「RTX 5090買ったぞ!」と意気込んで、次に悩むのがCPU選び。
でもね、ここで正直に言っておくと、AIワークロードにおいてCPUは「主役」じゃない。むしろ「裏方」に近い。じゃあ適当でいいのか?というと、それもまた違う。
今回は「なぜCPUが脇役なのか」「でもどれくらいの性能があると安心なのか」「AMD vs Intelはどう選ぶべきか」を、RTX 5090という怪物GPUに合わせて整理していく。
なぜAIワークロードでCPUは「そこまで」重要じゃないのか
理由1:計算の主役は完全にGPU
機械学習、特にディープラーニングの本質は「大量の行列演算を並列処理すること」だ。
ここでCPUとGPUの違いを思い出してほしい。
| CPU | GPU | |
|---|---|---|
| コア数 | 4〜24個程度 | 数千〜数万個 |
| 処理方式 | 順次処理が得意 | 並列処理が得意 |
| メモリ帯域 | 〜50GB/s | 〜1,800GB/s(RTX 5090) |
CPUは「複雑な判断を順番にこなす司令塔」、GPUは「単純な計算を大量に同時にさばく工場」。AIのトレーニングは後者の仕事だ。
IBMの解説によると、GPUを使ったディープラーニングのトレーニングは、同等コストのCPUより10倍以上速いとされている。NVIDIAのブログでも「2003年からGPU性能は約7,000倍向上し、コストパフォーマンスは5,600倍良くなった」と報告されている。
つまり、AIにとってGPUは「エンジン」であり、CPUは「ハンドル」みたいなもの。エンジンが1,000馬力あっても、ハンドルが1,000馬力である必要はない。
理由2:推論時はさらにCPU依存度が下がる
モデルを「学習させる」フェーズと「動かす(推論)」フェーズでは、CPUの重要度が違う。
学習時はデータの前処理やシャッフルでCPUもそこそこ働く。でも推論時は「GPUが99%の仕事をしている」と言っても過言じゃない。Stable Diffusionを動かすくらいなら、Core i5-12400FとRTX 3060 Tiの組み合わせでも「遅いけど動く」レベルには到達する。
とはいえ、CPUにも「ちゃんとした仕事」がある
「じゃあCPUは適当でいいじゃん」と思うかもしれないけど、ちょっと待ってほしい。
CPUの仕事その1:データの前処理
GPUが計算を始める前に、データは誰かが用意しなきゃいけない。
画像のリサイズ、テキストのトークナイズ、データのシャッフル、オーグメンテーション(水増し処理)。これらは全部CPUの仕事だ。
ある開発者の実体験談が印象的だった。「4枚のGPU構成で組んだのに、CPUをケチったら訓練が何度も止まる。GPUにデータが間に合わなくて餓死状態。結局Threadripperに換えたら解決した」と。
弱いCPUは「料理が遅いキッチン」みたいなもの。お客さん(GPU)は腹ペコなのに、料理が出てこない。
CPUの仕事その2:PCIeレーンでGPUにデータを流す
GPUとCPUを繋ぐ「道路」がPCIeレーンだ。
RTX 5090はPCIe 5.0 x16に対応していて、帯域幅は片方向で約64GB/s。この道路が渋滞すると、いくらGPUが速くても意味がない。
普通の消費者向けCPU(Ryzen 9000シリーズやIntel Core Ultra)はだいたい20〜28レーン程度。シングルGPUなら問題ないけど、マルチGPU構成を考えるなら、Threadripper(128レーン)やXeon Wシリーズ(112レーン)が必要になってくる。
CPUの仕事その3:システム全体のオーケストレーション
Pythonスクリプト、Dockerコンテナ、モニタリングツール、OS自体のオーバーヘッド。これら全部がCPUリソースを食う。
「GPUが30%でCPUが100%」という状態は、明らかにCPUがボトルネックになっているサイン。逆に「GPU使用率が100%でCPUが余裕」なら、それが理想的な状態。
どれくらいの性能のCPUがあればいいのか
シングルGPU構成の場合
結論から言うと、ミドルレンジで十分。
- AMD: Ryzen 5 7600X / Ryzen 7 9700X
- Intel: Core i5-13600K / Core i7-14700K
実際のベンチマークでも、Puget SystemsのRTX 5090 AIレビューではRyzen 9 9950Xを使用しているが、「CPUがボトルネックになるのは、小さいバッチサイズで短い推論をするときくらい」と報告されている。
つまり、普通に使う分にはミドルレンジでGPUの性能を引き出せる。「最高のCPUを買わないと5090が無駄になる!」という心配は、ほぼ杞憂だ。
マルチGPU構成の場合
2枚以上のGPUを積むなら話は変わる。
- AMD: Threadripper PRO 7000シリーズ / EPYC 9005シリーズ
- Intel: Xeon W-3500シリーズ / Xeon Scalable
これらは128レーン以上のPCIeと8チャンネルメモリをサポートしていて、3〜4枚のGPUを余裕で支えられる。
ただし、お値段も「余裕で」跳ね上がる。Threadripper PRO 7995WXなんて100万円コース。ここまで来ると、本当にマルチGPUが必要かどうか、クラウドとの比較も含めて冷静に考えた方がいい。
「迷ったらこれ」リスト
| 用途 | おすすめCPU | 価格帯 |
|---|---|---|
| AIの勉強・個人開発 | Ryzen 5 7600X | 約3万円 |
| 本格的な学習・推論 | Ryzen 9 9950X | 約10万円 |
| ゲーミング+AI | Ryzen 7 9800X3D | 約7万円 |
| マルチGPU本気構成 | Threadripper PRO | 30〜100万円 |
AMD vs Intel、AIマシンではどっちがいい?
AMDの強み
コア数・スレッド数が多い
同価格帯で比較すると、AMDの方がコア数が多い傾向にある。AI向けのデータ前処理やマルチスレッド処理で有利。
PCIeレーンが豊富
AM5プラットフォームはPCIe 5.0を28レーンサポート。マルチGPU構成に強い。ThreadripperやEPYCに至っては128レーン以上。
3D V-Cacheの恩恵(ゲーミング兼用時)
Ryzen 7 9800X3DやRyzen 9 9950X3Dは、巨大なL3キャッシュ(96〜128MB)を搭載。AIには直接関係ないけど、ゲームも楽しみたいなら最強の選択肢。
電力効率が良い
Zen 5アーキテクチャは電力あたりの性能が高い。24時間回し続けるAIワークロードでは電気代も馬鹿にならない。
Intelの強み
ソフトウェア互換性が高い
歴史的にIntel向けに最適化されたソフトウェアが多い。oneAPIやMKL-DNNなど、Intel独自の最適化ライブラリも充実。
AMX(Advanced Matrix Extensions)
Xeon Scalable(Sapphire Rapids以降)にはAMXという行列演算アクセラレータが搭載されている。CPUだけでAI推論を行う場面では有利。
シングルスレッド性能
Core Ultra 9 285Kなどはシングルスレッド性能が高い。ただし、AIワークロードではマルチスレッド性能の方が重要なことが多い。
企業向けサポート
Xeonは信頼性やサポート体制が手厚い。ミッションクリティカルな業務用途では安心感がある。
結論:AI用途ならAMD優勢
正直なところ、2025年時点でAI/MLワークステーションを組むなら、AMDの方がコスパが良い。
NotebookCheckの「Best AI Workstation Processors 2025」でも「Why AMD Ryzen Beats Intel for Local AI Computing for now!」というタイトルで、AMDの優位性が解説されている。
ただし、Intelが悪いわけじゃない。既存のIntelプラットフォームがあるなら無理に乗り換える必要はないし、企業用途でXeonの実績を重視するケースもある。
RTX 5090と相性が良いCPUベスト5
1位:AMD Ryzen 7 9800X3D(ゲーミング兼用なら最強)
- 8コア16スレッド、ブースト5.2GHz
- 96MB L3 3D V-Cache
- TDP 120W
- 価格:約7万円
「AIもやりたい、でもゲームもガチでやりたい」ならこれ一択。ゲーミング性能は現行最強で、AIの推論やライトな学習も問題なくこなせる。Club386のテストでは、RTX 5090との組み合わせで1080pから4Kまで安定したフレームレートを記録。
ただし、8コアなので重い並列処理には限界あり。本格的なモデル訓練には物足りないかも。
2位:AMD Ryzen 9 9950X(生産性重視ならこれ)
- 16コア32スレッド、ブースト5.7GHz
- 64MB L3キャッシュ
- TDP 170W
- 価格:約10万円
コア数が9800X3Dの倍。レンダリング、3Dモデリング、AIの学習など「重たいマルチスレッド処理」が多いならこっち。
GeekaWhatのレビューでは「RTX 5090と組み合わせて4K/8Kゲーミングからプロダクティビティまでボトルネックなし」と評価されている。
3位:AMD Ryzen 9 9950X3D(全部入り、お金があるなら)
- 16コア32スレッド
- 128MB L3 3D V-Cache
- 価格:約11万円(2025年3月発売)
9950Xの生産性と9800X3Dのゲーミング性能を両立したモンスター。「予算があるなら迷わずこれ」という声も多い。
4位:Intel Core Ultra 9 285K(Intel派なら)
- 8 Pコア + 16 Eコア(24コア24スレッド)
- ブースト5.7GHz
- TDP 125W
- 価格:約9万円
Intelの最新Arrow Lakeアーキテクチャ。マルチスレッド性能は高いが、ゲーミングでは9800X3Dに負ける。「仕事用PCにRTX 5090を積みたい」というビジネスユースなら選択肢に入る。
5位:Intel Core i7-14700K(コスパ重視のIntel)
- 8 Pコア + 12 Eコア(20コア28スレッド)
- ブースト5.6GHz
- TDP 125W
- 価格:約6万円
14世代Coreの中ではバランスが良い。13世代からの進化は少ないけど、安定性は高い。「Intelがいいけど高すぎるのは困る」という人に。
マルチGPU構成を考えるなら
RTX 5090を2枚以上積む猛者には、以下のCPUを推奨する。
AMD Threadripper PRO 7000WXシリーズ
- 最大96コア192スレッド(7995WX)
- 128 PCIe 5.0レーン
- 8チャンネルDDR5(最大2TB)
- 価格:30〜100万円
Puget Systemsが「ML/AI向けに推奨するCPUプラットフォーム」として挙げているのがこれ。3〜4枚のGPUを余裕で支えられる。
Intel Xeon W-3500シリーズ
- 最大60コア120スレッド
- 112 PCIe 5.0レーン
- 8チャンネルDDR5 ECC
- 価格:40〜80万円
エンタープライズ向けの信頼性が売り。AMX(行列演算アクセラレータ)搭載で、CPU推論も高速。
まとめ:結局どうすればいい?
AIマシンでCPUが「そこまで」重要じゃない理由
- 計算の99%はGPUが担当
- メモリ帯域もGPUの方が圧倒的に速い
- 推論時はほぼGPU任せ
でもCPUには「ちゃんとした仕事」がある
- データ前処理(GPUに餌を与える係)
- PCIeレーンでGPUにデータを流す道路
- システム全体のオーケストレーション
どれくらいの性能があればいい?
- シングルGPU:ミドルレンジ(Ryzen 5/7、Core i5/i7)で十分
- マルチGPU:ハイエンド(Threadripper、Xeon W)が必要
AMD vs Intel
- AI用途ならAMDがコスパ良好
- Intelはソフトウェア互換性と企業サポートで強み
- ゲームもやるなら3D V-Cache搭載AMDが最強
RTX 5090との相性ベスト
- Ryzen 7 9800X3D(ゲーミング兼用)
- Ryzen 9 9950X(生産性重視)
- Ryzen 9 9950X3D(全部入り)
- Core Ultra 9 285K(Intel派)
- Core i7-14700K(コスパIntel)
参考情報
主要な一次情報
NVIDIA公式ブログ - Why GPUs Are Great for AI
https://blogs.nvidia.com/blog/why-gpus-are-great-for-ai/
"GPU performance has increased roughly 7,000 times since 2003 and price per performance is 5,600 times greater"
(GPUの性能は2003年から約7,000倍向上し、コストパフォーマンスは5,600倍良くなった)
IBM - CPU vs. GPU for Machine Learning
https://www.ibm.com/think/topics/cpu-vs-gpu-machine-learning
"Training deep neural networks on GPUs can be over 10 times faster than on CPUs with equivalent costs."
(GPUを使ったディープニューラルネットワークの訓練は、同等コストのCPUより10倍以上速くなりうる)
Puget Systems - NVIDIA GeForce RTX 5090 & 5080 AI Review
https://www.pugetsystems.com/labs/articles/nvidia-geforce-rtx-5090-amp-5080-ai-review/
"The most likely explanation for this is a CPU bottleneck somewhere in the generation pipeline, which most prominently affects these shorter runs at smaller batch sizes."
(これはおそらく生成パイプラインのどこかでCPUボトルネックが発生しているためで、特に小さいバッチサイズでの短い実行に影響する)
SabrePC - Best Processors for Machine Learning
https://www.sabrepc.com/blog/Deep-Learning-and-AI/best-processors-for-machine-learning
"The CPU manages critical tasks like data preprocessing, memory transfer, and task coordination, feeding data to the GPU and keeping the entire pipeline running smoothly."
(CPUはデータ前処理、メモリ転送、タスク調整といった重要なタスクを管理し、GPUにデータを供給してパイプライン全体をスムーズに動かす)
RTX 5090という怪物を飼うなら、CPUは「最低限まともなエサをあげられる飼育員」であればいい。でも「エサを渡す手が遅い」とせっかくの怪物が本気を出せない。そのバランスを理解した上で、自分の用途に合ったCPUを選んでほしい。