Webサイトを制作する仕事をしていると、デザインやコーディングといった「作る技術」に意識が向きがちです。
しかし、どれほど美しいサイトを作っても、ビジネスの成果につながらなければクライアントの期待には応えられません。
では、成果につながるサイトとそうでないサイトの違いはどこにあるのか。
私は「マーケティングの視点」を持つことが大切だと思っています。
本記事では、Web製作者が知っておくべきWebマーケティングの基本を解説します。
専門のマーケターになる必要はありませんが、ここで紹介する考え方を持っているだけで、制作の判断が変わり、提案の質が上がり、結果としてクライアントからの信頼にもつながると思います。
1.「誰に、何を、どのように」で考える
マーケティングの思考は、突き詰めると
「誰に、何を、どのように伝えるか」
という3つの問いに集約されます。
そして重要なのは、この順番で考えることです。
「誰に」が最初に来る理由
多くの制作現場では「どのように(デザイン、レイアウト、アニメーション)」から考え始めてしまうことがあります。
しかし、届ける相手が定まっていなければ、どんな表現が適切かは判断できません。
たとえば、同じ「会社の採用ページ」でも、ターゲットが新卒の学生なのか?業界経験5年以上の即戦力人材なのか?によって、訴求すべき内容もトーンもまったく異なります。
「誰に」を最初に定めることで、そこから「何を」「どのように」が自然と導かれます。
3つの問いの具体例
ここでは、ある地方のIT企業が採用ページを制作するケースで考えてみましょう。
誰に: 都市部で働いているが、地元にUターンして働きたいと考えている20代後半〜30代前半のエンジニア
何を: 地方にいてもモダンな技術スタックで開発に携われること、リモートワークと出社のハイブリッド勤務で柔軟な働き方ができること
どのように: 実際の開発環境や技術ブログへのリンク、社員インタビューでのリアルな声、「東京と同じ仕事を、地元で」という明確なメッセージ
この3つが揃ったとき、サイトの構成、ページに載せるコンテンツ、ボタンの文言、ビジュアルの方向性まで、一貫した判断基準が生まれます。
逆に言えば、この3つが曖昧なまま制作を進めると、「きれいだけど誰に向けたサイトかわからない」という結果になりがちです。
制作者としての活かし方
クライアントからの依頼時に、この3つが明確になっていないケースは少なくありません。
その場合、制作者の側から「このサイトは誰に向けたものですか?」「その人にいちばん伝えたいことは何ですか?」と問いかけるだけで、プロジェクトの方向性が明確になると思っています。
では、この「誰に、何を、どのように」をより深く、具体的に考えるにはどうすればよいのでしょうか。
次のセクションでは、まず「誰に」を深く理解するためのフレームワークとして、ファネルとカスタマージャーニーを紹介します。その後、「何を、どのように」を具体化する方法として、着地の意図とCTAの設計について解説していきます。
2. ファネルとカスタマージャーニーを理解する
「誰に」を考えるとき、ターゲットの年齢や職種といった属性を定めるだけでは不十分です。同じ人物であっても、「まだ課題に気づいていない段階」と「すでに解決策を比較している段階」では、求めている情報も響く言葉もまったく異なります。つまり、「誰に」を正しく理解するには、ターゲットが「今どの段階にいるか」まで踏み込んで考える必要があります。
この「段階」を整理するためのフレームワークが、ファネルとカスタマージャーニーです。
ファネルとは何か
マーケティングにおける**ファネル(漏斗)**とは、ユーザーが商品やサービスを知ってから、最終的に購入や問い合わせといった行動に至るまでのプロセスを段階的に表したモデルです。漏斗の形をしているのは、各段階が進むにつれてユーザーの数が絞り込まれていくためです。
一般的なファネルは、以下の4段階で整理されます。
認知: 商品やサービスの存在を知る段階。まだ具体的なニーズが顕在化していないこともあります。
興味・関心: 「自分に関係がありそうだ」と感じ、情報を調べ始める段階。ブログ記事を読んだり、SNSでフォローしたりする行動がここに当たります。
比較・検討: 複数の選択肢を比較し、どれが自分に合うかを検討する段階。料金ページや導入事例、口コミなどを確認します。
行動(コンバージョン): お問い合わせ、資料請求、購入など、具体的な行動を起こす段階です。
カスタマージャーニーとは何か
カスタマージャーニーは、ファネルの各段階でユーザーがどのような感情を持ち、どのような行動をとり、どのチャネル(接点)を通じて情報に触れるかを、より詳細に描いたものです。
たとえば、先ほどの地方IT企業の採用ページの場合、Uターン転職を考えるエンジニアのジャーニーはこんな流れになるかもしれません。
「都市部の生活に疲れてきた」「地元に帰りたいが仕事があるか不安」という漠然とした気持ち(認知の前段階)→ SNSで「地方×エンジニア」の転職体験談を見かける(認知)→ 検索して地方のIT企業をいくつか調べ始める(興味・関心)→ 各社の技術スタック、給与水準、働き方の制度を比較する(比較・検討)→ 気になった企業のカジュアル面談に申し込む(行動)
この一連の流れを可視化しておくことで、「どの段階のユーザーにどんなコンテンツが必要か」が明確になります。
制作者がファネルを知っておくべき理由
ファネルの考え方を知っていると、サイト内の各ページの役割を構造的に理解できるようになります。
認知段階のコンテンツ — 社員の技術ブログ、SNSでの社内の雰囲気の発信、採用イベントの告知など。SEOやSNS、求人媒体といった集客チャネルを通じて、まだこの会社を知らない求職者に接触します。ここでは求人情報そのものよりも、会社の文化や技術への姿勢が伝わるコンテンツが求められます。
興味・関心段階のコンテンツ — 会社紹介ページ、事業内容の説明、働く環境の紹介など。「ちょっと気になる」と思った求職者が次に訪れるページです。
比較・検討段階のコンテンツ — 社員インタビュー、具体的な福利厚生や給与レンジ、キャリアパスの紹介、開発環境の詳細など。求職者の不安を解消し、「この会社で働く自分」を具体的にイメージさせる役割を担います。
行動段階のコンテンツ — エントリーフォーム、カジュアル面談の申し込みページなど。最終的なコンバージョン(応募)を獲得するためのページです。
「このページはファネルのどの段階のユーザーに向けたものか」を意識するだけで、ページに載せるべき情報、適切なトーン、次のアクションへの誘導方法が自ずと見えてきます。制作の上流段階でサイトマップを設計するときにも、この視点があると提案の説得力が格段に上がります。
3. すべてのページに「着地の意図」を持たせる
セクション2では「誰に」を深く理解するためにファネルの考え方を紹介しました。ここからは、「何を、どのように」を具体化する方法に進みます。ファネルの各段階にいるユーザーに対して、それぞれのページで「何を伝え」「どのように次の行動へ導くか」——これが着地の意図の設計です。
「着地の意図」とは何か
Webサイトのすべてのページには、訪問したユーザーに「次にとってほしい行動」があるべきです。これを着地の意図と呼びます。
お問い合わせフォームや購入ページのように、ゴールが明確なページは着地の意図がはっきりしています。しかし、ブログ記事やサービスの紹介ページなど、直接的にコンバージョンを狙わないページにも、必ず「次のステップ」が存在するはずです。
たとえば、技術ブログを読んだ求職者には「採用ページを見てもらう」、会社紹介ページを見た求職者には「社員インタビューや福利厚生のページに進んでもらう」、それらを読んで納得した求職者には「カジュアル面談の申し込みフォームに進んでもらう」——このように、ファネルの段階を一歩ずつ前に進めることが、各ページの着地の意図になります。
CTA(行動喚起)の設計
着地の意図を形にするのがCTA(Call To Action:行動喚起)です。CTAというと「お問い合わせはこちら」のボタンだけを思い浮かべるかもしれませんが、本来はもっと広い概念です。
CTAの設計で大切なのは、以下の3つの視点です。
ユーザーの段階に合った提案をする。
ファネルの上部(認知・興味段階)にいる求職者に、いきなり「エントリーする」というCTAを出しても、心理的なハードルが高すぎて行動につながりません。まずは「社員の声を読む」「働く環境を見る」「カジュアルに話を聞いてみる」など、段階に応じた軽いアクションを提示する方が効果的です。
ユーザーにとってのメリットを明確にする。
「送信する」「次へ」といった無機質なボタンよりも、「まずは気軽に30分話してみる」「開発チームの雰囲気を知る」など、ボタンを押した先に何が得られるかが伝わる表現の方が、クリック率は高まります。
ページ内の文脈に沿った配置にする。
CTAは目立てばいいというものではありません。ユーザーがページの内容を読み、納得したタイミングで自然に目に入る位置に配置することが重要です。
着地の意図がないページの問題
着地の意図がないページは、ユーザーの行き止まりになります。せっかく技術ブログで会社に興味を持ってくれた求職者が、記事を読み終えた後にどこに行けばいいかわからず、そのまま離脱してしまう——これは非常にもったいない状況です。
サイト制作時には、すべてのページについて「このページを見たユーザーに、次にどこに行ってほしいか」を必ず定義するようにしましょう。これだけで、サイト全体がファネルに沿った一貫性のある導線を持つようになります。
4. 数字で振り返る習慣をつける
なぜ振り返りが必要なのか
どれだけ丁寧に「誰に、何を、どのように」を設計し、ファネルに沿った導線を組み立てても、最初から完璧にうまくいくことはまずありません。Webマーケティングの本質は、仮説を立てて実行し、結果を数字で確認し、改善を繰り返すことにあります。
この「計画 → 実行 → 測定 → 改善」のサイクルが、PDCA(Plan-Do-Check-Action)です。Webの大きな強みは、このサイクルを素早く、低コストで回せることにあります。印刷物やテレビCMと違って、公開後にいつでも修正・改善ができるのはWebならではの特性です。
KPIという考え方
改善サイクルを回すためには、何を測るかを事前に決めておく必要があります。ここで登場するのがKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)です。
KPIは、最終的なゴール(KGI:売上や問い合わせ数など)に向かう途中の進捗を測るための中間指標です。ファネルの各段階に対応させて設定すると、「どの段階にボトルネックがあるか」を具体的に特定できます。
認知段階のKPI例: 採用ページへの流入数(セッション数)、技術ブログの検索順位、SNSのリーチ数
興味・関心段階のKPI例: 会社紹介ページや働く環境ページの閲覧数(PV)、回遊率、平均エンゲージメント時間
比較・検討段階のKPI例: 社員インタビューページや福利厚生ページの閲覧率、募集要項ページへの到達率
行動段階のKPI例: エントリー数・カジュアル面談申し込み数(CV)、コンバージョン率(CVR)
たとえば、サイトへの流入は十分あるのにCVが少ない場合、問題はファネルの下部(比較・検討〜行動の段階)にあると推測できます。逆に、CVRは高いのに全体のCV数が少ない場合は、ファネルの上部(認知段階)の集客を強化すべきだとわかります。
制作者が数字を気にすべき理由
「数字の分析はマーケターの仕事」と思うかもしれません。もちろん、詳細な分析や施策の立案はマーケターが担うべき領域です。しかし、制作者も基本的な数字の見方を知っておくことで、制作段階の判断の質が上がります。
たとえば、採用ページのリニューアル案件でクライアントから「応募が少ない」と相談されたとき、GA4のデータを見て「エントリーフォームへの到達率は高いが、フォームの完了率が低い」ことがわかれば、「デザインを全面的に変えるよりも、まずフォームの入力項目を減らしてハードルを下げましょう」という具体的な提案ができます。
数字は、制作者の提案に根拠を与えてくれる強力な武器です。GA4やGoogleサーチコンソールの基本的な見方については、別記事「Web製作者が知っておくべき、Web分析の基本」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
本記事では、Web製作者が押さえておくべきWebマーケティングの基本を4つの視点から解説しました。
「誰に、何を、どのように」の順番で考えることで、制作の方向性がぶれなくなります。ファネルとカスタマージャーニーを理解することで、サイト内の各ページの役割を構造的に捉えられるようになります。すべてのページに着地の意図を持たせることで、ユーザーを自然にゴールへ導く導線が生まれます。そして、数字で振り返る習慣が、制作の成果を目に見える形で証明してくれます。
これらはいずれも、専門的なマーケティングの知識というよりは「考え方の基本」です。この基本を持っているかどうかで、ただサイトを作る人と、成果を生むサイトを作れる人の間に大きな差が生まれると思います。
まずは次の制作案件で、「このページはファネルのどの段階のユーザーに向けたものか」「着地の意図は何か」を意識するところから始めてみてください。
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株式会社ONE WEDGEは、Webシステム開発・SES・AI/DX支援を行うIT企業です。
生成AIを活用した業務効率化や次世代システム開発にも注力しており、企業の課題解決だけでなく、エンジニア一人ひとりの成長にも本気で向き合っています。
また、技術は「一人で学ぶもの」ではなく、「仲間と成長するもの」だと考え、社内外でのコミュニティづくりにも力を入れています。
「ITエンジニアに、IT業界に貢献する企業」をテーマに、AI時代に挑戦し続けられる組織を目指しています。
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