ラスベガスで開催された UiPath FUSION 2026 に参加してきたのでレポを書いていきます。今回は基調講演「Real-world Transformation and Impact」の 顧客パネル編 です。
Daniel Dines(UiPath Founder & CEO)が自ら聞き手になって、SMBC、Mayo Clinic、Medline、USAA の4社に「実際どうなの?」を聞いていくパートでした。特に SMFG の山本氏(Kei Yamamoto) が単独で8分間ガッチリ話していて、日本の私たちには一番刺さる回だったので、そこは厚めに書きます。
Dines 単独講演(Map of Work、Cartographer、coding agents の話)は 前編(Cassie Kozyrkov と Daniel Dines の Vision) で書いたので、この記事は「顧客が何を言ったか」に絞ります。持論はナシ、内容サマリー一本勝負でいきます!!
目次
- このセッションの位置づけ
- Dines が投げた問いの順番
- SMBC 編: 9年前の「大部屋」から AI by Design へ
- 3社パネル: Mayo Clinic / Medline / USAA
- 共通の問いへの答えを横並びに
- 要点まとめ
- おわりに
このセッションの位置づけ
2026年9月23日(水)朝、Lafite Ballroom での基調講演。予定は 09:30〜10:30 でしたが実際は 09:37〜10:52 まで続きました。構成はこんな感じ。
Dines が投げた問いの順番
顧客パートは「Dines が問い、顧客が答える」形式。Dines は直前の単独講演で「AI が企業で動くには業務の地図(Map of Work)と、行動に責任を持つ人間のゲートが要る」と主張していて、問いはその裏取りとして組まれていました。
山本氏への問い(5つ)
- これまでどう変革を進め、何を達成したか
- スケールで進める中で何を学んだか
- 最も価値の高い機会は何か
- その機会を捉えるために、財務は何になるべきか
- Cartographer と「web of work」を試す計画、最初の印象は
3社パネルへの問い(4つ)
- Harper へ: プロセス変革の前に、業務(システム、ハンドオフ、意思決定、例外)をどう理解するか。Cartographer Agent は役に立つか
- Dibble へ: アプリ、ルール、自動化、統制、人の判断、エージェントを組み合わせるとき、プロセス全体をどう再設計するか
- Abrams へ: 有望な AI パイロットと、信頼して本番に出せるものを分ける条件は何か
- 全員へ: AI 時代に従業員へどんな助言をしているか。楽観か悲観か
SMBC 編: 9年前の「大部屋」から AI by Design へ
山本氏を呼び込む前に、Dines が SMBC との出会いを振り返りました。9年前、SMBC で「私がこれまで見た中で最大の RPA プログラム」を率いていた人物に会い、数百人のコンサルタントが UiPath の Studio を使う大部屋を見せられたそうです。
その信頼があったからこそ、私たちは信頼性の高いソフトウェアを作るという方向へ大きく飛躍できました。ヨーロッパで生まれ、日本でスケールし、そして米国へ広がった会社というのは、かなりユニークな例だと思います。
とのこと
600万時間!!3,000人!!1万件!!90%!!
山本氏が最初に出したキーワードは「speed to value(価値実現までの速さ)」。そして数字がドンドン出てきます。
| 項目 | 数字 | 補足 |
|---|---|---|
| 自動化の開始 | 2017年から | SMBC グループ全体で大規模自動化 |
| 自動化した時間 | 600万時間以上 | |
| 戦略業務へ移した人数 | 3,000人 | Dines も「非常に重要な指標」と反応 |
| GenAI 段階への移行 | 2024年から | GenAI Accounting Agent を SMBC と UiPath で共同開発。最初は支払いプロセス |
| 経費精算の申請件数 | 約1か月で1万件以上 | 今年、領収書ベースの従業員経費精算へ拡大 |
| 効率改善 | 90%以上 | 従来プロセス比 |
| 財務データ基盤のカバー率 | グループ経常収益の99%以上 | 主要グループ会社をまたぐ共通財務データプラットフォーム |
山本氏いわく、AI はもう「一部の部門で使うもの」ではなく 全社的な能力(enterprise-wide capability) になりつつあり、機能とグループを横断してスケールで価値を生んでいる、とのこと。
良い AI だけでは足りない、ってこと
「スケールで進めて何を学んだか」への答えがこれ。
最大の教訓はとてもシンプルです。良い AI だけでは十分ではない、ということです。3ステップのプロセスで3つすべてが正しくなければならない場合、各ステップの精度が90%でも、エンドツーエンドの精度は約73%にしかなりません。会計にとって、それは受け入れられません。
ここで Dines が「ちょっと割り込ませて」と入ってきて、自分の単独講演で言った「掛け算」の証明だと補足。99% の精度でも 30 ステップなら 0.99 の 30 乗で同じ 73% に落ちる。30 ステップなんて多くない。各ステップ 99% でもビジネスには足りない、と。
じゃあどうするの?が山本氏のキモです。
私たちは AI を完璧にしようとはしていません。AI に無理をさせなくてもよいエンドツーエンドのプロセスを設計しました。ルール、過去データ、生成AI、オートメーション、統制、そして人のチェックポイントを組み合わせました。高確信度・低リスクのケースはそのまま流れ、例外は人に回ります。既存のプロセスに AI を単に足しているのではありません。AI を中心にエンドツーエンドのプロセス全体を再設計したのです。私はこれを「AI by design」と呼んでいます。
スライドの言い方も秀逸で、「Don't ask: How do we make AI perfect? / Ask instead: Design a process where we don't have to question the AI.」「Design the system, not just the model」。モデルの精度で殴り合うんじゃなくて、AI を疑わなくていいプロセスを作る、ってこった。
次は効率化じゃない、「always-on finance」と「enterprise intelligence」
「最も価値の高い機会は?」に対しては「効率化よりはるかに大きい」と即答。業務を設計し直すと、クリーンで継続的に更新されるデータが生まれ、インサイトの基盤になる。市場、テクノロジー、規制、顧客行動、地政学リスクが速く変わる中で経営層は情報に囲まれていて、
より多くの情報を持つことは優位性になりません。本当の課題は、何が本当に重要かを見極めることです。
財務の質が経営の質を決めるのです。
Dines も「CFO と一緒に市場のシグナルを読むのが自分の仕事の一部だから心から同意する。UiPath の自動化も大半は財務部門で動いているかもしれない」と乗ってきました。
「財務は何になるべきか」への答えは 企業の中核的なインテリジェンス機能(core intelligence function)。具体策として、グループ経常収益の 99%以上 をカバーする共通財務データプラットフォームを構築中で、近い将来、財務会計と管理会計のデータが 日次更新 され、業務、顧客、リスク、外部データとつながる。この運営モデルが「always-on finance」。ただしそれはゴールじゃない、と。
本当のゴールは、財務がノイズの中に隠れた少数の重要な事実を見つけることです。そして、その影響を定量化・可視化し、なぜ重要なのかを説明し、明確な経営インサイトに変えることです。私はこれを「enterprise intelligence」と呼んでいます。
経営判断を置き換えるのではなく、判断を高めるためのもの、という補足つき。最後に Dines から「Cartographer と web of work を試す計画だと聞いたけど?」と振られて、山本氏は「準備はできている。新製品と一緒に AI の次の時代を形作りたい」で締めました。
3社パネル: Mayo Clinic / Medline / USAA
Dines が「オーケストレーションとオートメーションの活用で最も先進的な顧客3社」として呼んだのが、Nikki Harper(Mayo Clinic)、Bill Abrams(Medline)、Pramod Dibble(USAA) の3人。
Mayo Clinic / Harper: 「手作業のここだけ直して」から integrated intake へ
最初の問いは「プロセスを変革する前に、業務をどう理解するか」。Harper 氏のチームはレベニューサイクルや財務領域の社内顧客向けに自動化と AI を作っている人たちです。
数年前に始めた当初は、依頼側が「手作業のこの部分を解決して」「アプリを作って」と言い、それに応じて作っていた。でもすぐに、相手の業務を完全に理解して、相手を巻き込んで、変化を支援して、何を展開するのか理解してもらう 必要があると分かったそうです。
そこで新設したのが「integrated intake(統合インテーク)」。関係者が同じテーブルに座って、データ、展開するソリューション、プロセスの3つを揃えてから展開する。
この3つを揃えれば、意味のある、すべての人にとって正しいものを展開できます。
Cartographer Agent については「当初はすべてを理解するためのオーケストレーション層がなかった。私たちの旅をさらに前へ進めてくれる」と前向き。Dines は「来年、プロセス理解の加速にどう役立ったか聞かせて」と返していました。
USAA / Dibble: 再設計は「人の判断」から始める
「プロセス全体をどう再設計するか」への答えは、「最後から始める。人の判断の部分から始める」
あなたが挙げた他の要素はすべて、RPA で、API で、データベースで、LLM で解決できます。しかしテクノロジーで解決できないのが、人間の創造性です。私は、この世界で最も希少な資源は「良い創造的なアイデア」だと固く信じています。人々がそこにできる限り時間を使えるようにすること、それがオートメーションです。
ログインして Excel にコピペするんじゃなく、人間だけができることに時間を使えれば、より幸せな社会になる、と。Dines も「楽観的なアプローチは好きだ」と応じてました。
Medline / Abrams: うちの顧客は 99% を期待するんですよ
「有望なパイロットと本番に出せるものを分ける条件は?」に対して、Abrams 氏は山本氏の 73% を引き取って答えました。
73%の精度のものを本番に入れられるか、という話です。私たちは病院と患者にサービスを提供する責任を負う、昔ながらの実業の会社です。顧客は99%を期待します。そこに妥協はありません。
だから、どうスケールさせ、一貫して動かし、どう段階的に踏み込むかを考える必要があって、Dines のオーケストレーション層は「とても興味深い」。目指すのは「本番に何を入れるのかを正確に把握できるだけの仕事をしておくこと」。そして、
あなたのパネルで言うべきではないかもしれませんが、それは難しい。きちんとやり切るには労力がかかります。
ベンダーの基調講演でこれを言うの、正直で好きです。
全員へ: AI 時代、従業員にどう助言する?
Dines は「私たちだけでなく子どもたちのためにも、労働力の未来を強く懸念している」として、楽観か悲観か、従業員にどんな助言をしているかを一言ずつ求めました。
| 登壇者 | 答え |
|---|---|
| Harper(Mayo Clinic) | 恐れを教育と理解に置き換える。「仕事はなくならないが、変わる」と正直で透明に伝え、ツールと AI・データリテラシーを与える。「グループとして一緒に飛ぶほうが遠くまで行ける」 |
| Dibble(USAA) | 企業の仕事の未来は 創造的 になる。LLM は素晴らしいが、アイデアを持つことはできない。それができるのは人だけ |
| Abrams(Medline) | 一人ひとりを「より良く、より速く、より強く、より賢く」する。agentic AI の箱が社内を勝手に走り回る像は、顧客や自社の安心の範囲を超えている。人生を意味あるものにする方法と、労働力の規模を考えなければならない |
Dines は「同感だ。この問いには私のプレゼンの最後に自分でも答える」と締めました。
共通の問いへの答えを横並びに
| 問い | Yamamoto(SMBC) | Harper(Mayo Clinic) | Abrams(Medline) | Dibble(USAA) |
|---|---|---|---|---|
| 業務理解・再設計 | AI を足すのではなく、AI を中心にエンドツーエンドを再設計(AI by design) | エンドツーエンドで理解し、データ・ソリューション・プロセスを同じテーブルで揃える(integrated intake) | 本番に入れるものを正確に把握できるだけの仕事をやり切る | 人の判断から始め、それ以外は RPA / API / DB / LLM に任せる |
| 精度と本番 | 90%×3ステップ=73%は会計では不可。高確信度は自動、例外は人へ | (言及なし) | 顧客が期待するのは99%。73%では出せない | (言及なし) |
| Cartographer / Map of Work | 試す準備はできている | 当初なかったオーケストレーション層を補う | 「とても興味深い」 | (言及なし) |
| 従業員への助言 | (別の問いで)財務はノイズから重要な事実を見つけ、経営判断を高める側へ | 恐れを教育と理解に置き換える | 人を良く速く強く賢くする。agentic AI の放任は顧客の安心を超える | 未来の仕事は創造的。アイデアは人だけが持てる |
要点まとめ
- SMBC: 2017年から 600万時間以上 を自動化、3,000人 を戦略業務へ。2024年から GenAI Accounting Agent を UiPath と共同開発し、経費精算で 約1か月に1万件以上、効率 90%以上 改善
- AI by design: 90%×3ステップ=73%を前提に、ルール、過去データ、GenAI、統制、人のチェックポイントを組み合わせ、「AI を疑わなくてよいプロセス」を設計する
- always-on finance から enterprise intelligence へ: 経常収益 99%以上をカバーする日次更新の財務データ基盤の上で、財務が経営に「何が変わり、なぜ重要で、どこで動くべきか」を示す
- 3社パネル: 業務のエンドツーエンド理解(Mayo Clinic)、99% を期待する顧客と本番投入の厳しさ(Medline)、人の判断と創造性から再設計(USAA)
- 従業員への助言: 教育と透明性、創造性への集中、人を強くする AI の使い方
おわりに
というわけで、基調講演の顧客パネル編でした。
山本氏の「良い AI だけでは足りない」「AI を疑わなくていいプロセスを設計する」は、そのまま日本の現場に持ち帰れる言葉だと思います。そして Medline の「顧客は 99% を期待する。難しいし労力がかかる」も、パイロットから先に進めない現場にとってはリアルすぎる一言でした。
前編(Cassie Kozyrkov と Daniel Dines の Vision 編)はこちら: https://qiita.com/Hash1mo/items/b4c1eb4cb6650e0ca043
次回は製品基調講演編(Raghu Malpani の Cartographer GA と coding agents)です。お楽しみに!



