はじめに
2025年、新たにリリースされる 2500 アプライアンスシリーズ に加えて、日本市場向けにも Gaia Embedded OS の新メジャーバージョン「R82」 がリリースされました。
中小企業向けUTM/NGFWとして広く採用されている Quantum Spark は、これまで R81.10 系ファームウェア において安定性・セキュリティ機能・日本市場向け要件(IPoE/MAP-E、主要VNE対応など)を段階的に強化してきました。
しかし、サイバー攻撃の高度化・通信プロトコルの変化・クラウド利用の拡大により、SMBネットワークを取り巻く環境は急速に複雑化しています。
その中で登場する R82 は、単なるマイナーアップデートではなく、SMB にエンタープライズグレードのセキュリティ体験を提供するための大規模な刷新と言えます。
本記事では以下のポイントに注目して解説します:
- R82 リリースの背景と狙い
- 今後追加される予定の主要新機能
- 既存アプライアンスへの提供計画
SMB のセキュリティ運用を担当されている方、またパートナー SE の方にとって、今後のリリースロードマップの整理に役立つ内容となれば幸いです。
リリースの背景
Quantum Spark は SMB 向けのオールインワン型セキュリティゲートウェイとして、グローバルで数多くの企業・自治体に導入されています。
R81.10 系ファームウェアでは、特に以下の領域を中心に改善が進められてきました。
-
WEB-UIの刷新
直感的な UI による設定容易性の向上。非IT担当者でも扱いやすい構成を実現。 -
SD-WAN 機能の追加
拠点間通信や複数回線の最適活用を可能にし、クラウド時代に即したネットワーク実現をサポート。 -
IoT Security の追加
SMB 環境で急増する IoT 機器(IPカメラ・複合機・センサー等)の可視化・リスク判定・異常通信防御。 -
日本市場向け IPoE (MAP-E / IPIP) の主要VNE対応
NTTドコモビジネス・BIGLOBE・JPIX・AsahiNet・アルテリア・ネットワークス など日本特有の ISP 技術へ完全対応することで、安定した運用を実現。 -
Spark Management との連携強化
クラウド管理を中心としたモニタリング、ライフサイクル管理を改善。 -
多数のエンハンスメントリクエスト(RFE)へ対応
現場パートナー様・ユーザー様からの改善要望(UI改善、ログ強化、パフォーマンス安定化など)を積極反映。
これらの積み重ねにより、SMB向け製品として非常に成熟したプラットフォームとなった一方、
新しい脅威やプロトコル、ゼロトラスト・クラウドネイティブ時代のニーズに応えるためには、より抜本的な技術刷新が必要でした。
エンタープライズ版 Gaia OS の R82 が先行リリース
エンタープライズ版 Check Point Quantum Security Gateway ではすでに Gaia OS R82 がリリースされており、
- パフォーマンスの大幅改善
- AI/ML を活用した高度なセキュリティ
- 新プロトコル(QUIC/TLS1.3)への最適化
などが進んでいます。
今回の R82 リリースは、この エンタープライズグレードの技術を SMB 向け Quantum Spark にも統合するフェーズ となっており、性能とセキュリティ機能が飛躍的に強化されることが期待されています。
結果として:
- セキュリティインスペクション性能の向上
- SSL/TLS インスペクションのスループット向上
- 高度な攻撃を防ぐ新セキュリティ機能の実装
など、SMB でも妥協のない保護が可能となります。
実装予定の新機能
2025年12月19日時点の最新 GA ファームウェアは R82.00.05 で、すでに新しい R82 User Space Firewall (USFW) が実装されています。
これはエンタープライズと同等のファイアウォール処理方式を採用し、将来的なセキュリティ機能追加に耐えられる強固な基盤となります。
2026年 Q1 リリース予定 R82.00.10 — 主要新機能
次期 R82.00.10 では、以下のような大幅な機能強化が予定されています。
QUIC インスペクション
近年、Chrome をはじめ主要ブラウザやアプリが「TCP + TLS」から「UDP + QUIC」へ移行しつつあります。
QUIC は高速ですが、従来型セキュリティでは可視化が難しいという課題がありました。
R82 では UDP/443 の暗号化通信に対しても DPI(ディープパケットインスペクション)が可能となり、
QUIC でも安全性を担保できます。
DNS Security
DNS は攻撃の入口として最も悪用されるプロトコルです。
R82 の DNS Security は、
- 悪性ドメインの遮断
- DGA(自動生成ドメイン)検出
- DNS トンネリング防止
- 新規フィッシングドメインのブロック
などが可能で、SMB における侵害初期段階を強力に防ぎます。
Zero Phishing
ユーザーが認証情報を入力する前に、
リアルタイムでログインページをスコアリングし、不審な模倣ページをブロック。
- ブランドロゴ解析
- DOM 構造分析
- ThreatCloud の AI 判定
によってゼロデイのフィッシングにも対応します。
IOC Feeds
外部・内部の脅威インジケータ(IP / Domain / Hash など)を Quantum Spark に取り込み、ポリシーとして活用可能に。
- MSSP パートナーが提供する IOC と連携
- C2C 通信の即時遮断に活用
Quantum Encryption(量子耐性暗号)
量子コンピュータ時代の到来に備え、
Kyber / Dilithium などの PQC(Post-Quantum Cryptography) に対応予定。
将来の暗号解読リスクに備えた、安全な通信基盤を構築できます。
WiFi Band Steering
多くの SMB で課題となる無線混雑の最適化機能。
- RSSI
- クライアント対応バンド
- APの負荷状況
に基づき、2.4/5/6GHz の最適バンドへ自動誘導し WiFi 品質を改善します。
既存アプライアンスへの提供計画
R82 系の最初の主要アップデートである R82.00.10 では、
現行の 1500 Pro アプライアンスシリーズ への提供も予定されています。
これにより:
- 新旧モデルで同一 OS バージョンを利用可能
- サポート性向上
- パートナーが扱う設定・仕様の統一
- 既存ユーザーも最新のセキュリティ機能を享受可能
といったメリットが提供されます。
最後に
中小企業を取り巻く脅威環境は急激に高度化しており、従来の「UTM で最低限の防御を行う」だけでは不十分になりつつあります。
これらの変化に対応するため、R82 では、これまでエンタープライズ向けで先行して投入されてきた技術が SMB 向けにも惜しみなく展開されます。
今後、R82 の機能が順次 GA 化されることで、SMB ユーザーやパートナー SE の皆さまは、
より強力で扱いやすいセキュリティゲートウェイを活用できるようになります。
本記事が、R82 の理解やパートナー SE の皆さまの提案活動に少しでも役立てば幸いです。