ここ数ヶ月、単にAIの記事を読むだけでなく、実際に手を動かして何かを作ってみようと決め、プラットフォームにMicrosoft Azureを選びました(2025年10月時点)。ドキュメントを斜め読みするだけではなく、Azure AI Foundry、Azure OpenAI、およびAzureのAIエコシステムにある複数のサービスを実際に触って試しました。
最初は情報量が多くて圧倒されました。サービスやリソースの種類、新しい用語が次々出てきて、例えば以下のような疑問がありました。
- 単体のAIサービスを使うべきか、マルチサービスのリソースにするべきか?
- Prompt Flowのような仕組みはどこから手を付ければ良いのか?
- 最初からコードを書かないといけないのか、それともまずはビジュアルで試せるか?
一歩ずつ進めるうちに、だんだんと全体像が見えてきました。
簡単なユースケース(APIの試験、生成モデルの実験、Foundryポータル内のツール探索)から始め、深掘りするにつれて「開発者が本番レベルのインテリジェントなアプリを作るための実用的な力」がAzureにあることが実感できました。ここでは、私が実際に体験して学んだことを技術者向けに整理して伝えます。
💡 この記事は表面的な概要ではなく、実際のハンズオン経験に基づく実践的な知見です。
はじめに:Azureにおける「AI」とは何か?
「AI」は漠然とした言葉ですが、実際にはアプリケーションが「推測する」「解釈する」「応答する」ための一連の機能群を指します。Azureでの開発を通して実感したのは、現代のAIは単に良いモデルを選ぶことだけではなく、「適切なサービスを繋ぐ」「モデルを調整する」「構造化/非構造化データを供給する」ことが重要だという点です。
Azureは、以下のような使いやすいプレ構築サービス群を提供しており、最小限のコードで利用できる点が魅力でした。
- Speech:音声認識・音声生成。音声入力フォームで試しました。🔊
- NLP (Natural Language Processing):要約、翻訳、タグ付け。チャットボットに有用。
- Information Extraction:スキャンしたレシートや書類からデータ抽出(行項目や金額の抽出を確認)。
- Generative AI:GPTなどの大規模言語モデルを使ったコンテンツ生成。
- Computer Vision:物体検出や画像内テキストの読み取り。
- Agents:ユーザー入力やデータ分析に基づくワークフロー自動化。
これらは少ないコードでかなり実用的に使えます。🚀
Azure AIサービス:モジュール型の利点
Azureの良い点はサービスがモジュール化されており、小さく始めて必要に応じて拡張できる点です。無料枠で試せるサービスも多く、まずはプロトタイプを作ってからスケールするのが現実的です。
私が試した主なサービスと、その印象は以下の通りです。
- Azure OpenAI:FAQ応答を動的に生成。レスポンスが速く使いやすい。
- Azure AI Vision:商品写真の画像認識でタグ付けが高精度に動作。
- Azure AI Speech:音声メモの文字起こしテストを実施。
- Azure AI Language:顧客フィードバックの感情分析を試し、妥当な精度を確認。
- Azure AI Translator:チャットメッセージをリアルタイムで複数言語へ翻訳。
- Azure AI Document Intelligence:スキャンPDFから構造化データを抽出(請求書やフォーム対応が容易)。
ドキュメント・API・SDKの整備が良く、複数言語のSDKサポートも整っているため統合がスムーズでした。
単体サービス vs マルチサービスリソースの選択
最初は各サービスを単体で立ち上げ、個別に挙動を確認していました。しかし、複数サービス(例:OpenAI + Vision + Translator)を組み合わせるケースが増えると、マルチサービスのAzure AIリソースの利便性が際立ちました。
ここでの学びを簡潔にまとめます。
| 選択肢 | 向いている場面 | メリット |
|---|---|---|
| 単体サービス | プロトタイプ、単発タスク | 早く・安く試せる、設定が単純 |
| マルチサービス | 本番アプリ、複合機能 | 統一されたアクセス管理・請求、運用性向上 |
⚠️ 注意点:すべてのモデルや機能が全リージョンで利用可能とは限りません。リージョン制約によりデプロイ場所を変更した経験があります。
Azure AI Foundryを使ってみて(私のお気に入り部分)
単体サービスへの習熟が進んだら、次に試したのが Azure AI Foundry です。ここで一気に開発体験が整理され、プロジェクト管理やコラボレーションが格段に楽になりました。
Foundryは単なる開発ツール以上のもので、AIプロジェクト全体の「整理整頓」「可視化」「チーム共同作業」を支援するプラットフォームです。主要な構成要素は Hubs と Projects です。
Hubs(ハブ)
ハブは共有リソース、ユーザー管理、アクセス制御、接続サービスをまとめる場所です。私の設定では、1つのハブに対して以下が自動で整備されました。
- マルチサービスのAzure AIリソース
- Key Vault(資格情報管理)
- ストレージアカウント(データやアセット置き場)
- オプションで Azure AI Search(GPTプロンプトのgroundingに利用)
ハブは共有リソースとユーザー管理をシンプルにしてくれます。🔧
Projects(プロジェクト)
プロジェクトはハブ内の作業単位で、個別のサンドボックスのように機能します。私の場合、用途ごとに分けて作業しました。
- 画像分類に特化したプロジェクト(Computer Vision)
- Prompt engineeringを試す専用プロジェクト(Azure OpenAI)
プロジェクト構造の利点:
- チームメンバーをプロジェクト内で協調させられる(ハブ全体へのアクセスを与える必要がない)
- プロジェクトはハブの共有リソースを継承するため、都度設定し直す必要がない
- すぐ使えるツール群が備わっている:
- Playgrounds(プロンプトや対話の試験場)
- モデルカタログ(Hugging Faceとの連携も可能でプリトレイン済みモデルが利用しやすい)
- ブラウザ内のホストVS Code環境(SDK入りの開発コンテナ)
- Prompt Flow(生成AIアプリの対話とデータ処理の設計に便利)
結果として、「AIワークフローに特化したフルスタック開発体験」が一か所で完結する感覚が得られ、試作→検証→本番展開までの速度が格段に向上しました。🚀
開発ツールと使ったSDK
環境は人それぞれですが、私のワークフローは以下の組み合わせが中心でした。
-
Visual Studio(.NETワークフローの確認と学習用)
- チームのシニア開発者と一緒に作業した際、.NETの統合は観察するのに有益でした
-
VS Code(日常の開発)およびFoundry内のブラウザベースのDev Container
- 初期セットアップ不要ですぐ使えるのが強み
- SDKやツールチェインがプリインストールされており環境差分で悩むことが減る
主に使ったSDK一覧(抜粋):
- Azure AI Foundry SDK:ハブ・プロジェクト・リソース操作
- Azure AI Services SDKs:各種サービス用(私はPython版を多用)
- Prompt Flow SDK:プロンプトのワークフロー管理
- Azure AI Agent Service:AutoGenと連携してエージェント実験に利用
補足:GitHub Copilotの統合も可能で、コーディング効率を上げられます(私自身はこれから試す予定ですが有望です)。💡
主要な学び(要点まとめ)
短時間で要点だけ知りたい方向けに、私のハンズオンからの結論を簡潔にまとめます。
- シンプルに始める
最初から複雑にしすぎない。無料枠や単体サービスで試し、感触を掴むと次の一手が見えます。📝 - Foundryを活用する
デモ以上のものを作るなら、Foundryが全体の整理・スケールを支援してくれます。 - HubsとProjectsを賢く使う
リソースやアクセス管理を整理することで運用負荷が大幅に下がります。 - コストとクォータを常に意識する ⚠️
ホスト型の開発環境や大規模モデルはコストが急に増えることがあります。Azureの料金計算ツールで見積もりを取る習慣をつけましょう。 - Prompt Flowは早めに触ると良い
モデルとのインタラクション設計を可視化・管理できるため、生成系アプリの設計がずっと楽になります。🔗
追加で押さえておきたい実務的なポイント(補足)
以下は実務で役立つ注意点・ベストプラクティスです。開発〜運用の観点で短くまとめます。
- リージョンとモデル可用性
すべてのモデル・機能が全リージョンで提供されているわけではありません。リージョンごとの可用性を確認し、データレジデンシー要件(データ主権)があればそれを満たすリージョンを選定してください。 - セキュリティと資格情報管理
Key VaultやRBACを活用してシークレットとアクセス権限を厳格に管理しましょう。プロジェクトごとに最小権限の原則を適用すると安全です。🔐 - モニタリングとガバナンス
モデルの出力品質、レイテンシ、コストを継続的に監視できる仕組みを予め設計します。生成AIは期待外の出力をすることがあるため、ログと監査を用意するのが賢明です。 - テストとデータ管理
入力データの前処理、サニタイズ、テストケース(エッジケースを含む)を整備しておくと本番事故を防げます。 - スケーリング設計
スタンドアロンの検証から本番移行する際、スケール要件(同時接続数、バッチ処理、レイテンシSLAs)を見越した設計を行ってください。
簡易ワークフロー例(実践的な流れ)
- ユースケースを限定して仮説を立てる(例:FAQ自動回答)
- 単体サービスでPoCを作成(Azure OpenAIでプロンプト検証)
- 他機能が必要ならFoundryでProject作成、Hubにリソースを紐付ける
- Prompt Flowで対話フローを設計・テスト
- セキュリティ(Key Vault/RBAC)、コスト見積もり、モニタリング設計を追加
- ステージング→本番へ展開、運用モニタリングを継続
最後に(まとめ)
Azure上で実際に手を動かしてみると、サービス間の連携と管理がいかに重要かが分かります。Foundryはその管理とコラボレーションを大幅に簡素化してくれるので、プロトタイプから本番までの流れを速めたい開発チームには特に有益です。
まずは小さく始めて、Prompt FlowとFoundryのプロジェクト単位の分離を活用しつつ、リージョン可用性・コスト・セキュリティに注意しながら進めることをおすすめします。🔧🚀
(質問があれば、具体的なユースケースを教えてください。設計上の懸念点やサンプルワークフローを一緒に考えます。)