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[LaTeX] \phantom でいい感じに揃える

Last updated at Posted at 2022-12-11

はじめに

本記事は物工/計数 Advent Calendar 2022 の 12 日目の記事です.

本記事では,空白を出力する LaTeX の命令として,\phantom を解説します.
その後,実用を意識した具体例を紹介します.

空白を出力する命令はたくさんありますが,その中でも \phantom は幅や高さなどを揃える用途に向いています.
また,本記事では登場しませんが,特に Beamer で \phantom は有用だと感じます.
その点でも,\phantom について知っておくと良いと思います.

なお,amsmath パッケージの使用を前提とします.また,例は LuaLaTeX 環境で動作確認しました.

\phantom の解説

簡単な例

\phantom は,引数の文字列と同じ幅,同じ高さ・深さ1の空白を出力します.
本文中・数式中どちらでも使えます.

\phantom の例
\begin{align}
	a b c d e \\
	a \phantom{b c} d e
\end{align}

出力:

\begin{align}
	a b c d e \\
	a \phantom{b c} d e
\end{align}

1 行目 の $bc$ が,2 行目では同じ大きさの空白に置き換わっているのが分かります.

= を含む例

= などの二項演算子を \phantom に渡す場合には注意が必要です.
\phantom{=} と書かず,\phantom{{}={}} と書きましょう.
理由は,空白に置き換えたい = が,二項演算子としての = であることを LaTeX に教えるためです.
+\iff などについても同様です2\phantom{{}+{}}\phantom{{}\iff{}} と書きましょう.

= を含む例
\begin{align}
	a & = b                                    \\
	a & \phantom{{}={}} b & \text{$\cdots$} \\
	a & \phantom{=} b     & \text{$\cdots$} \\
\end{align}

出力:

\begin{align}
	a & = b                                    \\
	a & \phantom{{}={}} b & \text{$\cdots$ 正} \\
	a & \phantom{=} b     & \text{$\cdots$ 誤} \\
\end{align}

\hphantom, \vphantom について

\phantom と類似の命令として,\hphantom, \vphantom があります.
\hphantom は,引数の文字列と同じ幅で,高さ・深さ $0$ の空白を出力します.
\vphantom は,引数の文字列と同じ高さ・深さで,幅 $0$ の空白を出力します.

\hphantom, \vphantom の例
\begin{align}
	\fbox{$\frac{1}{2}$} \fbox{$\vphantom{\frac{1}{2}}$} \\
	\fbox{$\hphantom{\frac{1}{2}}$} \fbox{}
\end{align}

出力:

\begin{align}
	\fbox{$\frac{1}{2}$} \fbox{$\vphantom{\frac{1}{2}}$} \\
	\fbox{$\hphantom{\frac{1}{2}}$} \fbox{}
\end{align}

\phantom の具体例

以降では,実用を意識した具体例を紹介します.

式で揃え,さらに項ごとに揃える

何をしたいかは,出力を見てもらうのが早いと思います.
ちなみに,\phantom\hphantom に置き換えてもよいです.

簡単な例

簡単な例
\begin{align}
	\fbox{最初}
	 & = \fbox{長い項 1}                 \\
	 & \phantom{{}={}} + \fbox{長い項 2} \\
	 & \phantom{{}={}} + \fbox{長い項 3} \\
	 & = \fbox{最後}
\end{align}

出力:

\begin{align}
	\fbox{最初}
	 & = \fbox{長い項 1}                 \\
	 & \phantom{{}={}} + \fbox{長い項 2} \\
	 & \phantom{{}={}} + \fbox{長い項 3} \\
	 & = \fbox{最後}
\end{align}

少し凝った例

少し凝った例
\begin{align}
	\fbox{最初}
	 & = \fbox{長い項 1}                                   \\
	 & \phantom{{}={}} + \fbox{長い項 2}                   \\
	 & \phantom{{}={}} + f\bigg( \fbox{長い項 3}           \\
	 & \phantom{{}={}  + f\bigg(} + \fbox{長い項 4}        \\
	 & \phantom{{}={}  + f\bigg(} + \fbox{長い項 5} \bigg) \\
	 & = \fbox{最後}
\end{align}

出力:

\begin{align}
	\fbox{最初}
	 & = \fbox{長い項 1}                                   \\
	 & \phantom{{}={}} + \fbox{長い項 2}                   \\
	 & \phantom{{}={}} + f\bigg( \fbox{長い項 3}           \\
	 & \phantom{{}={}  + f\bigg(} + \fbox{長い項 4}        \\
	 & \phantom{{}={}  + f\bigg(} + \fbox{長い項 5} \bigg) \\
	 & = \fbox{最後}
\end{align}

\sqrt の高さを揃える

\sqrt の中で \vphantom により縦の空白を確保し,\sqrt の高さを揃えています.

\sqrt の高さを揃える
\begin{align}
	 & \sqrt{x + 3} + \sqrt{x^2 - 3}                                                                         &  & \text{$\cdots$ 揃っていない} \\
	 & \sqrt{\vphantom{x + 3} \vphantom{x^2 - 3} x + 3} + \sqrt{\vphantom{x + 3} \vphantom{x^2 - 3} x^2 - 3} &  & \text{$\cdots$ 揃っている}
\end{align}
\begin{align}
	 & \sqrt{x + 3} + \sqrt{x^2 - 3}                                                                         &  & \text{$\cdots$ 揃っていない} \\
	 & \sqrt{\vphantom{x + 3} \vphantom{x^2 - 3} x + 3} + \sqrt{\vphantom{x + 3} \vphantom{x^2 - 3} x^2 - 3} &  & \text{$\cdots$ 揃っている}
\end{align}

\iff と同じ幅の \implies, \impliedby を作る

この例では,mathtools パッケージの \mathllap, \mathrlap という命令を用います.これらの命令は数式中で使います3
\mathllap は,引数の数式を左に出力し,その後元の位置に戻ります.\mathrlap も同様に,引数の数式を右に出力し,その後元の位置に戻ります.

以上を踏まえて,\iff と同じ幅の \implies, \impliedby を作りましょう.

\iff と同じ幅の \implies, \impliedby
\begin{align}
	P & \iff Q                                          \\
	P & \hphantom{{}\iff{}} \mathllap{{}\implies{}} Q   \\
	P & \mathrlap{{}\impliedby{}} \hphantom{{}\iff{}} Q
\end{align}

出力4

\begin{align}
	P & \iff Q                                      \\
	P & \hphantom{{}\iff{}} \llap{{}\implies{}} Q   \\
	P & \rlap{{}\impliedby{}} \hphantom{{}\iff{}} Q
\end{align}

まとめ

  • \phantom は引数の文字列と同じ幅,同じ高さ・深さの空白を出力する
  • \hphantom は幅だけを確保する
  • \vphantom は高さ・深さだけを確保する

参考文献

[1] Martin Scharrer (2020/8/19). The trimclip Package. 2022 年 12 月 11 日閲覧.
[2] Victor Eijkhout (1991). TeX by topic. 2022 年 12 月 11 日閲覧.
[3] LaTeX2e unofficial reference manual (January 2022). 2022 年 12 月 11 日閲覧.
[4] 奥村晴彦・黒木裕介 (2020).[改訂第8版]LaTeX2ε美文書作成入門.

  1. 「高さ・深さ」は,縦の大きさだと読み替えて問題ありません.ベースラインから上端の幅を「高さ」と呼び,ベースラインから下端の幅を「深さ」と呼びます (参考文献 [1] 参照).

  2. 細かいことを言うと,仕様としては少し異なります.+ は binary operation で,=, \iff は binary relation です.これらは,左右に入る空白の幅が異なります. (参考文献 [2, 3] 参照).

  3. ちなみに,数式以外の本文中では \llap, \rlap を用います.

  4. \mathllap, \mathrlap が Qiita の数式環境だと使えないため,\llap, \rlap で代用しています.

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