はじめに
システム開発の現場では、
「こういうシステムを作ってほしい」と言われて始まるケースが多いと思います。
特にクライアントワークや、途中からプロジェクトに参加する場合は、
ヒアリングやキャッチアップに追われ、目の前の要件をこなすだけで終わってしまうこともあります。
けれども、その「言われた通りに作る開発」は、果たして本当に良い形なのでしょうか。
短期的には満足しても、時間が経つにつれスケールしづらくなったり、改修に苦労するようになったりする。
そんな経験をした人も多いのではないでしょうか。
この記事では、“言われた通り”の開発から抜け出し、
エゴではなく「責任」として主導するエンジニアという考え方について整理していきます。
“言われた通り”の開発で起こりがちなこと
“言われた通り”に進める開発では、次のような状況が起こりがちです。
- 要件がたびたび変わる
- 認識のズレが生まれる
- 仕様変更に振り回される
- 「本当に必要な要件」が見えなくなる
こうした問題の背景には、依頼者が全体構造や将来性を考えずに要望を出してしまうという構造的な難しさがあります。
そもそも、非エンジニアがシステム全体のアーキテクチャや拡張性、技術的制約まで見通して考えるのは容易ではありません。
多くの場合、「今困っていることをどう解決するか」という短期的・部分的な視点から要望が出てきます。
その結果、個々の要望は合理的に見えても、全体としての整合性や将来の見通しが失われてしまうことがあります。
こうした混乱を減らすには、エンジニアが全体像を把握し、
技術的・構造的な観点から要望を整理しながら形にしていくことが大切です。
つまり、
「依頼者の言葉をそのまま実現する」のではなく、
「依頼者の要望を踏まえて、最適なシステムの姿を一緒に考える」
そんなスタンスが求められます。
ここから、エンジニアが主導的に設計を導くという意識が生まれていきます。
エンジニアが主体的に動くということ
では、“言われた通り”の開発から抜け出し、
エンジニアが主体的に関わっていくには、どうすればよいでしょうか。
状況をある程度理解した段階で、
「こういうシステムを作りたいのでは?」
「この構成・設計のほうが将来的に安定し、ユーザー体験も維持しやすい」
といった形で、エンジニアの側から提案することが重要です。
その際は、「好み」や「技術的興味」ではなく、
サービス全体の将来性・ユーザビリティ・拡張性といった軸をもとに考えることがポイントです。
エンジニアが主導するとは、強く主張することではなく、
構造的に持続可能な形を見据えて設計を導くことを意味します。
“真のユーザービリティ”を見据える
ここで言う「ユーザービリティ」とは、
単なる「使いやすさ」や「見た目の良さ」ではありません。
短期的な快適さよりも、
ユーザーが長く価値を感じられる仕組みを維持することにあります。
たとえば、非エンジニアから見れば「この機能をすぐに追加してほしい」と思うかもしれません。
しかしエンジニアの視点では、それが将来的な技術的負債につながることもあります。
技術的負債が積み重なると、スケーラビリティが下がり、
機能拡張が難しくなっていきます。
拡張できないシステムは、やがてユーザーにとって価値を失うサービスになるかもしれません。
だからこそ、エンジニアは短期的な要望だけでなく、
長期的にサービスを成長させるための視点を持って提案することが大切です。
それが、真の意味でのユーザービリティにつながります。
主体が入れ替わる瞬間
エンジニアが責任を持って提案を重ねていくと、
プロジェクトの関係性が少しずつ変わっていきます。
- 初期: 依頼者が主導し、エンジニアは要望に対応する
- 中盤: エンジニアの提案が増え、依頼者が考え方を取り入れ始める
- 後半: エンジニアが構想や設計をリードし、依頼者がそれに合わせていく
この変化によって、エンジニアは単なる「実装者」から、
プロジェクト全体を設計で導く存在へと変わっていきます。
これこそが、“エンジニア主導でシステムを作る”という状態だと思います。
プラットフォーム開発における視点
特定の顧客向けではなく、
汎用的なプラットフォームを開発する場合は、この考え方がさらに重要になります。
プラットフォームは「すべての要望を叶える場所」ではありません。
提供者の設計思想と原則のもとで構築される基盤です。
利用者の意見を取り入れることは大切ですが、
個別最適を繰り返していくと、結果的に誰にも使われない中途半端なシステムになります。
エンジニアが中心となり、どうすれば汎用的で持続可能な仕組みになるかを考えることが欠かせません。
実践編:どうやって主導権を取り戻すか
エンジニアが主体的に動くには、単なる「主張」ではなく、
信頼に基づいた提案の積み重ねが必要です。
ここでは、現場で実践しやすいアプローチをいくつか紹介します。
1. 背景を理解する
最初にやるべきことは、依頼者の要望を否定することではなく、
「なぜそう考えたのか」を理解することです。
背景を理解し、課題を言語化することで、対話の土台ができます。
2. 選択肢を見せる
要望に対しては、「できる/できない」で終わらせず、
複数の選択肢(A案・B案・C案) を提示するようにします。
それぞれの特徴や影響を説明することで、自然と会話の主導権を握りやすくなります。
3. 伝え方を工夫する
技術的な正しさを伝えるだけではなく、
「なぜその選択が長期的にメリットがあるのか」を、非エンジニアにも伝わる言葉で説明します。
たとえば「保守しやすくなる」「ユーザー体験を持続できる」といった具体的な視点です。
4. 中長期の見通しを共有する
すぐに全体を変えるのではなく、
「今はここを整える」「将来的にはこの部分を拡張する」といったロードマップを共有することで、
短期と長期のバランスを取りやすくなります。
5. 責任を引き受ける姿勢を見せる
「この設計を提案したのは自分たちだ」と胸を張れる姿勢を持つこと。
責任感が伝われば、依頼者もエンジニアの判断を信頼しやすくなります。
まとめ:エゴではなく、責任として
“言われた通り”の開発から抜け出すには、
「エンジニア主導で作る」という姿勢を、エゴとしてではなく責任の表れとして捉えることが大切です。
エンジニアは、サービスを長く支える立場にいます。
だからこそ、構造や将来性を見据えた判断を積み重ねていくことが、結果的にサービス全体を良くします。
- 目先の要望に流されず、構造的な観点を持つ
- 長期的な価値を見据えて、対話を重ねる
- より良い形を探しながら、依頼者と一緒に育てていく
それはエゴではなく、誠実にサービスと向き合う姿勢です。
エンジニアがその視点を持つことで、プロジェクト全体の質が変わっていきます。
おわりに
エンジニア主導の開発は、対立ではなく共創のかたちです。
依頼者とエンジニアがそれぞれの専門性を尊重しながら、
同じ目的に向かって協力できる関係を築いていくこと。
そのプロセスの中で、エンジニアが責任を持って設計を導くことが、
サービスをより良くしていく力になると思います。