スマートフォンが登場した当初、メーカーごとに充電器の規格がバラバラで、機種変更をするとアクセサリーまで一式買い替えなければなりませんでした。これは不便で無駄が多く、普及の妨げにもなりました。この問題を解決したのが「USB-C」という共通規格です。
同じように、モデルコンテキストプロトコル(MCP) が登場する前は、AIエージェントが外部データソースへのアクセスや外部ツールでのアクションを実行するためには、個別のカスタムインテグレーションを実装する必要がありました。これには膨大なコストと時間がかかる上、システム的にも脆弱でした。例えば、あるツールのAPI仕様が変更されると、それを利用するすべてのエージェントが動かなくなることもありました。標準化されたコネクションがない状態では、組織全体でAIエージェントを幅広く導入するのは難しかったのです。
そこで登場したのが「AI界のUSB-C」と呼べるMCPです。MCPは、Slack、Salesforce、GitHub、あるいは社内SQLデータベースなど、各システムやデータベースにAIエージェントが効率的かつ容易に接続できるようにする、標準規格を提供します。
今回の2回シリーズの第1回では、MCPとは何か、どのように機能するのか、なぜエージェント型AIにとって重要なのか、そしてエンタープライズにおけるセキュリティーとガバナンスにどんな意味を持つのかを解説します。
基本から理解する:MCPとは何か?
MCPの本質は「プロトコル(通信規約)」です。つまり、「AIアプリケーションが外部システムとやりとりする際のルール」を定めたものです。開発者は、自分のデータをMCPサーバーを通じて公開することもできますし、MCPクライアントとしてサーバーに接続するAIアプリケーションを構築することもできます。アーキテクチャーは次のようになります。
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MCPホスト: ユーザーが操作するAIアプリやエージェント環境
- 例:Claude Desktop、Cursor
- MCPクライアント: ホストアプリ内で動作し、MCPサーバーを呼び出す役割を担う
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MCPサーバー: クライアントにツールを提供する小さなプログラム。一般的な意味での「サーバー」ではなく、ユーザーがダウンロードして実行するソフトウェアに近い
- 例:Slack MCP Server(チャンネル一覧の取得、メッセージ送信などのツールを提供)
- 公式のMCPサーバー一覧はMCP Servers Orgで公開されています
MCPを使えば、コードは標準化され、MCPサーバーのプロバイダーによって維持、および管理されます。その結果、MCPクライアントは一貫したインターフェースを通じて容易に利用できるようになります。
なぜMCPが生成AIとAIエージェントに重要なのか
AIの利用は新たな段階に入りつつあります。これまでの生成AIはコンテンツを生み出す、質問に答えるといった「受動的」な役割が中心でした。しかし今後は、計画を立て、行動し、複数のシステムを横断して人と協働するエージェント型アプリケーションが求められています。
しかし、もしエージェントやアシスタントがそれぞれ独自の接続方式を持つとしたら、複雑に入りくんだカスタムインテグレーションが生まれ、それに対応するための膨大なコストに悩まされたり、ベンダーロックインが発生してしまいます。
現在もAIモデルのプロバイダーごとに独自のAPI連携の仕組みが存在しますが、モデルを切り替える際にはインテグレーションを作り直さなければなりません。APIが更新されるとツール側のコードを手作業で直す必要があり、突然動かなくなるまでAPIの更新に気づかないケースもあります。
MCPはこうした問題を根本から解決します。MCPはベンダーに依存しない再利用可能なレイヤーを提供し、一度コネクターを作れば、MCPに対応するどのAIアプリケーションでも利用可能です。GPTであれClaudeであれローカルモデルであれ同じです。これにより、組織全体でAIをスケールさせるための強固な基盤が整います。
例えば:
- マーケティングチームは社内に対して「キャンペーンの実施結果をデータとして取得」「顧客のセグメント生成」などのアクションを、安全に公開することが可能となる
- セールスチーム側のCopilotとデータサイエンスチーム側のCopilotが、異なるモデルで動いていても同じMCPコネクターを利用できる
さらに広がる未来像
MCPは、エージェント型AIアプリケーションの基盤規格として大きな可能性を秘めています。AIシステムをよりダイナミックで組み合わせ可能なものにする設計思想に基づいているのです。
すでに業界の動きも進んでいます。一部のOSはMCPをデフォルトでサポートし始めており、AIアプリがファイルやカレンダー、開発環境へのアクセスをリクエストできるようになりつつあります。これは、スマホアプリがカメラや位置情報へのアクセス許可を求めるのと同じ仕組みです。
これは「AIが単なるアプリではなく、デジタルワークスペース全体で協働する信頼できる同僚になる」未来の土台です。パート2では、MCPが他の選択肢とどう違うのか、実際のビジネスメリット、そして組織がどのように導入を始められるのかを掘り下げます。
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