はじめに
株式会社クライドでプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーを務めている陶山大輝です。この1年間、事業部の開発生産性向上に注力してきたので、そこで得られた知見をこの記事を通じて共有したいと思います。
また、開発生産性の未来:世界と日本の最前線事例から培うFour Keys向上〜ハイブリッドカンファレンス〜に参加し、様々な取り組みを目にしました。ただ、ボトムアップで開発組織全体の開発生産性の向上を目指すようなセッションが少ないと感じたため、その観点で記事を構成しました。
開発生産性の重要性と定義
開発生産性の向上は、単なる技術的な問題ではなく、経営の観点で重要な要素です。この点を理解することで、適切に開発生産性について考察し、改善を進めることができます。
また、この記事では、開発生産性について議論する前に知っておきたいことを参考に、仕事量と期待付加価値と実現付加価値の3段階に開発生産性を分割して話を進めます。
参考記事
ボトムアップでの開発生産性向上の利点と欠点
ボトムアップでの開発生産性向上とは、1つの開発チームを起点としてプロダクト(事業)の開発生産性を向上させ、開発組織全体へと展開するようなアプローチのことです。最終的に開発組織全体の開発生産性を向上させ、開発組織が適切に会社へと貢献するような仕組みづくりを行うことを目的とします。
利点としては2つあります。1つ目は、現場の実情に即した改善を進められることです。現場を起点として改善が開始されるので、より的確な施策を実行できます。2つ目は、メンバーのエンゲージメントが向上することです。メンバーが向上を実感しながら改善が進むため、直接的にエンゲージメントが高まります。
ただ、欠点としても2つあります。1つ目は、開発組織全体との戦略がずれている可能性があることです。それぞれの施策が開発組織全体の戦略と厳密には一致しない可能性があります。2つ目は、トップダウンの場合と比べて調整が難しいことです。方向性の統一や施策のためのリソース調整などに多くの時間を要します。
3段階の開発生産性向上
早速、ボトムアップによる3段階の開発生産性向上について紹介します。
施策の実行
まず、開発チーム内での施策の実行が必要です。目的としては、仕事量の生産性の向上です。
この段階ではアジリティが求められるので、改善の効果が明確なKPIを設定して、できるだけ施策を打っていくことを重視します。特に、開発プロセスのボトルネックを見つけ出し、リードタイムを短くすることに注力すると良いと考えています。KPIとしては、PRのオープンからマージまでの時間やPR数がおすすめです。
この段階で得られる成果としては、目的に加え、開発チーム外からの信頼の増加になります。信頼を得ることで、施策の戦略的な実行を行うための交渉が容易になります。
実践
施策の戦略的な実行
次に、PMやデザイナーなどを含むプロダクト開発チーム内での施策の実行が必要です。目的としては、期待付加価値の生産性向上です。
この段階では、施策をただ実行するのではなく、戦略的に実行する必要があります。なぜなら、エンジニアと異なるバックグラウンドのメンバーを巻き込むことで不確実性が高くなり、方向性が不明確になりやすいからです。
また、先ほどの段階では開発プロセスに着目しましたが、戦略的に取り組む上では組織設計にも目を向ける必要があります。なぜなら、開発プロセスのボトルネックになりやすいのはコミュニケーションの部分であり、その基礎となるのは組織設計であるからです。
この段階で得られる成果としては、目的に加え、組織や開発プロセスを含めたプロダクト開発の型の創出になります。この型の再現性を高めることで、施策の開発組織全体への展開につなげることができます。
実践
2023/11からEMを兼任することとなったため、組織戦略や組織KPIを組み直し、施策を戦略的に実行する準備をしました。現在は、ICEスコアの導入による優先順位の決定の単純化やPRD策定フローの再設計などの期待付加価値向上のための施策を計画しています。所属チームのリソースが少ないこともあり、組織戦略の策定と組織施策の実行を全て自分に属人化させて高速な施策の実行をする予定です。
※ 2023/12に所属する開発チームが解散したため、このフェーズの改善は十分に実践できませんでした。
施策の展開
最後に、施策の開発組織全体への展開が必要です。目的としては、開発組織全体での仕事量と期待付加価値の生産性向上です。
この段階では、戦略的に実行した施策を再現性を持って展開することが必要です。(逆)コンウェイの法則の通り、プロダクトの特性と組織の特性は連動するため、どの点に再現性があるのかを注意深く確認しながら、適用する必要があります。
また、開発組織全体に広めるという段階では、ボトムアップでのアプローチに限界があるため、CTOなどの経営層を巻き込んでトップダウンでのアプローチが必要となります。
この段階で得られる成果としては、目的に加え、組織としての持続可能性を獲得できると期待されます。
実践
2023/07ごろから徐々に展開を進めています。主な取り組みとしては、他チームのコンサルと社内LTでの施策の共有です。コンサルは2,3チームのリーダーを対象に行っていますが、継続的な改善に繋がっているのは1チームのみで難しさを感じています。また、社内のLTも、共感を得られる程度で改善には繋げられていません。
※ 2023/12に所属する開発チームが解散したため、このフェーズの改善は十分に実践できませんでした。
まとめ
この記事を通じ、ボトムアップによる3段階の開発生産性の向上について紹介しました。小さな改善をきっかけとして開発組織全体の変化まで繋がれば幸いです。