GitHub Copilotをはじめる前に
1. はじめに
GitHub Copilotは、AIを活用したコーディング支援ツールとして、開発者の生産性向上に寄与することが実証されています。本記事では、GitHub公式ドキュメントをもとに、Copilotの機能体系、料金プラン、そして実務への適用方法について解説します。
2. プラン体系と料金
GitHub Copilotは、利用者の規模とニーズに応じて5つのプランを提供しています。
2.1 個人開発者向けプラン
| プラン | 月額料金 | プレミアムリクエスト | コード補完 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Copilot Free | 無料 | 50/月 | 2,000/月 | 基本機能の試用 |
| Copilot Pro | $10(年払い$100) | 300/月 | 無制限 | プレミアムモデルへのアクセス |
| Copilot Pro+ | $39(年払い$390) | 1,500/月 | 無制限 | 全モデルへのフルアクセス |
注: 学生、教育者、オープンソースメンテナーは、Copilot Proを無料で利用できる可能性があります。
2.2 組織・企業向けプラン
| プラン | ユーザー単価/月 | プレミアムリクエスト | 対象 |
|---|---|---|---|
| Copilot Business | $19 | 300/ユーザー/月 | GitHub FreeまたはTeamプランの組織 |
| Copilot Enterprise | $39 | 1,000/ユーザー/月 | GitHub Enterprise Cloudの企業 |
2.3 プレミアムリクエストの追加購入
すべてのプランで、月間割当を超えた場合は$0.04/リクエストで追加購入が可能です。Copilot Businessユーザーが月間800リクエスト以上使用する場合、Copilot Enterpriseへのアップグレードが費用対効果の観点から推奨されます。
プラン選択のフローチャート
主要機能の詳細
1. インラインコード補完
IDEでのコーディング中に、リアルタイムでコード補完を提案します。
対応IDE:
- Visual Studio Code
- Visual Studio
- JetBrains IDEs(IntelliJ IDEA、PyCharm等)
- Azure Data Studio
- Xcode
- Vim/Neovim
- Eclipse
適用場面:
- コードスニペットの補完
- 変数名や関数名の提案
- 自然言語コメントからのコード生成
- テスト駆動開発におけるテストコードの生成
新機能: VS Code、Xcode、Eclipseでは、次に編集する可能性が高い場所を予測する「next edit suggestions」(パブリックプレビュー)が利用可能です。
2. Copilot Chat
自然言語でコーディングに関する質問が可能なチャットインターフェースです。
利用可能な環境:
- GitHubウェブサイト
- GitHub Mobile
- 対応IDE(VS Code、Visual Studio、JetBrains、Eclipse、Xcode)
- Windows Terminal
活用例:
- コードの説明を求める
- 大規模なコードセクションの生成と反復的改善
- キーワードやスキルを使用した特定タスクの実行
- ペルソナを指定した対話(例: 「あなたはコード品質を重視するシニアC++開発者です」)
3. Copilot coding agent(エージェント機能)
GitHub issueを割り当てることで、自律的にコード変更を実行し、レビュー用のプルリクエストを作成します。
ワークフロー:
適用シナリオ:
- バックログのissue処理
- バグ修正
- 機能強化の実装
4. Copilot Edits
複数ファイルにまたがる変更を、単一のチャットプロンプトから実行できます。
対応IDE: Visual Studio Code、Visual Studio、JetBrains IDEs
Edit mode(編集モード)
対応: VS Code、JetBrains IDEsのみ
編集対象ファイルを明示的に選択し、各反復でコンテキストを提供しながら、提案された編集を承認するかどうかを判断します。
適用場面:
- 特定のファイルセットへの迅速な更新
- LLMリクエスト数の完全な制御が必要な場合
Agent mode(エージェントモード)
対応: すべての対応IDE
タスクを指定すると、Copilotが自律的にファイルを選択し、コード変更やターミナルコマンドを提案し、タスクが完了するまで反復処理を行います。
適用場面:
- 複数ステップを含む複雑なタスク
- エラー処理を含む反復が必要な作業
- MCPサーバーなど外部アプリケーションとの統合が必要な場合
5. Copilot code review
AIによるコードレビュー提案を生成します。現在、パブリックプレビュー中です。
機能:
- バグの早期発見
- コード改善の提案
- VS Codeでは「選択範囲のレビュー」が利用可能
6. Copilot CLI(パブリックプレビュー)
コマンドラインからCopilotを使用できます。
機能:
- ターミナル内での質問応答
- ローカルファイルへの変更提案
- GitHub.comとの対話(例: PRのリスト表示、issue作成)
7. その他の機能
- PRサマリー: プルリクエストの変更内容を自動要約
- テキスト補完(パブリックプレビュー): PR説明文の迅速かつ正確な作成支援
- カスタム指示: プリファレンス、ツール、要件の詳細を提供してCopilot Chatの応答を強化
- Copilot Spaces: タスク固有のコンテキスト(コード、ドキュメント、仕様等)を整理・集約
- GitHub Spark(パブリックプレビュー): 自然言語プロンプトを使用したフルスタックアプリケーションの構築とデプロイ
- GitHub Desktopでの統合: 変更内容に基づいてコミットメッセージと説明を自動生成
利用可能なAIモデル
プランによって利用可能なモデルが異なります。以下は主要なモデルの一覧です。
Anthropic Claudeシリーズ
| モデル | Free | Pro | Pro+ | Business | Enterprise |
|---|---|---|---|---|---|
| Claude Haiku 4.5 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| Claude Sonnet 4 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| Claude Sonnet 4.5 | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| Claude Opus 4.1 | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| Claude Opus 4.5 | - | - | ✓ | - | ✓ |
OpenAI GPTシリーズ
| モデル | Free | Pro | Pro+ | Business | Enterprise |
|---|---|---|---|---|---|
| GPT-4.1 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| GPT-5 | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| GPT-5 mini | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| GPT-5-Codex | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| GPT-5.1 | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| GPT-5.1-Codex | - | - | ✓ | - | ✓ |
| GPT-5.1-Codex-Mini | - | - | ✓ | - | ✓ |
| GPT-5.1-Codex-Max | - | - | ✓ | - | ✓ |
| GPT-5.2 | - | - | ✓ | - | ✓ |
Google Geminiシリーズ
| モデル | Free | Pro | Pro+ | Business | Enterprise |
|---|---|---|---|---|---|
| Gemini 3 Flash | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| Gemini 2.5 Pro | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
| Gemini 3 Pro | - | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
その他のモデル
- Grok Code Fast 1
- Raptor mini
上位プランほど、より多くの最新モデルにアクセスできます。特にPro+とEnterpriseでは、最新の高性能モデルへのフルアクセスが可能です。
ベストプラクティス
Copilotの適性を理解する
Copilotが得意とする領域:
- テストコードや反復的なコードの記述
- デバッグと構文修正
- コードの説明とコメント追加
- 正規表現の生成
Copilotの限界:
- コーディングや技術に無関係なプロンプトへの対応
- 専門知識やスキルの代替(Copilotはツールであり、開発者が主導権を持つべき)
適切なツールの選択
プロンプトエンジニアリング
効果的なプロンプトを作成するためのポイント:
-
複雑なタスクを分解する
- 大きな問題を小さなステップに分割
- 段階的に進めることでより正確な結果を得る
-
具体的な要件を明示する
- 曖昧な表現を避ける
- 入力データ、出力形式、実装例を提供
-
適切なコーディング規約に従う
- プロジェクトの規約をコンテキストとして提供
-
例を提供する
# 悪い例 「リストをソートして」 # 良い例 「整数のリストを昇順にソートし、結果を新しいリストとして返す関数を作成してください。 入力例: [3, 1, 4, 1, 5, 9, 2, 6] 期待される出力: [1, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 9]」
Copilotの出力を検証する
推奨される検証手法:
- 提案されたコードを実装前に完全に理解する
- 機能性とセキュリティを慎重にレビューする
- 自動テスト、リンティング、コードスキャニング、IP(知的財産)スキャニングを活用
- 必要に応じて、パブリックコードとの類似性をチェックする設定を有効化
効果的なコンテキストの提供
IDE使用時:
- 関連するファイルを開く
- 無関係なファイルを閉じる
Copilot Chat使用時:
- 不要になったリクエストは削除
- コンテキストがすべて不要な場合は新しい会話を開始
- GitHubでは、特定のリポジトリ、ファイル、シンボル等を明示的に指定
プロンプトの改善:
- 役に立たない応答の場合は、プロンプトを書き直す
- 複数の小さなプロンプトに分割することを検討
フィードバックの提供:
- インライン補完: 提案を承認または却下
- Copilot Chat: 応答の横にあるサムアップ/サムダウンアイコンをクリック
- GitHubのフィードバックディスカッションにコメント
組織・企業での導入戦略
エンジニアリングシステム成功プレイブック(ESSP)に基づくアプローチ
GitHubが推奨する3ステップのプロセス:
ビジネス目標とCopilot Enterpriseの活用
| 目標 | 解決すべき課題 | Copilot Enterpriseによる支援 |
|---|---|---|
| バックログの削減 | 開発チームがバックログissueや非必須issueに対応する余裕がなく、機能品質が徐々に低下する | より多くのプレミアムリクエストにより、バグ修正や機能強化などのタスクをCopilot coding agentに割り当て、バックグラウンドで処理 |
| PRの加速 | レビューサイクルの長期化によりPRのマージが遅延し、開発プロセスにボトルネックが発生 | より多くのプレミアムリクエストにより、人間のレビュアーが対応可能になる前にCopilot code reviewがバグや改善点を指摘 |
| 技術的負債の削減 | 非効率または理解しにくいコードが蓄積され、チームメンバーのオンボーディングや新規領域の理解が困難に | より多くのプレミアムリクエストと最新モデルへのアクセスにより、IDEのagent modeを使用して複雑なリファクタリングに適したコンテキスト認識能力の高いモデルでコードをリファクタリング |
コスト効率の評価
Copilot Businessのプレミアムリクエストは基準値であり、上限ではありません。agent mode、Copilot coding agent、Copilot code reviewなどのエージェントワークフローを使用する開発者は、この割当を超える可能性が高いです。
判断基準:
- Copilot Businessユーザーが月間約800プレミアムリクエスト以上を使用する場合、Copilot Enterpriseプランの方が費用対効果が高くなります
- 使用レポートをダウンロードして、開発者が使用しているプレミアムリクエスト数を確認することを推奨
管理者向け機能
組織・企業のオーナーには、Copilot BusinessまたはEnterprise プランで以下の機能が提供されます:
ポリシー管理:
- 組織または企業内でのCopilotポリシーの管理
アクセス管理:
- 企業オーナー: 企業内のどの組織がCopilotを使用できるかを指定
- 組織オーナー: どの組織メンバーがCopilotを使用できるかを指定
使用状況データ:
- 組織または企業内のCopilot使用状況データをレビューし、アクセス管理や採用促進の情報として活用
監査ログ:
- Copilotに関する監査ログをレビューし、どのアクションがどのユーザーによって実行されたかを把握
ファイル除外:
- 特定のファイルを無視するようCopilotを設定し、Copilotに利用可能にしたくないファイルを除外
導入のロードマップ
推奨される目標設定の例
GitHub公式ドキュメントでは、以下の領域における目標設定ガイドが提供されています:
-
テストカバレッジの向上
- Copilotを活用したテストコード生成の効率化
- テスト駆動開発(TDD)の促進
-
プルリクエストの加速
- コードレビューの迅速化
- PR説明文の自動生成による明確化
-
セキュリティ債務の削減
- コードスキャンとの統合
- セキュリティベストプラクティスの提案
実装時の注意点
セキュリティとプライバシー
パブリックコードとの一致チェック:
- 設定により、パブリックコードと一致する提案をブロック可能
- 個人ユーザー: 個人設定で管理
- 組織: 組織のポリシーで管理
ファイル除外機能:
- 機密性の高いファイルをCopilotから除外
- 組織レベルでの一元管理が可能
レート制限と応答時間
- 使用状況が多い期間は応答時間が変動する可能性があります
- GitHub Modelsのレート制限が増加(プランにより異なる)
IDE対応状況
各機能の対応IDEを事前に確認してください:
完全対応:
- Visual Studio Code
- Visual Studio
- JetBrains IDEs
部分対応:
- Eclipse(一部機能のみ)
- Xcode(一部機能のみ)
- Vim/Neovim(基本機能のみ)
まとめ
GitHub Copilotは、単なるコード補完ツールではなく、開発ワークフロー全体を支援する包括的なAIアシスタントへと進化しています。プランの選択は、チームの規模、使用頻度、そして達成したいビジネス目標によって決定すべきです。
導入検討のポイント:
- 段階的アプローチ: Copilot Freeまたは30日間トライアルから始める
- 明確な目標設定: エンジニアリングシステム成功プレイブック(ESSP)に基づく目標を定義
- 継続的な評価: 使用状況レポートを活用し、プランの最適化を図る
- チームへの教育: ベストプラクティスの共有とトレーニングの実施
- フィードバックループ: 開発者からのフィードバックを収集し、組織のポリシーを調整
GitHub Copilotの実証された生産性向上効果を最大限に引き出すには、技術的な導入だけでなく、組織としての戦略的な取り組みが不可欠です。本記事で紹介した情報を基に、自組織に最適な導入計画を策定してください。
参考リンク:
- GitHub Copilot Trust Center: https://resources.github.com/copilot-trust-center/