はじめに
この記事はフューチャー Advent Calendar 2025 の5日目の記事です。
FVG (Future Value Group)の永井です。
2025年のフューチャー技術ブログの記事をすべてNotebookLMに放り込むことで、今年1年フューチャー社員(のブログ寄稿者)がどのような技術に注目していたのか、どのような技術と、どのような技術で格闘していたか、なにかトレンド的なものがつかめると面白いのではないかと思いました。
本記事はそのトレンドをまとめたものになります。なお記事の対象は2025年1月1日から2025年11月30日までのものです。
技術ブログのトレンド
2025年の技術ブログにおける最大のトレンドは、生成AI技術が単なるツール利用を超え、業務プロセスや開発手法そのものを変革するフェーズへと移行したことです。
社内でのGemini活用が進む中、AIエージェントにAPI連携をするといった活用のための技術(MCPやADK)の実装や、AIとの共進化を前提とした「ラジカルAIプログラミング」という考えに関する記事もありました。
さらに、国産LLMの開発やオンプレミス環境でのAIコードレビュー構築など、AI技術を自社のコアコンピタンスとして取り込むための高度な挑戦も行われています。
一方で、多様化する技術とプロジェクトの拡大に対応するため、開発プロセスや設計思想を「形式知」として標準化する動きが活発化しました。
Web API、バッチ処理、PostgreSQL、Terraform、Webフロントエンドなど、極めて多岐にわたる領域で「設計ガイドライン」が公開され、属人化の解消と品質の底上げが図られています。
また、コードレビューやSlack利用といったコミュニケーションの領域においてもガイドラインが策定され、チーム開発を円滑にするための文化作りも推進されました。
基盤技術の面では、Go(1.24/1.25)やPostgreSQL 18といったコア技術のメジャーアップデートへの追従に加え、クラウドネイティブ技術の実践が深まりました。
TerraformによるIaCの成熟、コンテナイメージ署名などのセキュリティ強化、そしてWebAssemblyを活用したブラウザ内データ分析など、昨年に引き続きモダンな技術スタックを実務に適用するための具体的な検証と知見の共有が進んだ一年でした。
今年公開された数多くの記事の中から、上記のトレンドを形成した、技術的な深掘りがなされたトピックや、組織としての新たな取り組みのトピックとなる記事をピックアップしました。
興味あるトピックがありましたら、リンクも貼っていますので、記事も読んでみてください!
1. 生成AI:エージェント化と開発プロセスの変革
2025年は、LLM(大規模言語モデル)単体の性能向上だけでなく、それらをシステムに組み込み、自律的にタスクをこなす「AIエージェント」としての活用が本格化しました。
フューチャーテックブログも例にもれず、AIエージェントの実装技術やAIを活用した開発を取り上げていました。
AIエージェントの実装技術 (MCP / ADK)
AIエージェントが外部ツールと連携するための標準化技術に注目が集まりました。Google WorkspaceへのGemini組み込みにより社内での利用が開始されたことを皮切りに、AIエージェントに「手足」を持たせる試みが活発化しています。
Gemini、社内利用スタート!
MCP (Model Context Protocol)への関心が高まりました。これはAIエージェントにとっての「外付けUSBポート」のような役割を果たすプロトコルです。具体的には、Googleカレンダーの予定を取得するMCPサーバーをTypeScriptで自作し、Claude Desktopと連携させる事例が紹介されました。これにより、AIが自律的に「認証が必要か判定」し「カレンダー情報を取得」するワークフローが実証されています。
Google_Calendar_の予定を取得するMCP_サーバを作ってみた
また、マルチエージェント構築の文脈では Google ADK (Agent Development Kit) が活用されました。OpenAPI仕様書をインポートして「ツール」としてエージェントに持たせることで、コーディングレスに近い形でAPIリクエスト機能を持たせる手法が紹介されています。これにより、外部APIとの連携工数が劇的に削減されました。
わかりやすいADKのAPIリクエストツール作成
開発思想の刷新:「ラジカルAIプログラミング」
AIの能力向上を前提に、従来の開発手法を根本から見直す「ラジカルAIプログラミング」という概念が提唱されました。これは、AIと人間がお互いの理解を更新し続ける「共進化」を価値の中心に置くものです。コード生成コストが下がったため、品質を変数として扱い、プロトタイプを捨てて作り直すことを躊躇しない「時間の前借り」戦略が有効であると論じられました。また、AIへの細かい指示(マイクロマネジメント)を減らし、仕様やテストの作成も含めて移譲するマクロマネジメントのスタイルが推奨されています。
ラジカルAIプログラミング
オンプレミス・国産LLM開発への挑戦
セキュリティ要件の厳しい環境向けに、Gemma3 と Unsloth(LoRA技術)を組み合わせ、家庭用GPUレベル(RTX 3060等)でファインチューニングを行い、完全オンプレミスのAIコードレビュー環境を構築する事例が紹介されました。これにより、機密情報を外部に出さずにプロジェクト固有のルールを学習させることが可能になります。
Gemma3+Unsloth+GitLab_CI/CDで構築する完全オンプレミスAIコードレビュー環境
また、GENIACプロジェクトの一環として、日本語とソフトウェア開発に特化した基盤モデル「Llama-3.1-Future-Code-Ja-8B」が開発・公開されました。IDEでのコード補完を想定し、文脈の中間を予測する「Fill-in-the-Middle (FIM)」学習の導入や、LLM自身に学習データを生成させる「Magpie」手法の採用など、開発の裏側にある技術的知見が詳細に共有されました。
日本語×ソフトウェア開発に強いLLMの開発に取り組んだ挑戦者の備忘録_(前編)
日本語×ソフトウェア開発に強いLLMの開発に取り組んだ挑戦者の備忘録_(後編)
安全性の担保:ガードレール
AIエージェントの自律性が高まるにつれ、その暴走を防ぐ「ガードレール」の重要性が説かれました。入力(プロンプトインジェクション対策)、処理(APIコール制限)、出力(ハルシネーション抑制)の各フェーズで防衛線を構築し、Google ADKなどを用いて実装する具体的なコード例が示されました。人間による承認プロセス(Human-in-the-Loop)を組み込むことも推奨されています。
AI暴走を防ごう!AIエージェントのガードレールの作り方を考えてみよう
2. 設計ガイドライン:暗黙知の形式知化
組織の規模拡大や技術の多様化に対応するため、社内のベストプラクティスを「設計ガイドライン」として明文化・公開する動きが、2025年はかつてないほど活発でした。
多領域にわたる標準化
Web API、バッチ処理、インターフェース(I/F)、メール配信、Webフロントエンド、PostgreSQL、Terraformなど、極めて多岐にわたる領域でガイドラインが策定されました。これらは単なるルール集ではなく、「なぜそうするのか(Why)」や実務的な判断基準を含んでいます。
Web_API設計ガイドラインを公開しました
バッチ設計ガイドラインを公開しました
I/F設計ガイドラインを公開しました
メール設計ガイドラインを公開しました
Webフロントエンド設計ガイドラインを公開しました
PostgreSQL設計ガイドラインのご紹介
Terraform設計ガイドラインを公開しました
開発文化とコミュニケーション
技術的な設計だけでなく、チーム開発を円滑にするためのソフトスキルやルールの言語化も進みました。「レビューはコミュニケーションである」を原則としたコードレビューガイドラインや、Slackでのメンション利用ルールを定めたガイドラインなどが公開されました。また、メンバーのモチベーション向上策として、「職務設計の中核的5次元」理論に基づきタスクの渡し方を工夫する手法なども紹介されています。
コードレビューガイドラインを公開しました
Slack利用ガイドラインを公開しました
「やりたいこと」ドリブン以外でメンバーのモチベーションを上げる方法
3. 基盤技術の進化
KubeCon + CloudNativeCon Japanの初開催もあり、CNCF関連技術やDevOpsツールの実践的な検証が進みました。
また、連年連載企画があがっているGo言語の他、PostgreSQLもメジャーアップデートに対する連載を実施するほか、フロントエンド技術も多く取り上げられました。
コンテナエコシステムの成熟
CNCF Incubatingプロジェクトである Notary v2 (Notation) を用い、コンテナイメージへの署名と検証を行うフローが検証されました。これにより、CI/CDパイプラインにおけるサプライチェーンセキュリティの強化が可能になります。また、LLMコンテナのような巨大なイメージの起動時間を短縮するため、遅延読み込み技術である Lazy Pulling(eStargz, SOCI Snapshotter)の効果検証も行われました。
Notary_v2(Notation)によるコンテナイメージ署名
LLMコンテナイメージでLazy_Pullingの効果を検証
IaCとTerraformの高度化
Terraformの運用においては、コードを静的解析して必要な最小限のIAMポリシーを生成するツール「Pike」の有用性が確認されました。また、BigQueryのデータ管理における落とし穴(prevent_destroy やスキーマ変更時の挙動など)と対策が共有され、実践的なノウハウが蓄積されています。
Terraform実行ユーザー用の最小権限の原則を支援するPike触ってみた
Terraform_×_BigQuery_データ管理:陥りがちな落とし穴と対策5選(サンプルコード付き)
ローカル実行とオブザーバビリティ
GitHub Actionsをローカルで実行できる nektos/act をタスクランナーとして利用する検証が行われましたが、実行時間のオーバーヘッドなどの課題も浮き彫りになりました。オブザーバビリティ分野では、Grafana Agentの後継となる Grafana Alloy を用い、EKSクラスタ外部のサーバーからメトリクスを収集・送信する設定手法が解説されました。
nektos/act_はMakefileの代わりになるか?
Grafana_Alloyを使って、EKSクラスタ外部のサーバからメトリクス取得を試してみた
Go言語 (1.24 / 1.25)
Go 1.24/1.25では、テストと並行処理に関する重要なアップデートがありました。特に testing/synctest は、フェイククロックを用いて time.Sleep をスキップしたり、goroutineのブロックを検知してFlaky Testを防いだりと、非同期処理のテストを劇的に改善する機能として注目されました。また、構造化ログ log/slog の機能強化や、新しいJSON実装 encoding/json/v2 の実験的導入も進んでいます。
Go_1.24リリース連載_testing/synctest(experimental)
Go1.25 リリース連載 testing/synctest
Go1.25 リリース連載log/slog
Go_1.25 リリース連載_encoding/json/v2(experimental)
PostgreSQL 18
PostgreSQL 18の新機能として、UUIDv7 の生成がDB側でサポートされ、B-Treeインデックスとの相性が改善されました。検証により、v4と比較して挿入・検索性能の向上が確認されています。また、「B-treeインデックスのスキップスキャン」により、複合インデックスの先頭列をWHERE句で指定しなくてもインデックスを利用できるようになった点や、ディスク容量を消費しない「仮想生成列」も大きなトピックでした。
PostgreSQL連載始まります & v18で対応したUUIDv7とv4の比較
PostgreSQL_18の新機能「B-treeインデックスのスキップスキャン」
PostgreSQL_18の新機能、仮想生成列の使い方や制約、格納生成列との使い分けについて
フロントエンドと新フレームワーク
ByteDance社が公開した、Rust製エンジン搭載の高速クロスプラットフォームフレームワーク「Lynx」の調査が行われ、Vue.js対応への期待が語られました。(すみません、自分の記事なので取り上げちゃいました)
また、ブラウザ内データ分析の文脈では、Vue.js + DuckDB-Wasm + EChartsを組み合わせ、サーバーレスで高速に大量データを可視化するPoCが実施されました。
新しいマルチプラットフォームフレームワークLynxを触ってみた。
Vue_Fes_Japan_2025にてライトニングトークに登壇しました&フューチャーアーキテクトがスポンサーをしました
【PoC】Vue+DuckDB-Wasm+EChartsによるセキュリティ投資判断アプリ
終わりに
世の中のトレンドと同じく、生成AIはフューチャー技術ブログでも大きなトレンドとして扱われました。
来年はどのような技術が注目を浴びるのか、今年注目された生成AIはじめとした技術は今後どう進化するのか楽しみですね。