TL;DR
キーボード配列をQWERTY以外に知らなかった自分が、ある思いからDvorak配列の習得に4ヶ月弱挑戦しました。
縦軸は ATC計測サイト という新配列界隈では有名なタイピングサイトのスコア(文字数/分)です。Dvorak配列、QWERTY配列の両方で、一日に何回か打鍵し上位3スコアをで記録しました。
途中から、ATCサイトの問題文の更新を挟んだので必ずしも連続的な推移ではないのですが、結論からいうと、最終的にはQWERTY配列と同等の速度に達することは確認できました。
そこに至るまでの4ヶ月弱の軌跡が、この記事になります。
なぜ新配列に挑戦したか?
以前の記事で、「ホームポジション±1キーの範囲内での全てのPC操作を完結させる」というコンセプトのもと、100%キーボードから、40%キーボードへの移行に挑戦した記録を記事にしました。(参考: RealForce信者が「Corne V4 Chocolate」を1年使い倒して語りたい事: 40%キーボードへの挑戦と到達点)
そこで、記号・数字・マウス操作を完結させるキーボード配列探しは、自分の中では一旦完結しました。
ただ、その快適さ故、QWERTY配列の不自然さは目立ってきました。ホームポジションに頻出キーが無いために指が上下にせわしなく動く という点です。これまで甘受していた点なのに、ボトルネックというのはいくら解消しても別の箇所に移り続けるものだなと改めて思いました。
そこで、試みとしてQWERTY配列ではない別配列(のちに述べるようにDvorak配列にしました)で、半年以内にどこまで行けるか挑戦することにしました。
なぜDvorak配列を選んだのか?
私は本職がソフトウェアエンジニアなので、英語・日本語・コード・数字の全てにバランスの取れた配列が必要でした。 Dvorak配列以外にも数多くの選択肢がありますし、なんならキー配列を1から自作するという選択肢さえあります。
ですが、以下の点が決め手で Dvorak配列を選びました。
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多くのOS・デバイスで標準対応している配列である:
Mac OS、iOS にも標準で入っているため、スマホやタブレットでも低コストで切替えられます。経験値を稼ぐことが、スキル取得においては微妙な効率性の優劣より遥かに重要という考えがあったため、この点は最初から重視しました。 -
ホームポジションに頻出キーが集まっている:
最初に述べた、40% QWERTYの問題点の根本を潰していることは必要で、Dvorak配列はこれを日本語・英語の両方で明らかに解決しています。 -
日本語での同指連続打鍵が構造的に少ない:
キー配列の効率性指標として「同じ指が連続して動く回数が少ないほどよい」 というものがあります。この指標は、QWERTYで「にゅ(NYU)」「みゅ(MYU)」「ぬ(NU)」「む(MU)」「ざ(ZA)」「で(DE)」が打ちにくい理由を説明します。Dvorak配列は母音が全て左手の各指のホーム列にあり、かつ、奇跡的に日本語で主要な子音のほとんどが右手にあります。なので日本語の「子音→母音」「母音→母音」のほとんどのケースで同じ指が連続して動きません。
以上の十分過ぎるメリットがある一方で、いくつか懸念があったことも一応述べておきます。
まず、k キーが母音とともに左手にあることで、そのままでは日本語の「カ行」が相当打ちにくなります。ただし、IMEのローマ字変換表を5行修正することで綺麗に解決します。一般的なローマ字変換表では「か(KA・CA)」「く(KU・CU)」「こ(KO・CO)」の自由度は認められていますが、さらに 「き(KI)」「け(KE)」「きゃ(KYA)」「きゅ(KYU)」「きょ(KYO)」の5つを c キーで代用できるようローマ字変換表を修正 しました。これで、カ行・キャ行を左右交互打鍵で打てるようになります。これだけは Dvorak配列導入時に不便に感じた点ですが、この設定変更は1分でできるので良しとしました。
また、理論的な考察ではありますが、そもそも「左右交互打鍵」よりも、同手の別指で連続入力する「アルペジオ打鍵」のほうが精度・速度ともに優れているという説もあります。Dvorak配列は日本語文章に対してアルペジオ打鍵が起きにくい配列です。もしかすると、親指も通常打鍵の指として使いアルペジオ打鍵を増やしているようなタイパーの方なら、そういった工夫の余地がないことがネックになるのかもしれません。ただ、Dvorak配列にも DvorakJP拡張 というさらなる発展があったりもします。その奥深さに一旦安心して、その理論限界の疑念はおいておくことにしました。
論理配列: 40% Dvorak 配列
40%キーボードに Dvorak配列を収めるのは、ほとんどカスタムの余地はなく、QWERTYレイヤのアルファベットと句読点をキーを配列し直すだけです。
ただし、一般的なDvorak配列は最上段左キーは '" ですが、ここでは /? に意図的に変更しました。理由は、以前考案した 40% QWERTY レイヤとで、扱う記号を統一したかったからです。
結果的に、他レイヤを含むレイアウト図は以下のようになりました。
レイヤキーが左手に4つあり、「レイヤキーを押している間のみ」そのレイヤが有効になるというレイアウト図です。
この配列は、Karabiner-Elements を利用できる方に対してはカスタムルールを公開していますので、もしご興味がある方はご参照下さい。
どのように上達していったか?
タイピング速度の推移については冒頭に述べた通りです。
以下、各スコア帯にいたときの自分の過去のメモを元に、習得までの軌跡を辿ってみます。
Day 1〜10: 10〜60 字/分
Dvorak配列入門で、よく引用されている海外のサイト Dvorak keyboard training をとりあえず一通りこなしてキー配列を指で覚えました。
この時点でキーボードを見なくても文字を打てるようになりました。
ただ、ここで気付いた事として、日本語でのキー入力を思い通りに打つには「キー1打」だけを意識するのでは不足であり、 「連続する2〜3打のシーケンス」を覚えることが必要 だと気づきました。
実際、QWERTY配列で打っていた自分は日本語をローマ字に分解して指が動いていたわけではなく、五十音や拗音の「母音+子音」ペア、さらには「です」「ます」「である」のような数え切れない頻出助詞や ls cd git のような頻出コマンドまで、意図が浮かんだら個別キーへの分解など経由せず、直接指が動いていることに気づきました。これは自分の中では面白い自己発見で、これに気づけただけでもこの試みをやってよかったなと思いました。
ですがまだ道半ば。
Day 11〜40: 130 字/分
このあたりから、仕事の中で QWERTY配列に代わって Dvorak配列を使えるようになりました。
仕事が忙しいときでも、入力が遅くなった分、書く前によく考えるようにして手戻りを防ぐ工夫をすることで、このスコア帯なら意外と仕事の効率は維持できた気がします。
仕事やプライベートでの文字入力において、頻出の語句をまとまりとして認識し、入力シーケンスを覚える意識をしました。
グラフ上では QWERTYスコアが少し落ちているように見えますが、これは時間がなくて QWERTY配列の試行回数が減った事が主因であり、時間をかけさえすれば、スコアは伸びた気がします。
Day 40〜80: 160 字/分
スコアの伸び率が小さくなった期間です。この期間は、ATC計測サイトのスコアを伸ばすのをやめて、仕事の中で使い倒していた期間です。「スコアを伸ばす」という目的は、日本語変換を効率化させるとか、不得意な問題文をとばす、のような小技で確率的に達成しやすくできてしまうので、一旦短期目標を変更した期間です。
それでも、スコアは着実に伸びていたのは、文字を入力することに余裕が出始め、先のセンテンスや次の問題文を目の端で読み準備できるようになった感覚がありました。
Day 80〜120: 230 字/分
このスコア帯で、だいたい基礎的にはQWERTY配列と同じレベルに達しており、あとは「定型文」や「頻出文字列」の自分の中の引き出しの数のみが、QWERTY配列より劣っているなとはっきり実感できました。なので、一旦スコアを伸ばすことに短期目標を戻し、出題分に合わせて「頻出文字列シーケンスを覚える」は意識しつつ、「日本語変換をIMEに学習させる」「問題文の先読みを意識する」「不得意な課題文のスキップ」の小技を適宜取り入れて課題に打ち込みました。
ATCでは 230台は出るようになりました。また、そんなにやり込んではいないですが「実タイ」に一定数トライしてみて 180台は出るようになっていました。
遊び心からキーボード配列をQwerty→Dvorakにして3ヶ月が経つ。変換込みで180文字/分 は難なく出せるようになった。ただローマ字変換表に手を入れたのでローマ字ベースの純粋な打鍵速度を寿司打などで測れない。変換の不定性なくローマ字変換の自由度を許す日本語タイピングサイトがあれば…https://t.co/jp60tpOxaP
— cafebabe (@cafe6a6e) October 11, 2026
ローマ字変換表に手を入れたので、ローマ字ベースの有名タイピングサイトでは良いスコアが出せないのは、若干残念ではあります。
最後に伝えたいこと
この試みの最初に、新配列について自分も疑問に思っていたことに、現時点での考えをまとめます。
「疲労度」は減ったか?
総じてQWERTY配列よりも良いタイピング体験がてきていますが、「疲労感」に関して現時点で率直に言うと
右手小指の負荷は増える:
Dvorak配列で必ず全員が通過する感想だと思います。もともと p ;: を担うだけだった右手小指が、日本語で s z を担うようになったため、圧倒的に負荷が増えます。また、最初期はタイプミスのカバーでバックスペースも頻繁に打つでしょうから当然疲れます。ただ、その他の指の負荷が均等に小指に逃げたとも言えるので、トレードオフかもしれません。
練習によって疲れる:
練習期間は、通常期間よりもタイピングの総量が増えているので、シンプルに疲れます。私はまだ練習期間を抜けきっていないので、QWERTY時代とのフェアな比較はまだできてないのかもしれません。
しかし、指の動く総量が明らかに減り、その結果としてタイプミスも少なくなりました。打鍵速度でカバーしなくても着実に打ち進められる感覚があり、それが快適に感じられます。
QWERTY配列とコンフリクトするか?
共用PCを使うなどでQWERTY配列を触った際にコンフリクトが生じるかについてです。個人差があるかもしれないですが、私の現在の感覚は
5分以内にQWERTYに完全に戻せる:
実際、スコアのグラフから分かる通り、QWERTYの速度は落ちませんでした。ただ、切り替えた直後は混乱します。特に , . は文末に打ち込む相槌のようなキーなので勢い間違えやすいです。
ショートカットキー・機能コマンド入力前の判断分岐が増えた:
今時点で一番気になっているのがこれです。具体的には コピペ⌘C ⌘V、 保存⌘S、Vim操作:w :q i o gg d、 Linuxコマンドcd ls git、などです。これらは脈絡無くいきなり打ち込む事が多いので、その場合「今何配列か?」の確認のために、キー入力の前に意識が必要です。ただ、何かのボトルネックになるほどのものではないですし、使い込んでいけばそのうち違和感も取れるのかもしれません。
Dvorak配列への移行を他人におすすめできるか?
気楽にはおすすめできません。ですが、この記事を読んでくださった上で、強い興味を持たれた方に対しては、Dvorak配列は良い配列だと思いますし、新配列への挑戦の選択肢としておすすめしたいと思います。
In honor of Dr. Dvorak.

