はじめに
「最新のAI技術を使って、何か面白いものを作りたい」
そう願うエンジニアは多いですが、実際にそれを泥臭い現場課題の解決に結びつけ、さらにその価値を世の中に正しく届けるにはどうすればよいのでしょうか?
今回は、マイクロソフトのCloud Developer Advocateとして世界で活躍する「ちょまど」こと千代田まどか氏と、伝統工芸の職人と共にAIプロダクトを開発するGIFTechの佐藤貴子が対談。
「オタク駆動開発」を掲げるちょまど氏も唸った、伝統工芸×AIの活用事例とは?そして、作ったものをコミュニティに愛されるコンテンツにするための「発信の技術」とは?
情熱を形にし、キャリアを切り開きたいすべてのエンジニアに贈る、実践的ナレッジの詰まった対話をお届けします。
対談者プロフィール
千代田 まどか(ちょまど)
米マイクロソフト Cloud Developer Advocate / 一児の母
女子大の英文科卒業後、新卒入社したSIerを (プログラミングやりたくて) 3ヶ月で退職。その後スタートアップでのアプリ開発を経て2016年にマイクロソフトに入社し、2018年から米国本社のグローバルチームに所属し現在に至る。エンジニア兼漫画家として、『はしれ!コード学園』等の著書や講演を通じ、技術の楽しさを広める「オタク駆動開発」としても知られる。2024年に出産。産後復帰した女性エンジニアの不安に寄り添った発信も心がけている
佐藤 貴子
株式会社レアゾン・ホールディングス GIFTech エンジニア。
エンジニアの「モノ創りを楽しむ才能」を社会価値に繋げるGIFTechの開発を牽引。たった一人のために作る「N1エンジニアリング」を掲げ、現在は伝統工芸の社会課題解決に挑戦。職人と共に、AIを活用した製品開発と販売支援を行うプロジェクト–– GIFTech JAPAN NEXT CRAFTで開発責任者としてアプリ開発を勤める。
対談本編
「作りたい!」が原動力。オタク駆動開発とN1エンジニアリング
佐藤:
本日はありがとうございます。先日かずなりさん主催のエンジニアランチ会でも話題になった、ちょまどさんの「オタク駆動開発」、以前からすごく共感していました。ご自身の「好き」や「作りたい」という情熱が、技術を学ぶ一番のエネルギーになっている点が、私たちGIFTechの理念とも重なるんです。
ちょまど:
ありがとうございます! 私の場合、最初は「推しカプの同人作品を読みたい、でもマイナーなジャンルだから供給が少ない、なら自分で作るしかない!よし、web サイトごと作るか!」という個人的な情熱から始めたので、まさに「作りたい」が全ての原点ですね。GIFTechの活動も拝見しましたが、「N1エンジニアリング(たった一人のための開発)」というコンセプトが面白いなと思っていました。
佐藤:
まさにそこなんです。今日はその「情熱」を技術でどう形にしたか、私たちの最新プロジェクトを見ていただきたくて。実は今、伝統工芸の職人さんと一緒に「世界で売れる作品」を作るプロジェクトを進めているんです。
ちょまど:
伝統工芸ですか!それはまた、「伝統」というくらいですし、最新のエンジニアリングとは対極にありそうな現場ですね。
佐藤:
はい。ある職人さんの「素晴らしい技術はあるのに、何を作れば世界で売れるのか分からない」という切実な悩みから始まりました。そこで私たちは、市場調査からデザイン提案までを行う「職人専用AIエージェント」を開発したんです。今日は特別に、先日完成したばかりのアプリケーションの実画面をお持ちしました。
職人の「感性」を拡張するAIエージェントの実装
佐藤:
これが実際に職人さんに使っていただいているアプリケーションです。例えば「台湾」を市場に選択すると、裏側で海外市場の独自データ、LLM、検索エージェントが走り、現地のトレンド情報や純銀、職人の技術を収集します。
ちょまど:
おお、すごい。選択した市場に関する「ディープリサーチ」みたいな機能が動くんですね。
佐藤:
はい。そして収集したデータを元に「商品のアイデア」を提案してくれます。例えばこの「ウイスキータンブラー」。五感体験を重視する傾向があるという調査を元に、「氷がグラスに当たる音」に着目した純銀製のタンブラーをAIが提案しました。
ちょまど:
なるほど、「音」に着目する発想はありませんでした。すごいですね、画像生成されたデザイン案も、すごく具体的で綺麗です。
佐藤:
ここからがポイントなのですが、AIが出した提案をそのまま採用するのではなく、職人さんが「ここをもっとこうしたい」と手を加えられるようにしています。AIの提案(Before)と、職人さんが修正した最終形(After)を見比べると、明らかに「職人の味」が加わっているのが分かりますか?
ちょまど:
全然違いますね! AIの案も綺麗ですが、職人さんが手を加えた後のデザインは、なんというか「深み」や「個性」が宿っているのを感じます。
佐藤:
まさにAIが面倒なリサーチや下書きを肩代わりすることで、職人さんは本来の強みである「感性」や「技術」の発揮に100%集中できたんです。
ちょまど:
それこそが理想的なAIの使い方ですよね。私はよく、面倒なテストコード作成などはCopilotなどAIエージェントに任せ、開発者は設計やロジック作りなどメインの仕事に集中できるようにしようと提案しているんですが、それと同じ本質を感じます。 AIは仕事を奪う敵ではなく、人間のクリエイティビティをブーストしてくれる「相棒」 なんだなって、この事例を見て改めて確信しました。
技術選定:AIオーケストレーションの最前線へ
佐藤:
技術的な部分についても相談させてください。今回はLLMや独自リサーチを使って市場調査からデザイン生成までを一気通貫で行っていますが、複数のAIエージェントを連携させる部分で試行錯誤しています。ちょまどさんが最近注目されている技術で、このプロジェクトに応用できそうなものはありますか?
ちょまど:
それなら、マイクロソフトの「Agent Framework(エージェント フレームワーク)」が好きです。
社員なので普段から触っているというのもあるかもしれませんが、エージェント同士のやり取りをコードで柔軟に定義できて、マルチエージェント構成も組みやすいところが好きです。
ちょまど:
さらに、現時点 (12/5) ではまだ public preview 版ではありますが、その拡張である「 Durable Task Extension (デュラブル (堅牢な) タスク エクステンション) for Microsoft Agent Framework」を使えば、ワークフローの state や処理の途中経過を逐一自動で保存 (checkpointing) (ちなみに会話履歴 (Conversation history) は Agent Framework 自体が保持してくれてる) しながら、突然の再起動やクラッシュからも自動で復旧してくれる AI エージェントワークフローを C# や Python で書くことができます。色々便利で、例えば、人間の承認 (入力) を数日間待ち続けるような処理 (Human-in-the-loop) もコードで簡単に実装できますよ。
佐藤:
なるほど!実は私たちも次は「リサーチ担当エージェント」「デザイン担当エージェント」「価格設定担当エージェント」のように役割を分担させて、それらを連携させようと構想しているんです。
ちょまど:
それは絶対に面白いです。複数のエージェントが協調して動くアーキテクチャは昨今のトレンドですし、伝統工芸のように工程が複雑なプロジェクトにはぴったりだと思います。
追記:2025年11月26日に開催されたGitHub Universe'25 Recap Tokyoでも、Microsoft社SpecKitについての紹介もございました!資料も公開予定なので要チェックです🔖
佐藤:
ありがとうございます!AIの領域は進化が速いので、ぜひ取り入れてアップデートを行い続けることや、次のプロジェクト(別の工房さんとの共創)に活かしていきたいです。
コミュニティに響く「技術発信」の極意
佐藤:
こうして生まれたプロダクトや成功事例を、これからはコミュニティに還元していきたいと考えています。でも、どう発信すればエンジニアの方々に「面白い!」と思ってもらえるのか、DevRelのプロであるちょまどさんにアドバイスをいただきたくて。
ちょまど:
発信、すごく大事ですよね! 私の場合、いくつかありますが、そうですね、まず、技術名をタイトルに入れると、同じ技術に興味を持っている人や困っている人に届きやすい気がしています。
ちょまど:
例えばQiitaの記事などで「hogehoge AI サービス作ってみた」だけだと、技術情報の欲しいエンジニアが検索した時に引っかかる率が低くなりがちです。なので、たとえば「Microsoft Agent Framework を使って,マルチエージェントの動く hogehoge AI を作ってみた」のように、使っているフレームワークや技術スタックをタイトルに入れるだけで、届く層がグッと広がると思います。
佐藤:
確かに私も調べ物をする時は技術名で検索しますね。
ちょまど:
また、私自身、いつも大切にしているのが「リスペクト」です。技術へのリスペクト、読んでくれるエンジニアへのリスペクト、開発チームへのリスペクト。そういう姿勢があると、自然と伝わる文章になる気がしています。
たとえば、今回の「伝統工芸AI」の場合は、当然ですが、まず職人さんへのリスペクトが大切ですね。「AIが解決しました!」とAIを主役に置くのではなく、「まず職人さんの素晴らしい技術があり、そしてそれをAIが黒子として支えました/enhance しました。具体的な方法としては〜」みたいな感じの書き方にする。
佐藤:
すごく腑に落ちました。今回のプロジェクトも、主役はあくまで職人さんであり、AIはその「弟子」のような存在ですから。
ちょまど:
あとはやっぱり、サービス紹介の場合は、画像や動画ですかね。アプリの場合は、デモ動画や画面イメージとかあると読者に伝わりやすいですよね。例えばさっき見せていただいた「Before/After」の画像とかですよね。百聞は一見に如かずといいますか、あれはとても強いと思います。「AIの提案」と「職人の修正後」を並べるだけで、AIと人間の共創の様子が一目で伝わりますから。ぜひあの画像を使って記事を書いてみてください!
未来のクリエイターへ:「とりあえず、動くものを作る」
佐藤:
最後に、これから自分の「好き」を形にしたい、ものづくりを始めたいと思っているエンジニアに向けてメッセージをいただけますか?
ちょまど:
とにかく「とりあえず手を動かして、動くものを作ってみる」こと、これに尽きます。
今はAIがコードを書いてくれる時代なので、プロトタイプを作るハードルは劇的に下がっています。「作りたいな」ともじもじしている時間がもったいない。
佐藤:
本当にそうですね。私たちのプロジェクトも、まずは職人さんに「このようなものはどうですか?」と動く画面を見せたところから全てが動き出しました。
ちょまど:
自分が作ったものが動く瞬間って、世界が変わるくらい楽しいんですよね。クオリティは後からついてくるので、まずはその「楽しさ」を味わってほしい。そして、作ったものをぜひ世の中に見せてください。
佐藤:
はい、必ず実現させます。本日はたくさんの勇気とヒントをありがとうございました!
まとめ
伝統工芸というアナログな現場に、最新のAIエージェントを導入する。一見難しそうなこの挑戦も、「職人の情熱を支えたい」というN1の視点と、適切な技術選定があれば、大きな価値を生むことが分かりました。
本対談のポイント:
- AIは「相棒」: 面倒な調査や下書きをAIに任せることで、人間は「感性」や「判断」という本質的な業務に集中できる。
- 現場実装の鍵: 単一の機能ではなく、複数のAIエージェントを連携(オーケストレーション)させることで、複雑な業務フローに対応できる。
- 発信の技術: 記事タイトルには「技術名」を入れ、ストーリーの主役は「ユーザー(職人)」に置くことで、共感と検索性を両立させる。
「好き」や「課題解決」の情熱を、AIという強力なエンジンで加速させる。そんなエンジニアリングの面白さを、あなたもぜひ体感してみてください。
私たちの挑戦の裏側は、今後ドキュメンタリー映像として公開予定です。ぜひ、GIFTechのXアカウント(@GifTech_ch)をフォローして、私たちの冒険の続きを見守ってください。







