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宇宙事業へのいざない

Last updated at Posted at 2025-05-24
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-1. はじめに

本記事は、JAXA 案件に関わる機会を得たので、それにまつわる話を書き残せたらと思い記事を書くことにしてみました。
宇宙を専門とした会社に入社して1ヶ月経った程度のど素人で、アウトプットに至るまでの咀嚼を通じて自身の理解度を深めようという、自分の為でもあります。

私自身は、ロケットや衛星などの表面的な知識もなく、それどころか天体や天文学、星座ですらさっぱりな「男の子なら宇宙に憧れた方がいいんだろうな」ぐらいの庶民なため、お詳しい方は生暖かく見守っていただければと思います。

直近は、有人宇宙領域、つまり国際宇宙ステーション関連の業務をメインとしており、
いわゆる衛星やロケットなど、船外の宇宙については"まだ"知識が皆無なのでご理解をば。

本記事も、基本的に有人宇宙領域の話になります。

誤り等の指摘は大歓迎です!


0. 対象のドキュメント

2025年3月に JAXA 公式の Int-Ball2 シミュレーターが公開されています。
このシミュレーターのマニュアルも JAXA に納品するフォーマットとある程度共通しているため、
本記事では、このユーザーマニュアルに散りばめられたキーワードから、その背景の解説や、宇宙事業への参入方法などの足掛かりなど紹介していければと思います。

以降、この資料の各章が、本記事の各章と同じになるようにしています。


1. 本文書の目的

1.1. JEM

冒頭に出てくる JEM は、Japanese Experiment Module(日本実験棟)の略称で、通称"きぼう"(以降"きぼう"に統一)です。
この"きぼう"は、国際宇宙ステーション(以降ISS)の1区画として連結されており、2025年5月現在、大西卓哉さんが滞在しているのがまさにここになります(居住エリアは別にあります)。


日本の"きぼう"に限らず、ISS はアメリカ、ロシア、日本、欧州、カナダで運用されており、様々な区画をモジュールとして連結して運用できるようになっています。

©NASA (https://humans-in-space.jaxa.jp/iss/about/config からの引用)

なお、人類が宇宙に滞在できる空間は、このISSと中国単独で運用している天宮のみです。


また、他国の申請でも日本企業を通すことで"きぼう"内での運用が認められており、アジア圏の宇宙への窓口としても機能しています。


1.2. JEM 船内可搬型ビデオカメラシステム実証2号機(Int-Ball2)

Int-Ball2 は、地上からの遠隔操作により、ISS内を浮遊して映像を撮影することができる船内ドローンになります。

(引用記事中の写真「Int-Ball2の地上試験の様子」は、地上で無重力を模擬するために、Int-Ball2 を強力な風で浮かせて水平方向への推進や旋回をテストしている様子です)


記事内で「クルーの撮影に関する作業時間をゼロにすることを目標」としていますが、
その背景として、クルー(宇宙飛行士)に作業を依頼するためには相応のコスト、つまり人件費がかかるためです。

その費用、2025年時点で 時給¥5,500,000 です。
(宇宙飛行士の懐に入るわけではないですが)

撮影という単純作業を地上の人が遠隔で行えるなら、それに越したことはないですよね。


その他、ISSを利用する際の費用が以下に掲載されています(過去のページですが、費用はほぼ変わらず)

種類 料金 概要
打ち上げ 330万円/kg ロケットでISSに打ち上げる費用
回収 550万円/kg ISSから地上に回収するための費用(多くは回収を諦めて破棄する)
クルータイム 550万円/hr 宇宙飛行士にISS内で作業をお願いする費用
軌道上保管 25.6万円/年/L ISS内で常温保管する費用
冷凍・冷蔵機能付加 393万円/4ヵ月/L ISS内で冷凍・冷蔵保管する費用
通信 6,200円/Mbps/hr 地上へ通信(Downlinkのみ)を行う際の費用

1.3. K-RPC

この Int-Ball2 は ROS (melodic) ベースで実装されており、これを応用してJAXAが定期的に K-RPC というイベントを開催しています。ここでも主にアジア圏に開放しており、アジア圏の宇宙への窓口という役割も果たしています。


2. 関連文書

この章では、本文書に影響を与える文書などを羅列しており、JAXA案件で納める文書でも共通のフォーマットです。
ただし「どこに何が定義されているか」を把握した上で、その参照用にリストアップする必要があり、NASA文書を含む膨大に存在する"秘匿された"資料から引用するのは非常に困難な作業になります。

実際、このユーザーマニュアルが参照している各ドキュメントも、Web上で検索しても出てきません…


3. Int-Ball2 技術実証プラットフォームの概要

3.1. テレコマ

記事などによって Telemetry, Tracking and Command (TT&C) や、Telecommand など異なる意味合いで使う場合があるようですが、
遠く離れた機器とデータを送受信(telemetry)したり、指示を出したり(command)することの総称だと解釈すれば大きく外れることはないと思われます。


3.2. JCAP2

およそ WiFi のアクセスポイントと解釈して良い機能


3.3. 1553B

宇宙航空・軍事系などで採用されている通信規格。MIL-STD-1553B の略称で、MIL-STDは通称ミルスペックでもあります。

車載などでよく利用される CAN と比較すると以下の特徴があるようで、設計はシンプルにしている分、機能が増えていくと実装が複雑化していく印象を受けました。
(こちらもまだ未着手で表面的な理解ですが、いずれ深堀したいですね)

特徴 1553B CAN
制御方式 中央制御型 分散制御型
駆動方式 ポーリング型、タイムトリガ型 イベント駆動型
方向性 高信頼性・耐障害性・タイミング制御 コスト・柔軟性・拡張性

専門的に取り扱っている企業さんもいたのでご紹介


3.4. LEHX

以下の「きぼう船外実験プラットフォーム 利用ハンドブック」からの抽出。

「JEM 次世代イーサネット・ハブ/多重化装置(Layer2 Ethernet Hub and Multiplexer : LEHX)」が 2011 年に打上げられる予定です(2011 年 2 月の HTV 2 号機で打上げ予定)。
この LEHX は現状の PEHG と呼ばれる中速系ルータと交換され、運用が開始されると現状と比して中速系に関しては以下の向上が見込まれています。
・理論上の通信能力が 100Mbps となる
・中速系データの多重化が可能となる


文中にある、PEHG の記載と合わせ読むと、100Mbpsのハブに相当する機器のようです。

10BASE-T の実験装置イーサネットハブゲートウェイ(Payload Ethernet Hub Gateway : PEHG)のイーサネットサービスも利用可能で、きぼうの ICS 経由、またはきぼうから NASA システム経由でのダウンリンクが可能です。


3.5. アップリンク・ダウンリンク

アップリンク(uplink、up link)とは、衛星通信、あるいは衛星放送や衛星中継を利用するときに、地球局(地上局)から通信衛星に向けて送信される通信経路のこと。

ダウンリンク(downlink、down link)とは、通信衛星、放送衛星及びレピータ通信において、衛星またはレピータから地上の受信者に向けて発射される電波の通信経路を指す言葉。

似たような言葉として、日常的に使われているアップロード・ダウンロードがあるが、リンク、つまり単純なデータの送受信ではなく接続の工程も含まれている様子。


4. 環境構築手順

宇宙固有の用語はなさげ

5. 操作手順

宇宙固有の用語はなさげ


6. その他

ここまでは、固有名詞などに触れてきましたが、まとめとして、有人宇宙領域に参入する場合どんな進め方を取るかについても触れていきます。


有人の宇宙利用は、主に以下の部門と審査や調整などを行うことになります。
特に窓口として 「きぼう」有償利用委員会 とのやり取りがメインになっていました。

(※ https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/library/item/committee/system.pdf からの引用)


ただし、この部門を民間事業者に委託を進めており、順次移管が決定した事業者に移行が進められています。

1.2. JEM 船内可搬型ビデオカメラシステム実証2号機(Int-Ball2) でも触れた、各リソースに対する費用は、今後事業者毎に価格改定が行われることも予想されます。
元々JAXAではこれらの費用に対し、条件を満たすことで9割ほどの減額や、上限値の範囲内での無償化などの金銭的なサポートがありましたが、これらが今後どこまで利用できるのかは今の所不明です。


私が今関わっている関係図がおよそ以下のような図式で、利用者はJAXA内外と連携して推進していくこととなります。


7. おわりに

どんな分野や業界に関しても、ある程度その領域に入ってみないとわからない情報などあると思います。
ましてや、非公開な情報も多い宇宙・航空関連だと部外からではわからないことだらけで、本記事がそれらの取っ掛かりになれば幸いです。

今後も、参入プロセスや開発モノなど、この業界に入って得られた知識や経験を、公開情報をベースに発信していけたらと思っています。


なお、2024年末ごろから、Int-Ball2開発関係者であるJAXAメンバーが定期的にイベントを開催しています。
技術的な要素がメインで、本記事のテーマである事業者寄りの話は出てこないとは思いますが、
ご興味ある方、参加してみてはいかがでしょうか?

また、Int-Ball2 の動かし方については別途記事にしておりますので、興味ある方トライしてみてはいかがでしょうか。

その他本家JAXAとは異なりますが、Steam で ISS シミュレーターも公開されています(無料)。

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