントローラが賢すぎると、ビジネスロジックまでをも持ち始め、ただのファサード(窓口)ではなくなってしまいます。

この時点で、コントローラは、多目的化しており、上記の高凝集を満たせなくなります。

6. 間接化 (Indirection)

2つのコンポーネントを直接結合させず、仲介者を置くことで疎結合にする。

データメッシュへの適用メカニズム

データプロダクト同士が、互いを「知っている」直接的な依存関係を持つのを防ぎます。

事例

データカタログ(発見の間接化)

A(生産者)はB(消費者)を知りません。

Aはデータカタログに自分を登録します。Bはデータカタログを検索してAを見つけます。

イベントバス(通信の間接化)

AはBにデータを直接送りません。Aはイベントバス(Kafkaなど)にイベントを公開(Publish)します。

Bはイベントバスからイベントを購読(Subscribe)します。AとBは互いの存在を知る必要がありません。

注意点(トレードオフ)

仲介者(カタログやKafka)という、新たな管理対象コンポーネントが生まれます。

ここが(高可用性ではあっても)システム全体の単一障害点になる可能性があります。

7. ポリモーフィズム (Polymorphism)

同じインターフェイス(契約)に対し、異なる実装がそれを置き換え可能であるべき。(リスコフの置換原則)

データメッシュへの適用メカニズム

データメッシュプラットフォームが、「データプロダクトとは、かくあるべし」という共通インターフェイス(例:品質メトリクスを公開せよ、カタログに登録せよ)を定義します。

各ドメインチームは、そのインターフェイスさえ満たせば、内部の実装技術(ポリモーフィズム)は自由に選択できます。

事例

プラットフォームは「/metricsエンドポイントで品質スコアを公開すること」というインターフェイスを定めます。

Salesチームは、Snowflake + dbtでこのインターフェイスを実装します。

IoTチームは、Kafka Streams + S3でこのインターフェイスを実装します。

注意点(トレードオフ)

技術の自由度(ポリモーフィズム)を与えすぎると、組織全体がカオスになります(通称「テクノロジー動物園」)。

「Paved Path(舗装された道)」として、推奨される技術スタック(例:SnowflakeかBigQueryのどちらか)を示すのが現実的です。

8. 変動からの保護 (Protected Variations)

変更される可能性が高い不安定な部分を特定し、その影響が他のコンテキストに及ばないように、安定したインターフェイスの壁で囲い込む。

データメッシュへの適用メカニズム

データプロダクトの内部ロジック(不安定で、頻繁に変更される) を、データ契約(安定したインターフェイス) によってカプセル化(保護)する」ということです。

事例

「優良顧客セグメント」のロジックは、マーケティング部門の気まぐれで毎週のように変わるかもしれません(不安定)。

しかし、データプロダクトとして公開するビュー(例:v1_high_value_customers)のスキーマ(列名や型)は安定させておきます。

内部のロジックがどれだけ変わろうと、この「契約」さえ守れば、このデータを参照しているダッシュボードや他プロダクトは一切壊れません。

注意点(トレードオフ)

この「安定した契約」を設計するのが非常に困難です。
不安定な契約は、保護どころか、変更のたびに下流をすべて破壊します。

かといって、最初から設計することもできないため、最初のうちは不安定な契約による、変動リスクを意図的に引き受けるしかありません。

9. 純粋な作為 (Pure Fabrication)

ドメインの責務ではないが、システム機能上必要な責務(例:DB保存)は、ドメインオブジェクトを汚染しないよう、作為的に作った「専門家」に任せる。

データメッシュへの適用メカニズム

ドメインチーム(例:Sales)は、データ品質の計算方法やビジネスロジックには精通しているが、KubernetesやCI/CDパイプラインの専門家ではない。

そこで、これらの非ドメイン責務(インフラ運用)を、ドメインチームから分離し、作為的に作られた 「セルフサービス・データプラットフォーム」 に任せます。

データエンジニアリング文脈でいう、プラットフォームチームのことを指します。

事例

Salesチームは、データ変換ロジックをSQLで書くだけ。

それをGitにプッシュすると、Pure Fabrication(データプラットフォーム)が自動でテスト、コンテナ化、Airflowでのスケジューリング、品質スキャン、カタログ登録を全部やってくれます。

注意点(トレードオフ)

この「プラットフォーム」自体が、巨大で複雑なモノリスとなり、新たなボトルネックになる可能性があります。

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