なぜまだ「自分で文章を書くのか」
※これは「株式会社ネクスウェイ Advent Calendar 2025」1日目の記事です🎄
あらゆるコミュニケーションを支援する株式会社ネクスウェイの開発メンバーが、好きな技術・取り組み・学びをゆるく書いていきます ![]()
説明に奔走する私たち
エンジニア職、どうしてもドキュメントが多くなりがちです。
PRのdescription、コメント、slack、esa、、、
文字を書いている時間、かなり多いです。
昨今はバイブコーディングの潮流もあり、一日中、日本語を書いている方もいるでしょう。
しかしながら、
「読みづらい!」
「なにが言いたいのかわからない!」
「これはどういうことだろう...」
毎日言われている、もしくは、自分が指摘している人も多いのではないでしょうか。
どうして、我々は文章にわかりやすさを求め、適切な説明をするよう努力するのでしょうか。
適切な説明と情報開示はすべてを好転させる
もし、すべての人が適切な説明と情報開示ができる理想の世界を考えてみましょう。
最終的なメリットは以下になります。
- 経営者:売上・利益の向上
- 「なにをやるか」「なにをやらないか」の判断が速くなる
- 現場から上がってくる提案や懸念が、数字・論点つきで整理されている
- 意思決定の前提が共有されるので、「言った・言わない」や方向転換のコストが減る
- 株主(投資家):株価・企業価値の向上、安心して投資ができる
- 事業のリスク・機会がわかりやすく説明されている企業ほど、将来キャッシュフローを見積もりやすい
- 「なぜこの投資をするのか」「なぜこの撤退をするのか」が論理的に説明されていると、サプライズが減る
- 結果として、リスクプレミアムが下がり、資金調達コストも下がる可能性がある
- 従業員:働きやすくなる・報酬が増える
- 上から降ってくる指示が「背景・目的・期待値」つきで説明される
- 自分の仕事が、事業全体のどこに効いているのかがわかるので、モチベーションが上がる
- 無駄なやり直し・認識ズレが減り、そのぶん価値ある仕事に時間を使える
- 顧客:価値・満足度向上
- 「このプロダクトは何を解決するのか」「なにができて、なにができないのか」が明快
- 問い合わせやトラブル時にも、状況・制約・代替案がきちんと説明される
- 結果として、「よくわからないけど不安だからやめておこう」が減る
つまり、説明の質が高い組織ほど、「全員の時間」と「意思決定」の無駄が減り、信頼が積み上がる。
これが最終的に、売上・利益・株価にじわじわ効いてきます。
一方、説明と情報開示が不足している世界を想像してみます。
同じ登場人物でも、矢印の中身が少しずつ変わるだけで、全体の結果はまったく逆になります。
- 経営者:意思決定ミス・判断遅延
- 指示が「とりあえず」「急ぎで」「お願い」だけで降ってくる
- 現場から上がってくる情報は、数字も論点もなく「なんか大変です」レベルで曖昧
- どの課題が本当に重要なのか見えず、意思決定が遅れたり、後から方針転換せざるを得なくなる
- 株主(投資家):不信感・ディスカウント
- 投資や撤退の理由が事後報告で、「なぜ今それをするのか」が見えづらい
- リスクの中身や見通しが説明されないため、将来キャッシュフローの予測が難しくなる
- 結果として、「よくわからない会社」としてリスクプレミアムが上乗せされ、評価が低くなりがち
- 従業員:モチベ低下・離職リスク
- 自分の仕事が、事業のどこに効いているのか分からない
- 指示の前提が共有されないので、「なんでこれやるんだっけ?」という疑念が溜まる
- 手戻りややり直しが増え、「どうせまた仕様変わるでしょ」と、挑戦より防衛が優先される
- 顧客:不信感・解約
- プロダクトが「結局何を解決してくれるのか」伝わらない
- 制約やリスクをちゃんと説明されないため、導入後に「そんな話は聞いていない」が発生する
- 結果として、導入を見送られたり、解約や乗り換えが増える
グッドシナリオとバッドシナリオを見比べると、登場人物もプロダクトも変わっていません。
変えているのは、ただひとつ 「説明の質」 だけです。
- 同じ方針でも、背景・目的・期待値をセットで説明できる人がいるか
- 同じプロダクトでも、「何を解決して、何はできないのか」を言語化できる人がいるか
- 同じ数字でも、論点とセットで整理して伝えられる人がいるか
この「説明の質」を上げることができれば、組織全体をグッドシナリオ側に少しずつ寄せていけます。(もちろん、現実のビジネスは説明だけで決まるわけではありませんが、同じプロダクト・同じ市場環境でも、「説明の質」が高い組織ほどグッドシナリオ側に寄りやすい、というのは多くの現場で感じられるところだと思います)
ここでいう、「説明の質」を高めるためには、普段からの「考える力」「思考」が必要です。
説明の質が高い人ほど、裏側で「前提は?」「根拠は?」「他の見方は?」「リスクは?」と頭の中でセルフツッコミを入れていおり、継続的なブラッシュアップを行います。
つまり、「説明の質を上げる」というのは、そのまま「思考の質と量を上げる」ことでもあるわけです。
では、その思考はどこで鍛えられるのか?
ここで出てくるのが、 「自分で文章を書く」 という行為です。
書くことは「思考のトレーニング」
「書かせると批判的思考が上がる」実験
Quitadamo & Kurtz (2007) は、大学の一般教養「生物」の受講生 310 名を
- Writing グループ:毎週、内容を分析する短いエッセイを書く
- Non-writing グループ:毎週、小テスト(クイズ)を受ける
にランダムに分けて、前後でCalifornia Critical Thinking Skills Test(批判的思考テスト)を受けさせました。
その結果:
- Writing グループは +8 パーセンタイル 伸びる
- Non-writing グループは –2 パーセンタイル 下がる

出典:CBE Life Sci Educ. 2007 Summer;6(2):140–154. Figure 2. をもとに筆者作成
つまり、「内容理解のテスト(クイズ)」よりも、「文章を書かせる」ほうが批判的思考テストの伸びが有意に大きかったという結果となりました。
「AI に書かせる」と何が起きるか
「書く=考える」は、生成 AI 時代だとむしろ逆方向から証明されつつある流れもあります。
MIT Media Lab の Kosmynaら (2025) は、参加者を
- ChatGPT を使ってエッセイを書く
- 検索エンジンを使う
- 何もツールを使わず、自分で書く(Brain-only)
の 3 グループに分け、複数回のエッセイ課題中の脳活動(EEG)と理解度テストを比較しました。
大まかな結果は:
- ChatGPT グループ
- 書いている間の脳活動(注意・記憶・計画に関わる領域)が最も低い
- 何回もこなすうちに、どんどん「コピペ依存」になっていった
- 後から内容を思い出すテストの成績も、他のグループより悪い
- 検索エンジン グループ
- ChatGPTとBrain-onlyの中間
- Brain-only グループ
- 認知的負荷は高いが、そのぶん記憶や理解は深くなる

出典:arXiv:2506.08872 をもとに筆者作成
つまり、自分の頭で書かないと、学習・記憶・批判的思考の「筋トレ量」が落ちるという結果になっています。
まとめ
もちろん、AIを使うなと言いたいわけではありません。
むしろ、
- 構成案の叩き台を出してもらう
- 書いた文章の「読みづらいポイント」を指摘してもらう
- 用語の定義や参考文献を探す手伝いをしてもらう
といった用途では、AIはかなり心強い相棒です。
大事なのは順番で、
- AIに考えさせた文章を、自分が「精読・再構成する」
ではなく、
- 自分で考えた骨組みに対して、AIに「肉付け・磨き」を手伝ってもらう
という使い方をしているか。どちらを選ぶかで、長期的な「考える力」の筋肉の付き方が変わってきます。
AIは強力なツールですが、私たちの代わりに「責任を取って」くれるわけではありません。
誰に何を伝えるかを決めるのは、いつだって自分自身です。
説明の質は、事業・組織・キャリアの成果に直結します。そして説明の質を高める作業で必要な考える力(批判的思考)は、書くプロセスによって鍛えることが可能です。そして、AIがどれだけ発達しても、最後に「これでいこう」と判断するのは人間です。
今日もどこかで PR description をわかりやすく工夫して書いているあなた、プレゼンにちょっとしたひと手間を加えたあなた、slackの文章を修正したあなたの背中を、ほんの少しだけ押せたなら、本望です ![]()
参考文献
- Ian J Quitadamo,Martha J Kurtz. Learning to Improve: Using Writing to Increase Critical Thinking Performance in General Education Biology, CBE Life Sci Educ. 2007 Summer;6(2):140–154.
- Kosmyna, N., Hauptmann, E., Yuan, Y. T., Situ, J., Liao, X.-H., Beresnitzky, A. V., Braunstein, I., & Maes, P. Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task arXiv preprint arXiv:2506.08872. 2025 https://doi.org/10.48550/arXiv.2506.08872
最後まで読んでいただきありがとうございました。
株式会社ネクスウェイ Advent Calendar 2025では明日以降も、開発メンバーがそれぞれの「好き」と「学び」を自分の言葉で綴っていく予定です。
明日 2 日目の記事は、同じくネクスウェイ開発メンバーの @HERUESTA さん です。
引き続き、お楽しみください🎄
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