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基礎から運用まで一冊で学べる『AIエージェント開発/運用入門』の実践記録

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はじめに

「AIエージェント」という言葉をよく耳にするようになりました。

しかし、「LLMとの違いは?」「どうやって開発するの?」といった疑問に明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。

私もその一人でした。
AIエージェントの基礎から実装まで体系的に学べる教材を探していたところ、『AIエージェント開発/運用入門』を見つけ、購入しました。

本書は基礎概念の丁寧な解説から、実際の開発手法、さらには運用フェーズまでカバーしており、これからAIエージェント開発を始める人にとって理想的な入門書だと感じました。

この記事では、本書の特徴と学べることを、実際に読んだ体験を交えて紹介します。
購入を検討している方の参考になれば幸いです。

image.png

AIエージェントの基本を丁寧に解説

本書の第1章は、「AIエージェントとは何か」から始まります。

私自身、購入前は「自律的にタスクを実行するAI」という概念的な理解にとどまっており、具体的な動作原理やLLMとの違いについては把握できていませんでした。

本書では、単なる定義で終わらせず、従来のLLMとの違い、エージェントの思考プロセス、ツール呼び出しの仕組みといった動作を支える技術要素まで順を追って解説されています。一部の技術は第2章以降のハンズオンにて実装するため、より一層理解が深まります。

初心者がつまずきがちな抽象的な概念も、図やイラストを交えて視覚的に説明されており、スムーズに読み進められます。

スクリーンショット 2025-11-04 19.19.44.png

出典:『AIエージェント開発/運用入門』1.3章

3つの主要フレームワークを実践的に学べる

本書の核となるのが、主要な開発フレームワークのハンズオンです。以下の3つを、実際に手を動かしながら学べます:

  • Strands Agents:シンプルなPythonコードでAIエージェントを実装できる
  • LangGraph:システムをグラフ構造で定義し、複雑なワークフローに対応
  • Mastra:TypeScriptベースで、Web開発者に馴染みやすい

Strands Agentsのハンズオンでは、以下のようにわずか5行のコードでエージェントが動きます。これを見て、「AIエージェント開発のハードルは思ったより低い」と感じました。

# 必要なライブラリをインポート
from strands import Agent
from dotenv import load_dotenv

# .envファイルから環境変数を読み込む
load_dotenv()

# エージェントを作成して起動
agent = Agent("us.anthropic.claude-sonnet-4-20250514-v1:0")
agent("Strandsってどういう意味?")

出典:『AIエージェント開発/運用入門』3.5章

LangGraphは少し複雑ですが、本書ではグラフ構造の基本から丁寧に説明されており、初めて触る人でも理解しやすい構成になっています。

各ハンズオンは、バックエンドの実装だけでなく、フロントエンドの構築やAWSへのデプロイまで含まれています。正直、「エージェントのロジックを書いて終わり」程度を想定していたので、実際にユーザーが使える形まで完成させる流れは想定を超える充実度でした。その分ハンズオンのボリュームも多くなり、特に第5章のMastraを用いた開発では、じっくり時間を確保する必要があります。

一通りのハンズオンを終えると「自分でもAIエージェントを作れそう」という自信がつきます。これは座学だけでは得られない感覚でした。

開発後の運用まで視野に入れている

個人的に最も価値が高いと感じたのが、7,8章の運用です。

AIエージェントは同じ入力でも出力が変わる「非決定性」があるため、従来のソフトウェアのような決定的なテストが困難です。

例えば、「日本の首都を答えよ」という質問に対して、ある時は「東京」と答えるが、別の時は「東京都。政府機関が置かれており...」と余計な説明が付くことがあります。どちらも間違いではありませんが、用途によっては後者は「冗長すぎる」と評価すべきです。

本書では、こうした問題に対処するための具体的な手法が紹介されています:

プロンプトの外部管理
プロンプトをコードから分離し、管理する方法です。改善サイクルの効率化や、非エンジニアも気軽にプロンプトを触れるといったメリットがあります。
この手法は社内でのAI活用において意外と効果を発揮すると感じました。ドメイン知識はあるけれどGitの操作に不慣れな人は意外と多く、そうした人たちがGUIツールでプロンプトを直接編集できれば、エンジニアを介さずスムーズに品質改善を進められます。

LLM as a Judge
別のLLMに出力の品質を評価させる手法です。先ほどの例で言えば、「端的に答えているか」を評価軸として、余計な説明がある場合は減点する、といった判定が可能になります。これは、従来の定型的なテストでは難しかったことです。

こうした運用の視点は、「動くエージェントを作って終わり」ではなく、継続的に品質を維持・改善していくために不可欠です。開発から運用まで、AIエージェントのライフサイクル全体をカバーしている点は、本書の大きな特徴だと感じました。

実務の知見が詰まったコラム

本編の充実はもちろんですが、所々に散りばめられたコラムも見逃せません。

印象的だったのは「AIアプリ開発では海外リージョンを積極利用しよう」というコラムです。通常、企業のシステム開発では日本国内リージョンを使うことが多いですが、AIの分野では新しいモデルや機能が国内展開されるまでに時間がかかるため、海外リージョンの活用が推奨されています。セキュリティ要件と相談しつつ、機会損失を避けるための実践的な提案は、実務経験者ならではの視点でした。

こうした情報は、公式ドキュメントには載っていない実務経験者ならではの知見です。ハンズオンで手を動かしながら、コラムで実践的なTipsを得られる構成は、学習効率を高めてくれました。

読む際のアドバイス

本書を最大限活用するために、実際に読んで感じた注意点を共有します。

ハンズオンのボリュームは想像以上

各章のハンズオンは非常に充実している反面、全てを理解しながら進めようとすると、かなりの時間がかかります。

無理に全てのハンズオンをこなす必要はありません。自分に必要な箇所を重点的に取り組み、他は読むだけに留めるのも一つの方法です。例えば私の場合、業務でMastraを使う予定がなかったため、そのハンズオンは内容を眺めるだけにしました。

コピペだけでは身につかない

本書にはGitHubのサンプルコードが用意されており、すぐに動かせて便利です。しかし、コードをコピペして動かすだけでは、深い理解には至りません

私はLangGraphのハンズオンを終えた後、似たような構成を0から自分で構築してみました。その際、AIに「答えではなくヒントだけを出力してもらう」形で壁打ちをしながら進めることで、効率的に学習できました。

実際に作成したもの:

image.png

ハンズオンで「動くもの」を体験した後、自分で再構築してみると理解が2倍、3倍に深まります。時間はかかりますが、投資する価値は十分にあります。

最後に

『AIエージェント開発/運用入門』は、AIエージェントの基礎概念から実装、そして運用まで、一貫して学べる貴重な一冊です。

「AIエージェントに興味はあるけど、何から始めればいいか分からない」という方にとって、本書は最適な入門書だと感じました。3つの主要フレームワークを実際に手を動かしながら学べるハンズオンと、実務で役立つコラムの数々は、座学だけでは得られない実践的な知識を与えてくれます。

AIエージェント開発を始めたい方、あるいは既に開発しているが体系的に学び直したい方にとって、本書は大きな助けとなるはずです。

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