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500MBで始める最先端のTeX

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Last updated at Posted at 2026-08-28

LaTeX を始めるとき、最初に数 GB の TeX Live を入れるのが当たり前になっています。

この記事は、「LaTeX 環境構築」で迷っている人、特にレポートや卒論をきっかけに「大学生 LaTeX」「初心者 LaTeX」と検索してたどり着いた人を想定しています。初めてでも扱いやすく、大学の PC や容量に余裕のないノート PC にも導入しやすい環境を目指します。

もちろん、フルセットを入れればパッケージ不足では困りにくくなります。しかし、最初の文書で使うのは、そのごく一部です。

そこで考え方を逆にします。

最初は小さく入れて、文書が要求したパッケージだけを後から足す。

この構成を実現できるのが、TeX Live ベースの軽量ディストリビューション TinyTeX です。

この記事では、TinyTeX-1 を土台にして、約 500 MB から実用的な TeX 環境を始める仕組みを紹介します。

「500 MB」の内訳

500 MB 全部を最初にダウンロードするわけではありません。

2026 年 8 月時点で、TeX64 が取得する macOS 用 TinyTeX-1 の配布アーカイブは 67,002,364 bytes、約 67 MBです。これを展開すると、TeX の基本環境が約 300 MB になります。

その後、日本語組版や tcolorbox を使う最初の文書をビルドすると、必要なパッケージと日本語フォントが追加されます。手元のクリーンな macOS arm64 環境では、最初の日本語 PDF を作れる状態まで進めて 531 MB、2 分 08 秒でした。

段階 データ量の目安 内容
ダウンロード 約 67 MB 公式 TinyTeX-1 アーカイブ
展開直後 約 300 MB TeX エンジンと基本パッケージ
日本語の最初の PDF 作成後 約 500 MB 日本語組版、フォント、TikZ 系などを追加
以後 文書に応じて増加 実際に使ったパッケージだけを追加

CTAN ミラー、TinyTeX のリリース、OS によって数値は変動します。ここでいう 500 MB は上限ではなく、よく使う構成まで育てた時点の目安です。

TinyTeX-1 には最初から何が入っているのか

TinyTeX には収録範囲の異なる TinyTeX-0TinyTeX-1TinyTeXTinyTeX-2 があります。

最小の TinyTeX-0 は TeX Live の基盤と tlmgr が中心で、LaTeX パッケージをほとんど持ちません。反対に TinyTeX-2scheme-full 相当です。

今回使う TinyTeX-1 は、その中間です。現在の macOS 用 daily build を調べると、プラットフォーム別バイナリや管理用メタパッケージを含めて 122 エントリが入っていました。

主な内容を用途別にまとめると、次のようになります。

用途 最初から入っている主なパッケージ・ツール
TeX エンジン latexpdftexluatexluahbtexxetex
ビルド latexmkbibtexdvipdfmxdvipsepstopdfextractbb
数式 amsmathamsfontsamsclsunicode-mathlualatex-math
紙面・表 geometrybooktabsfloatframedfancyvrb
色・画像・リンク graphicsxcolorhyperrefbookmarkurl
フォント fontspecluaotfloadlmlm-mathpsnfssinconsolata
LaTeX 基盤 l3kernell3packagestoolsetoolboxxkeyval
言語・文献 babelnatbibhyph-utf8

つまり、LuaLaTeX、XeLaTeX、pdfLaTeX と基本的な数式・表・色・リンクは、最初から使える状態です。ビルドのたびに必要になる latexmk も入っています。

一方、次のような用途は初期セットに含まれていません。

  • ltjsarticlejlreq による日本語組版
  • Harano Aji などの日本語フォント
  • TikZ / PGF
  • tcolorbox
  • Beamer
  • chemfig
  • physics

これらを全員に最初から配るのではなく、使った人にだけ追加するのがポイントです。

文書に応じて何が追加されるのか

例として、次の文書をビルドします。

\documentclass{ltjsarticle}
\usepackage{amsmath}
\usepackage[most]{tcolorbox}

\begin{document}
\begin{tcolorbox}[title=最初の PDF]
日本語と数式を組版できました。
\[
  e^{i\pi}+1=0
\]
\end{tcolorbox}
\end{document}

amsmath は TinyTeX-1 に最初から入っています。しかし、ltjsarticle.clstcolorbox.sty はありません。

最初のビルドでは、たとえば次のエラーが出ます。

! LaTeX Error: File `ltjsarticle.cls' not found.

TeX Live では、ファイル名とパッケージ名が同じとは限りません。そこで tlmgr search を使い、そのファイルを提供するパッケージを調べます。

tlmgr search --global --file "/ltjsarticle.cls"

検索結果は ltjsarticle.clsluatexja に含まれることを示します。

luatexja:
        texmf-dist/tex/luatex/luatexja/ltjsarticle.cls

あとは luatexja を導入して、同じ文書をもう一度ビルドします。

tlmgr install luatexja

同じ方法で、次に見つかった不足ファイルも追加します。

文書で使った機能 見つかる不足ファイル 導入される TeX Live パッケージ
ltjsarticle ltjsarticle.cls luatexja
jlreq jlreq.cls jlreq
日本語フォント HaranoAjiMincho-Regular.otf haranoaji
TikZ tikz.sty pgf
tcolorbox tcolorbox.sty tcolorbox と依存先の pgfenviron など
Beamer beamer.cls beamer
化学構造式 chemfig.sty chemfig
物理記法 physics.sty physics

tlmgr install は依存パッケージも一緒に解決します。たとえば tcolorbox を入れると、描画に使う pgf なども導入されます。

このため、最初の日本語文書を通す段階で環境は約 300 MB から約 500 MB へ成長します。ただし、Beamer も chemfig も使わなければ入りません。

「エラーを見て入れ直す」を自動化する

不足パッケージの補完は、次の流れで自動化できます。

実用上は、次の制限も必要です。

  • .sty.cls、フォントなど、TeX Live が提供し得るファイルだけを検索する
  • 画像や .bib をパッケージ不足と誤認しない
  • 同じパッケージを同じビルド中に何度も入れない
  • 再ビルド回数に上限を設ける
  • 解決できなければ、元のエラーをそのまま表示する

最初の 1 回だけは追加導入で時間がかかりますが、次回からは導入済みの環境をそのまま使えます。

自分で TinyTeX を試す

macOS では、公式インストーラーから TinyTeX-1 を導入できます。

curl -sL "https://tinytex.yihui.org/install-bin-unix.sh" | sh

Linux 版と Windows 版を含む導入方法は、TinyTeX 公式サイト にまとまっています。

不足パッケージに出会ったら、基本的に覚えるコマンドは次の 2 つです。

tlmgr search --global --file "/不足したファイル名"
tlmgr install パッケージ名

完全なオフライン環境が必要になった場合は、軽量環境を捨てずにフルセットへ昇格できます。

tlmgr install scheme-full

TeX64 なら一撃で終わる

ここまで読んで、「小さく始められるのはよいけれど、ログを見て tlmgr を実行するのは面倒」と思ったかもしれません。

macOS 向け LaTeX エディタ TeX64 には、この TinyTeX-1 ベースの仕組みを組み込んであります。

  • TeX 環境がなければ、約 500 MB のライト環境をセットアップ
  • ltjsarticle.clstcolorbox.sty が足りなければ、自動で提供パッケージを検索
  • 必要なパッケージと依存先を導入
  • 同じ文書を自動で再ビルド
  • 既存の MacTeX や TeX Live は変更しない

ライト環境を選ぶと、TinyTeX の取得からパッケージ導入まで進捗を見ながら待つだけです。

TeX64 が TinyTeX のライト環境をインストールしている画面

実際に、TeX 環境がない状態から日本語、数式、tcolorbox を含む PDF まで、そのまま作成できます。

TeX64 で TinyTeX のセットアップ後に日本語 PDF をビルドした画面

つまり、この記事で説明した「TinyTeX の導入 → 不足パッケージの特定 → 追加導入 → 再ビルド」が、TeX64 なら初回セットアップとビルドの一撃で終わります。

TeX64 をダウンロード

参考資料

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