まえがき
ブラシ付きDCモーターの仕組みは、中学理科の教科書に載るくらい分かりやすいです。基礎方程式も、基本的にフレミングの法則だけで導出できるので、高校物理の範囲で理解できます。
それに対してブラシレスDCモーターは、電圧入力が3個以上あったり、磁界が時間変化したりすることもあって、仕組みがややこしいです。ローターとステーターの関係が入れ替わっただけでブラシ付きDCモーターとほとんど同じだ、みたいな乱暴な説明をしている文書も見かけるのですが、ちょっと無理があるよな…と思います。トルク定数と逆起電力の関係の説明をストレートに導こうと思ったらベクトルポテンシャルとストークスの定理が必要になったりして、簡単には理解できません。このためか、初学者向けの教科書は定性的な説明にとどまっているものが多いと感じます。
本文書も、そのあたりを決してきっちり記述できているわけでは無いのですが、筆者自身が受け入れられる程度の数式による説明はしたいなと思って書いたものです。
以降では、上図のような2極3相ブラシレスDCモーターを前提にします。極数、相数が増えた場合であっても、考え方は同じです。
慣習に従って3つのコイルをU相、V相、W相と呼ぶことにし、それぞれにかける電圧を$v_{u}$、$v_{v}$、$v_{w}$、巻線に流れる電流を$i_{u}$、$i_{v}$、$i_{w}$とおきます。全てのコイル巻線の一端は省線化のために接続されていて(スター結線、Y字結線などと呼ばれます)、必然的に$i_{u}+i_{v}+i_{w}=0$(電流平衡条件)を満たします。
SI単位系を暗黙のうちに仮定します。
磁界中の永久磁石に発生するトルク
コイル巻線に電流を流せば磁界が発生し、その磁束密度は電流に比例します。ブラシレスDCモーターの3つのコイルが全て同じ巻線で同じ長さ、同じ形状に作られていると仮定すると、U相、V相、W相に生じる磁束密度は共通の比例定数$K_{\phi}$を用いてそれぞれ$B_{u}=K_{\phi}i_{u}$、$B_{v}=K_{\phi}i_{v}$、$B_{w}=K_{\phi}i_{w}$と書けます。
モーターの回転軸を$z$軸、回転軸を起点にしてU相の中心を通る直線を$x$軸、それを反時計回りに90°回転させた直線を$y$軸としましょう。$x$-$y$平面において、上記の磁束の単位方向ベクトルはそれぞれ$\boldsymbol{e}_{u}=[1~0~0]^{\mathrm{T}}$、$\boldsymbol{e}_{v}=[\cos 2\pi/3~\sin 2\pi/3~0]^{\mathrm{T}}$、$\boldsymbol{e}_{w}=[\cos 2\pi/3~-\sin 2\pi/3~0]^{\mathrm{T}}$です(外向きを正としています)。簡単のため、これらを合成した一様な磁界が永久磁石の回転軸の位置に発生すると考えると、その磁束密度ベクトル$\boldsymbol{B}$は
\displaylines{
\boldsymbol{B}=K_{\phi}\left(i_{u}\boldsymbol{e}_{u}+i_{v}\boldsymbol{e}_{v}+i_{w}\boldsymbol{e}_{w}\right)
\\
=K_{\phi}\begin{bmatrix}
i_{u}+(i_{v} + i_{w})\cos \frac{2\pi}{3}
\\
(i_{v} - i_{w})\sin \frac{2\pi}{3}
\\
0
\end{bmatrix}
}
となります。
$\boldsymbol{i}=i_{u}\boldsymbol{e}_{u}+i_{v}\boldsymbol{e}_{v}+i_{w}\boldsymbol{e}_{w}$は、$\boldsymbol{B}$を発生させる合成電流と言えます。これを$\boldsymbol{e}_{u}$方向に射影すると
\displaylines{
\boldsymbol{e}_{u}^{\mathrm{T}}\boldsymbol{i}
=i_{u}\boldsymbol{e}_{u}^{\mathrm{T}}\boldsymbol{e}_{u}+i_{v}\boldsymbol{e}_{u}^{\mathrm{T}}\boldsymbol{e}_{v}+i_{w}\boldsymbol{e}_{u}^{\mathrm{T}}\boldsymbol{e}_{w}
=i_{u}-\frac{1}{2}i_{v}-\frac{1}{2}i_{w}
\\
=\frac{3}{2}i_{u}
\qquad\mbox{(電流平衡条件より)}
}
となって、3/2倍されていることが分かります。$\boldsymbol{e}_{v}$方向、$\boldsymbol{e}_{w}$方向への射影も同様です。これを補正するため、
\displaylines{
i_{x}=\frac{2}{3}\left\{i_{u}+(i_{v} + i_{w})\cos \frac{2\pi}{3}\right\}
\\
i_{y}=\frac{2}{3}(i_{v} - i_{w})\sin \frac{2\pi}{3}
}
を定義すると、
\boldsymbol{B}=\frac{3}{2}K_{\phi}\begin{bmatrix} i_{x} \\ i_{y} \\ 0 \end{bmatrix}
と表せます。
ローター永久磁石の回転角度を$\theta_{\mathrm{M}}$とおきましょう。S極からN極に向かう直線が$x$軸と一致しているとき、$\theta_{\mathrm{M}}=0$であるとします。正確には回転角度ではなく電気角($2p$極磁石なら回転角度の$p$分の1)を考えるべきなのですが、今は2極磁石($p=1$)を考えているので、両者は一致します。
磁石の磁気モーメントは、
\boldsymbol{m}_{\mathrm{M}}=m_{\mathrm{M}}\begin{bmatrix}
\cos\theta_{\mathrm{M}} \\
\sin\theta_{\mathrm{M}} \\
0
\end{bmatrix}
と表せます($m_{\mathrm{M}}$は定数)ので、ローターに発生するトルクは
\tau_{\mathrm{M}}=\begin{bmatrix} 0 & 0 & 1 \end{bmatrix}(\boldsymbol{m}_{\mathrm{M}}\times\boldsymbol{B})
=\frac{3}{2}m_{\mathrm{M}}K_{\phi}I_{q}
となります。ただし、
I_{q}=-i_{x}\sin\theta_{\mathrm{M}}+i_{y}\cos\theta_{\mathrm{M}}
=-\frac{2}{3}\left\{i_{u}\sin\theta_{\mathrm{M}}+i_{v}\sin(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3)+i_{w}\sin(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)\right\}
とおきました。
このように、回転角度(電気角)$\theta_{\mathrm{M}}$に依存する仮想的な電流$I_{q}$を考えたとき、ブラシレスDCモーターの発生するトルクは$I_{q}$に比例することが分かります。$I_{q}$がどのような意味を持つのかは、後ほど改めて説明します。
トルク定数と逆起電力定数
先ほどは、3つのコイルがいずれも一様な磁束を作ると仮定し、それらを単純に足し合わせて磁束密度ベクトルとしました。永久磁石についても、S極からN極に向かう磁気モーメントのみを考えました。実際は、コイルが作る磁界も永久磁石が作る磁界も複雑な磁力線を描き、それらが相互に干渉して発生するトルクが決まります。このことをもう少し丁寧に論じるために、コイル巻線内の磁束密度を積分した鎖交磁束を考えましょう。U相であれば
\lambda_{u}=N\int_{S}\boldsymbol{B}_{u}(x,y,z)\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}
として定義されます。ただし、$N$は巻線の本数、$S$は1本の巻線が作る円環の面積、$\boldsymbol{B}_{u}(x,y,z)$はU相コイルの内部を通る局所的な磁束密度です。$\mathrm{d}\boldsymbol{s}$は面積素ベクトルで、巻線の作る円に垂直な方向、近似的にはコイルの軸と同じ方向を向きます。V相の鎖交磁束$\lambda_{v}$、W相の鎖交磁束$\lambda_{w}$の定義も同様です。
ファラデーの法則より、コイル回路には、鎖交磁束の時間変化を抑制するような電圧が発生します。すなわちU相、V相、W相の回路方程式は
\displaylines{
v_{u}=Ri_{u}+\frac{\mathrm{d}\lambda_{u}}{\mathrm{d}t}
\\
v_{v}=Ri_{v}+\frac{\mathrm{d}\lambda_{v}}{\mathrm{d}t}
\\
v_{w}=Ri_{w}+\frac{\mathrm{d}\lambda_{w}}{\mathrm{d}t}
}
と表せます。$\lambda_{u}$は$i_{u}$、$i_{v}$、$i_{w}$と$\theta_{\mathrm{M}}$のみに依存しますので、その時間変化は
\frac{\mathrm{d}\lambda_{u}}{\mathrm{d}t}
=\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial i_{u}}\frac{\mathrm{d}i_{u}}{\mathrm{d}t}
+\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial i_{v}}\frac{\mathrm{d}i_{v}}{\mathrm{d}t}
+\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial i_{w}}\frac{\mathrm{d}i_{w}}{\mathrm{d}t}
+\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}\omega_{\mathrm{M}}
と表せます。ただし、$\omega_{\mathrm{M}}=\mathrm{d}\theta_{\mathrm{M}}/\mathrm{d}t$はローター回転速度です。
右辺第1項は自己誘導電圧、第2〜3項は相互誘導電圧に相当します。第4項は、ローター永久磁石の回転による鎖交磁束の変化に抗って発生する電圧、すなわち逆起電力です。同様のことが$\lambda_{v}$、$\lambda_{w}$についても言えます。
今、$L_{u}=\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial i_{u}}$、$L_{v}=\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial i_{v}}$、$L_{w}=\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial i_{w}}$、$M_{uv}=\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial i_{v}}$、$M_{vw}=\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial i_{w}}$、$M_{wu}=\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial i_{w}}$とそれぞれおきましょう。$L_{u}$、$L_{v}$、$L_{w}$は自己インダクタンス、$M_{uv}$、$M_{vw}$、$M_{wu}$は相互インダクタンスで、対称性より$\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial i_{u}}=M_{uv}$、$\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial i_{v}}=M_{vw}$、$\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial i_{u}}=M_{wu}$が成り立ちます。
これらが全て定数であると仮定して、両辺に電流$i_{u}$をかけると
v_{u}i_{u}
=Ri_{u}^{2}
+i_{u}\left(
L_{u}\frac{\mathrm{d}i_{u}}{\mathrm{d}t}
+M_{uv}\frac{\mathrm{d}i_{v}}{\mathrm{d}t}
+M_{wu}\frac{\mathrm{d}i_{w}}{\mathrm{d}t}
\right)
+i_{u}\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}\omega_{\mathrm{M}}
となります。これはエネルギーの時間変化のつりあいを表しています。
V相、W相についても同様の計算を行って全て足し合わせると
\displaylines{
v_{u}i_{u}+v_{v}i_{v}+v_{w}i_{w}
=R(i_{u}^{2}+i_{v}^{2}+i_{w}^{2}) \\
+\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left(
\frac{1}{2}L_{u}i_{u}^{2}+\frac{1}{2}L_{v}i_{v}^{2}+\frac{1}{2}L_{w}i_{w}^{2}
+M_{uv}i_{u}i_{v}+M_{vw}i_{v}i_{w}+M_{wu}i_{w}i_{u}
\right) \\
+\left(i_{u}\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}+i_{v}\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}+i_{w}\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}\right)\omega_{\mathrm{M}}
}
を得ます。
左辺は入力した電気エネルギー、右辺第1項はそのうち巻線の発熱で消費したエネルギー、右辺第2項はコイルに蓄えられたエネルギーです。
右辺第3項が重要で、これはローターの機械出力(仕事率)です。定義により、これはトルクと回転速度の積ですので、
\tau_{\mathrm{M}}\omega_{\mathrm{M}}\equiv\left(
i_{u}\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
+i_{v}\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
+i_{w}\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
\right)\omega_{\mathrm{M}}
が恒等的に成り立つはずです。これより
\tau_{\mathrm{M}}
=\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}i_{u}
+\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}i_{v}
+\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}i_{w}
であると分かります。
鎖交磁束のうち電気角に依存する成分は、主にローター永久磁石が作るものです。ローターが180°回転してN極とS極が入れ替われば符号が入れ替わりますし、360°回転してまた元の位置に戻ると鎖交磁束も元の値に戻ります。このことから、U相の鎖交磁束を
\lambda_{u}=\lambda_{m}\cos\theta_{\mathrm{M}}+(\mbox{$\theta$に依存しない項})
と近似すれば、V相、W相はこれにそれぞれ120°、240°遅れるので
\displaylines{
\lambda_{v}=\lambda_{m}\cos(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3)+(\mbox{$\theta$に依存しない項})
\\
\lambda_{w}=\lambda_{m}\cos(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)+(\mbox{$\theta$に依存しない項})
}
と表せます。$\lambda_{m}$は永久磁石のN極がU相を指した時の鎖交磁束です。これより、
\tau_{\mathrm{M}}=\frac{3}{2}\lambda_{m}I_{q}
を得ます。改めて、
I_{q}=-\frac{2}{3}\left\{i_{u}\sin\theta_{\mathrm{M}}+i_{v}\sin(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3)+i_{w}\sin(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)\right\}
です。
先ほどは、磁界について大幅な近似を用いて
\tau_{\mathrm{M}}=\frac{3}{2}m_{\mathrm{M}}K_{\phi}I_{q}
すなわちモーターに発生するトルクが$I_{q}$に比例する、という結論を得ました。これと同じ事実を鎖交磁束の性質から導いたのが上の式になります。$K_{\mathrm{M}}=\frac{3}{2}\lambda_{m}$が、複雑な磁界の干渉まで考えたときのブラシレスDCモーターのトルク定数です。これを用いれば、ローターの機械出力は
\tau_{\mathrm{M}}\omega_{\mathrm{M}}=K_{\mathrm{M}}I_{q}\omega_{\mathrm{M}}=E_{q}I_{q}
とも表せます。ただし、$E_{q}=K_{\mathrm{M}}\omega_{\mathrm{M}}$とおきました。これは、エネルギーの観点で$I_{q}$と共役な逆起電力と解釈できます。この意味で、$K_{\mathrm{M}}$はブラシレスDCモーターの逆起電力定数でもあります。
$\lambda_{m}$を定義通りに計算するのは一般的には困難です(有限要素解析等を用いることになります)が、値だけならば実測した逆起電力から知ることができます。
Park変換・Clarke変換とベクトル制御
$I_{q}$は、永久磁石の磁気モーメントと直交する磁界を作り出す電流と解釈できます。一方、永久磁石の磁気モーメントと平行な磁界を作り出す電流は、
\displaylines{
I_{d}
=\boldsymbol{m}_{\mathrm{M}}\cdot\boldsymbol{B}/m_{\mathrm{M}}K_{\phi}
=i_{x}\cos\theta_{\mathrm{M}}+i_{y}\sin\theta_{\mathrm{M}} \\
=\frac{2}{3}\left\{i_{u}\cos\theta_{\mathrm{M}}+i_{v}\cos(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3)+i_{w}\cos(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)\right\}
}
です。実質的に、鎖交磁束を作る電流はこれら$I_{d}$、$I_{q}$だけです。
\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})=\begin{bmatrix}
\cos\theta_{\mathrm{M}} & \cos(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3) & \cos(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3) \\
-\sin\theta_{\mathrm{M}} & -\sin(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3) & -\sin(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)
\end{bmatrix}
とおけば、
\begin{bmatrix}
I_{d} \\ I_{q}
\end{bmatrix}
=
\frac{2}{3}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\begin{bmatrix}
i_{u} \\ i_{v} \\ i_{w}
\end{bmatrix}
となります。$(i_{u}, i_{v}, i_{w})$から$(i_{x}, i_{y})$への変換はClarke変換、$(i_{x}, i_{y})$から$(I_{d}, I_{q})$への変換はPark変換と呼ばれます。上式は、Clarke変換とPark変換をいっぺんに施したものです。
$(I_{d}, I_{q})$から$(i_{u}, i_{v}, i_{w})$への逆変換は、電流平衡条件$i_{u}+i_{v}+i_{w}=0$を連立することで
\begin{bmatrix}
i_{u} \\ i_{v} \\ i_{w}
\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}
I_{d}\cos\theta_{\mathrm{M}}-I_{q}\sin\theta_{\mathrm{M}}
\\
I_{d}\cos(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3)-I_{q}\sin(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3)
\\
I_{d}\cos(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)-I_{q}\sin(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)
\end{bmatrix}
=
\boldsymbol{T}^{\mathrm{T}}(\theta_{\mathrm{M}})
\begin{bmatrix}
I_{d} \\ I_{q}
\end{bmatrix}
と求まります。これは逆Park変換・逆Clarke変換と呼ばれます。
さて、先ほどは、各相の鎖交磁束が電気角$\theta_{\mathrm{M}}$に依存する項としない項に分離できるという仮定をおき、トルクが$I_{q}$のみから作り出されるという結論を得ました。実際には$I_{q}$もトルク生成に寄与します。このことを見ていきましょう。
Park変換の式に回路方程式を代入すると、
\begin{bmatrix} V_{d} \\ V_{q} \end{bmatrix}
=
R \begin{bmatrix} I_{d} \\ I_{q} \end{bmatrix}
+
\frac{2}{3}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
となります。ただし、
\begin{bmatrix} V_{d} \\ V_{q} \end{bmatrix}
=\frac{2}{3}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\begin{bmatrix} v_{u} \\ v_{v} \\ v_{w} \end{bmatrix}
とおきました。さらに
\boldsymbol{\Lambda}
=\begin{bmatrix} \Lambda_{d} \\ \Lambda_{q} \end{bmatrix}
=\frac{2}{3}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
を定義すると、
\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})}{\mathrm{d}t}=\omega_{\mathrm{M}}\begin{bmatrix}
-\sin\theta_{\mathrm{M}} & -\sin(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3) & -\sin(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3) \\
-\cos\theta_{\mathrm{M}} & -\cos(\theta_{\mathrm{M}}-2\pi/3) & -\cos(\theta_{\mathrm{M}}+2\pi/3)
\end{bmatrix}
=\omega_{\mathrm{M}}\begin{bmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0
\end{bmatrix}
\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
ですので、
\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{\Lambda}}{\mathrm{d}t}
=\frac{2}{3}\left(
\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})}{\mathrm{d}t}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
+\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
\right)
=
\omega_{\mathrm{M}}
\begin{bmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{bmatrix}\boldsymbol{\Lambda}
+\frac{2}{3}\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
より
\displaylines{
V_{d}=R I_{d}+\frac{\mathrm{d}\Lambda_{d}}{\mathrm{d}t}-\omega_{\mathrm{M}}\Lambda_{q}
\\
V_{q}=R I_{q}+\frac{\mathrm{d}\Lambda_{q}}{\mathrm{d}t}+\omega_{\mathrm{M}}\Lambda_{d}
}
を得ます。$\Lambda_{d}$はローター永久磁石の磁気モーメントと平行な磁界が作る仮想的な鎖交磁束で、理想的には$I_{d}$と$\lambda_{m}$のみに依存します。電流が流れていなければ$\lambda_{m}$そのものです。また、$\Lambda_{q}$はローター永久磁石の磁気モーメントに直交する磁界が作る仮想的な鎖交磁束で、永久磁石自身はこの方向に磁界を生じないので、理想的には$I_{q}$のみに依存します。このことから
\displaylines{
\frac{\mathrm{d}\Lambda_{d}}{\mathrm{d}t}
=
\frac{\partial\Lambda_{d}}{\partial I_{d}}\frac{\mathrm{d}I_{d}}{\mathrm{d}t}
\\
\frac{\mathrm{d}\Lambda_{q}}{\mathrm{d}t}
=
\frac{\partial\Lambda_{q}}{\partial I_{q}}\frac{\mathrm{d}I_{q}}{\mathrm{d}t}
}
が言えます。$L_{d}=\frac{\partial\Lambda_{d}}{\partial I_{d}}$、$L_{q}=\frac{\partial\Lambda_{q}}{\partial I_{q}}$はそれぞれ$I_{d}$、$I_{q}$に対する仮想的な自己インダクタンスで、これらが定数であると仮定すれば、
\displaylines{
\Lambda_{d}=L_{d}I_{d}+\lambda_{m}
\\
\Lambda_{q}=L_{q}I_{q}
}
と表せます。上記の式に代入すれば、
\displaylines{
V_{d}=R I_{d}+L_{d}\frac{\mathrm{d}I_{d}}{\mathrm{d}t}-\omega_{\mathrm{M}}L_{q}I_{q}
\\
V_{q}=R I_{q}+L_{q}\frac{\mathrm{d}I_{q}}{\mathrm{d}t}+\omega_{\mathrm{M}}(L_{d}I_{d}+\lambda_{m})
}
を得ます。これが、$(I_{d},I_{q})$の満たす回路方程式です。
さて、ローターに発生するトルクは
\tau_{\mathrm{M}}
=\frac{\partial\lambda_{u}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}i_{u}
+\frac{\partial\lambda_{v}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}i_{v}
+\frac{\partial\lambda_{w}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}i_{w}
=\begin{bmatrix} i_{u} & i_{v} & i_{w} \end{bmatrix}
\frac{\partial}{\partial\theta_{\mathrm{M}}}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
でした。$[i_{u}~i_{v}~i_{w}]^{\mathrm{T}}$を逆Park変換・逆Clarke変換すれば、
\tau_{\mathrm{M}}
=
\begin{bmatrix} I_{d} & I_{q} \end{bmatrix}
\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\frac{\partial}{\partial\theta_{\mathrm{M}}}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
です。ここで
\displaylines{
\frac{\partial\boldsymbol{\Lambda}}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}(=\boldsymbol{0})
=
\frac{2}{3}
\frac{\partial\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
+
\frac{2}{3}
\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\frac{\partial}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
\\
=
\begin{bmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0
\end{bmatrix}
\boldsymbol{\Lambda}
+
\frac{2}{3}
\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\frac{\partial}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
}
より
\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})
\frac{\partial}{\partial \theta_{\mathrm{M}}}
\begin{bmatrix} \lambda_{u} \\ \lambda_{v} \\ \lambda_{w} \end{bmatrix}
=
\frac{3}{2}\begin{bmatrix}
0 &-1 \\
1 & 0
\end{bmatrix}
\boldsymbol{\Lambda}
ですので、
\displaylines{
\tau_{\mathrm{M}}
=
\frac{3}{2}
\begin{bmatrix} I_{d} & I_{q} \end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
0 &-1 \\
1 & 0
\end{bmatrix}
\boldsymbol{\Lambda}
=\frac{3}{2}(\Lambda_{d}I_{q}-\Lambda_{q}I_{d})
\\
=\frac{3}{2}\left\{\lambda_{m}I_{q}+(L_{d}-L_{q})I_{d}I_{q}\right\}
}
が得られます。前節で導いた結果に無かった項$\frac{3}{2}(L_{d}-L_{q})I_{d}I_{q}$は、リラクタンストルクと呼ばれます。
先ほどは、インダクタンス$L_{u}$、$L_{v}$、$L_{w}$、$M_{uv}$、$M_{vw}$、$M_{wu}$が全て定数であると仮定しました。実際にはこれらも$\theta_{\mathrm{M}}$に依存して変化するので、このような項が現れるわけです。$\Lambda_{d}$、$\Lambda_{q}$はローター永久磁石とともに回転する鎖交磁束なので、$\theta_{\mathrm{M}}$に依存しません。したがって、インダクタンスの$\theta_{\mathrm{M}}$への依存部分は変換行列$\boldsymbol{T}(\theta_{\mathrm{M}})$に集約されています。
ローター永久磁石が表面磁石型ならば$L_{q}\simeq L_{d}$となり、リラクタンストルクはほぼ無視できます。よって、所望のトルク$\tau_{\mathrm{M}}^{*}$に対して$(I_{d}^{*}, I_{q}^{*})=\left(0, \frac{2\tau_{\mathrm{M}}^{*}}{3\lambda_{m}}\right)$とするのが合理的です。
埋込磁石型の場合は$L_{q}>L_{d}$ですので、所望のトルク$\tau_{\mathrm{M}}^{*}$に対して$\tau_{\mathrm{M}}^{*}=\frac{3}{2}\left\{\lambda_{m}I_{q}+(L_{d}-L_{q})I_{d}I_{q}\right\}$を満たし、かつ$I_{d}^{2}+I_{q}^{2}$を最小にする$(I_{d}^{*}, I_{q}^{*})$を求めるのが良いです。
(I_{d}^{*}, I_{q}^{*})=\mathop{\mathrm{arg~min}}_{(I_{d}, I_{q})}\left\{
I_{d}^{2}+I_{q}^{2}\left|
\tau_{\mathrm{M}}^{*}=\frac{3}{2}\left\{\lambda_{m}I_{q}+(L_{d}-L_{q})I_{d}I_{q}\right\}
\right.
\right\}
これは数値的に求められます。
あとは、回路方程式に基づいて、たとえば逆起電力$-\omega_{\mathrm{M}}L_{q}I_{q}$、$\omega_{\mathrm{M}}(L_{d}I_{d}+\lambda_{m})$の補償と電流誤差$(I_{d}^{*}-I_{d}, I_{q}^{*}-I_{q})$のPI補償を組み合わせて$(V_{d}, V_{q})$を決めたのち、逆Park変換・逆Clarke変換によってこれを$(v_{u}, v_{v}, v_{w})$に分解すれば良いです。このような方法をベクトル制御と言います。
3相インバーターとPWM制御
前節で導出した電圧$(v_{u}, v_{v}, v_{w})$をU相、V相、W相に印加すれば、ブラシレスDCモーターは駆動できます。電気角$\theta_{\mathrm{M}}$の計測が必要ですが、それにはレゾルバーやロータリーエンコーダー等を用います。DCモーターにおいて整流子とブラシが担っている、回転角度に応じて電流の向きを変える役割を、ブラシレスDCモーターでは角度センサーと制御回路によって行っている、と解釈できます。
ただし、$\theta_{\mathrm{M}}$に対して正弦波状に滑らかに変化する信号をそのままリニアアンプで増幅すると、発熱が大きくなりがちという問題があります。そこで、実際には6個のMOSFETから構成される下図のようなスイッチング回路を用います。
これは、$+$と$-$を往き来する交流信号を直流電源から生成するので3相インバーター回路と呼ばれます。各コイルには、$+V_{s}$Vか$0$Vのいずれかが印加されます。電圧を変えるかわりにON/OFFを高速に切り替え、その断続的な電流供給の時間間隔を変えて同じ効果を得る方式(Pulse Width Modulator, PWM方式)を用います。巻線にはインダクタンスがあるため、高速スイッチング成分が平滑化され、電流は滑らかに変化します。ON/OFFの切り替えがごく短時間で行えるならば、その間に熱として失う電力は小さくて済みます。
あとがき
ブラシレスDCモーターを制御する入門的方法としては、いわゆる120°通電方式がよく紹介されます。これは、分解能が60°しかないホール素子を用いて安価に制御する方法として実用的ではあるのですが、モーターは電流に比例するトルクを発生し、回転速度に比例する逆起電力を受けるもの、という基本的なイメージとうまく結び付きません。そこをきちんと考えたら、結局教科書的なベクトル制御に自然とつながったという話でした。
ベクトル制御を既にご存じの方はもしかするとお気付きかも知れませんが、本文書では教科書によく書かれている「d軸とq軸を定義し、q軸に流れる電流を考えて云々」みたいな表現を避けています。d軸、q軸は永久磁石の磁極配置から決まるもので、巻線配置とは無関係です。巻線がありもしない方向に電流を流す、という言い方が筆者にはどうしても理解できませんでした。本文書に書いた通り、永久磁石の磁束の方向を基準として、それに平行な/直交する磁界を作る電流がそれぞれ$I_{d}$、$I_{q}$である、と理解したとたんにベクトル制御の考え方がすんなり頭に入りました。このような説明をしている教科書は見当たらないので、ご活用頂ければ幸いです。
トルク定数については、鎖交磁束の定義式から自然に導出できないかなと考えたのですが、面積積分を線積分に変換しなければならないことは早い段階で明らかになって、ということはストークスの定理を使わなければならないと気付きました。そして変換先にはベクトルポテンシャルがあります。数学的には美しいですが、物理的なイメージはますます持ちにくくなりますので、その筋書きでの説明はやめました。替わりの筋書きとして選んだのがエネルギー平衡です。賢い高校生の方は、停動トルクが説明できなくなるじゃないか、と逆に混乱するかも知れません。大学生ならば、根底にあるのは仮想仕事の原理だから、停動トルクも包含されると理解できるのですが。
いずれにしても、ややこしいなブラシレスDCモーター、というのが筆者の感想です。


