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Netflix - データ重視のシリコンバレー文化と人間関係重視のハリウッド文化の衝突

Last updated at Posted at 2018-12-24

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データ分析で有名なNetflixの社内では現在、シリコンバレーのデータ文化とロサンゼルスの人間関係文化が衝突しているようだという話が最近ウォールストリート・ジャーナルに出ていました。

映画やTV番組(ショー)などの動画配信サービスを提供しているNetflixは、何度かWeekly Updateでも取り上げてきましたが、データがこの会社のDNAに浸透していて、とにかくデータを積極的に使ってカスタマーをだれよりも深く理解し、そのことでビジネスを成長させてきたことで有名です。

最近の例では、自分たちのオリジナルのコンテンツを作る前に、それがどれくらい視聴されるか、どういった層に受けるか、どのようにプロモートすればより多くの人に視聴されるかといったことをデータをもとに予測しているとのことです。

ただ、このオリジナルのコンテンツを作るために、ハリウッドのあるロサンゼルスに製作部門を構えてやっているらしいのですが、そのコンテンツの数が増えれば増えるほど、このロサンゼルスの部門の力が社内でも強くなってきているようです。

最近ではシリコンバレーのプロダクト(ユーザーがショーを見るためのウェブサイトであったり、モバイルのアプリであったり)を作っている部門が出してくるデータ分析の結果を上書きして意思決定を行うこともあるようです。

以下、要訳。

--

Netflixではハリウッドとアルゴリズム、どちらが勝つのか?

At Netflix, Who Wins When It’s Hollywood vs. the Algorithm? - Link

A/Bテスト vs. 人間関係

Netflixの重役たちの意見は分かれていました。彼らは自分たちのアルゴリズムを信用しました。その一方でジェーン・フォンダを怒らせてしまうことを心配していたのです。

「Grace and Frankie」というショーの2シーズン目を2016年にリリースした後、プロダクト・チームはUSのNetflixのカスタマーたちにジェーン・フォンダと共演している女優のリリー・トムリンだけが入ったイメージを使ったプロモートをしようと企画していました。

A/Bテストの結果がジェーン・フォンダが入っていないイメージのほうがもっと多くの人がクリックするということを示していたのです。

この決定は内部の活発な議論を呼び起こしました。ロサンゼルスをベースにするコンテント・チームはNetflixがジェーン・フォンダを敵に回してしまうリスクを恐れていました。さらに、このことは彼女との契約違反に当たる可能性がありました。その一方でロスガトス(シリコンバレーにある一つの街でNetflixの本社がある。)にある本社では自分たちはデータを無視するべきではないと主張していました。

最終的には、Netflixはジェーン・フォンダをイメージに入れるという決断を下すことになりました。

シリコンバレー流 vs. ハリウッド流

アナリティクスはNetflixのDNAに深く刻まれています。購読者の好みを知るためにデータを掘り起こし、どのショーを制作するべきか、どうやってプロモートするべきかといったことを決めているのです。

しかし、Netflixがハリウッドでの制作に力を入れていくに従い、(700もの新しいオリジナルのショーと映画を今年リリースする予定です。)データへの愛を抑え、トップクラスの映画関係者やイメージをすごく気にするタレントの望みに耳を傾けるということを学びつつあります。たとえそれがアルゴリズムを無視することになったとしても。

いくつかのショーはパフォーマンスがよくなかったので本来ならキャンセルになったはずが、救われたりすることがありました。というのもNetflixが影響力のあるプロデューサーや役者たちとの関係を壊したくなかったからです。

トップクラスの映画関係者やタレントは、ユーザーがイメージの上にマウスを持っていった時に出るショートビデオからショーや映画をプロモートするためのトレーラーまですべてのことに関する承認権限を持つということを契約の中に書かせようとします。

時には、こうしたスターを喜ばせようとすることが、Netflixのテクノロジーとプロダクトチームの間に衝突を生むこととなり、ハリウッドの部門とシリコンバレーの部門の間で熱い議論を呼び起こすこととなります。

Netflixのコンテンツの重役は、テック部門の人間は純粋な指標以上の議論を受け付けようとしない、と言います。

かつてNetflixのテクノロジーの重役であったジョッシュ・エバンスはテックチームはデータドリブンでアナリティカルであるのに対し、ハリウッド側はもっと人間関係を重視する。それでも両者は共通の目的のもと協力している仕事をうまく行っている、と言います。

ハリウッドではトップクラスのタレントが自分たちのショーがしっかりとプロモートされていないと不満を言うのは珍しいことではありません。それがNetflixの場合だと、そうした不満を言う相手がスタジオの人間の重役たちではなく、デジタルのアルゴリズムなのです。

Netflixの重心がハリウッドに移り始めているのは最近のトップ人事における決定からも明らかです。CEOであるリード・ヘイスティングは去年、長年チーフ・プロクダト・オフィサーとしてやってきたニール・ハントの退任を求め、その代りにグレッグ・ピーターズというコンテンツ・ビジネスの経験が多い重役を当てました。メサーズ、ピーターズ、サランドスが内部では現在のCEOであるリード・ヘイスティングの後を継ぐと見られています。

ユーザーの好みによるレコメンド vs. オリジナル・コンテンツのプロモート

Netflixがより多くのオリジナル・コンテンツを制作していくに従い、社員の間にはそうしたコンテンツを、他からライセンス契約してきたショーに比べて、もっとプロモートするようにアルゴリズムを調整すべきだと、主張するものが多くなってきました。

かつてチーフ・プロクダト・オフィサーであったハントと彼のチームはオリジナル・コンテンツに対していっさいのバイアス(偏向)を与えたくないと思っていましたが、それとは逆にハリウッド側の重役たちは会社の将来はオリジナル・コンテンツの成功にかかっているのだからもっとそっちをプロモートするべきだと主張していました。

最終的には、Netflixはユーザーが過去に見たショーをもとに、レコメンドすることになりました。しかし、同時にユーザーのメインスクリーンに特別なセクションを設け、そこでオリジナルコンテンツをプロモートすることとなりました。

レコメンデーション vs. ビルボード(看板)の広告

Netflixのハリウッド側とシリコンバレー側での絶え間ない争いはショーをどうやってマーケティングするかに関するものです。テック側は、例えばロサンゼルスのビルボードに広告を載せるといったことを含め、マーケティングにお金を費やすのは意味がないと感じていました。というのもアルゴリズムがユーザーが見たいと思うようなふさわしいコンテンツをレコメンドすることができるはずだからです。

ロサンゼルス側の重役たちは、Netflixの膨大なカタログの中で彼らの作品が見つけられないことを心配する映画プロデューサーに影響を受け、マーケティングは欠かせないと感じていました。

「プロダクトチームは、もしあなたのショーがいいものであれば心配する必要はない。アルゴリズムがそれを見たいと思う人達をかってに探しきてくれる、と言うのです。」とはロサンゼルスのオフィスを去年辞めた人が言っていたコメントです。。

時間がたつにつれ、プロダクト側はある特定のショーはマーケティングを行うことがふさわしいと受け入れるようになっていきました。今となっては、ロサンゼルスのビルボードでNetflixのショーの広告を見かけるのは当たり前の光景となりました。

テストによる予告編 vs. プロによる予告編

ハントと彼のプロダクトの重役たちはオリジナルの映画をプロモートするためにトレーラーをプロに作ってもらうのはお金の無駄だとかつて主張していました。彼らが言うには、プロダクトチームがもっとクリックの数が多くなるように自分たちで映画の中から短編のクリップを作ることができます。

Netflixは時間がたつに連れ、トレーラーを制作するプロを雇うことになりました。それでも、アダム・サンドラーが彼のNetflixでの最初の映画を2015年に作ったとき、彼が承認していない、ギターのリフがバックグラウンドの音楽に入っていない「The Ridiculous 6」のトレーラーを勝手に作って流してしまっとことに腹をたてました。彼の制作会社が不満を言った後、Netflixは彼の好みに合うようにトレーラーを作り直すこととなりました。

タレントのためのAI教育

プロモーションに使う画像もよく議論の対象となります。

「いくつかの場合ではコンテンツチームは、この役者は他のキャストたちは出さず彼の顔だけが出ているかどうかを気にしていて、それが契約の中に入っていると言ってくるのです。」

と、かつてアルゴリズム担当の重役で2016年に会社を去ったカルロス・ゴメス・ウリベは言います。

テック側はデータは案内役としては限界があると結論づけました。ジェーン・フォンダのショーの場合、別の女優のイメージをプロモートしたほうがもっと多くのクリックを集めるとテスト結果は示しているのですが、それでもそうしたイメージを使ってプロモートするのはやりすぎであると結論付けることになったのです。

Netflixの重役たちはセス・ローゲン、ションダ・ライメス、ハサン・ミナジなどといった有名なタレントたちに積極的にアルゴリズムの仕組みを説明しています。

「イメージテストというのは彼らにとってはとても新しいことなのです。」

「ユーザーごとにかれらの好みに適したイメージを変えることでショーを見る回数が10から20パーセント、多いときには35%も上がるということを、説明する必要があるのです。」


以上、要訳終わり。

あとがき

会社のステージによって変わるデータの使い方

この記事を、単純に「シリコンバレー」対「ハリウッド」だとか、「データ」対「勘と経験」だといった観点から捉えるのは、エンターテイメントとしてはおもしろいと思います。

ただ、Netflix自体は現在、かつての他のスタジオが製作した映画やショーをインターネットで配信するという会社から、インターネット時代に適した映画やショーの製作と配信をまとめて一気に行う会社に変身しようとしている最中です。

つまり会社のコア・バリューやビジネス戦略が大きく変わるときには、意思決定のプロセスが再構築されるというのは当たり前です。そこで、そうした新しい意思決定のプロセスの中で、どうデータを使ってビジネスを向上させていくのか、ここの最適化のための「衝突」であると捉えることもできると思います。

ですので、私はこれは「健全」な衝突なのではないかと思います。

ちなみにこの会社は、もともとはDVDのレンタルサービスをインターネットで行っていた会社です。その彼らがストリーミングの会社になっていくときにはいろいろとすったもんだがありました。つまりイノベーターのジレンマとして普通では、起こせないような変革をやってのけた会社がNetflixで、そうした変化を起こすことができたのがリード・ヘイスティングスという創業者でCEOであるというのは、注意しておく点だと思います。

データ・ドリブン vs. データ・インフォームド

以前別の記事で、データ・ドリブンとデータ・インフォームドの違いを紹介しました。データ・ドリブンといっている組織に限って、実はデータから得られたインサイトを鵜呑みにしてしまうことで、データにドライブされてしまっているということでした。

その代りに、データ・インフォームドというアプローチは、データから得られるインサイトを考慮した上で、さらに確率、不確定要素、リスク、バイアス、短期・長期のゴールのトレードオフ、ビジネスに特有なコンテクストなどを考慮しながらビジネスが意思決定を行っていくというものです。

記事の中では、ハリウッドの人間関係を重視するあまり、データによって得られたインサイトを無視している、というかたりがありました。

しかし、これは実は、Netflixはトップのレベルでデータ・インフォームドな意思決定が行われているという例なのではないかと考えることもできます。

データを見ることは重要ですし、またA/Bテストなどを行いながらプロダクトやサービスを最適化していくことも重要です。しかし、データが神となってしまって、ビジネスのコンテクストを無視した意思決定を行っていくとしたら、それは行き過ぎではないでしょうか。

複雑であいまいな人間の世界でビジネスが行われているわけですから、データでは捉えきれない要素が多くあるでしょう。特にメディアやエンターテイメントといった世界はそうなのではないでしょうか。

また、過去のデータは必ずしも長期的な利益、コストを予測するのが得意とは言えません。時間が経てば発つほど予測は難しくなる。それはいろいろな要素が影響してくる可能性があり、不確定要素もどんどんと大きくなってくるからです。

しかし、ビジネスの意思決定者は短期と長期の利益をたえず考える必要があります。本文の例でいうと、A/Bテストで分かるのは自分たちにとって重要な指標(リテンション率など)に対する短期的な影響です。

Netflixの現在の戦略は、可能な限り多くのタレント(プロデューサー、役者、脚本家、監督、など)を集め、可能な限り多くのショーを製作することだと思います。

そうすると、例えばリテンション率の改善などはもちろん短期的には重要ですが、それと同時にハリウッドでの人間関係は長期的にはより重要なのではないでしょうか。

ですので、どんなにA/Bテストで、ジェーン・フォンダの写真を出さないほうがいいという結果が出たからといって、それを実行に移すことで、ジェーン・フォンダというハリウッドで大きな影響力を持つタレントとの人間関係を犠牲にしたくないというのは、最もだと思います。

ビジネスの世界でのデータ分析は、ビジネスの目的を達成するために重要な一つのツールであり、ゴールではありません。そこから得られたインサイトをどう使うかを決めるのは人間であって、データもしくはアルゴリズムではないのです。

もちろん、データを見ない、知らないというのではただの酔っ払い運転のようなものだと思います。ビジネスの視界が見えていないようなものです。

そこで、データの限界、不確定要素、リスク、ビジネスのコンテクストなどを理解した上で、データ分析から得られたインサイトを実際のビジネスの意思決定にどう役立たせていくかという視点が重要なのではないかと思います。

これからのビジネスリーダーにはこういった能力がますます求められていくと思いますが、Netflixというのは、そういった人間をリーダーに持つ会社だと思います。

データサイエンス・ブートキャンプ、3月開催!

来年3月の中旬に、Exploratory社がシリコンバレーで行っているトレーニングプログラムを日本向けにした、データサイエンス・ブートキャンプを東京で開催します。

データサイエンスの手法を基礎から体系的に、プログラミングなしで学んでみたい方、そういった手法を日々のビジネスに活かしてみたい方はぜひこの機会に参加を検討してみてください。詳しい情報はこちらのホームページにあります!

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