はじめに
本記事では、次世代DLT・サービスをエンタープライズ領域で展開するにあたって必要なDLT/ブロックチェーン基盤選定・システム開発ポイントについて、本番稼働システムでの開発・運用実績を交えながら解説します。 ※Corda Day 2024講演内容から抜粋。
当社の事業領域とブロックチェーンシステム開発実績
株式会社シーエーシーは、1966年に日本で最初の独立系ソフトウェア専門会社として発足し、現在はDX技術活用を推進するシステムインテグレーターとして金融・医薬・産業を中心とした事業領域において、社会やビジネスのイノベーションに寄与する、価値あるソリューションをグローバルに提供しております。
ブロックチェーンについては、2016年から専任部署(現:ブロックチェーン推進グループ)を設立し、大手金融機関を中心とした顧客向けに、主要なエンタープライズ・ブロックチェーン/DLT基盤[Corda、Quorum、Hyperledger系]を用いた先進ユースケースを実現するシステム開発・本番運用を行ってきました。
その実績から、2024年に日本で唯一の「Corda」プレミアパートナー認定を取得しております。
エンタープライズBC/DLTの開発実績とCordaプレミアパートナー認定取得について
エンタープライズ・ブロックチェーンを取り巻く環境変化
ブロックチェーン技術は幻滅期を超えて啓発期へ
Gartner社のハイプ・サイクルによると、ブロックチェーン技術は幻滅期を超えて、2024年から啓発期に入っています。ようやく、幻滅期の技術的課題を解決し、再び市場の期待に応えることが出来る状態になったと言えます。
一方で、幻滅期にブロックチェーンのPoB/PoCを実施した企業も多くあり、その際にブロックチェーンの実用性・ビジネス化についてネガティブな結果で見送り判定された場合、啓発期に入ったブロックチェーンへの取り組みに後れを取る、「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまう可能性があります。これに対しては、組織として継続的に取り組む体制を構築・維持しておく事が重要となります。
また、新しい技術の啓発・普及期への移行は、その技術の本質的な部分ではなく(コア部分は既に完成している事が多い)、周辺の技術・サービスが拡充される事によってもたらされる事があります。後述するCorda4⇒Corda5へのアップデートは、まさにDLT基盤としてのコア部分の変更ではなく、これまでの過渡期での本番開発・運用を通して得られたインフラ面(クラウドネイティブサポート等)の強化に主眼が置かれています。
ブロックチェーンは、パブリック型とプライベート型/コンソーシアム型に分類されます。
どちらを用いるかはユースケースや合意形成等の要件によりますが、パブリック型のBitcoinやEthereumに始まり、企業間取引等の用途での検討を経て、それぞれ変遷・発展してきており、その組み合わせとなるハイブリッド型でも検討されています(エンタープライズ用途でもパブリックリソース・チャネルの活用が有効となる場合)。特にWeb3においては、ビジネス領域(to C)やパブリックリソースの活用を前提としたパブリック型、及びプライベート型との組合せで検討される傾向が増えています。
エンタープライズ用途ではプライベート型/コンソーシアム型が向いていますが、ビジネス領域やユースケースに応じてブロックチェーン基盤を選定し、コンソーシアムでの合意を得て最適な基盤を採用する必要があります。
一方で、エンタープライズ用途では、コンソーシアム等でのノード管理を分散化する上では、最初からパブリック型のように分散化するのではなく、コンソーシアムの拡大に合わせて柔軟にノード・リソースを追加・調整していく必要があります。
フェーズ①では、実質1社が集中管理して、他社はAPIアクセス等で利用するような形が想定されます(名目上の論理的な自ノード保有に留まる)。
フェーズ②では、多くの企業が(クラウド上の)自ノードを持つ形になりますが、使用リソースの利用状況(トランザクション)は一部の企業に集中しており、自ノードを保有しているものの負担しているリソースに見合うほど利用出来ていない企業が混在する状況も想定されます。
フェーズ③では、各社がノードを持ち合い十分に分散化されている最終形となる事が想定されます。
エンタープライズ・ブロックチェーンの基盤選定について
ブロックチェーンは、DLT(分散台帳技術)の一部として分類されます。
ブロックチェーンは基本的に同じデータをブロック単位で共有する単一台帳ですが、DLTは台帳を分散して管理し、その中でもCordaでは、レコード単位で各ノード間において共有する/共有しないデータをトランザクションを送信する際に選択出来るイメージとなります。
エンタープライズ・ブロックチェーンにおいては、グローバルでも3大基盤と呼ばれるEnterprise Ethereum(Quorum)、Hyperledger Fabric、Cordaを採用される事例が多くなっており、各基盤でそれぞれ異なる特徴を持っています。
例えば基盤選定で重要なポイントとなるデータの秘匿化について、各基盤で出来る事、出来ない事がある為、ユースケースに応じて採用する基盤を選定する必要があります。今回は取り分け重要な(特定の基盤でないと実現出来ない場合がある)”秘匿性(データ共有)”の違いについて取り上げて比較検証しています。
BC基盤比較観点の検証例:秘匿性(データ共有)
基盤選定にあたっての検証ユースケースとしては、3社(A社/B社/C社)で各社毎にノード(A/B/C)を構築、ユーザーアカウント(a/b/c)を作成して、ユーザーaからユーザーbへ送信したものを、ユーザーbからユーザーcへ送信した際の各ノード・ユーザーから見えるデータ(履歴)を確認し、データ共有における秘匿性を2つの基盤(Quorum、Corda)で比較検証しています。
その際、データ共有設定として、(1)全体共有、(2)当事者間のみ共有[過去遡求対処無し]、(3)当事者間のみ共有[過去遡求対処有り]の各ケースにおける送信データ履歴の秘匿化状況を確認しています。
(1)全体共有についての比較結果としては、QuorumとCordaともに、同様の結果となり、各ノードへ同じ内容のデータを共有・参照する事が可能となっています。
(2)当事者間のみ共有[過去遡求対処無し]についての比較結果としては、Quorumでは、ユーザーaからユーザーbへ100送信されたものを、ユーザーbからユーザーcへ100送信した際、ユーザーcからユーザーaとユーザーbの取引があった事実(取引ハッシュ値)は見えてしまう結果となっています。
(3)当事者間のみ共有[過去遡求対処有り]についての比較結果としては、Quorumでは過去遡求対処自体が出来ず取引があった事実(取引ハッシュ値)が見えてしまいますが、Cordaでは、過去遡求対処(フローを都度再作成)する事により、ユーザーaからユーザーbへ100送信した後に、ユーザーbからユーザーcへ100送信した際でも、ユーザーcからユーザーaとユーザーbの取引があった事実を過去遡求・検知出来ないよう秘匿化する事が出来ています。
このようなデータ共有時における秘匿性を担保する事で、以下のユースケース事例(イメージ)が実現出来るようになります。
川上から川下へデータ連携する際、サプライチェーン全体で共有すべき識別IDは全体共有し、川上の特定ノード間(A社とB社)のみで共有すべきデータ(取引)は、川下のノード(A社とB社以外)には共有しない等のコントロールが可能となります(Cordaでは取引があった事実を含め秘匿化可能)。
次世代版「Corda5」を用いたシステム開発について
前段のブロックチェーン技術が幻滅期から啓発・普及期へ移行する際に生じる環境変化のトピックでも触れた通り、Corda4からCorda5への移行でアップデートされた部分は主にインフラ面の構築・運用にあたっての改善となっています。
Cordaネットワークの運用に関しては、Corda4がノードを別々のインスタンスに構築して、ノード毎にCordappの配布などを行う必要があったのに対し、Corda5では仮想ノードを同じKubernetes環境(1クラスタ)に構築して、ネットワーク全体の管理が(REST API経由で)まとめて設定可能となります。これにより、インフラ運用コストを下げ、メンテナンス性を向上させる事が出来ます。
また、複数クラスタ(テナント/ノード)を管理する際も、ノード追加やノード毎のリソース調整等も容易に実施出来るようになっています。これにより、エンタープライズDLTの分散化フェーズのトピックであげたような、コンソーシアムの発展・分散化に合わせて、各ノードのリソースを柔軟に調整する事も可能となります。
エンタープライズBC/DLTに取り組む上でのポイント
これまでのトピックスをまとめたものが以下となります。
当社では、社内で組織的にブロックチェーン・Web3に取り組む体制を構築・維持し、社員にトークンエコノミーといった新しい概念に対応するリテラシーを高め、社内に根付かせる一助として、社内で独自トークンを発行・配布し、社員同士で感謝やスキルに対する賞賛の目的別トークンを送り合って可視化する「KOUKA」というツール(タレントマネジメント+ピアボーナス)を提供しております。ご興味が御座いましたら、下記からお気軽にお問合せ下さい。
■ブロックチェーン技術を活用したつながり可視化ツール「KOUKA」:
https://www.kouka-portal.com/
おわりに
当社では、ブロックチェーン研究・プロダクト開発実績[KOUKA等]と、ブロックチェーン先進ユースケースのデジタルSI(受託業務)開発実績[ST/SC,SCM等]、及びAIやIoTの技術研究・プロダクト開発の実績を掛け合わせ、お客様のビジネスを推進するコンサルティング~PoCシステム開発~本番向けシステム開発・運用~内製化支援までワンストップで提供させて頂いております。