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なぜDRAMは異常に高いのか?AIが引き起こした「メモリ争奪戦」の真実と2026年の行方

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はじめに:ある日、メモリを買おうとしたら...

「え、嘘でしょ...?」

つい先日、自作PC用にDDR5メモリを買おうとした友人が、Amazonの画面を二度見していた。32GBキット、今年の初めに1万円ちょっとで買えたものが、なんと3万5千円になっている。

「価格間違ってない?」

残念ながら、間違っていない。2025年後半、DRAMメモリの価格は文字通り「爆発」した。DDR5-6000の32GBキットが$95から$250以上へ。一部の64GBキットはPlayStation 5本体よりも高くなった。

これは一体何が起きているのか。そして、いつまで続くのか。

今回は、この「メモリ狂騒曲」の背景を徹底的に掘り下げていく。


TL;DR(忙しい人向けまとめ)

  • 現状: DRAM契約価格は前年比171.8%上昇(2025年Q3)。消費者向けメモリは2〜3倍に高騰
  • 原因: AIデータセンター需要の爆発+OpenAI Stargateプロジェクトが世界のDRAM供給の40%を確保
  • 犯人: Samsung、SK Hynix、Micronの3社が市場の95%を寡占し、高利益なHBM生産を優先
  • 2026年予測: さらなる価格上昇の可能性大。最も厳しいのは2026年前半
  • 正常化時期: 楽観的で2026年末、現実的には2027〜2028年。悲観的には「10年続く」

1. 数字で見る「異常事態」

まず、どれくらい異常なのかを数字で把握しておこう。

価格上昇の実態

製品カテゴリ 2025年初頭 2025年12月 上昇率
DDR5-6000 32GB (2x16GB) $95 $250+ 163%
DDR5-6000 64GB (2x32GB) $200 $500+ 150%
DDR4-3600 32GB (2x16GB) $70 $161 130%
DRAM契約価格(前年比) - - 171.8%

参考までに、同時期の金(ゴールド)の上昇率は約30%だ。DRAMはゴールドを遥かに上回る「投資対象」になってしまった。

日本市場の状況

日本経済新聞によると、2025年11月時点でDDR4型8ギガビット品のスポット価格は昨年末比で6倍超に達した。

"半導体メモリーのひとつ、DRAMのスポット(随時契約)価格が急騰している。4日には指標品となるDDR4型の8ギガ(ギガは10億)ビット品が、昨年末比で6倍超となった。"

— 日本経済新聞(2025年11月7日)

秋葉原の一部ショップでは、メモリやSSD、HDDに購入制限がかかり始めている。「お一人様2点まで」の札が並ぶ光景は、まるで2020年のマスク騒動を思い出させる。


2. 「犯人」は誰だ?AI、寡占、そして巨大プロジェクト

主犯:AIデータセンターの「食欲」

価格高騰の最大の原因は、生成AIブームによるデータセンター需要の爆発的増加だ。

ChatGPT、Claude、Gemini...これらの巨大言語モデルを動かすには、途方もない量のメモリが必要になる。AIモデルは数テラバイトのパラメータを持ち、それを高速で読み書きするためにDRAMを大量に消費する。

そして2025年10月、決定的な出来事が起きた。

衝撃の「Stargateプロジェクト」

OpenAI、Oracle、SoftBankが共同で進める「Stargate」プロジェクト。総額5,000億ドル(約75兆円)という途方もない規模のAIインフラ構築計画だ。

このプロジェクトのために、OpenAIはSamsungとSK Hynixと契約を結んだ。その内容が衝撃的だった。

月間最大90万枚のDRAMウェハーを確保

これは何を意味するか。世界のDRAM生産能力は月間約225万ウェハー(2025年予測)。Stargateはその**40%**を確保しようとしているのだ。

"Both Samsung and SK Hynix confirmed that OpenAI's anticipated demand could grow to 900,000 DRAM wafers monthly, which is an incredible volume that may represent around 40% of total DRAM output."

「SamsungとSK Hynixは、OpenAIの予想需要が月間90万DRAMウェハーに達する可能性があることを確認した。これは総DRAM生産量の約40%に相当する驚異的なボリュームである。」

— Tom's Hardware(2025年10月1日)
https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/openais-stargate-project-to-consume-up-to-40-percent-of-global-dram-output-inks-deal-with-samsung-and-sk-hynix-to-the-tune-of-up-to-900-000-wafers-per-month

たった1つのプロジェクトが世界の半導体メモリ供給の4割を飲み込もうとしている。PC自作派やスマホメーカーは、残りの6割を奪い合うしかない。

共犯:「寡占市場」の構造問題

DRAM市場は、Samsung、SK Hynix、Micronの3社で**95%**を占める極度の寡占状態にある。

そして、この3社は今、より利益率の高い製品に生産能力をシフトしている。

HBM(High Bandwidth Memory):AIアクセラレータに使われる高帯域幅メモリ。NVIDIAのH100やBlackwellに搭載される。利益率はコモディティDRAMの数倍。

メーカーの立場で考えてみよう。同じ工場で:

  • DDR5メモリを作れば利益率20%
  • HBMを作れば利益率60%

どちらを優先するかは明らかだ。

Micronに至っては、2026年分のHBM生産能力はすでに完売している。一般消費者向けのDRAMを作る余裕などないのだ。

従犯:DDR4の「絶滅危機」

もう一つ見逃せないのが、DDR4の生産終了問題だ。

Samsung、SK Hynix、Micronの大手3社は、DDR4の生産を段階的に終了する方針を示している。なぜなら、DDR4は利益率が低く、DDR5やHBMに工場を振り向けた方が儲かるからだ。

ところが、DDR5に移行できていない機器はまだ大量にある。自動車、産業機器、IoTデバイス...これらの需要は続いているのに、供給は細っている。

皮肉なことに、「古い」DDR4は「新しい」DDR5よりも高くなる逆転現象まで起きている。

"DDR4 spot prices have been surging since March... DDR4 prices increased until they became roughly equal to DDR5 prices in May, and now prices for the two DRAM types have begun to track each other."

「DDR4のスポット価格は3月から急騰している...DDR4の価格は5月にはDDR5とほぼ同等になるまで上昇し、現在では2つのDRAMタイプの価格が連動し始めている。」

— The Memory Guy(2025年6月24日)
https://thememoryguy.com/some-clarity-on-2025s-ddr4-price-surge/


3. 「価格カルテル」の疑惑

ここで、ちょっと踏み込んだ話をしよう。

DRAM業界には、過去に「価格操作」の前科がある。2002〜2006年にかけて、主要メーカーが価格カルテルを結んでいたとして、総額8億ドル以上の罰金を科された。

2021年には、Samsung、Micron、SK Hynixが「価格操作を行った」として集団訴訟を提起されている。

今回の価格高騰についても、一部からは疑いの目が向けられている。

"DRAM prices are spiking, but I don't trust the industry's reasons why... The memory industry has a bit of history with regard to price-fixing. While I'm sure that there are perfectly natural market forces at play, here, there's a lot of room for skepticism."

「DRAM価格は急騰しているが、業界の説明を鵜呑みにはできない...メモリ業界には価格操作の歴史がある。自然な市場原理が働いていることは確かだろうが、懐疑的になる余地は大いにある。」

— XDA Developers(2025年11月)
https://www.xda-developers.com/dram-prices-spiking-dont-trust-industry-reasons/

もちろん、現時点では証拠はない。AI需要が本物であることも確かだ。ただ、わずか3社で市場の95%を握る業界構造は、「自然な価格上昇」だけでは説明しきれない部分があることも事実だ。


4. 2026年の価格予測:さらなる嵐の前触れ

では、2026年はどうなるのか。残念ながら、楽観的な予測はほとんどない。

TrendForceの予測

半導体市場調査の権威、TrendForceは「2026年は構造的な価格上昇の年になる」と予測している。

"TrendForce projects a structural memory price surge in 2026, driven by: AI Server Dominance, Profit Prioritization... Suppliers strategically shift production capacity towards high-margin server applications, impacting other segments."

「TrendForceは2026年にメモリ価格の構造的上昇を予測している。要因は:AIサーバーの支配的需要、利益優先戦略...サプライヤーは戦略的に高マージンのサーバー向けアプリケーションに生産能力をシフトさせ、他のセグメントに影響を与える。」

— TrendForce(2025年10月)
https://www.trendforce.com/research/download/RP251003KV

Team Groupの警告

中国のメモリ大手Team Groupのジェネラルマネージャー、Gerry Chen氏はさらに厳しい見通しを示している。

"Supply of commodity memory is set to worsen in early 2026, and normalization is unlikely before 2027 – 2028 when more production capacity emerges."

「コモディティメモリの供給は2026年初頭にさらに悪化する見込みであり、新たな生産能力が出現する2027〜2028年まで正常化は見込めない。」

— DigiTimes / Tom's Hardware(2025年12月)
https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/the-ram-pricing-crisis-has-only-just-started-team-group-gm-warns-says-problem-will-get-worse-in-2026-as-dram-and-nand-prices-double-in-one-month

12月の契約価格は、一部のDRAMおよびNAND製品カテゴリで前月比80〜100%上昇したという。そう、まだ上がっているのだ。

悲観的シナリオ:10年間の供給不足

最も衝撃的な予測を出しているのは、NANDフラッシュコントローラ大手Phison ElectronicsのCEO、Pua Khein-Seng氏だ。

"Phison Electronics CEO Pua Khein-Seng claims that the NAND flash shortage could last an entire decade."

「Phison ElectronicsのCEO Pua Khein-Seng氏は、NANDフラッシュの不足が10年間続く可能性があると主張している。」

— TechPowerUp(2025年11月)
https://www.techpowerup.com/342660/dram-prices-surge-172-yoy-with-no-signs-of-slowing-down

10年。生成AIが登場する前の「安いメモリ時代」を知る人々にとって、これは悪夢のような話だ。


5. いつ価格は落ち着くのか?3つのシナリオ

市場アナリストたちの見解を総合すると、3つのシナリオが考えられる。

シナリオA:楽観的(2026年末〜2027年初頭)

前提条件

  • Samsung P3ファブ、Micronニューヨークファブなど新設工場が予定通り稼働
  • DDR5の生産効率が向上し、歩留まりが改善
  • AIバブルが緩やかに収束

結果

  • 2026年後半から供給が需要に追いつき始める
  • 急激な価格上昇は止まり、緩やかな下落傾向へ
  • 「激安メモリ」の時代には戻らないが、現在の異常価格は解消

シナリオB:現実的(2027〜2028年)

前提条件

  • 新設ファブは稼働するが、フル稼働には時間がかかる
  • AI需要は継続的に成長
  • メーカーはHBM優先戦略を維持

結果

  • 2026年は価格高止まり、一部はさらに上昇
  • 2027年から徐々に正常化
  • 2028年に「新しい均衡点」に到達(ただし2024年以前より高い水準)

これが最も蓋然性の高いシナリオだ。Team GroupのChen氏やTrendForceもこの見方に近い。

シナリオC:悲観的(AIバブル崩壊まで継続)

前提条件

  • AI需要がさらに加速
  • 新設ファブが需要に追いつかない
  • 地政学的リスク(米中対立、台湾情勢など)が顕在化

結果

  • メモリ価格は長期的に高止まり
  • PC、スマートフォン、ゲーム機の価格上昇が続く
  • 「AIバブル」が崩壊するまで、消費者向け市場は苦境が続く

Phison CEOの「10年」発言は、このシナリオを示唆している。


6. 消費者として何ができるか

正直に言えば、個人でできることは限られている。グローバルな半導体サプライチェーンの問題に、一消費者が影響を与えることはできない。

それでも、いくつかのアドバイスは可能だ。

今すぐ買うべき人

  • 本当に必要な場合:待っても価格が下がる保証はない。むしろ上がる可能性が高い
  • DDR4ユーザー:DDR4は生産終了に向かっている。必要なら今のうちに確保
  • ゲーミングPCを組む予定:2026年前半は最も厳しい時期になる可能性大

待てる人

  • 2026年まで現行PCで問題ない:ギリギリまで待って様子を見る価値はある
  • 中古市場を活用:新品は高騰しているが、中古DDR5なら比較的手頃な場合も
  • 必要最低限から始める:16GBでスタートして、価格が落ち着いたら増設

やってはいけないこと

  • パニック買い:必要以上に買い込むと、さらなる品薄を招く
  • 転売目的の購入:市場を歪める行為は自分にも跳ね返ってくる
  • 怪しい激安品に手を出す:この時期、詐欺や偽造品のリスクも高まっている

おわりに:AIの「代償」を払うのは誰か

生成AIは確かに革命的な技術だ。ChatGPTやClaudeは、私たちの働き方や学び方を変えつつある。

でも、その裏側で何が起きているか、考えたことはあるだろうか。

OpenAIのStargateプロジェクトだけで、世界のDRAM供給の40%を確保しようとしている。残りを、PC、スマートフォン、自動車、産業機器、IoT...世界中のあらゆるデジタル機器が奪い合う。

AIの恩恵を受けるのは主にBigTech企業とそのユーザーだ。一方で、価格高騰の代償を払うのは、PCを組もうとする自作派、スマホを買い替えたい一般消費者、そして機器コスト上昇に直面する中小企業だ。

これは「AI税」とも呼べるかもしれない。テクノロジーの進歩には常にコストが伴う。そのコストを誰が負担するのか、社会全体で考えるべき時期に来ているのかもしれない。

とはいえ、嘆いていても仕方がない。市場は遅かれ早かれ均衡点を見つける。新しいファブが稼働し、技術が進歩すれば、いつかは価格も落ち着くだろう。

それまでは、手持ちのPCを大切に使いながら、市場の動向を見守っていくしかない。

そして、もし今すぐメモリが必要なら...覚悟を決めて買うしかないね。


参考リソース

一次情報源

TrendForce - DRAM Price Trends
https://www.trendforce.com/price/dram/dram_spot
業界標準の価格追跡サイト。契約価格とスポット価格の最新動向を確認できる。

PCPartPicker - Memory Price Trends
https://pcpartpicker.com/trends/price/memory/
DDR4/DDR5の各カテゴリの価格推移グラフ。消費者向け価格の変動を可視化。

主要参考記事

Tom's Hardware - "DRAM prices surge 171% year-over-year"
https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/dram-prices-surge-171-percent-year-over-year-ai-demand-drives-a-higher-yoy-price-increase-than-gold
(2025年11月4日)

Tom's Hardware - "OpenAI's Stargate project to consume up to 40% of global DRAM output"
https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/openais-stargate-project-to-consume-up-to-40-percent-of-global-dram-output-inks-deal-with-samsung-and-sk-hynix-to-the-tune-of-up-to-900-000-wafers-per-month
(2025年10月1日)

Tom's Hardware - "The RAM pricing crisis has only just started, Team Group GM warns"
https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/the-ram-pricing-crisis-has-only-just-started-team-group-gm-warns-says-problem-will-get-worse-in-2026-as-dram-and-nand-prices-double-in-one-month
(2025年12月)

bacloud - "When Will RAM Prices Drop? Global Memory Market Outlook 2024–2026"
https://www.bacloud.com/en/blog/230/when-will-ram-prices-drop-global-memory-market-outlook-20242026.html

GIGAZINE - 「メモリがどれだけ値上がりしているか分かるグラフ」
https://gigazine.net/news/20251204-memory-price/
(2025年12月4日)

日本経済新聞 - 「DRAMスポット、モノ不足で価格6倍に急騰」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB047750U5A101C2000000/
(2025年11月7日)


この記事は2025年12月9日時点の情報に基づいています。メモリ市場は日々変動していますので、購入を検討される際は最新情報をご確認ください。

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