この記事はUiPathブログ発信チャレンジ2025サマーの31日目(最終日)の記事です。
昨日は@natsuumare27さんの記事(https://note.com/natsuumare27/n/n40d7418eac13 )でした。
※UiPathブログ発信チャレンジ2025サマー2025について
https://note.com/shumpei_w/n/n55156ca80dbc
はじめに
皆さん、こんにちは!
UiPath テクニカルサポートのWatanabeです。
この記事では、私が所属するテクニカルサポート部門で行っている、ケース管理業務におけるエージェンティックオートメーション(Agentic Automation)の事例について紹介します。
本内容は、2025年7月4日に開催されたUiPath Friends 九州で紹介させていただいた内容の一部を含んでいますが、イベント当日は実装内容まで紹介する時間が十分に取れなかったため、この記事では実装の詳細を中心に説明します。
イベントに参加された方はもちろん、参加されていない方も、エージェンティックオートメーションに興味のある方には是非ご覧ください。
UiPath Friends とは?
UiPathユーザーのための学びとつながりの場です。
東京、大阪、福岡などでイベントが開催されており、2025年7月4日の「UiPath Friends 九州」では、 エージェンティックオートメーションの最新の進化について技術や事例を共有しました。
※2025年7月4日に開催されたUiPath Friends 九州について
https://uipath-friends.doorkeeper.jp/events/184375
1.エージェンティックオートメーションを導入した背景
まず、ケース管理業務にエージェンティックオートメーションを導入した背景を説明します。
1.1 顧客満足度改善のための施策を考える
テクニカルサポート部門では日々、お客様から寄せられる問題や質問への対応を行っています。その中で最重要視しているのが顧客満足度です。
データ分析の結果、お客様が回答を待っている時間が長いケースにおいて、満足度が下がる傾向が明らかになりました。
この課題を解決するには、待ち時間を短縮することがキーとなります。しかし、お客様の複雑な問題や質問に迅速に回答することは容易ではありません。例えば再現が難しい事象では、必要な情報の収集や原因の特定が難しく、調査に時間を要する場合があります。
1.2 サポートエンジニアの業務と課題
サポートエンジニアが日常的に抱える業務と課題について説明します。サポートエンジニアは複数の問い合わせケースを管理し、優先順位を判断しながら対応を進めています。
しかし、ケース数が多くなるほど、どれに優先して対応するべきか迷うことがあり、対応が遅れるケースも少なくありません。その上、ケース管理が属人化しているため、効率的なプロセスが確立しにくいという課題もあります。
1.3 解決策はエージェンティックオートメーション
こうした課題を解決するために、私たちはエージェンティックオートメーションを活用することを決断しました。
エージェンティックオートメーションは、自動化に加えてAIエージェントを活用することで、複雑なタスクを効率的に処理する仕組みです。今回のケースでは、以下のような処理を行う「ケース優先順位付け」のエージェンティックオートメーションを開発しました:
- ケース管理システムから今日対応すべきケース一覧を従来のRPAで取得
- AIエージェントによってケース一覧を優先度の高い順に並べ替え
- 結果をサポートエンジニアに表示
これにより、属人化の防止と業務負担の軽減を同時に実現することを目指しました。
2. エージェンティックオートメーションを使った開発の全体像
2.1 処理の流れ
処理の主要な流れは以下の通りです:
- ケース管理システム(Salesforce)から今日対応すべきケース一覧を抽出
- AIエージェントにケース一覧を渡し、優先順位付けを依頼
- 出力された結果を、優先順位付けされたケース一覧として表示
今回、「1. ケース管理システム(Salesforce)から今日対応すべきケース一覧を抽出」の処理には従来のRPAプロセスを活用するため、この部分の実装手順の説明は割愛しますが、『Salesforce HTTP Request』アクティビティを使ってクエリを実行してケース情報を抽出しました。
2.2 プロンプト設計
AIエージェントで重要なのは、「プロンプト」を適切に設計することです。プロンプトはAIへの指示文で、正確かつ柔軟な対応を引き出すために非常に重要です。
今回のプロンプトには以下の内容を含めました:
- インプットデータの説明(例: ケース一覧データ)
- 優先順位付けのルール(例: 「優先度」が高いものを優先的に対応する、など)
- 出力形式の指定(例: 表形式)
プロンプトを利用することで、従来のRPAで必要だった複雑なロジックや条件設定を省略することができ、実装工数を大幅に削減できました。
2.3 エージェンティックオートメーション ツール
UiPathにはエージェンティックオートメーション を実現するために使うツールが複数用意されています。
今回は、以下3つのツールを活用した例について、それぞれ紹介します。
ツール名 | 説明 | 今回の適用範囲 |
---|---|---|
Autopilot for Everyone | AIを活用した生産性向上ツール | 試験導入 |
Gen AI Activities | 生成AIを活用したアクティビティ群 | お試し版リリース |
Agents | 特定の機能や目的に特化した、AIを活用したツール | 本番環境での高度な運用 |
3. 実装手順
3.1 Autopilot for Everyone による実装
最初の試験導入では、Autopilot for Everyoneを活用し、試作品開発・デモを行いました。
Autopilot for Everyoneは、AIを活用した生産性向上ツールです。主な特徴として、自然言語でタスクを依頼したり、クロスプラットフォームの自動化を実行したり、データの簡単な取得・分析や、テキスト生成や要約などの生成AI機能が挙げられます。
【手順】
-
Autopilotの環境を整備
まず、Autopilot for Everyone をインストールするための前提条件を満たすよう準備します。前提条件は公式ガイドに記載されていますので、こちらをご参照ください。
https://docs.uipath.com/ja/autopilot/other/latest/everyone-admin-guide/prerequisites-for-installation
次に、Autopilot for Everyone を利用できるようにするため、インストールを行います。手順については下記記事が参考になります。
https://qiita.com/MUCHIUCHI_OJISAN/items/cafa42cb368927b492a3 -
ケース一覧を取得するRPAプロセスの作成
ケース管理システムであるSalesforceから、今日対応すべきケース一覧(担当者が所有するケース一覧)を取得するRPAプロセス(プロジェクトの対応OS:クロスプラットフォーム)を作成します。
このRPAプロセスをAutopilot for Everyoneから実行できるようにするため、プロセス編集画面で、"Autopilot"のラベル付け(Autopilot有効化)を行う必要があります。
<Autopilot 有効化手順>
Orchestrator フォルダー>オートメーション>プロセス ページで該当プロセス編集画面を開き、「③その他の設定」に移動します。「ラベル」に”Autopilot”を追加します。これによりプロセスがAutopilot 向けに有効化されます。プロセスを保存します。
■図2. Autopilot 有効化
-
プロンプト設定
Autopilot for Everyoneでは、Automation Cloud の「管理>AI Trust Layer>Autopilot for Everyone」ページで、該当テナントを選択し、「Autopilot for Everyone>開始プロンプト」を開き、対象のフォルダーを選択した画面で「新規作成」ボタンを押して、新しい開始プロンプトを作成できます。
■図3. 「新規作成」ボタン
■図4. 開始プロンプト
必須入力個所を埋めて、作成した開始プロンプトを「保存」したら、実装は完了です。
■図5. 保存ボタン
Assistantを開き、Autopilot 画面から、「ケース優先順位付け」(開始プロンプトの「ユーザーに表示されるプロンプト」に設定した値)が表示されることを確認します。
これをクリックすると、開始プロンプトの「AIに送信されるプロンプト」に設定した内容が入力画面に表示されますので、「送信」ボタンを押して実行して、期待する出力結果を得られるか確認します。
【開始プロンプト設定例】
- 部署:Product Support
- カテゴリ:Automation
- ユーザーに表示されるプロンプト:ケース優先順位付け
- AIに送信されるプロンプト:
「SFDCケース抽出」プロセスを実行し、ケース一覧を取得します。
ケース一覧を以下の条件で優先順位が高い順に並べ替え、出力してください。
~並べ替えのための条件記載、中略~
回答のフォーマットを以下の列を持つ表形式にしてください。
~表の列名を記載、中略~ - 注目のプロンプトととして表示:False
- プロンプトとともにファイルのアップロードを必須にする:False
※「部署」と「カテゴリ」はAutopilot画面でプロンプトを探す際に便利です。
※「AIに送信されるプロンプト」について、「~並べ替えのための条件記載、中略~」と「~表の列名を記載、中略~」の個所は、自分で考えた指示文に置き換えます。
【結果と考察】
少ない手順かつ直感的な操作でプロセスを構築できました。
一方で、一定以上のバージョンのAssistantのインストールと、特定のテナントへの接続が必要になります。これは「ケース優先順位付け」のエージェンティックオートメーションを使うことを想定しているサポートエンジニアにとっては致命的で、本番運用では活用が難しいと考えました。なぜなら、サポートエンジニアは調査や再現検証などで、頻繁にAssistantのバージョンや接続環境の変更を行うからです。回避策として、Assistant Webを使うことや、VMで環境を分けることなどが考えられるものの、サポートエンジニア全員にこのような回避策を強制するのは難しく現実的ではありません。
以上から、本番運用を目指すにあたり、別のAIツールの活用を検討することになりました。
3.2 Gen AI Activitiesによる実装
本番運用に向けて、Gen AI Activitiesを選択し、サポートエンジニア向けにお試し版をリリースしました。
Gen AI Activitiesはワークフロー内でAIを組み込むことができます。特定のAI関連タスク(テキスト生成、画像分析など)に適していて、今回は『コンテンツ生成』アクティビティを使用しました。
ワークフロー内で部品(アクティビティ」として活用するため、今回必要な処理は全て一つのワークフロープロセスの中に含める必要があります。
【手順】
-
ワークフロー内にケース一覧を取得する処理を実装
-
出力結果をSalesforce 上に埋め込まれているツール側で出力できように実装
※弊社独自ツールのため、詳細は割愛します。 -
ワークフローをパブリッシュし、プロセスを作成
プロセスを作成したら実装は完了です。
今回はSalesforce上に埋め込まれている弊社独自のツールを使い、Orchestrator APIでプロセスを呼び出し実行しました。
【『コンテンツ生成』アクティビティの設定例】
- 新しいコネクションを追加:(予めAutomation Cloudの管理>Integration Serice ページで「UiPath GenAI Activities」の新しいコネクションを追加しておき、こちらを指定します。)
- モデル名:claude-3-5-sonnet-v2:0
- Prompt:userPrompt(変数)
- 個人を識別できる情報(PII)を検出:False
- システム プロンプト:"You are a helpful assistant" (既定値)
- コンテキスト グラウンディング:File resource
- ファイル:in_pathReference (入力引数)
- 結果の数:100
- 上位の生成テキスト:getnAIOutput
※「モデル名」に選択するモデルによって出力結果が変わりますので、動作確認して最適なモデルを指定することをお勧めします。
※「システム プロンプト」は既定値としていますが、実際はAIへの指示文を設定する必要があります。
※変数 userPromptにはAIへの指示文を自然言語で設定しています。
※入力引数 in_pathReference には、ケース一覧が保存されるファイルのパスが設定されています。
※変数 genAIOutput は、生成されるテキストです。
【結果と考察】
プロセスは、Salesforce上に埋め込まれているツールを使い、Orchestrator APIで呼び出され、Unattended Robotにより実行されます。そのため、サポートエンジニアの環境には依存せず、いつでも呼び出すことができるようになりました。
しかし、Gen AI Activitiesは定型的なAIタスクに適している一方で、複雑な判断には不向きであるため、非構造化タスク、あいまいな環境、複雑な意思決定が必要な場面にて適したAgentsに置き換えることにしました。
3.3 Agents による実装
お試し版リリースから、さらに機能を更新していくために、Agents への移行を決定しました。
Agentsは特定の機能や目的に特化した、AIを活用したツールです。非構造化タスク、あいまいな環境、複雑な意思決定が必要な場面に適していることや、時間とともに改善する適応性と学習能力があることが特長として挙げられます。
【手順】
-
ケース一覧を取得するRPAプロセスの作成
ケース管理システムであるSalesforceから、今日対応すべきケース一覧(担当者が所有するケース一覧)を取得するRPAプロセスを作成します。 -
エージェント の構築
Automation CloudのStudio ページ右上の「新規作成>エージェント」をクリックし、新しいエージェントを作成します。Autopilotを活用することで、実装が容易になりますのでご活用いただくことをお勧めします。
■図6 Autopilotによる支援
-
データ マネージャー設定
「データ マネージャー」の「入力」「出力」タブで、エージェント実行時に渡すことができる入力引数と出力引数を指定します。
-
エージェント のパブリッシュ
画面左上の「クラウドでテスト」や「ステップごとにテスト」ボタンを押して、テスト実行し動作を確認します。期待通りの結果が得られたら、「パブリッシュ」を押しエージェントをパブリッシュします。 -
エージェント のデプロイ
パブリッシュ先のOrchestrator テナント(あるいはOrchestrator 個人用ワークスペース)の「ソリューション」タブへ移動し、パッケージが作成されていることを確認します。対象のパッケージの右側にある縦に三つの点があるアイコンをクリックし、「パッケージをデプロイ」を選択し、エージェントをデプロイします。「ターゲット フォルダー」で指定したフォルダーにパッケージがデプロイされることを確認します。 -
エージェントの実行
Orchestratorの該当フォルダー>オートメーション ページより、エージェントを実行できることを確認します。
これでエージェントの実装は完了です。
エージェントをStudioやStudioWebから呼び出したい場合、『エージェントを実行』アクティビティ(プレビュー版)を使用することもできます。このアクティビティについて知りたい方は、以下公式ガイドをご参照ください。
https://docs.uipath.com/ja/activities/other/latest/workflow/run-agent
【エージェント 設定例】
- システム プロンプト:
あなたは、ケースリストの取得と優先順位付けを行うAIアシスタントです。主な役割は以下の通りです。
1.ケース情報の取得
[使うツールとどのような情報を取得するか記載]
2.JSONデータの解析
[ケース情報を解析することを記載]
3.優先順位付け基準
[優先順位付けの条件を記載]
4.出力形式
[出力形式を記載]
5.注意点
[その他注意点を記載]
- ユーザー プロンプト:
以下の手順でケースリストを優先順位付けしてください。
1.ケース情報の取得
[使うツールと入力引数が要求されることを記載]
2.ケースの分析と優先順位付け
[システム プロンプトに指定した基準に基づきケースを分析することを記載]
3.出力形式
[出力形式を記載]
[その他注意点を記載]
- ツール:手順1のRPAプロセスを追加
- データ マネージャー
- 入力引数:
- agentEmail:ケース担当者のEメールアドレス
- 出力引数:
- sortedList:ケース一覧を優先順位の高い順に並べ替えたもの
- basis:並べ替えの根拠
- 入力引数:
※「システム プロンプト」と「ユーザー プロンプト」の[]で囲った部分は、自分で考えた要件に置き換えます。
※「システム プロンプト」と「ユーザー プロンプト」に一部重複した情報が含まれますが、これはプロセスの正確性と柔軟性を確保するためです。AIエージェントが常に期待通りの結果を出す仕組みを支える重要な設計上の工夫です。
【結果と考察】
Autopilot for EveryoneやGen AI Activitiesと比較し、設定個所や手順が多くやや複雑でした。
しかし、Agentsは自律的に行動し、複雑な意思決定ができるため、コンテンツを生成することに特化したGen AI Activitiesを使うより、今回やりたいことに近づいたと思いました。
今後は、顧客の緊急性や温度感を分析するエージェントや、次のアクションや回答までに要する時間を予測するエージェントと連携し、これらのエージェントから得た情報を「ケース優先順位付け」に活用するなどの機能拡張を考えています。
将来的には複数のエージェントと組み合わせて、人が業務を行うのと同じように、多様な情報を活用して適切な判断を下せるようにしていきたいです。
まとめ
今回の記事では、テクニカルサポート部門におけるケース管理業務の効率化を目指し、エージェンティックオートメーションを活用した具体的な事例と実装手順を紹介しました。
この取り組みを通じて、業務効率の向上や属人化の防止以外にも、新たな技術を活用する上での課題や、新たな展望についても学びを得ることができました。
今回はサポート部門の事例でしたが、「ケース管理」を「タスク管理」に置き換えると、どのような部門・業務でも、一日のタスクを把握し、適切に管理(優先順位付け)することは必要不可欠であると考えています。今回ご紹介したエージェンティックオートメーションは皆様の業務にも応用できる内容かと思いますので、何か気づきがあれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!