1.データ分析の「見えないコスト」
データ分析に携わるエンジニアや研究者にとって、解析の下準備は避けて通れない工程です。実際、データの収集やクリーニング、抽出といった作業には、分析時間全体の50〜80%もの時間が費やされる場合もあると言われています。
特に、製造ライン、期間、実験群といった特定の条件ごとにデータを抽出・確認したい場面では、現場において「工程データ_LotA.xlsx」や「工程データ_LotB.xlsx」といった具合に、抽出条件ごとにファイルを別名保存(物理コピー)して管理する運用が散見されます。
このような手作業による管理は、単に煩雑であるだけでなく、以下のような実務上のリスクを伴います。
・ヒューマンエラーの温床: どのファイルが最新か分からなくなる。
・データのアップデートの困難: マスターデータが更新された際、コピーした全ファイルに修正を反映させるのに時間と手間がかかる。
・解析フローの断絶: 条件を変えるたびに「抽出・保存・読み込み」が発生し、思考が中断される。
データの絞り込みをするために、元のファイルのコピーを山ほど作るより、1つのデータファイル上で複数の「分析視点」をスムーズに切り替えたい。それを可能にするのが、JMP 19の新機能「フィルタービュー」です。
2.「フィルター」のイライラ、「ビュー」で解決
データの絞り込みといえば、スプレッドシートのフィルター機能が一般的です。しかし、帳票作成やデータ入力を主目的とするスプレッドシートと、統計的手法によるデータ探索を目的とするJMPでは、その「フィルター」の捉え方が異なります。
スプレッドシートによるデータ抽出の限界
スプレッドシートにおけるフィルターは、あくまで「条件に合わない行の表示を隠す」ための機能です。そのため、特定の条件群に対して分析を行う際、抽出範囲を「別シートへコピー&ペースト」して解析対象を固定する運用が見られます。しかし、この操作はマスターデータとの参照関係を断ち切ることを意味します。
その結果、マスターデータに数値の修正やデータの更新・追加が生じるたびに、手作業ですべての抽出先データを更新し直さなければなりません。これは単に煩雑なだけでなく、解析結果の整合性を損なう致命的なリスクとなります。
こうした課題に対し、JMPの「フィルタービュー」は、次のようなより柔軟で直感的な操作が可能です。
1)「分析視点」の瞬時切り替え
複数の抽出条件(例:特定の装置・ロット・期間や異常値除外後のデータなど)に名前を付けて「ビュー」としてデータテーブル内に保存できます。作成したビューをクリックするだけで、解析対象を瞬時に、かつ正確に切り替えられます。
2) 解析ミスの構造的な排除
フィルタービューを適用した状態で「二変量の関係」や「モデルのあてはめ」などのプラットフォームを実行すると、そのビューに表示されているデータのみが解析対象になります。 不要なデータが混入するリスクを構造的に排除できるため、分析の信頼性が向上します。
3) マスターデータとの完全同期
フィルタービューで作成された各ビューは、元のデータテーブルと直接連動しています。マスターデータが更新されれば、保存されたすべてのビューに即座に反映されるため、常に最新の状態で分析を継続できます。
3.「フィルタービュー」の操作手順
それでは、JMPのサンプルデータ「Car Physical Data」を使用して、具体的な操作を見ていきましょう。このデータには、様々なモデルの車の生産国、タイプ、車両重量、排気量などが含まれています。

ステップ1:基本のフィルタービュー作成
1.JMPを起動し、[ヘルプ] > [サンプルデータフォルダ] から「Car Physical Data」を開きます。
2.データテーブル左側の「フィルタービュー」パネルにある 「+」 ボタンをクリックします(列名横のフィルターアイコンをクリックすることでも作成可能です)。

3.画面右側に表示される「フィルタ列の追加」から 「生産国」 を選択し、「Japan」 をクリックします。この瞬間、テーブルが日本車だけに絞り込まれます。
4.パネル上のビュー名を「日本車」に変更します。

5.同様の手順で、生産国が「USA」のビュー(名前:アメリカ車)と、「Other」のビュー(名前:その他の国の車)を作成します。
これで、1つのデータテーブル内に3種類の「視点」が用意されました。各ビューをクリックするだけで、表示データを瞬時に切り替えることができます。

ステップ2:条件を組み合わせた詳細なビュー
次に、日本車の中でさらに特定の条件に合致する車を探してみます。
- 「日本車」ビューを選択した状態で、パネルの 「コピー」 アイコン(「+」の右側)をクリックします。
- 画面右の 「AND」 をクリックし、「タイプ」から 「Medium」 と 「Large」 を選択します。
- さらに 「AND」 をクリックして「車両重量」を選択します。表示されたヒストグラムの下にある最小値をクリックして「3,000」と入力するか、ヒストグラム上のバーをスライドさせて「3,000」以上に絞り込みます。
- このビューに「日本車 中~大型 重量3000-」 と名付けます。
同様に、「アメリカ車」のビューをコピーし、「タイプ(Medium, Large)」かつ「重量3000以上」の条件で絞り込み、「アメリカ車 中~大型 重量3000-」 を作成します。
これで、条件を絞り込んだ日本車とアメリカ車のビューを素早く切り替えながら分析を進めることができるようになりました。
ステップ3:比較用ビューの作成
最後に、日本車とアメリカ車を比較するためのビューも作ってみましょう。
1.作成した「アメリカ車 中~大型 重量3000-」のビューをコピーして、画面右の 「OR」 ボタンをクリックします。
2.追加されたブロックで、「生産国」に 「Japan」 を指定し、さらにAND条件で「タイプ」はMedium, Large、「重量」の最小値は3,000に設定します。
3.これで、日本車とアメリカ車のうち、特定のサイズと重量を超える車だけが並んだリストが完成しました。分析の際に見やすいように「比較用ビュー」と名付けます。

ステップ4:分析への展開― 絞り込んだデータの「探索」
フィルタービューの真価は、作成したビューからそのまま統計分析へ移行できる点にあります。ここでは、上で作成した「比較用ビュー」を使って、この中で「排気量が相対的に少ないモデル」を探し、その特徴を探索してみましょう。
分析の実行: 作成した「比較用ビュー」を表示したまま、メニューから [分析] > [一変量の分布] を選択します。「生産国」「タイプ」「車両重量」「排気量」の各列を「Y, 列」に指定して「OK」を押します。
すると、ヒストグラムや要約統計量等が記載されたレポートが表示されました。

このレポートは、フィルタービューで絞り込まれたデータのみを対象としています。スプレッドシートのように、分析のたびに対象範囲の指定ミスを気にかける必要はありません。
排気量のヒストグラムを確認し、最も数値の低い「125-150」のバーをクリックしてみます。すると、他の変数のグラフ(生産国やタイプ)でも該当するデータが瞬時にハイライトされました。

今回の例では、この条件に該当するのは「日本車」の「Large」タイプであることが視覚的に一目でわかります。そのままデータテーブルに戻れば、該当する行が選択状態になっているため、具体的な車種名などの詳細をすぐに深掘りすることが可能です。
このように、「抽出 → 分析 → データへの回帰」というサイクルが、JMPではファイルを一度も複製することなくスムーズに完結します。
4. まとめ
JMP 19の新機能「フィルタービュー」の真価は、単なるデータの絞り込みにあるのではなく、「1つのマスターデータを維持したまま、複数の条件や視点を瞬時に切り替えられる」という柔軟性にあります。
これまで、データの切り口を変えるたびにファイルのコピーを作り、どれが最新か分からなくなっていたストレスから解放されます。
手作業によるファイルの複製やコピペ作業をなくし、本来の目的である「データからの洞察」に集中できる環境を整えてくれる「フィルタービュー」。
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