IaC主要ツール徹底比較:AWS CloudFormation vs Terraform
はじめに
IaCの必要性について理解が深まったところで、今回はIaCを実現するための代表的なツール、AWS CloudFormationとTerraformを徹底比較します。それぞれのツールの特徴を実際のコード例を交えて解説し、プロジェクトに最適なツールを選ぶための実践的な指針を提供します。
AWS CloudFormation:AWSネイティブなIaCの実力
AWS CloudFormationは、AWSが公式に提供しているIaCサービスです。YAMLまたはJSON形式のテンプレートファイルに、構築したいAWSリソースを宣言的に記述します。
実際のコード例:VPCとサブネットの作成
# CloudFormation例:VPC + サブネット
Resources:
MyVPC:
Type: AWS::EC2::VPC
Properties:
CidrBlock: 10.0.0.0/16
PublicSubnet:
Type: AWS::EC2::Subnet
Properties:
VpcId: !Ref MyVPC
CidrBlock: 10.0.1.0/24
AvailabilityZone: !Select [0, !GetAZs '']
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ✅ AWSとの高い親和性: AWSの公式サービスのため、新しい機能への対応が早い。 | ❌ AWS限定: マルチクラウド環境には対応できない。 |
| ✅ 無料: CloudFormation自体の利用に料金はかからない(API呼び出し料金のみ発生)。 | ❌ デバッグの困難さ: テンプレートが大規模になると、エラー箇所を特定しづらい。 |
| ✅ リソース制限: 現在は1スタックで最大2000リソースまで作成可能。 | ❌ 独自の概念: スタックなど、AWS特有の概念を理解する必要がある。 |
Terraform:マルチクラウドの覇者
Terraformは、HashiCorp社が開発しているオープンソースのIaCツールです。AWS、GCP、Azureといった主要なクラウドサービスに加え、Kubernetes、SaaSなど幅広いプロバイダをサポートしています。
実際のコード例:VPCとサブネットの作成
# Terraform例:同じVPC + サブネット
resource "aws_vpc" "my_vpc" {
cidr_block = "10.0.0.0/16"
}
resource "aws_subnet" "public" {
vpc_id = aws_vpc.my_vpc.id
cidr_block = "10.0.1.0/24"
availability_zone = data.aws_availability_zones.available.names[0]
}
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ✅ マルチクラウド対応: 単一のツールとコードで複数クラウドを管理できる。 | ❌ Stateファイルの管理: チームで利用する場合、安全な共有とロックの仕組みを構築する必要がある。 |
| ✅ モジュールの再利用: 共通のインフラ構成をモジュール化し、再利用できる。 | ❌ 学習コスト: HCLという独自の言語と、Stateファイルなどの概念を理解する必要がある。 |
✅ 詳細な実行計画: terraform planで適用前に変更内容を詳細に確認できる。 |
❌ エラー時の手動対応: エラー発生時、手動でStateファイルを修正する必要がある場合がある。 |
比較:実運用における重要な観点
1. デプロイ速度とエラーハンドリング
| 比較項目 | AWS CloudFormation | Terraform |
|---|---|---|
| デプロイ速度 | 遅い(AWSサービスに依存) | 比較的速い(並列処理しやすい傾向がある) |
| エラーハンドリング | 自動ロールバックが標準 | 手動対応が基本(CI/CDで自動化は可能) |
【デプロイ時間の実測例】
-
シンプルなWebアプリ環境(VPC + EC2 + RDS)
- CloudFormation: 8〜12分
- Terraform: 5〜8分
-
大規模環境(50+ リソース)
- CloudFormation: 15〜25分
- Terraform: 8〜15分
※ 環境や設定により変動します。
2. Stateファイル管理とリスク
TerraformにとってStateファイルは、現在のインフラの状態を記録する重要なメタデータファイルです。このファイルが破損すると、インフラとコードの状態が一致しなくなり、意図しない変更が発生するリスクがあります。しかし、S3とDynamoDBを組み合わせることで、チーム開発でも安全に運用できます。
【S3バックエンドの設定例】
# terraform/backend.tf
terraform {
backend "s3" {
bucket = "my-terraform-state-bucket"
key = "infrastructure/terraform.tfstate"
region = "ap-northeast-1"
encrypt = true
dynamodb_table = "terraform-lock-table"
}
}
3. 学習コストと運用コスト
| 比較項目 | AWS CloudFormation | Terraform |
|---|---|---|
| 学習コスト | AWS知識があれば1〜2週間 | HCL基本文法:1週間、State管理:1ヶ月〜 |
| ツール利用料 | 無料 | OSS版は無料、Enterprise版は有料 |
| 管理工数 | 低〜中 | 中〜高(State管理基盤の運用が必要) |
【CloudFormation学習ロードマップ】
- Week 1: YAML基本文法 + AWS基本リソース
-
Week 2: 参照機能(
!Ref,!GetAtt)+ パラメータ - Week 3-4: 複雑なテンプレート作成
【Terraform学習ロードマップ】
- Week 1: HCL基本文法 + Provider概念
- Week 2-3: Resource、Data Source、Variables
- Week 4-6: State管理 + モジュール作成
どちらを選ぶべきか?:実践的な選択基準
プロジェクトの要件に応じて、最適なツールは異なります。
| CloudFormationを選ぶべきケース | Terraformを選ぶべきケース |
|---|---|
| ✅ AWS単一環境での新規プロジェクト | ✅ 複数クラウドを使用(または将来予定) |
| ✅ チーム規模が比較的小さい(5名以下) | ✅ 大規模チーム(10名以上) |
| ✅ AWS認定資格取得を目指している | ✅ 複雑なモジュール化が必要な場合 |
実際の移行・併用パターン
多くの企業では、初めはCloudFormationでインフラを管理し、インフラが複雑化するにつれてTerraformに段階的に移行したり、両者を併用したりするケースが見られます。NetflixやAirbnbなどの大手企業でも、こうした併用パターンが採用されています。
まとめ
AWS CloudFormationとTerraformは、それぞれ異なる哲学と強みを持っています。どちらもこれからのインフラエンジニアには必須のスキルです。自身のプロジェクトの要件や将来性を考慮し、最適なツールを選びましょう。
次回からは、いよいよAWS CloudFormationを使った実践に入っていきます。お楽しみに!