このエピソードと記事の位置づけ
- テーマ:
- 「テスト観点をどこまで細かく書くか」で毎回モヤる問題を、
キャラたちの会話パターンとして整理する。
- 「テスト観点をどこまで細かく書くか」で毎回モヤる問題を、
登場人物(ざっくり)
- アヤ:感覚派。「その線引きズレてない?」が口ぐせ。
- テラ:設計派。粒度を揃えたがるQAアーキテクト志望。
- ユウタ:つなげる人。人の話を構造に落とすのがうまい。
- キョウスケ:実装寄り。開発とQAの橋渡しポジション。
- 言坂先生:顧問。線引きと責任の話をさせたがる。
1. 放課後、観点シートの前でフリーズするテラ
放課後再現部の教室。
テラが観点シートを前に、腕を組んで固まっている。
テラ「……観点が、観点じゃなくなってきた」
アヤ「またやったの? それテラの持病だよね」
1-1. 粒度の3レベルを黒板に書いてみる
テラは黒板に、ちょっとだけ丁寧に書き出す。
-
レベル1:テーマ(何を守りたいか、一言)
例:「キャンセル処理が正しく動くこと」 -
レベル2:観点(テーマをどう切ってチェックするか)
例:「キャンセル理由別の扱い」「キャンセル期限の扱い」 -
レベル3:具体例(観点を満たすパターン/テストケース)
例:「期限内にユーザー都合でキャンセル → 全額返金」
テラ「観点の粒度で迷うときってさ、
だいたいこの“レベル2と3の境界”で迷ってるんだよね」
ユウタ「観点欄に具体例まで書き始めちゃうとか?」
テラ「そうそう。観点シートがテストケース表の別名になっていく…」
現実で使えるポイント
- 自分たちのドキュメントで
「これはレベルいくつ?」と呼べる軸を作っておくと、
会話しやすくなる。 - 正解は1つじゃなくていいので、
**チーム共通の“3段階くらいのものさし”**を作るのがおすすめ。
2. ステークホルダーと話すとき:守りたいものから逆算する
翌日。
プロダクトオーナー役として、キョウスケがレビューに呼ばれる。
キョウスケ「観点、もうちょっと細かくしてもいいかも」
テラ「(きた、恒例の“細かくして”)」
2-1. 「やらかしたくないこと」から聞くパターン
テラは、観点の粒度の話をする前に、こう切り出す。
テラ「この機能で、一番やらかしたくない失敗って何ですか?」
キョウスケ「お客さんから“返金されてない”って怒られるやつ」
テラ「なるほど。“返金の漏れがないこと”ですね」
テラ「じゃあそこだけ、観点を1段階細かくします。
それ以外は、今の粒度のままでもいいですか?」
アヤが横から口をはさむ。
アヤ「“何を守りたいか”言語化させるの、いいね。
そこズレたまま粒度だけ細かくしても、意味ないじゃん」
現実で使えるフレーズ例
- 「この機能で、一番やらかしたくない失敗って何ですか?」
- 「ここがバグると、誰がどんなふうに困りますか?」
- 「“ここだけは外したくない”観点を、3つだけ教えてもらえます?」
3. 粒度を“時間とお金”に翻訳して説明する
キョウスケは、まだ少し不安そう。
キョウスケ「細かいに越したことはないかな、って思っちゃうんだよね」
アヤ「それさ、テラが死ぬやつじゃない?」
3-1. 「粒度を1段階上げると何が増えるか」をちゃんと言う
テラは、観点シートを指さしながら説明する。
テラ「観点を1段階細かくすると、
レビューで見る行数が、ざっくり1.5〜2倍になります」
キョウスケ「そんなに?」
テラ「はい。今の粒度なら1時間で全観点レビューできます。
全部を細かくすると、多分2〜3時間コースです」
テラ「だから、“返金漏れ”みたいなところだけ粒度を上げて、
他は今のままにする、って分け方を提案してます」
ユウタがノートにさらっとまとめる。
ユウタ「“粒度を上げる=レビューコストを上げる”って
ちゃんとセットで話すの、大事ですね」
現実で使えるフレーズ例
- 「観点を1段階細かくすると、レビューする行数も1.5〜2倍くらいになります。」
- 「今の粒度なら、1時間で全観点をレビューできます。
もっと細かくするなら、今日中には終わらないかもです。」 - 「全部細かくするより、さっきの“やらかしたくない3つ”だけ粒度を上げるのはどうですか?」
4. チーム内で粒度を揃える
別の日。
メンバーが書いた観点を見て、テラの眉がちょっとだけピクッと動く。
テラ「ここだけ、観点が具体例レベルまで降りてるな……」
アヤが覗き込む。
アヤ「“ここだけ小さく刻まれてる観点”、うちも気になる」
4-1. 「レベルいくつまで書くか」を明言しておく
テラ「このシートでは、レベル2までを書き切る前提で行きません?」
メンバーA「具体例は?」
テラ「具体例は、隣の“メモ欄”に2〜3個まで、でどうでしょう」
メンバーB「その方がレビューしやすいですね」
4-2. 粒度のズレを整える
仮に、誰かがとても細かく書いてきたとしても――
NGっぽい言い方:
「なんでこんなに細かく書いてるの?」
「ここ、ざっくりしすぎで意味ないです」
テラは、言い方を少し工夫する。
テラ「この観点、レベル3まで降りてる感じなので、
レベル2に戻して整理し直してもいいですか?」
テラ「もし“あえて細かくした”なら、その理由を一行だけメモ欄に足してもらえると助かります」
アヤがうなずく。
アヤ「“間違い”じゃなくて“深さの違い”として扱うの、
うち的にも Ew が落ち着くやつ」
現実で使えるフレーズ例
- 「この観点、レベル3まで降りてるから、レベル2に戻して整理しません?」
- 「ここだけ、他の観点より1段階細かい感じがします。
意図的なら、理由を書いておけると助かります。」 - 「“怖さが高いから細かくする”って、ひとことメモを足しません?
後から見ても理由がわかるように。」
5. 粒度は“あとから変えていい”と最初に決めておく
観点シートがだいぶ埋まってきたころ、
言坂先生が顔を出す。
言坂先生「ずいぶん黒板が埋まっているねえ」
テラ「観点の粒度で少し悩んでます」
言坂先生「最初から完璧に決めようとしていないかい?」
5-1. 「今日は荒めでOK」と宣言する
先生は、板書の端っこに一行書く。
言坂先生「今日は“荒めでいいので観点を書き出す”日、と決めてしまいなさい」
言坂先生「粒度の調整は、レビューの場でやる前提にする」
テラ「……たしかに、最初から粒度で完璧を目指してました」
ユウタがKノートに追記する。
ユウタ「“粒度は後でいじってよい”を、運営ルールとして明文化っと」
5-2. 粒度調整の判断をKノートに残す
テラ「この観点だけ細かくした理由、
今日のKノートに一行だけ残しておきますね」
アヤ「“今日のFth:返金まわりは一段細かく守る”とか?」
テラ「それ、タイトルにします」
現実で使えるフレーズ例
- 「今日は荒めでいいので、観点を書き出すところまで行きたいです。
粒度の調整は、明日のレビューで一緒にやりましょう。」 - 「“ここだけ細かくしよう”は、レビューで決める前提にしたいです。」
- 「この判断はあとで揺れそうなので、
スクショ+一言コメントで残しておきません?」
6. まとめ:粒度は“線引きの会話”で決める
最後に、黒板の一番下にユウタがまとめを書く。
- 何を守りたいかを先に言ってもらう
- 粒度アップ=コストアップを隠さない
- 完璧な粒度を最初から狙わない
アヤがマーカーをくるくる回して、落としそうになりながらも続ける。
アヤ「観点の粒度ってさ、“正解”というより“線引き”じゃん。
だから一人で唸るより、みんなでしゃべって決めたほうが早いんだよね」
テラ「線引きの会話、か」
キョウスケ「その線さえ合意できてれば、
多少粒度が揺れても、コードでリカバリできるしね」
言坂先生「うむ。“どこまでやるか”の会話ができるチームは、強いよ」