はじめに
前回の記事では、
「AIがコードを書き、僕がレビューする」
という AI 主導開発の全体像を紹介しました。
今回は、その中でも プロダクト開発の出発点となる “要件定義” をAIに任せる方法 を解説します。
実は、要件定義は AIと最も相性が良い領域のひとつ です。
• ユーザーストーリー
• BDD(振る舞い駆動開発)
• 機能分解
• MVPスコープ
• 競合整理
• リスク分析
これらを ChatGPT に渡すと、人間が1日かけて書く資料でも 10〜15分程度で完成 します。
僕が開発している
• ChoreRights(振付IP管理プラットフォーム)
• IP Connect(クリエイティブIP取引基盤)
の要件定義も、ほぼ100% ChatGPT に生成してもらっています。
なぜ要件定義をAIに任せるのか?
1. 認知負荷が最も高い領域だから
要件定義は、PMの仕事の中で一番脳みそが疲れる工程です。
情報整理+構造化+文章化のすべてを同時に行う必要があります。
ChatGPTはこの部分が得意。
2. 抽象化・構造化能力が高い
抽象度の高い要求でも「一般的なプロダクト構造」に落とすのが得意。
特にB2BプロダクトはAIと相性が良いです。
3. 変更に強い
仕様変更があっても、
「この差分を反映して再生成して」
と伝えるだけで、全体資料を同期してくれます。
4. ピボット判断にも使える
市場分析、競合分析、SWOT、ビジネスモデル比較などもAIが作成できます。
後述する通り、
ChoreRights → IP Connect のピボット判断もAIを活用しました。
個人開発の要件定義プロセス(ChatGPTのみで作成)
1. 課題定義(Problem Statement)
最初に行うのは「何の課題を解決するのか?」をAIに説明すること。
ダンス振付の権利管理は曖昧で、
商用利用時の契約・クレジット表記・ロイヤリティが統一されていない。
これを解決するSaaSを作りたい。
これだけでChatGPTは以下を生成します:
• 現状の課題
• ステークホルダー
• 課題の分類(法務/技術/文化/商流)
• 解決すべき優先度
ここから仕様作成が始まります。
2. ユーザーストーリー生成(User Stories)
上記の課題を軸に、UX観点で30件のユーザーストーリーを
「As a〜, I want〜, So that〜」形式で生成してください。
ChatGPTのアウトプット例(一部):
• 「振付師として、振付の著作情報を登録したい。商用利用時に正しくクレジットがつくため。」
• 「企業担当者として、商用利用申請を行いたい。正規ライセンスとして利用したいから。」
• 「ダンサーとして、振付の使用履歴を確認したい。二次利用状況を把握できるように。」
これをベースに機能要件へ落としていきます。
3. BDDで具体化する
以下のユーザーストーリーに対し、Gherkin構文でBDDを10個生成してください。
出力結果例:
Feature: Register choreography
Scenario: User registers choreography metadata
Given I am a registered choreographer
When I input choreography title and description
And I upload a video sample
Then the system stores the choreography with a unique ID
4. 競合調査(AIに丸投げ)
ChatGPT に依頼すれば「一次情報ベースの正確性」は低いものの、
以下の軸を揃えた比較表を出してくれます。
• CoeFont
• AIVoice
• Voicepeak
• クリエイティブIP管理企業
• Web3 IPプロジェクト
比較軸もAIが作成:
• TAM / 市場規模
• ビジネスモデル
• 強み/弱み
• 差別化ポイント
• 法務リスク
自力で調べると数時間かかる内容を、数分で揃えてくれます。
5. MVP(最小実用機能)をAIに抽出させる
上記の要件から、最も価値が高く開発コストが低い
MVP機能を5つ抽出し、優先度順に並べてください。
AIのアウトプット例:
1. 振付/音声IPの登録機能
2. メタデータの編集
3. 申請フォーム(企業→振付師)
4. 利用契約の生成(テンプレート)
5. ステータス管理(Pending/Approved/Rejected)
これで開発範囲が明確になります。
6. ピボット判断をAIでサポートする
音声・映像IP市場と比較すると、ダンスIP市場はどの程度の規模ですか?
成長率、収益ポテンシャル、既存企業との競合可能性を
表形式で比較してください。
結果、音声IP市場が圧倒的に大きく、
• API化が可能
• 企業側のニーズが強い
• AI音声時代との親和性が高い
などの理由で IP Connect へ事業範囲を拡張 しました。
AIは市場比較の「観点出し」が抜群にうまいため、
判断材料としては非常に有効です。
PMとしての役割は何か?
誤解されがちですが、
AIに要件定義を任せても、PMとしての役割は消えません。
むしろ以下の部分が重要になります。
• 何を依頼するか?(質問設計)
• AI出力の取捨選択
• 仕様変更時の方針決定
• 事業価値に即しているかの判断
• 利用データ/ビジネスモデルの安全性チェック
つまり、
AIが“手”を担当し、PMが“頭”を担当する。
という開発スタイルになります。
この構造は、
海外で増えている「AI-Powered Product Manager」に非常に近いです。
まとめ
要件定義はプロダクト開発の最重要工程ですが、
AIに任せることで次のような変化が起きます。
• 0→1の仕様作成が高速化
• 認知負荷が激減
• 仕様の統一性が向上
• 変更に強い
• ピボット時の分析が加速
AI主導の要件定義は、
特に 個人開発・スタートアップ・海外PM案件 と相性が最高の手法です。