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プルリクエストの活用方法

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プルリクエストの活用方法

プルリクエスト(PR)は、GitHubにおけるコラボレーションの中核となる機能です。単なるコードレビューの仕組みではなく、チームの知識共有、品質保証、そして開発速度の向上を実現するための強力なツールです。本記事では、GitHubの公式ドキュメントをもとに、プルリクエストを最大限活用するための実践的な知識を体系的に解説します。

1. プルリクエストの本質

プルリクエストは、ブランチ間のコード変更を提案し、レビューを経てマージするプロセスです。このプロセスには3つの重要な側面があります。

Conversationタブでは変更の説明、議論、レビューコメントが時系列で表示されます。Commitsタブでは変更履歴を確認でき、ChecksタブではCIの実行結果が確認できます。そしてFiles changedタブでは実際のコード差分を詳細に確認できます。

2. 効果的なプルリクエストの作成

2.1 小さく焦点を絞る

プルリクエストは小さく、単一の目的に焦点を絞ることが重要です。大きなPRは以下の問題を引き起こします。

  • レビューに時間がかかる
  • バグが混入しやすい
  • マージ後の問題特定が困難

小さなPRは、レビュアーが変更の意図を素早く理解でき、的確なフィードバックを得られます。

2.2 明確なコンテキストを提供

PRの説明には以下を含めます。

  • 変更の目的:なぜこの変更が必要なのか
  • 変更内容の概要:何を変更したのか
  • 関連情報へのリンク:関連するissueや過去の議論

GitHub Copilotを使用すると、コミット履歴から自動的にPRサマリーを生成できます。PRの作成画面で、説明欄のヘッダーにあるCopilotアイコンから「Summary」を選択するだけです。

2.3 セルフレビューの実施

PRを提出する前に、自分自身でレビューを行います。

  • コードを再度読み直す
  • ビルドとテストを実行
  • セキュリティ上の問題を確認

GitHubには依存関係の脆弱性チェックやコードスキャニング機能があります。これらを活用することで、レビュアーに提出する前に問題を発見できます。

3. フォークとブランチの使い分け

GitHubには2つの主要な開発モデルがあります。

3.1 フォーク&プルモデル

フォークは完全に独立したリポジトリです。以下の場合に適しています。

  • オープンソースプロジェクトへの貢献
  • 書き込み権限がない場合
  • 実験的な変更を試したい場合

フォークを作成するには、リポジトリページの右上にある「Fork」ボタンをクリックします。フォークには独自のissue、PR、プロジェクトボードを持つことができます。

3.2 共有リポジトリモデル

チーム開発では共有リポジトリモデルが一般的です。メンバー全員が同じリポジトリにプッシュ権限を持ち、ブランチを使って作業を分離します。

4. ブランチ保護とルールセット

重要なブランチ(mainなど)は保護することで、品質を担保します。

4.1 ブランチ保護ルール

以下の制約を設定できます。

  • レビュー必須:指定人数の承認が必要
  • ステータスチェック必須:CIテストの通過が必要
  • 最新状態の強制:ベースブランチとの同期が必要
  • 署名済みコミット必須:コミット署名の検証

4.2 ルールセット

ルールセットはブランチ保護ルールの進化版です。以下の利点があります。

  • 複数のルールセットを同時適用可能
  • より詳細な条件設定
  • 管理者権限なしでも確認可能

4.3 プッシュルールセット

プッシュルールセットでは、以下を制限できます。

  • ファイルパスの制限:特定のパスへの変更を防ぐ
  • ファイルパス長の制限:長すぎるパスを防ぐ
  • ファイル拡張子の制限:特定の拡張子を禁止
  • ファイルサイズの制限:大きすぎるファイルを防ぐ

重要なのは、プッシュルールがフォークネットワーク全体に適用される点です。フォークにも同じ制約が適用されるため、全てのエントリーポイントが保護されます。

5. ステータスチェックの理解

ステータスチェックは、PRがマージ可能かを判断する重要な仕組みです。

5.1 チェックの種類

GitHubには2種類のステータスチェックがあります。

チェックはGitHub Appsが生成し、以下の機能があります。

  • 行単位のアノテーション
  • 詳細なメッセージ
  • 再実行機能

GitHub Actionsはチェックを生成します。

コミットステータスは従来のAPI経由で設定されるステータスです。

5.2 チェックのステータス

ステータス 説明
completed チェック完了(結論を持つ)
in_progress 実行中
queued キューに登録済み
pending グループベースの同時実行制限に達している
waiting デプロイメント保護ルールを待機中

5.3 チェックの結論

完了したチェックには結論があります。

結論 説明
success 成功
failure 失敗
cancelled キャンセル
skipped スキップ(依存チェックでは成功扱い)
neutral 中立(依存チェックでは成功扱い)

5.4 スキップされたチェックの注意点

ワークフローがパスフィルタリングによってスキップされた場合、チェックは「Pending」状態のままになり、PRのマージがブロックされます。

name: ci
on:
  pull_request:
    paths:
      - 'scripts/**'
jobs:
  build:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
    - uses: actions/checkout@v5
    - run: npm test

上記の例では、scripts/以外のファイルのみを変更したPRは、チェックが実行されずPending状態になります。

これを解決するには、ジョブ内で条件分岐を使用します。

name: ci
on:
  pull_request:
jobs:
  build:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
    - uses: actions/checkout@v5
    - name: 変更検出
      id: changes
      run: echo "scripts_changed=$(git diff --name-only ${{ github.event.pull_request.base.sha }} | grep '^scripts/' || echo 'false')" >> $GITHUB_OUTPUT
    - name: テスト実行
      if: steps.changes.outputs.scripts_changed != 'false'
      run: npm test

6. レビュープロセスの実践

6.1 レビューの準備

レビュアーは、PRの目的を理解することから始めます。

サイドバーの活用

  • リンクされたissueや議論を確認
  • プロジェクトやマイルストーンとの関連を把握

Copilot Chatの活用

PR画面右上の検索バー横にあるCopilotアイコンをクリックすると、Copilot Chatが開きます。以下のような質問が可能です。

このPRはどんな問題を解決しますか?
なぜこの変更が必要だったのですか?
関連するissueとの関係を説明してください

6.2 レビューの実施

Files changedタブで、ファイルごとにレビューを進めます。

コードの特定行にコメントするには、行番号にカーソルを合わせて表示される青いプラスアイコンをクリックします。複数行にコメントする場合は、開始行をクリックしてからShiftを押しながら終了行をクリックします。

変更提案機能

コメント欄のファイル差分アイコンをクリックすると、具体的なコード変更を提案できます。提案を受けたPR作成者は、ワンクリックで提案を適用できます。

- const result = data.filter(item => item.active == true)
+ const result = data.filter(item => item.active === true)

ファイル単位のコメント

ファイル全体に対するコメントは、ファイルの右上にあるコメントアイコンから追加できます。

6.3 レビューの完了

全てのファイルを確認したら、「Review changes」ボタンをクリックしてレビューを提出します。

3つの選択肢があります。

  • Comment:一般的なフィードバックを残す
  • Approve:変更を承認しマージを許可
  • Request changes:修正が必要な問題を指摘

「Request changes」を選択した場合、同じレビュアーが再度承認するまでPRはマージできません(ブランチ保護が有効な場合)。

6.4 依存関係のレビュー

PRに依存関係の変更が含まれる場合、特別な注意が必要です。

マニフェストファイル(package.json、Gemfileなど)の右側にあるリッチdiffボタンをクリックすると、依存関係レビューが表示されます。

表示される情報:

  • 追加・更新・削除された依存関係
  • バージョン情報
  • 既知の脆弱性(CVE/GHSA番号付き)
  • ライセンス情報
  • 依存プロジェクト数

脆弱性のある依存関係は、深刻度順に上部に表示されます。

7. マージ戦略の選択

GitHubは3つのマージ方法を提供しています。それぞれに明確な用途があります。

7.1 マージコミット

全てのコミットを保持し、マージコミットを作成します(--no-ffオプション使用)。

適している場合

  • 開発履歴を完全に保持したい
  • 各コミットが意味のある単位

7.2 スカッシュ&マージ

複数のコミットを1つにまとめます。

適している場合

  • WIPコミットが多数含まれる
  • 履歴をシンプルに保ちたい
  • PRごとに1コミット

デフォルトのコミットメッセージ

  • 1コミットの場合:そのコミットメッセージ
  • 複数コミットの場合:PRタイトル+コミットリスト

リポジトリ設定で、PRタイトルのみ、またはPR説明を使用するように変更できます。

長期ブランチでの注意点

スカッシュマージ後も元のブランチで作業を続ける場合、次回のPRには前回マージ済みのコミットも含まれます。これは共通の祖先が変わらないためです。同じブランチからのPRを続ける場合は、マージコミットを使用してください。

7.3 リベース&マージ

各コミットを個別にベースブランチに適用します。

適している場合

  • リニアな履歴を維持したい
  • 各コミットが独立してテスト可能
  • 履歴の可読性を重視

GitHubでの動作

通常のgit rebaseと異なり、GitHubのリベース&マージは常にコミッター情報を更新し、新しいSHAを生成します。

リベース不可能な場合

  • マージコンフリクトがある
  • リベース結果がマージと異なる(unsafe)

この場合は、ローカルでリベースしてforceプッシュする必要があります。

8. 高度なワークフロー

8.1 ドラフトPR

開発途中でフィードバックを得たい場合は、ドラフトPRを作成します。

PRを作成する際、「Create pull request」ボタンのドロップダウンから「Create Draft Pull Request」を選択します。

ドラフトPRの特徴:

  • マージ不可
  • コードオーナーへの自動レビューリクエストなし
  • 「Ready for review」マークで通常PRに変換可能

逆に、通常PRをドラフトに戻すことも可能です。右サイドバーの「Reviewers」セクションで「Convert to draft」をクリックします。

8.2 オートマージ

必要な要件が満たされたら自動的にマージする機能です。

有効化の条件

  • リポジトリでオートマージが有効
  • PRが即座にマージできない状態(レビュー待ちなど)

手順

  1. PRページでマージ方法を選択
  2. 「Enable auto-merge」をクリック
  3. コミットメッセージを入力
  4. 「Confirm auto-merge」をクリック

要件が満たされると、自動的にマージされます。

無効化される条件

  • 書き込み権限のないユーザーがヘッドブランチに変更をプッシュ
  • ベースブランチが変更された

8.3 マージキュー

高頻度でマージが発生するブランチでは、マージキューが効果的です。

動作

  1. PRを「Merge when ready」でキューに追加
  2. 最新のベースブランチ+キュー内の先行PRとマージ
  3. 必要なチェックを実行
  4. 成功したら自動マージ、失敗したらキューから除外

利点

  • 「Require branches to be up to date before merging」と同等だが、手動更新不要
  • 並行開発の効率化
  • ブランチが常にテスト済み状態

GitHub ActionsまたはCIプロバイダーどちらでも使用できます。ワークフローはmerge_groupイベントをトリガーとして設定します。

on:
  pull_request:
  merge_group:

8.4 間接的なマージ

あるPRのヘッドブランチに含まれるコミットが、別のPRを経由してベースブランチにマージされた場合、元のPRは自動的に「マージ済み」とマークされます。

条件

  • ヘッドブランチのコミットがベースブランチから到達可能になる
  • デフォルトブランチへの直接プッシュ、またはマージコミット経由

注意

  • スカッシュマージやリベースマージでは発生しない(新しいコミットが作成されるため)
  • ブランチ保護ルールが満たされていなくても「マージ済み」になる

9. マージコンフリクトの解決

9.1 コンフリクトの種類

競合する行の変更

同じファイルの同じ行を異なる方法で変更した場合に発生します。

<<<<<<< HEAD
const API_URL = "https://api.example.com/v1";
=======
const API_URL = "https://api.example.com/v2";
>>>>>>> feature-branch

削除されたファイル

一方のブランチでファイルが編集され、もう一方で削除された場合に発生します。

9.2 GitHub上での解決

単純な行の競合は、GitHub上のコンフリクトエディタで解決できます。

  1. PRの下部にある「Resolve conflicts」ボタンをクリック
  2. コンフリクトマーカーを削除し、保持する内容を選択
  3. 全てのコンフリクトを解決
  4. 「Mark as resolved」をクリック
  5. 「Commit merge」をクリック

protected branchの場合

保護されたブランチでは、新しいブランチを作成してそこに解決をコミットします。

9.3 コマンドラインでの解決

複雑なコンフリクトや削除されたファイルの場合は、コマンドラインで解決します。

# リポジトリに移動
cd リポジトリ名

# コンフリクトのあるファイルを確認
git status

# ファイルを編集してコンフリクトを解決
# エディタでコンフリクトマーカーを削除

# 解決したファイルをステージング
git add .

# コミット
git commit -m "マージコンフリクトを解決"

# プッシュ
git push

削除されたファイルの場合

# ファイルを保持する場合
git add README.md

# ファイルを削除する場合
git rm README.md

# コミット
git commit -m "マージコンフリクトを解決(ファイル削除)"

10. チーム開発のベストプラクティス

10.1 PRテンプレートの活用

リポジトリに.github/PULL_REQUEST_TEMPLATE.mdを作成すると、PR作成時に自動的にテンプレートが読み込まれます。

## 変更内容
<!-- 何を変更したか -->

## 変更理由
<!-- なぜこの変更が必要か -->

## 関連Issue
Closes #

## チェックリスト
- [ ] テストを追加/更新した
- [ ] ドキュメントを更新した
- [ ] セルフレビューを実施した

タスクリストを含めることで、マージ前の確認項目を明確にできます。

10.2 CODEOWNERSファイル

特定のファイルやディレクトリの責任者を定義します。

.github/CODEOWNERSファイルを作成:

# デフォルトのオーナー
* @チーム名/デフォルトチーム

# セキュリティ関連
/SECURITY.md @チーム名/セキュリティチーム
/.github/dependabot.yml @チーム名/セキュリティチーム

# フロントエンド
/src/components/ @田中太郎 @佐藤花子

# バックエンド
/api/ @チーム名/バックエンドチーム

CODEOWNERSで指定されたユーザーやチームは、該当ファイルが変更されたPRで自動的にレビュアーとして指定されます。

10.3 レビュアーの指定

PRのサイドバーから、レビュアーを指定できます。

個人を指定

「Reviewers」セクションで、ユーザー名を入力または選択します。

チームを指定

チーム名で指定すると、コードレビュー割り当てが有効な場合は特定のメンバーが選ばれます。

再レビューのリクエスト

大幅な変更を加えた後は、レビュアー名の横にある同期アイコンをクリックして再レビューを依頼できます。

10.4 ブランチの同期

PRのヘッドブランチをベースブランチの最新状態に保つことが重要です。

「Update branch」ボタンは以下の条件で表示されます。

  • マージコンフリクトがない
  • ヘッドブランチが古い
  • リポジトリ設定で更新提案が有効

2つの更新方法

  • マージ:ベースブランチをヘッドブランチにマージ
  • リベース:ヘッドブランチをベースブランチにリベース

ドロップダウンメニューから選択できます。

11. まとめ

プルリクエストは単なるコードレビューツールではありません。適切に活用することで、以下を実現できます。

  • 品質の向上:複数の目でコードを確認
  • 知識の共有:レビューを通じた学習
  • 開発速度の向上:自動化とワークフロー最適化
  • リスクの低減:段階的な変更と検証

小さなPRを作成し、明確なコンテキストを提供し、適切なツールを活用することで、チーム全体の生産性が向上します。ブランチ保護、ステータスチェック、マージキューなどの高度な機能を組み合わせることで、大規模プロジェクトでも効率的な開発が可能になります。

技術的な詳細は多岐にわたりますが、最も重要なのは「なぜこの変更が必要か」を明確に伝えることです。優れたプルリクエストは、コードだけでなく、意図と文脈を共有します。これこそが、真の協働開発を可能にする鍵なのです。

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