はじめに
こんにちはこんばんは。
アドベントカレンダーをなんとか埋めるべく、緊急で筆をとっております。
昨年度はいかにも前後編書きますよみたいな記事を書いて前編で終わるという愚行を犯したわけですが、はたして間に合うのか。
閑話休題。
わたしは、社内向けに生成AIの推進活動を行っています。
昨年あたりから某Xで悲哀に満ちたAI推進界隈の声がよく流れてきますよね。
あれ、見たことない?
よく流れてくるのは私のタイムラインだけかもしれません。
この記事では、当社における生成AIの推進活動についてご紹介します。
孤独と悲しみに暮れる生成AI推進仲間の参考になりましたら幸いです。
ほぼエッセイです。興味ないところはガンガン読み飛ばしてください。
具体的になにやったかだけサクっと知りたい人は、この辺だけでも。
なお、この記事は100%人間がかいています。温もりが大事ですよ。クリスマスですしね。
”推進する”とはなにか、あるいは推進担当の悩みについて
(画像はAI生成です)
働き方改革の推進、DXの推進、SDGsの推進、ダイバーシティの推進 etc. etc.
だいたいいつも、どの会社も、何かを推し進めずにはいられません。
乗り遅れたらおわり。資本主義社会の運命(さだめ)ですね。
いまはもちろん、生成AIです。トレンドどまんなか。
そもそも推進する、って何でしょう?
わたしは推進活動というものを
「ある集団における"当たり前じゃない選択肢"を”当たり前”に変える活動」
ととらえています。
非常識を常識に、とかでもいいです。かっこいいね。
「現状維持バイアス」という心理学用語を耳にしたことのある方もいると思いますが、本来人間は変化を嫌う生き物だそうで。
推進活動をするということは、その人間の本能に(しかも他人の本能に)あらがう行為なわけです。「いまのままでいいよ」という自他の声と戦う行為です。
でも、ビジネスの世界では変化していかないと淘汰されていく。どげんかせんといかん。
このジレンマと対峙するのが推進担当なるサラリーマンとなります。
チャラチャラしているように見られがちですが、つらいのよ、推進担当。
経営層からの理解、従業員のリテラシー、新技術への受容性など、当社は生成AI推進の土壌としては非常に恵まれた環境と認識しています。
それでもそれなりの苦労や悩みがありましたよー、というお話です。
どのように生成AIを推進したか(いまだ道半ば)
タイトルのように、現在当社では生成AIサービスの利用率が 約80% となかなかの数字になっています(MAUベース)。
もちろん世界の名だたるビッグテックの爆速技術革新に乗っかってきた部分が大きいですが、それにしても結構いい感じではないでしょうか。
2024年4月より活動をはじめ、当初25%~30%程度から1年半ほどかけてここまできた、という形になります。
長かった。いやまだ終わってないけど。(いつおわるの?)
ここまでの道のりをざっくり振り返って、「これ大事だったかも」と思ったポイントを含めつつ、実際に取り組んだ施策なんかをお話ししていきたいと思います。
<生成AI推進のキーポイント>
✅ 自分が生成AIを楽しむ
✅ 定量的な目標設定をする
✅ トップダウンで攻める
✅ ボトムアップで攻める
✅ Coding Agentは最高のパートナー
めっちゃあるな!書けるんかこれ!また前後編にするか
どうでもいいですが、こうやってチェックリストに絵文字多用すると生成AI感でますよね。いえ、人間が書いてます。
推進活動は「自社製の生成AIサービス」を中心に行っています。
自社製がゆえ、(コストをさほど気にせず)導入当初からいきなり全社員にIDを配ることができましたし、ユーザーフィードバックからの早期機能改修などの「開発を巻き込んだ打ち手」が可能でした。
もし、追加で生成AIサービスを調達する必要がある…となっていたら、ここまでの浸透は難しかったかもしれません。
自分が生成AIを楽しむ(できれば夢中になる)
何をおいても、まず自分が楽しむことです。
推進する活動そのものでなく、生成AIという技術を、それにまつわるサービスを。
最初は嘘でもいいです、そのうち自分で自分をマインドコントロールできます。
AIたのしい!AIたのしい!AIたのしい!
…
サラリーマンなので、楽しくない仕事はたくさんあります。当たり前です。5000兆円あったら働いてません。
ただ、推進活動というのは「人の本能にあらがう行為」なわけで、「いやー便利っすよー」という薄っぺらいセールストークだけでは現状維持バイアスをぶっ飛ばすことはできません。その人の熱量って、不思議と透けてみえるんですよね。
自分の好きなことを本気で楽しく喋る人のはなしって、ついついききたくなりません?
そうでもない?
わたしはまだまだ寝食忘れて生成AIに没頭するような領域には程遠いですが、毎月何かの生成AIサービスに個人でチャリンチャリン課金して遊んでます。楽しいですよ、生成AI。
わたし(たち)の楽しい/好き がどこまで前述の数字に寄与したのかは知るよしもないですが、きっとその熱量が、熱量から滲み出た言動が、社内のだれかには届いたのだと信じています。(そう思ってないとやってられない!)
定量的な目標設定をする
「測定できないものは改善できない」 by ピーター・ドラッカーさん
うるさいわ。まあでも、それはそう。
あらゆる推進活動というのは、得てして定量的な評価が難しいものです。
どれくらい売上が上がりましたとか、コストダウンできましたとか、工数が削減できましたとか。
そのようなお金や時間といった分かりやすい指標を設定しにくいです。
生成AIの活用推進でも同様。もちろん間接的にはコスト効果があることは容易に想像がつきます。
ただ、”それが生成AIのおかげか?” をきっちりかっちり示せるかというと、難しい。
それでも、定量化せねばなりません。だって測定できないと手が打てないんだもん。
わたしたちが当初生成AI推進のKPIにおいたのは、生成AIサービスの社内MAUです。
( MAU : Monthly Active Users 月間アクティブユーザー数 )
ある種の割り切りですが、生成AIをみんなが使えばコスト効果がでる(はず)という仮説のもと、これを採用しました。MAUなら、サービスの利用ログから集計できるし、毎日でも測定できる。
2025年現在はもっとシビアに、DAU( Daily Active Users 日時アクティブユーザー数)で設定していますが、生成AIの認知を獲得するという初期フェーズにおいては、MAUは適切な評価指標だったかな、と思っています。
トップダウンで攻める
推進担当は孤独です。
そして(わたし自身そうですが)推進活動に100%の時間を使えることは多くないでしょう。
限られたリソースで、会社全体の風土・風潮を変えていかないといけない。
AI活用を当たり前なものにしないといけない。
必要なのは何か。
まずはトップからの号令です。
え、元も子もない?
推進担当にアサインされたんだからトップが理解あるのは当然でしょ?
という声も聞こえてきそうですが、重要なのは、トップから全社員への生のメッセージだと思ってます。
当社では、経営層から「AIを活用した取り組みをどんどんしていこうよ!(意訳)」という発言があった直後、(一時的ではありますが)利用率が爆上がりしました。
当たり前といえば当たり前ですが、「会社の方針」という印籠は、サラリーマンにとって(特にマネージャー層にとって)非常に大きなモチベーションになりえます。
もちろんなかなかイチ担当がコントロールできる話ではありません。
ですがトップからのメッセージなくしての推進活動は、困難を極めることでしょう。
ボトムアップで攻める(具体的な活動内容)
つぎに、ボトムアップ。
これがわたしたち推進担当の力の見せ所です。
当社では以下のような活動を行ってきました。
| # | ターゲット | 活動内容 |
|---|---|---|
| 1 | 全社向け | コラム&ワークショップ |
| 2 | 全社向け | 生成AI活用事例投稿イベントの開催 |
| 3 | 全社向け | e-learningによる全社員教育の実施 |
| 4 | 個別部署向け | 業務特化のプロンプトテンプレートの収集と展開 |
| 5 | 個別部署向け | 各部署へのキャラバン活動(個別相談会) |
内容自体は一般的かなと思いますが、推しているのが自社開発サービスということもあり、
外部の人的支援なしで、100%自社で企画から実行しています。
導入初期は、わたしを含む情シスメンバー数人。情シスから全社にむけて、発信や啓蒙活動を実施。
2025年4月からは、より業務に入り込んだAI活用を進めていこう、ということで、ワーキンググループというかたちで各本部からメンバーを募り、全社横断的に活動しています。#4と#5が主にワーキングでの活動ですね。
ここでは全社向けの施策について簡単に触れていきます。
1. コラム&ワークショップ
活動当初、世間的に流行ってきていたとはいえ、社内においてはまだまだ「生成AIって何?」という社員がたくさんいました。当時はまだChatGPTも”チャッピー”なんて呼ばれてなかったんじゃないかな。知らんけど。
とにもかくにも、生成AIを認知してもらわねば何も始まりません。
とにかく露出を増やす作戦です。物量こそ正義。
- 全社員が見る社内ポータルサイトへのコラム発信(ほぼ毎週)
- 対面/Webで任意参加のワークショップを開催(ほぼ毎月2回)
さらに
- 生成AIよろず相談会の開催(ほぼ毎週、特定曜日)
- 情報発信&利用者交流用のTeamsコミュニティの作成
これらの活動の中で、プロンプトの書き方、AI特有の非決定論的動作に関する注意、活用事例の紹介、AIツールの新機能の紹介などなど、ひたすらに発信を繰り返し、利用者からのフィードバックを収集。内容をブラッシュアップしてきました。
相談会とTeamsコミュニティは残念ながらわりと閑古鳥がないていましたが、コラムやワークショップはアンケートでも好評でしたので、推進効果は十分あったかな、と思っています。
2. 生成AI活用事例投稿イベントの開催
ユーザー(社員)からのもっとも多い意見は、つねにこれ。
「社内のAI活用事例をもっとたくさん知りたい」
社内事例の発信はしているつもりですが、当初から今まで、一貫してこれです。
きっと各社さん同じような状況ではないかなーと想像しています。
事例を、もっと気軽に、たくさん集めてシェアできないものか。
ということで、社員同士で生成AIの活用事例を投稿しあうイベント を開催しました。
名付けて、「生成AI活用マラソン」 。
2024年11月から翌2月までの3ヶ月間で実施し、目標100件を掲げて全社員に事例を募集。
投稿された事例はTeamsとWebサイト上で誰でもみられるように整備しました。
イベント中盤までは投稿が振るわず焦ったりもしましたが、
- 推進担当が総出で地道に根回しをしたり、
- 優秀事例への表彰(賞金あり💰)をちらつかせたりしながら、
最終的には目標150%超の投稿があつまりました。 よかったよかった。
やはりお金。お金はすべてを解決する。
3. e-learningによる全社員教育の実施
全社員受講必須のe-learningも実施しました。
技術的な文脈は弱めの、「生成AIを安全かつ適切に業務に活用する」 ことに焦点を当てた研修です。例によって自社製サービスを推奨しているため、コンテンツ作成も内製です。
ふつうにスライドだけつくって配布してもよかったのですが、
その点、われわれはよく訓練された生成AI推進担当です。
せっかくならなんかAI使ったコンテンツにしたいな、と思ったわけです。
AITuberKitのスライドモードを画面録画することによって、アバター+合成音声によるプレゼンテーション動画を作成しました。Kawaii。
本来のAIキャラとの対話など、AITuberKitのコアな生成AI機能は使えていなかったりするんですが、アバターのおかげでカジュアルにたのしく、抵抗感すくなくe-learningを受講してもらえたのかなーと思っています。
ちなみに作成したのは、(50ページ超のパワポスライド+その動画) * 6コンテンツです。
トータル300ページ以上。どちゃくそ大変でした。
AITuberKitは適切な商用ライセンスを取得したうえで利用しています。
この他にもガバナンスやセキュリティの観点でルールを定めたりなんかをしましたが、ここでは割愛します。
Coding Agentは最高のパートナー
色々と偉そうに書いてきましたが、わたしはゴリゴリと開発できる人間ではありません。
胸をはって堂々とよわよわ非エンジニアです! といえるでしょう。悲しい。
なので、社内推進的にちょっとしたツールがほしいな~というときには、
基本的には周囲のつよつよなメンバーに 「こんなの作れませんかね〜へへへ😉」 とお願いしていました。
ですが、何でもかんでもお願いするわけにもいきません。彼ら/彼女らはお客様向けのサービス開発が本職です。社内推進のためだけにリソースを割いてもらうのは心苦しい。
ということで、ここのところは違う人にお願いしてます。
そう、GitHub Copilotくんです。
よわよわ生成AI推進担当こそ、遠慮なくがっつり生成AIに頼りましょう。
こんどはGitHub Copilotに 「こんなの作れませんかね〜へへへ😉」 とお願いして、
Agent modeでゴリゴリに実装してもらってます。神。
GitHub CopilotではClaude 4.5 Sonnet様に開発いただくことが多いです。いい塩梅に言うこと聞いてくれる。ただ要求が雑なのか、速攻でPremium Requestsが足りなくなります。
そんなときはCodexパイセンを召喚したりもします。ちょっとドライなCodexパイセンも嫌いじゃないです。
かるく、作った(AI様に作っていただいた)ものをご紹介します。
生成AI利用状況の可視化ツール
KPIのMAU/DAUや、その他部署ごとの利用状況を可視化するダッシュボードです。常にデータで追っかけられるので、推進活動のマストアイテムですね。
Writer Framework(Python)で開発してます。
生成AI活用事例の共有サイト
前述の生成AI活用マラソン用のポータルサイトです。
活用事例やアイディアの投稿、一覧からの検索、いいねやコメント、URLリンクによるシェアなど、ひととおり情報共有ポータル的な機能を盛り込んでいます。
Next.js + Prisma + SQLiteで実装。


AIが生成したコードの責任は、AIに指示をした人間が負う必要があります。
本運用の際には、よくよく注意しましょう。
なかなかの長文になってしまいました。
いかがでしたでしょうか。
最終的に”あるのが当たり前”になったらわれわれの仕事はおしまいです。
いつかくるその日まで、がんばれ推進担当。
お知らせ
こちらの記事は ctc Advent Calendar 2025 の記事です。
このあとも、ctc(中部テレコミュニケーション株式会社)のメンバーが技術にまつわる知見を投稿していきますので、ぜひご覧ください。



