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リモートワークでも生産性を上げる!スクラム創始者直伝の実践ノウハウを日本語化して入門者向けにまとめました。

Last updated at Posted at 2020-04-23

はじめに

認定スクラムマスター(LSM)取得者向けに「Distributed Teams: Mitigating Business Risk in Uncertain Times」と題したウェビナーがスクラム創始者の Jeff Sutherland 氏を交えて3月に行われました。

この投稿はウェビナーの内容を噛み砕き、リモートワーク環境でもスクラムの実践がスタートできる内容を目指しました。チームリーダーやマネージャーとしてスクラムを推進している方や、これから導入を検討している方のご参考になれば幸いです。

まずは結論から

1. これまでの働き方と「生産性を上げるリモートワーク」

今までの働き方

image.png

  • 会社(チーム)は皆が働く場所を提供する
  • 誰がなにをやっているかわかる
  • 集まってなにかの仕事をこなす

リモートワークの働き方

image.png

  • 会社(チーム)にはボスがいて仕事を振る
  • 皆が自宅で勤務を行う
  • ずっと働く人もいれば、パフォーマンスが落ちる人がいる

「生産性を上げるリモートワーク」

image.png

  • 会社(チーム)は従業員が一体化するためのカルチャーを明示する
  • 様々なツールを用いてオフィスにいるかのような一体感で働く
  • スクラムイベントを利用して構造的に明確なタスクをこなす

上記のようなリモートワークで生産性を高めるチームを作るために、Microsoft や Google などの世界的企業がどのような工夫をしてきたか。彼らのノウハウからどのような点が重要になるかをご紹介していきます。

2. リモートチームを成功させた企業のユースケース

リモートワークの難しさ

多くの企業においてリモートワーク開始時に以下のような状況が発生する傾向にあると言われています。

image.png

これらに対して Microsoft や Google などの企業がどのように考え対応したのかをご紹介していきます。

Microsoft がリモートワークの研究で得た知見

  • リモートでのアジャイル開発はグローバルな市場展開と人材活用が可能になりつつ潜在コストを下げることができる
    • ただし数年に渡って取組を続けた結果であり簡単に成功したものではない。
  • 以下の可能性があることへの理解が必要
    • プロジェクトが成功する可能性低下
    • 納期が遅れる可能性がある。
    • チームのパフォーマンス低下=機能不全が起こる
  • リスクと成果のトレードオフはリモートワーク導入前に明確にする必要がある。

参考文献 : Distributed Agile Development at Microsoft patterns and practices

Microsoft におけるリモートワークの展開戦略

  • 投資の大部分が分散スクラムチームに対してのものになっている
    • グローバルに働く従業員との連携
    • 企業規模の柔軟な拡大と縮小
    • 必要なタイミングでのコスト削減
  • Microsoft ではリスクの増加、プロジェクトの遅延、チームの機能不全が回避されている。
    • 本社では最低1つの技術スクラムチームがいる
      • オフショアでの支援がなく製品サポートができる
    • コスト見積が正確になり、チームのパフォーマンスが安定する。
    • 最も低いコストで最高品質を達成する、数多くのチームが展開されている。
    • スクラムのチェック項目が利用されている。リモートリームチェックリスト

Google AdWords におけるケース

  • Google の収益における90%を占める AdWords チーム は分散したチームが複数連携した組織体系
    • 数年前は5つほどのチームだった。
      • 当時はチーム間のコミュケーション手段がなく電子メールでボイスメールのやり取りをしていた。
    • スクラム社のアドバイスを受けチーム全体で定期的にデイリースクラムを設けることにした。
    • 1つのプロダクト開発を進めるときは全員が同期するということを行っている。

スクラム社の取組で得られた知見

  • 同じ場所で働いているときと同様のパフォーマンスをリモートワークで再現することは可能
    • 複数拠点のローカライズされたチームが該当
    • チームメンバーが複数の場所で働く状況でも同様
  • 多くの分散スクラムチームの事例が Scrum Inc 社の Web サイトから確認することができます
    • SirsiDynix (図書館向けのソフトウェア制作会社) の事例 : 文献リンク
    • Xebia (アジャイル開発支援の会社) の事例 : 文献リンク
  • オープンビュー・ベンチャー・パートナーズ社(シード期の成長支援に特化したVC)も成功している
    • 複数のチームとメンバーが分散して働き高いパフォーマンスを出している。
  • Cisco と Philips もこれらを完全に実現しようと世界中にチームを配置している会社である
    • パフォーマンスを維持するにはリモートワーク用の工夫が必要となる
  • ウィキメディア財団のケース
    • 同じ場所でみんなが働いているときは少々のルーズは許容される。
    • リモートワークではより規律の遵守がより重要となる。

リモートチームチェックリスト

リモートワーク状態のチームにおける健康状態をチェックする際の要素になります。

  • 小さく安定的な専任チームで活動する
    • 1チーム5人程度の規模感となっているか
  • バックログ(各自のやること)が整理されている
    • 明確に優先順位がつけられており、責任者が明確である状態か
  • 振り返りが正しくできる
    • 素早く振り返りが完了し、より速く仕事を完了するサイクルが回っているか
  • クロスファンクションチーム
    • T字型人材が協力をしながら1つのゴールにあたっているか
  • スウォーミング
    • メンバーは優先度の高い仕事にフォーカスして共に課題解決をしているか?
  • 割り込みタスクに備えたバッファの確保
    • タスクの進行を妨げない分のバッファを用意しているかどうか
  • 良い住居環境
    • 1日以内に解決できない不満を放置しないようにしているか
  • 会社全体での情報共有ができているか
    • チーム同士の成果を会社全体で共有する場を設けているかどうか
  • 幸福度のトラッキング
    • メンバーが幸せであるかどうかは、質の高い仕事を多く生み出す秘訣
  • 会社全体の一体感は生まれているか
    • リモートチームが成功する最大の秘訣は会社の連帯感があるかどうか

3.リモートワークのコミュニケーション

文字だけのコミュニケーションは最悪

以下はコミュニケーションの種類によって与える影響度をグラフにしたものです。
image.png

出典元 : Richness of communication channels(Ambler, 2002)

  • チャットツールの利用が標準となっているが文字だけのやり取りは最悪
  • 即座にフィードバックを得られることがないため待ち時間が発生する
  • ビデオカンファレンスがインタラクティブなコミュニケーションとしては最良の選択肢となる

ビデオはあなたの友達

image.png

ビデオ通話を利用することは大きな心理的安全性をもたらします。

  • チームメンバーとの密な連帯感
  • 人間の脳に目指した非言語コミュニケーション
  • 誰かに見られることは自己存在を発揮する意識が高まる
  • 顔を見てのやり取りは表情からチームメンバーの状況が分かるので重要

弊社は勤務時は基本常時接続しているのですが最初は気恥ずかしさがあったものの、
それがルールとなって継続をしていく中でごく自然なことになりました。

以下の画面が常に隣のモニターにあるイメージです。

image.png

整理されたオープンなタスク遂行

各自が明確なタスクを進めることがコミュニケーションに繋がります。

  • 誰もがリモートで接続できるタスクリストがあること
    • タスクリスト=会話となる
  • タスクが消化されることでチームに一体感が生まれる
    • メンバーがチームのために集中するようになる
  • なにがゴールかをメンバーに聞くのはNG
    • リモートワークでは各自がゴールを明確にすることを徹底する

弊社ではこのように紙のバックログを定期的に写真で共有しています。
image.png

Alley (=情報調査会社) の推進事例

スクラム実践中のAlley社社が急遽リモートワークへ移行した際の事例と、
コミュニケーションのポイントが整理されています。

  • コラボレーションと不便さを生じさせない技術サポート
    • 重要なデータへのセキュアなアクセス
  • 信頼と一体感、オープンな仕事する文化の徹底
    • 企業カルチャーの浸透を再度意識する
  • リーダー側のオープンさへのコミットと課題感のシェア
    • メンバーも同様に隠し事をせずに問題を共有する

参考記事 : Locked out of the Scrum Room

Tips : Microsoft 勤務の方の気づき

最近見かけた記事で米マイクロソフトに勤務されている牛尾さんが「クイックコール」の重要性を説いています。
マイクロソフトのリモートワークが得意な人を観察して気づいた、たった一つのポイント

4.いかにしてスウォーミングを実行するか

そもそも「スウォーミング」とは?

Google で検索するとまだ日本語記事が少なかったのでこの記事で簡単に説明したいと思います。
スウォーミング(Swarming)は虫などが群れを成してどこかの場所や獲物に向かって群れる様子を指す言葉です。
ITの開発現場では1つのタスクに対して同時に全員ないし多人数で取り組むことを指します。

もちろん仕事の種別にもよるのですが、

  • 優先順位を明確にする
  • 同じタイミングで一斉にやる
  • 終わらせることの価値を共有する

上記を満たすことで生産性を向上させることが可能です。

スウォーミングで起こる現象を図にしてみました。

image.png

  • 優先順位を明確にする → タスクの見通しが立つ
  • 同種の1つのタスクをやりきる → 業務のスイッチコスト削減
  • 短いスパンで成果物が出る → 仕事にテンポが生まれる

上記の効果をチーム全体で共有することで生産性を上げるテクニックが「スウォーミング」となります。

リモートチームにおけるツール活用

  • アジャイルマニフェストでは「プロセスやツールよりも個人との対話」が重視される
  • リモートチームで体現するには適切にツールを利用する必要がある
  • スクラム社自体が投資家として多くのツールを支援してきた。以下のツールを支援している。
    • Azure Boards ※Microsoft Azure で提供されるプロジェクト
    • Jira ※代表的なアジャイルプロジェクト管理ソフト
    • Trello ※カード型のプロジェクト管理SaaS

推奨ツールを利用すべき理由と選定ポイント

ビデオコミュニケーションツール

  • 利用すべき理由
  • 物理的な制限を越えたコミュニケーションを実現することができる
  • 人間の脳は他人の表情から感情を読み取るために進化をしてきており顔が見れる会話は安らぎを与える
  • 選定ポイント
    • 「画面を共有する」などのデスクトップ画面共有機能
    • 会議内容をレコーディングする機能
    • カレンダーとの連携機能
    • 帯域の安定性
  • 代表的な製品

プロジェクト管理ツール

  • 利用すべき理由
    • 整理されたバックログは優先順位が明確になる
    • 明確なタスクに対して集中した作業ができるようになる
    • チームは全員が成果物を提供する相手がなにを求めているか知る必要がある
  • 選定ポイント
    • メンバー誰もがプロジェクト全体を容易に把握できること
    • リモートワークの利用時でもセキュアに利用が可能であるこ
  • 代表的な製品

コラボレーションワークスペース

  • 利用すべき理由
    • リモートで業務を遂行するには作業を実施、保存、共有するための場所が必要
    • スウォーミングの促進のため作業場所で複数人が作業を行う必要がある
  • 選定ポイント
    • 1つのファイルにアクセスをして同時に編集ができる
  • 代表的な製品 (オフィス業務遂行)
  • 代表的な製品 (開発)

クイックコミュニケーションツール

  • 利用すべき理由
    • メールは常に保管場所がある情報交換ツールです。
    • テキストベースのコミュニケーションを行うことでメンバーの意思疎通が高速化する
    • チャットはスレッド化やチャネルソートがしやすくオフィスにいるときと近い文書コミュニケーションが取れる
  • 選定ポイント
    • 情報の一部がチャット上に保管される期間に制限がある
    • アーカイブ情報の取り扱い
  • 代表的な製品

5.リモートでスクラムを始めてみよう!

生産性を上げて働くためには「構造」が必要

  • いつ仕事を始めるか?
  • 今日はなにをすべきか
  • いつ仕事を終えるか

これらのサイクルを仕組み化するためにスクラムイベントを利用します。

いきなり全て始めるのは難しいかもしれません、
そのまずスプリントレトロスペクティブから取り入れることをオススメします。

スクラムのエッセンスを少しずつ取り入れることから始めるのも立派なスタートです。

スプリント (=仕事のサイクル) を設ける

  • 日々の進歩を明確にする期間を定義する
    • 始まりがあり、中間があり、終わりがある
    • 働くことにリズムがあることは人生にリズムが生まれることになる
  • チームとして働いている意識を高くする
    • 同じ時間に明確なタスクに取り組む
    • メンバーが困っている課題にすぐフォローアップできる

スクラムを取り入れた働き方のイメージ

スプリント期間を1週間とした場合のイメージ図を作成てみました。
期間が倍になれば重要イベントの時間も倍になります。

リモートワーク下でのスクラムチームの立ち上げ並びに実践という点を考慮し、
コミュニケーション活性化の観点からデイリースクラムを朝/夕方に行う図としています。

image.png

月曜日にスプリントプランニングを設定する場合も多いと思いますが、
金曜日に計画を終えた上で新たな週を迎えた方が生産性向上が見られる場合が多いです。(弊社比)

スプリントプランニング

  • なぜやるか
    • スプリントにおけるゴール設定
    • 実行するタスクの明確化
    • チームによって「なにをすべきか」を具体化し合意形成する
  • 計画を行う際の確認項目
    • チームメンバー全員にとってタスクが洗練されている
    • 実行するための準備ができているタスクに限定される
    • スプリント期間内で実現可能な計画であること
  • 時間の目安
    • スプリント期間が1週間の場合、2時間

デイリースクラム

  • なぜやるか
    • チームメンバーの健康状態を把握する
    • スプリントゴールが現実可能な状態かを確認
    • メンバー全員で課題解決にあたる
  • デイリースクラムでメンバーが共有する内容
    • 昨日まで行ったタスク
    • これから行う予定のタスク
    • 現在発生している課題
  • 時間の目安
    • 全体時間として15分以内で完了することを目指す
    • メンバーからの共有 (1分30秒が目安)
    • 課題が発生している場合
      • スクラムマスターが解決方法を明確にする
      • スプリント期間内で終わらない場合、次回計画時に持ち越す
    • 「課題がない」場合も聞き出す努力を行う
      • クイックコールでメンバーのケアを行う

スプリントレビュー

  • なぜやるか
    • 成果物を上長やお客様などの関係者に共有し、起動修正を行うため
    • 製品フィードバックにステークホルダーに積極的に関与してもらうため
  • 実施する内容
    • 製品のデモンストレーション
    • 重要指標の提示
      • 売上推移
      • Github の更新頻度、など
  • 時間の目安
    • スプリント期間が1週間の場合、1時間

スプリントレトロスペクティブ (振り返り)

  • なぜやるか
    • チームのパフォーマンスの点検
    • 定期的にチェックを行うことで改善サイクルを加速させる
    • スクラムイベントの中で最も重要なイベント
  • 実施する内容
    • 次のスプリントで実験的に行う内容を取り入れる
    • チームのパフォーマンスが下がってしまったタスクへの対策

おわりに

コロナウィルスによって世界は想像を超えるスピードで変化をしている最中です。そして今後どうなるかもわからない中で我々は働いていかなくてはなりません。スクラムの手法を少しでも取り入れて対応することで、変化の中で成長できる強いチームを目指せると考えています。

長くなってしまいましたが少しでも皆さんのご参考になれば幸いです。

資料リンク

ウェビナーの内容は YouTube にもアップロードされており誰でも閲覧することが可能です。
スクラムやアジャイル開発の用語も多く出てきますがWEB記事や書籍などで補完して頂ければ幸いです。

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