はじめに
前回のシリーズでは、Claude Codeを使って実際にアプリケーションを開発する過程を紹介しました。
AIにコードを書いてもらい、動くアプリが完成したとき、ふと気になったことがあります。
自分で書いたわけではないコードを、ブログに掲載したりGitHubで公開したりして大丈夫なのか。
AIが生成した画像をサムネイルに使っても問題ないのか。
生成AIの利用が当たり前になりつつある今、こうした疑問を持っている方は多いと思います。
この記事では、生成AIで制作したものの著作権について、日本と海外の法律動向を含めて解説します。
本記事は法律の専門家によるものではなく、調査に基づいた情報共有です。具体的な法的判断が必要な場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。
1. 著作権の基本をおさらい
生成AIの話に入る前に、著作権の基本を確認します。
著作物とは
日本の著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定義しています。
ポイントは3つです。
- 思想又は感情:単なるデータや事実は含まれない
- 創作的に:誰が作っても同じになるようなありふれた表現は含まれない
- 表現したもの:アイデアそのものではなく、具体的な表現が保護対象
著作権は自動的に発生する
特許と違い、著作権は作品を作った瞬間に自動的に発生します。
登録や申請は不要です。
ブログ記事も、イラストも、コードも、創作性が認められれば自動的に著作物として保護されます。
「表現」と「アイデア」は違う
著作権法で保護されるのは「表現」であって「アイデア」ではありません。
これを「表現・アイディア二分論」と呼びます。
プログラムの場合で考えてみましょう。
- 保護される:コードの具体的な記述(表現)
- 保護されない:プログラムが持つ機能やアルゴリズム(アイデア)
例えるなら、「ToDoアプリを作る」というアイデア自体は保護されませんが、そのアイデアを実現するために書いた具体的なコードは保護されることがある、ということです。
この考え方は、生成AIと著作権を考える上で重要なポイントになります。
2. 「開発・学習段階」と「生成・利用段階」は別で考える
生成AIと著作権を考えるとき、日本では2つの段階に分けて考えるのが基本です。
開発・学習段階
AIにデータを読み込ませて学習させる段階です。
著作権法第30条の4により、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合(情報解析など)は、原則として著作権者の許諾なく利用できるとされています。
ただし、以下の場合は例外です。
- 必要と認められる限度を超える場合
- 著作権者の利益を不当に害する場合
つまり、AI開発企業が学習のために著作物を利用すること自体は、一定の条件下で認められていると考えられています。
生成・利用段階
AIを使って画像や文章を生成し、それを公開・販売などに利用する段階です。
ここでは通常の著作権法がそのまま適用されると考えられています。
つまり、生成AIで作ったものであっても、人間が作ったものと同じ基準で著作権侵害かどうかが判断されるというのが、文化庁の見解です。
「AIが作ったから著作権侵害にならない」ということはありません。
ここは注意が必要です。
3. AI生成物に著作権は発生するのか
ここが多くの人が気になるポイントだと思います。
「AIが作ったものは、自分の著作物として権利を主張できるのか?」
原則:AI単独の生成物には著作権が発生しない
日本の著作権法では、著作物の定義(「思想又は感情を創作的に表現したもの」)から、著作物の主体は「人」であると一般的に解釈されています。
そのため、AIに簡単な指示を出しただけで自動的に生成されたコンテンツには、原則として著作権が発生しないと考えられています。
例えば、ChatGPTに「ブログ記事を書いて」と指示しただけの文章や、画像生成AIに「猫のイラスト」と入力しただけの画像は、著作物として認められない可能性が高いです。
例外:「道具」としてAIを使った場合
一方で、人間が思想・感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使ったと認められた場合は、著作物に該当するケースも考えられます。
判断のポイントは以下の2つです。
- 創作意図があるか:何を表現しようとしているか明確な意図がある
- 創作的寄与があるか:具体的な表現結果を得るための人間による関与がある
例えば、細かいプロンプトを何度も調整して意図した表現を追求したり、AIの出力を大幅に修正・編集したりした場合は、人間の創作的寄与が認められる可能性があります。
コードの場合はどう考える?
文化庁のガイドラインでは、「○○な機能を実装せよ」といった抽象的な指示だけでは、生成されたコードに著作権は発生しないと考えられています。
一方で、以下のような関与があれば著作物性が認められる可能性があります。
- 詳細な設計仕様を指示した上でAIに実装させた
- AIの出力を大幅に書き換えた
- 複数の生成結果を組み合わせて独自の構成にした
こうした関与の程度によって、著作物性の判断は変わってくると考えられます。
4. AI生成コードの著作権リスク — OSSライセンス問題
コードに関して特に注意が必要なのが、OSSライセンスの問題です。
なぜ問題になるのか
GitHub Copilotをはじめとするコード生成AIは、大量の公開ソースコードを学習データとして使用していると言われています。
その中には、MIT LicenseやGPLなど様々なライセンスが付与されたOSS(オープンソースソフトウェア)が含まれている可能性があります。
OSSとは、ソースコードが公開されていて、誰でも自由に使えるソフトウェアのことです。
ただし、ライセンス条件に従う必要があります。
問題は、AIが生成したコードが学習元のOSSコードに似ている場合です。
そのOSSのライセンス条件に従う義務が発生する可能性がありますが、AIの出力にはどのOSSが元になっているかの情報が付きません。
そのため、利用者がライセンス違反に気づけないリスクがあります。
GitHub Copilotの集団訴訟
この問題は実際に法的紛争にも発展しています。
2022年11月には、GitHub Copilotが学習に利用したOSSの著作権やライセンスを侵害しているとして、Microsoft・GitHub・OpenAIを相手取った集団訴訟が米国で提起されました。
訴訟の主な争点は、Copilotが出力するコードに学習元のライセンス情報(著作権表示やライセンス条項)が含まれていない点です。
対策として何ができるか
現時点で利用者ができる対策としては、以下が挙げられます。
- パブリックコードフィルターの活用:GitHub Copilot for Businessには、公開リポジトリのコードと一致する提案をブロックする機能がある
- コードレビューの徹底:AI生成コードをそのまま使わず、内容を確認し、独自の修正・変更を加える
- ライセンススキャンの導入:大規模プロジェクトでは、ライセンス違反を検出するスキャンツールの導入が推奨される
5. AI生成画像・文章の著作権リスク
コードだけでなく、画像や文章にも著作権リスクがあります。
「類似性」と「依拠性」がポイント
AI生成物が著作権侵害にあたるかどうかは、既存の著作物との間に以下の2つが認められるかで判断されます。
- 類似性:既存の著作物に似ているか
- 依拠性:既存の著作物を参考にして作られたか
もう少し分かりやすく言うと、「元の作品を見て(依拠して)、似たものを作った(類似している)」場合に著作権侵害になる、ということです。
AIが学習データに含まれる著作物に「依拠」しているかどうかについては様々な見解がありますが、生成物が既存の著作物に明らかに似ている場合は、侵害が認められる可能性があります。
実際のトラブル事例
2023年には、画像生成AI「Stable Diffusion」や「Midjourney」の開発企業に対して、アーティストらが集団訴訟を提起しました。自分たちの作品が無断で学習データとして使用されたという主張で、2024年以降も審理が続いています。
日本でも、2025年に読売新聞社がAI検索サービスのPerplexity AIに対して損害賠償を求める訴訟を提起しています。
朝日新聞社・日本経済新聞社も同様の訴訟を起こしました。
画像生成AIを使う際の注意点
- 特定のアーティストやキャラクターの名前をプロンプトに含めない
- 生成された画像が既存の作品に似ていないか確認する
- 商用利用の場合は特に慎重に判断する
まとめ
この記事で解説したポイントをまとめます。
- 著作権の基本:著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」。表現は保護されるが、アイデアは保護されない
- 2段階で考える:AI開発・学習段階と、生成・利用段階では適用されるルールが異なる
- AI生成物の著作権:AI単独の生成物には原則として著作権が発生しないと考えられている。人間の創作的寄与があれば認められる可能性がある
- OSSライセンスに注意:AIが生成したコードには、学習元のOSSライセンスに抵触するリスクがある
- 類似性と依拠性:既存の著作物に似ている場合は、著作権侵害のリスクがある
生成AIは便利なツールですが、「便利だから何でもOK」というわけではありません。
法律を正しく理解した上で、安全に活用していきましょう。
生成AIと著作権をめぐる法律やガイドラインは急速に変化しているため、最新の情報は文化庁のWebサイト等で確認することをおすすめします。
次回の後編では、実際にAI生成コードをブログに載せる際のマナーや注意点について、具体的な表記例を交えて解説します。