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【SPReAD-1000 応募者向け】Wetな研究者はDryな研究の夢を見るか?

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Last updated at Posted at 2026-04-21

はじめに──あるいは、あなたのことかもしれない話

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
── フィリップ・K・ディック

ディックは1968年にこう問うた。人間そっくりのアンドロイドが現れたとき、「生きている」とはどういうことか?

2026年の今、研究の世界でも似た問いが生まれている。

「AIが仮説を立て、実験を設計し、候補物質を提案する時代に──研究者とは、何者なのか?」

もしあなたが今、SPReAD-1000の公募ページを開きながら「AIなんて使ったことないけど、自分の研究に使えるんだろうか」と考えているなら、この記事はあなたのためになるかもしれません。

これは、ある Wet 研究者が AI を使って Dry の世界に踏み出した物語だ。

📖 所要時間 : 約15分
🧪 テーマ : エピジェネティクス創薬×AI(架空のプロジェクトをベースに構成)
📝 : 筆者が実際に支援した研究者との体験に基づいていますが、研究テーマや人物は架空のものに置き換えています


「あの……AIって、分子を入れたら薬が出てくるんですか?」

ある日、私のもとに一人の研究者がやってきた。仮にK先生と呼ぶ。

K先生は大学の老化生物学研究室の准教授で、20年間ずっとWet研究一筋だ。細胞培養、ウェスタンブロット、ヒストン修飾の解析──手を動かし、試薬を混ぜ、クロマチンの変化を追う。いわゆる Wet(ウェット) の世界で生きてきた研究者だ。

👩‍🔬 「SPReAD-1000に応募しようと思ってるんです。でも……AIって、よくわからなくて」

💡 Wet研究とDry研究

研究者にはおなじみの区分だが、念のため。

Wet研究 Dry研究
場所 実験室(ラボ) コンピュータの前
手段 試薬・器具・生物材料 データ解析・シミュレーション
細胞培養、PCR、薬物投与 仮想スクリーニング、分子ドッキング、AI予測
濡れている 乾いている

現代の創薬では、 DryでAIが候補を絞り込み → Wetで実験検証 する連携が標準になりつつある。

K先生の研究テーマは SIRT6(サーチュイン6) 。NAD⁺依存性ヒストン脱アセチル化酵素で、老化・代謝・がん抑制のカギを握るエピジェネティクス因子だ。SIRT6の機能低下が老化を加速させるメカニズムの解明は進んだ。しかし彼女には20年越しの悲願があった。

「新しい低分子のSIRT6活性化薬を見つけたい」

既存のSIRT6活性化薬はMDL-800/801など数えるほどしかない。しかも選択性やバイオアベイラビリティに課題がある。SPReAD-1000の公募を見て、「AIならこの壁を越えられるのでは」と思ったのだ。

そして彼女はこう聞いた──

👩‍🔬 「AIを使えば、コンピュータ上で新しい活性化薬が見つけられるんでしょう?タンパク質の構造を入れたら、薬が出てくるって聞いたんですけど」

私が「具体的にどんなソフトウェアを使うイメージですか?」と聞くと、K先生は黙った。

👩‍🔬 「……そこなんです。ドッキングとかスクリーニングとか、言葉は論文で見たことがある。でも 実際に何をインストールして、何をどう動かせばいいのか 、まったくわからないんです。」

これは、Wet研究者がDryに踏み出すときの 最大の壁 だと私は思っている。知識がないわけではない。何を使えばいいかがわからないのだ。AutoDock Vina? GROMACS? RDKit?──名前は聞いたことがあっても、自分の研究にどれが必要で、どう組み合わせればいいのか、誰も教えてくれない。

だから私は、それを代わりにやるツールを作った。

あなたも、同じ壁の前に立っていないだろうか?


SPReAD-1000──なぜ今、この制度が生まれたのか

K先生の話に入る前に、この制度の話をしたい。応募を検討しているなら、ここは読み飛ばさないでほしい。

制度の概要

文部科学省が2026年度に始めた 「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD-1000)」 [1][2]

項目 内容
採択件数 年間 約 1,000件 (2回の公募で)
支援額 1課題あたり 最大500万円 (直接経費、間接経費30%別途)
対象分野 全学問領域 (人文・社会科学を含む)
応募資格 大学・高専等の研究者・学生
第1回公募 2026年4月17日〜 5月18日正午
研究期間 交付決定日〜2027年1月6日(短期集中型)

研究者が知っておくべき3つのポイント

① 「AI初心者」が想定されている

公募要領には明確にこう書かれている──「初めてAIを研究に導入する人も対象」。つまりK先生のような、ターミナルすら触ったことがない研究者も射程内だ。

② 経費の使い道がDry向き

対象経費には 計算資源利用費(クラウドGPU等)、データ取得・API利用料、設備費 が含まれる。つまり「普段はWetの予算しかないけど、Dryを試したい」という研究者にとって、計算リソースを確保する絶好の機会だ。

③ 短期集中で「種」を蒔く設計

研究期間は約半年。本格的な成果を出すというより、 「AIを使った研究の種を見つける」 ことが求められている。完璧な結果よりも、挑戦すること自体が評価される設計だ。次のステップとしてARiSE等の大型助成への橋渡しも意識されている。

……しかし、申請書が書けない

ここで一つ、公募要領が語らない現実を書いておく。

SPReAD-1000は「AI初心者」を想定している。それは素晴らしい。しかし申請書には 「AIをどう使うか」の研究計画 を書かなければならない。

K先生はここで詰まった。

👩‍🔬 「『AIを活用した研究計画』を書けと言われても……私はAIで何ができるかを知らないのに、どうやって計画を書くんですか?」

これは鶏と卵の問題だ。 AIを使ったことがないから何ができるかわからない。何ができるかわからないから計画が書けない。計画が書けないから採択されない。採択されないからAIを使えない。

正直に言う。 AI初心者がSPReAD-1000の申請書を自力で書くのは、ほぼ不可能だ。

「仮想スクリーニングを実施する」と書くのは簡単だ。しかし審査員が知りたいのは、 どのデータベースから、どんな手法で、何を基準に絞り込むのか ──その具体性だ。AutoDock Vinaを使ったことがない研究者に、ドッキングの計算条件を書けというのは酷だ。

だから私はspread1000-builderを作った。 あなたの研究テーマを伝えれば、AIが「この分野ならこのワークフローが標準的です」と提案し、申請書の研究計画セクションのドラフトを生成する。 計算化学の用語も、適切な手法の選定も、AIが下書きしてくれる。あなたがやるべきことは、「自分の研究の問い」を伝えることだけだ。

⚠️ 第1回公募の締切は2026年5月18日正午 です。e-Rad登録が必要なので、まだの方は早めに。


K先生の「過大な期待」──あるいは、AI創薬の本当の話

話をK先生に戻そう。

K先生の期待「タンパク質の構造を入れたら薬が出てくる」は、正しいだろうか?

正しい部分

AIを使ったインシリコ創薬は、もはや夢物語ではない。

-Insilico Medicine はAIで設計した新規TNIK阻害剤(レントセルチブ)を臨床Phase IIaに到達させた。従来数年かかる創薬プロセスを12〜18ヶ月で走破した実績がある [3]

  • SIRT6活性化薬の分野でも、ケモインフォマティクス+ランダムフォレスト+分子動力学シミュレーションの統合アプローチにより、新規リード化合物が同定されている [4]
    -Forvisirvat(SP-624) はファーストインクラスのSIRT6活性化薬として、すでにPhase I臨床試験に入っている [5]
  • AI+分子ドッキング+MD(分子動力学)シミュレーションの統合ワークフローは、2025年には創薬現場で標準化されつつある [6]

間違っている部分

しかし── 「タンパク質の構造を入れたら薬が出てくる」は、致命的に間違っている。

なぜか。AIには 「問い」がないと動けない からだ。

研究者がやること AIができること
「何を探しているのか」を定義する 候補を高速に絞り込む
「どんな条件で」探すかを決める 数百万化合物を網羅的にスコアリングする
結果を見て「これだ」と判断する ランキングを出す(最終判断はしない)
実験で検証する 実験はできない

ディックの『電気羊』で言えば、AIは 電気羊 だ。機能する。美しく見える。しかし、本物の羊ではない。

AIは「何を探すか」を決めてくれない。それを決めるのは、20年間その酵素を見つめてきたあなた自身だ。

K先生はこのことを、使ってみてようやく理解した。


K先生に見せた「3つの道具」

私はK先生に、3つのオープンソースツールを紹介した。いずれも 筆者個人が開発しているもの で、Microsoft社やその他の企業の製品ではない。「研究者がAIを使うハードルを下げたい」という個人的な動機で作っている。

💡 以下の3ツール(spread1000-builder / CoreClaw / Co-Scientist)は 筆者の個人プロジェクト です。Microsoft、文部科学省、SPReAD-1000事業とは一切関係ありません。オープンソース(GitHub公開)で、誰でも無料で利用・改変できます。

① spread1000-builder──応募から計算環境まで(筆者開発)

🔗 GitHub: nahisaho/spread1000-builder

筆者がSPReAD-1000応募者を支援するために開発したCLIツール。ユーザーの研究目的をAIが1問1答の対話を通して情報を収集し、最適な研究計画を作成する。 「AIは初めて」という研究者が、申請書作成からシミュレーション実行まで一気通貫で進める ことを目指して設計した。

機能 内容
申請書テンプレート SPReAD-1000の公募要領に沿った研究計画書の雛形
計算環境セットアップ 分子シミュレーションに必要な環境を自動構築
ロードマップ生成 「何をどの順番でやるか」のガイド

K先生の反応:「これ、一番最初に欲しかったやつです。何から手をつければいいか、わからなかったので……」

② CoreClaw──ブラウザからAIに話しかける(筆者開発)

🔗 GitHub: nahisaho/coreclaw

筆者が開発しているAIエージェント実行基盤。ChatGPTのようなWeb UIで対話しながら、バックグラウンドではDockerコンテナ内でAIエージェントが実行される。GitHub Copilot CLIを搭載し、MCP(Model Context Protocol)で外部の科学データベースにも接続できる。

特徴 詳細
Web UI ブラウザからAIと対話(ChatGPT風)
Docker隔離 計算はコンテナ内で安全に実行
8種のAgent Skills コンサルタント、科学者、教育者など用途別
MCP対応 100以上の科学データベースAPIに接続可能

K先生の反応:「え、ブラウザで話しかけるだけでいいんですか?ターミナルが怖かったから助かります」

③ Co-Scientist──研究の全フェーズをAIが伴走(筆者開発)

🔗 GitHub: nahisaho/coreclaw-marketplace/.../co-scientist

筆者がCoreClaw上のスキルとして開発中。 研究ライフサイクルの全フェーズを202個のサブスキルでカバー する。ToolUniverse(ハーバード大学開発)とMCP連携し、PubMed・ChEMBL・UniProt等に直接アクセスできる。

Phase 内容
0 研究計画 テーマ設定、スコープ定義
1 文献調査 PubMed検索、システマティックレビュー
2 実験設計 仮想スクリーニング計画、検出力分析
3 データ解析 統計解析、可視化
4 論文執筆 IMRaD構成のドラフト生成
5 査読対応 レビュアーコメントへの回答支援
6 再現性 データ管理、コード整備
7 発表準備 ポスター・スライド構成

⚠️ 正直に言うと、Co-Scientistはまだ道半ばだ。 研究者の声を聞きながら、今日も機能強化を続けている。完成品ではなく、「研究者と一緒に育てていくツール」だと思ってほしい。だからこそ、SPReAD-1000で使ってみて、フィードバックをもらえると嬉しい。

K先生の反応:「文献調査から論文執筆まで……?これ、ポスドクがもう一人いるみたいですね」


K先生がDryの世界に踏み出した日

Phase 0:AIからの最初の質問

CoreClawを起動し、Co-Scientistにテーマを伝えた。AIは最初にこう聞いた。

🤖 「ターゲットはSIRT6ですね。活性化の機序は?NAD⁺結合ポケットへのアロステリック作用を狙いますか、それとも基質認識部位の安定化ですか?」

K先生は一瞬戸惑った。20年間Wetをやってきたが、こんな問いを計算化学の言葉で聞かれたのは初めてだ。しかし── 答えは持っていた。

👩‍🔬 「アロステリック活性化。MDL-800とは異なる結合部位を狙いたい。SIRT6のN末端ヘリックス近傍に、脂肪酸が結合して活性を上げるポケットがある──あそこに入る低分子を探したいんです」

Co-Scientistはこの回答を受けて、必要なソフトウェアスタックを自動で構成した。K先生が「AutoDock Vinaって何?」と悩む必要はなかった。 「何を探したいか」を伝えれば、「どう探すか」はAIが組み立てる。

ここに気づいてほしい。 AIが適切な質問をし、研究者が的確に答える。 この対話こそが、AI for Scienceの本質だ。AIが勝手に走るのではない。研究者の知見をAIが引き出し、計算可能な形に翻訳する。そして研究者は、ソフトウェアの選定という 本来自分がやるべきでない仕事 から解放される。

Phase 1〜3:100万分子を10に絞る旅

Co-Scientistは文献を検索し、既存のSIRT6活性化薬の構造活性相関(SAR)を整理し、以下のワークフローを提案した。

ステップ 手法 化合物数
1 PDBからSIRT6結晶構造(脂肪酸結合型)を取得
2 BioEmu でSIRT6の動的構造アンサンブルを生成──脂肪酸ポケットの「開閉」を可視化
3 ZINC/Enamine REALからドラッグライク化合物ライブラリ構築 100万
4 AIスコアリング(ランダムフォレスト+QSAR)で一次スクリーニング 100万 → 1万
5 分子ドッキング(AutoDock Vina)でBioEmuが示した「開いた」構造に対してドッキング 1万 → 500
6 MD(分子動力学)シミュレーションで結合安定性・NAD⁺への影響を評価 500 → 50
7 ADMET予測(経口吸収性、毒性、選択性)で最終候補選定 50 → 10
8 あなたのラボでWet実験(脱アセチル化活性アッセイ) 10

💡 BioEmu(Microsoft AI for Science)とは?

Microsoftが2025年に公開したタンパク質動態シミュレーションAI [10]。従来のMD(分子動力学)シミュレーションでは年単位かかるタンパク質の構造変化を、 1つのGPUで数時間 で予測できる。MITライセンスでオープンソース公開されており、Azure AI Foundryからも利用可能だ。

SIRT6のような 柔軟なN末端領域 を持つタンパク質では、結晶構造(静止画)だけでは薬の結合ポケットが見えないことがある。BioEmuは数千パターンの動的構造(動画のようなもの)を生成し、 隠れた結合ポケット(cryptic site) を明らかにする。K先生の言う「脂肪酸が結合するポケット」の開閉ダイナミクスを捉えるのに、まさに最適だった。

100万から10へ。一人の研究者がラボで試せる数に落とし込む──それがDryの仕事だ。

転機──AIのスコアが「中程度」だったあの化合物

候補50化合物のリストを見ていたK先生が、突然手を止めた。

👩‍🔬 「この化合物……AIのスコアは中程度だけど、BioEmuが見せてくれた『開いた構造』で見ると、この側鎖がN末端ヘリックスとちょうど水素結合を作れる位置にある。私がずっと注目していた脂肪酸ミミックに似ている。これ、面白いかもしれない

AIはスコアリングモデルに基づいてランキングする。しかし、 「20年間SIRT6の脂肪酸応答を研究してきた研究者だけが知っているN末端の動的挙動」 ──そんなものはAIの重みづけに含まれていない。BioEmuが見せた構造を「面白い」と判断できたのは、K先生の経験があったからだ。

これが、電気羊と本物の羊の違いだ。

🚨 SPReAD-1000応募者へのメッセージ : AIは100万の候補を50に絞れる。しかし50から「これだ」を選ぶのは、あなたの専門知識と直感だ。 AIを使うからといって、あなたの研究者としての価値は減らない。むしろ、あなたの目が100万倍に増える。


「で、本当に500万円と半年でできるんですか?」

K先生は現実的な人だ。ワークフローを見終わった後、こう聞いた。

👩‍🔬 「プロセスはわかりました。でも……500万円の予算で、半年で、本当にここまでできるんですか?」

正直に答えよう。 課題は山のようにある。

予算の現実

項目 概算コスト 備考
クラウドGPU(BioEmu+MD) 50〜100万円 A100/H100インスタンス、数週間分
化合物ライブラリ(Enamine REAL等) 0円〜30万円 公開DBなら無料、商用は有料
ドッキング計算(AutoDock Vina) 10〜30万円 CPU中心、比較的安価
ADMET予測ツール 0〜20万円 オープンソース(ADMETlab等)なら無料
Wet実験(候補10化合物の合成・購入+アッセイ) 100〜200万円 ここが最も高い
人件費(RA・技術補佐) 50〜100万円 半年分
合計 210〜480万円 ギリギリ、だが収まる

⚠️ 最大のリスクは「Wet実験にたどり着けないこと」ではない。「Dryの環境構築で時間を溶かすこと」だ。 spread1000-builderとCoreClaw/Co-Scientistは、まさにこの問題を解決するために作った。環境構築に2ヶ月使ってしまったら、半年はあっという間に終わる。

半年のタイムライン

やること 誰が
1ヶ月目 環境構築+文献調査+ターゲット構造準備 AI+研究者
2ヶ月目 BioEmuで動的構造解析+ライブラリ構築 AI(研究者は条件を指示)
3ヶ月目 仮想スクリーニング+ドッキング AI
4ヶ月目 MD検証+ADMET+候補選定 AI+研究者(ここで「目」が必要)
5〜6ヶ月目 Wet実験で検証 研究者

半年で「新薬を見つける」ことは求められていない。 「この方向に可能性がある」と示せれば、SPReAD-1000としては成功だ。

それでも残る課題

隠さずに言う。K先生と私が直面した、まだ解決しきれていない問題がある。

課題 深刻度 現状
GPU確保の競争 ★★★ クラウドのA100/H100は争奪戦。早めの確保が必要
Dryの結果をWetで再現できるか ★★★ インシリコのヒット率は一般に1〜5%。10候補中0〜1個が当たればいい方
研究者のAIリテラシー ★★☆ CoreClawで緩和できるが、結果の解釈には学習コストがある
データの品質 ★★☆ PDBの構造解像度、化合物DBのノイズ──入力がゴミなら出力もゴミ
計算時間の見積もりミス ★★☆ 100万化合物のドッキングは、想定より時間がかかることがある
倫理審査・安全管理 ★☆☆ 計算のみなら不要だが、Wet実験段階で必要になる場合がある

👩‍🔬 「課題だらけじゃないですか」

私:「そうです。でもK先生、 これまでこの課題に挑戦する手段すらなかった んですよ。課題があるということは、挑戦できるということです」

SPReAD-1000は「完璧な成果」を求めていない。「挑戦した記録」を求めている。 課題にぶつかり、それをどう乗り越えようとしたか──それ自体が、次のARiSEや科研費につながる「萌芽」になる。


「研究者とは何か?」──ディックへの回答

電気羊と本物の羊

ディックの作品では、アンドロイドと人間の違いは 共感能力 ──他者の痛みを感じる力──で測られた。

AI for Scienceの世界では、それは何に置き換わるだろう?

ディックの世界 AI for Scienceの世界
アンドロイド vs 人間 AI vs 研究者
見分けがつかない外見 見分けがつかない仮説生成
共感能力で区別 「なぜその問いを立てたか」で区別
電気羊 = 機能するが偽物 AIの提案 = 妥当だが文脈がない
本物の羊 = 生きて鳴く 研究者の洞察 = 経験から生まれる

K先生は、プロジェクトの終わりにこう言った。

👩‍🔬 「最初は、AIが全部やってくれると思ってた。でも使ってみてわかった。 AIは私の目を増やしてくれた んです。100万の化合物を一人で見ることはできない。でもAIと一緒なら見られる。そして最後に『これだ』と言うのは、やっぱり私なんです」

あなたがSPReAD-1000に応募する意味

K先生の体験から言えることがある。

AIを「使いこなす」必要はない。 必要なのは、あなたの研究の中で 「AIに手伝ってもらえそうな部分」 を見つけることだ。

-大量のデータの中から候補を絞る 作業がある → AIが使える
-既知の構造から新しい分子を探す 必要がある → AIが使える
-文献を網羅的に調べる 時間が足りない → AIが使える

逆に、 あなたにしかできないこと もある。

  • 「なぜこのタンパク質が重要なのか」を知っている
  • 「どの結合ポケットが怪しいか」を直感で感じる
  • 「この結果は面白い」と判断できる

SPReAD-1000は、その両方を合わせる実験をするための制度だ。


SPReAD-1000に応募するあなたへ──実践的なヒント

K先生の体験から得た、応募者へのアドバイスをまとめる。

1. まず「AIに聞きたいこと」を日本語で書く

プログラミングの知識は不要だ。あなたの研究で「こういうことを知りたい」「こういう候補を探したい」を自然言語で書く。それがAIへの「問い」になる。

2. 使える道具を知る

ツール 何ができるか リンク
spread1000-builder 申請書作成+計算環境構築 GitHub [7]
CoreClaw ブラウザからAIと対話、Docker隔離実行 GitHub [8]
Co-Scientist 研究の全フェーズ(計画→文献→設計→解析→執筆)を伴走 GitHub [9]

3. 「完璧な結果」を目指さない

SPReAD-1000の研究期間は約半年。求められているのは 「萌芽」 ──つまり「この方向に可能性がありそうだ」という種を見つけること。AIを使ってみて「こうすればうまくいきそう」がわかれば、それは立派な成果だ。

4. 自分の専門知識を信じる

K先生がAIスコア中程度の化合物に目を止められたのは、20年の専門知識があったからだ。 AIに使われるのではなく、AIを使うのはあなただ。


おわりに

「Wetな研究者はDryな研究の夢を見るか?」

見る。間違いなく見る。

しかしそれは、「AIが全てを解決してくれる」という幻想ではない。

「自分の20年の知見とAIの計算力が融合したとき、今まで見えなかった分子が見えるかもしれない」

──という、地に足のついた、しかし確かに新しい夢だ。

SPReAD-1000は、その夢の種を1,000個蒔こうとしている。

あなたの種は、何だろうか?

電気羊は鳴かない。本物の羊だけが、鳴く。

そして、AIに「鳴け」と命じられるのは──研究者だけだ。


📝 SPReAD-1000 第1回公募 : 2026年4月17日〜 5月18日正午
🔗 文部科学省 SPReAD特設ページ
💬 ツールについての質問やフィードバックは、各GitHubリポジトリのIssueまたは筆者まで


参考資料

[1] SPReAD 1000 - 研究の可能性を、AIで解き放つ - 文部科学省, 2026-04

[2] SPReAD公募開始、文部科学省がAI for Scienceに500万円×1,000件を投入 - Innovatopia, 2026-04

[3] インシリコ・メディシン、生成AIアプローチで発見された新規TNIK阻害剤レントセルチブのPhase IIa試験 - EurekAlert, 2025

[4] Structure-based cheminformatics and molecular dynamics approaches for SIRT6 modulator discovery - Springer / Molecular Diversity, 2025

[5] Forvisirvat (SP-624): First-in-class epigenetic oral SIRT6 activator - Phase I clinical trial - Arrivo BioVentures, 2025

[6] 【2025年最新版】インシリコ創薬の最前線:AIと物理シミュレーションが拓く次世代創薬 - ファーマAIラボ, 2025

[7] GitHub: nahisaho/spread1000-builder - spread1000-builder リポジトリ

[8] GitHub: nahisaho/coreclaw - CoreClaw リポジトリ

[9] GitHub: nahisaho/coreclaw-marketplace - Co-Scientist - Co-Scientist スキル

[10] BioEmu: AI tool models protein dynamics, aiding drug discovery - Phys.org, 2025 / GitHub: microsoft/bioemu (MIT License)

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