概要
AIなどで出走馬の勝率を予測したとき、単勝の期待値は勝率にオッズをかけるだけで簡単に求まる。しかし、複勝払い戻しは他にどの馬が3着以内に入るかによって変動するため計算が複雑である。この記事では、出走馬の複勝率がわかっているときの各馬の複勝期待値の計算方法を記載する。
複勝支持率の計算
複勝期待値を計算するには、まず複勝支持率を知る必要がある。
既知条件
- 出走馬数: $N$
- 複勝$i$番人気の馬の勝率、連対率、複勝率: $p1[i], p2[i], p3[i]$ $(i=1,2,...,N)$
- AIによる予測値を使用
- 複勝$i$番人気の馬の複勝最低オッズ: $o_i$ $(i=1,2,...,N)$
- 例)複勝オッズが1.4-1.6の場合、$o_i=1.4$
- 複勝払戻率: $R$
- 例)JRAの複勝控除率は20%なので、$R=0.8$
- 複勝勝馬数: $n$
- 例)8頭立て以上は $n=3$、7頭立て以下は $n=2$
未知条件
- 複勝$i$番人気の馬の複勝支持率: $r_i$ $(i=1,2,...,N)$
- $r_i$は未知数であり、以下の条件を満たす。
- $0 \leq r_N \leq r_{N-1} \leq ... \leq r_1 \leq 1$
- $\sum_{i=1}^{N} r_i = 1$
- $r_i$は未知数であり、以下の条件を満たす。
複勝払戻オッズの計算方法
JRAが定めた馬券の種類ごとの総払戻金は以下の通りである。
参考:具体的な払戻計算式を知りたいのですが?
\left(W + \frac{D}{P}\right)R \tag{1}
ただし、
- $W$: 当該勝馬に対する勝馬投票券の総券面金額
- $D$: 出走した馬であって勝馬以外のものに対する勝馬投票券の総券面金額
- $P$: 勝馬の数
- $R$: JRAが投票法ごとに定めた率
である。よって、複勝$i, j, k$番人気の馬が3着以内に入ったときの複勝$i$番人気の馬の複勝払戻オッズは、以下の式で計算される。
O_{i,j,k} = \left\{r_i + \frac{1-r_i-r_j-r_k}{n}\right\}\frac{R}{r_i} \tag{2}
複勝支持率の計算方法
以下では$n=3$の場合を考える。
ある馬とその馬を除く複勝人気上位2頭が3着以内に入ったとき、その馬の複勝払戻オッズは最低値となる。
よって、複勝1,2,3番人気の馬が3着以内に入ったとき、複勝1番人気の払戻オッズは最低オッズをとり、式(2)より
o_1 = \left\{r_1 + \frac{1-r_1-r_2-r_3}{n}\right\}\frac{R}{r_1} \tag{3}
が成り立つ。同様に、複勝1,2,3番人気の馬が3着以内に入ったとき、複勝2番人気の払戻オッズは最低オッズをとり、
o_2 = \left\{r_2 + \frac{1-r_1-r_2-r_3}{n}\right\}\frac{R}{r_2} \tag{4}
が成り立つ。以降、複勝$i (i = 3,4,...,N)$番人気の馬についても同様に
o_i = \left\{r_i + \frac{1-r_i-r_1-r_2}{n}\right\}\frac{R}{r_i} \tag{5}
が成り立つ。
以上より、式(3)から式(5)までの連立方程式を解くことで、複勝支持率$r_i (i=1,2,...,N)$を求めることができる。すなわち、式(3)から式(5)は以下で表される式(6)と同値であり、複勝支持率は式(11)で求められる。
\boldsymbol{A}\boldsymbol{r} = \boldsymbol{b} \tag{6}
\boldsymbol{A} = \begin{pmatrix}
\alpha_1 & R & R & \cdots & 0 \\
R & \alpha_2 & R & \cdots & 0 \\
R & R & \alpha_3 & \cdots & 0 \\
\vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
R & R & 0 & \cdots & \alpha_N \\
\end{pmatrix} \tag{7}
\alpha_i = no_i - nR + R \tag{8}
\boldsymbol{r} = \begin{pmatrix}
r_1 & r_2 & r_3 & \cdots & r_N \\
\end{pmatrix}^T \tag{9}
\boldsymbol{b} = \begin{pmatrix}
R & R & R & \cdots & R \\
\end{pmatrix}^T \tag{10}
\boldsymbol{r} = \boldsymbol{A}^{-1}\boldsymbol{b} \tag{11}
ここで、$\boldsymbol{A}$がランク落ちする可能性を考える。式(7)より$\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3$のうち少なくとも2つが$R$と一致するとき$\boldsymbol{A}$はランク落ちして逆行列が存在しなくなるが、式(8)よりそれは $o_1 = R, o_2 = R, o_3 = R$ のうち少なくとも2つが成り立つことと同値である。
しかし、JRAの定める複勝最低オッズは1.0倍以上であり、$R < 1.0$ であるため、$\boldsymbol{A}$がランク落ちすることはない。
同様に、$n = 2$のときは$\boldsymbol{A}$は以下のようになる。
\boldsymbol{A} = \begin{pmatrix}
\alpha_1 & R & 0 & \cdots & 0 \\
R & \alpha_2 & 0 & \cdots & 0 \\
R & 0 & \alpha_3 & \cdots & 0 \\
\vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
R & 0 & 0 & \cdots & \alpha_N \\
\end{pmatrix} \tag{12}
複勝期待値の計算方法
複勝支持率$r_1, r_2, ..., r_N$が求まったたため、式(2)より、複勝$i, j, k$番人気の馬が3着以内に入ったときの複勝$i$番人気の馬の複勝払戻オッズ$O_{i,j,k}$を計算できる。よって、複勝$i$番人気の馬の期待値$E_i$は以下の式で計算できる。
E_i = \sum_{j=1}^{N} \sum_{k=1}^{N} O_{i,j,k} \cdot P[i,j,k] \space (j \neq i, k \neq i, j < k) \tag{13}
ただし、$P[i,j,k]$は3着以内が複勝$i,j,k$番人気で決まる確率であり、$j$と$k$は$i$を除く1から$N$までの整数のうち2つの組み合わせである。
$P[i,j,k]$の計算方法はそのうち公開するので待ってください。