「ビッグデータ」や「データ活用」の分野で中心的な役割を担うのが、大規模データの分散処理を担うフレームワークであるApache Spark。
この記事では、初学者の方に向けて、データ基盤におけるSparkの立ち位置や、その仕組みを分かりやすく解説します。
1. データ基盤におけるSparkの「役割」
まず、一般的なデータ基盤の構成要素の中で、Sparkがどこを担当しているのかを確認しましょう。
データ基盤は大きく分けて「収集」「蓄積」「加工」「活用」の4つのフェーズで構成されます。Sparkはこの中の 「加工」 フェーズにおいて中心的な役割を担います。
データ基盤の全体像とSpark
1. 収集 (Ingestion): ソースシステムからデータを取り出す。
2. 蓄積 (Storage): データレイク(Amazon S3, Azure Blob Storage, Apache Icebergなど)に保存する。
3. 加工 (Processing): ← ここがSparkの主戦場!
蓄積された未加工のデータを、分析しやすい形に整えたり、統計計算や機械学習の準備を行ったりします。
4. 活用 (Serving): 加工済みデータをDWH(データウェアハウス)へ書き出したり、BIツールで可視化したりする。
Spark自体はデータを永続的に保存する「箱」ではなく、データを効率よく計算・変換するための「エンジン」 という立ち位置です。
各フェーズの役割とSparkの関わり まとめ
| フェーズ | 役割 | 主な技術・ツール | Sparkの関わり |
|---|---|---|---|
| 1. 収集(Ingestion) | 業務DBやログ、外部APIからデータを取り込む。 | Kafka, Fluentd, 各種ETLツール | ストリーミングデータの入り口として機能する場合がある。 |
| 2. 蓄積(Storage) | 取り込んだデータをそのまま、あるいは整理して保存する。 | S3, OCI Object Storage | Sparkはこれらのストレージに直接アクセスしてデータを読み書きする。 |
| 3. 加工(Processing) | データのクレンジング、集計、結合、変換を行う。 | Apache Spark, SQL | ここがメイン。膨大なデータを分析しやすい形式へ高速に変換する。 |
| 4. 活用(Serving) | 分析結果を可視化したり、AIモデルで予測したりする。 | Power BI, Tableau, 機械学習モデル | 加工済みのデータをBIツールやDWHへ受け渡す最終調整を行う。 |
2. Apache Sparkとは何か?
Apache Sparkは、大規模データを高速に処理するための分散処理フレームワークです。
最大の特徴は、「たくさんのコンピュータを連携させて、一つの巨大なデータを手分けして計算する」 という仕組みにあります。データレイク(蓄積フェーズ)に保存されるデータは、数GBから数TB、時にはそれ以上の規模になります。 これを一般的なデータベースや1台のコンピュータで処理しようとすると、メモリ不足で停止したり、計算に数日かかったりしてしまいます。
Sparkは、この 「巨大すぎて扱いにくいデータ」を「使いやすい資産」に変えるための高速な計算エンジン として、基盤の中核に位置づけられています。1台のコンピュータではメモリ不足で扱えないような膨大なデータも、複数のマシン(クラスター)に処理を分散させることで、現実的な時間で完了させることができます。
なぜSparkが選ばれるのか
- 効率的な計算: 後述する「インメモリ処理」により、計算の中間結果をメモリ上に保持するため、無駄な読み書きを減らせます。
- 多様な言語対応: Java, Scalaだけでなく、Python (PySpark) や R でも記述できるため、データサイエンティストにとっても扱いやすいツールです。
- 多機能性: 1つのプラットフォームで、バッチ処理からリアルタイム分析、機械学習まで幅広く対応しています。
3. Sparkが生まれた背景:Hadoop時代の分散処理からの進化
Sparkを調べると必ず登場するのがApache Hadoopです。この両者は、以下のような役割分担で併用されることが一般的です。
両者は競合関係に見られがちですが、実際には SparkはHadoopの思想を引き継ぎ、進化させた存在 と捉えると理解しやすくなります。
もともとHadoopは、
- HDFS(分散ファイルシステム)
- MapReduce(分散処理エンジン)
という2つを中心に、大規模データを安価なマシン群で処理する基盤として普及しました。
しかし、HadoopのMapReduceは「処理のたびにディスクへ書き出す」特性があり、複雑な分析や繰り返し計算では処理時間が課題になる場面もありました。
そこで登場したのが Apache Spark です。
Sparkは、
- HDFSなど既存のHadoopストレージをそのまま利用できる
- MapReduceの代わりに、高速なインメモリ処理エンジンとして動作する
という形で、Hadoopエコシステムと強く連携しながら普及しました。
現在では、
| 領域 | 役割 |
|---|---|
| HDFS / オブジェクトストレージ | データを大量に保存する |
| Spark | 保存されたデータを高速に加工・分析する |
| YARN / Kubernetes | クラスターのリソース管理 |
といったように、
「Hadoop=ストレージと基盤」「Spark=計算エンジン」
という役割分担で使われることが一般的です。
つまり、SparkはHadoopを否定する存在ではなく、Hadoop時代の分散処理を、より使いやすく・高速にした後継エンジン と言えます。
3. Sparkの仕組み:インメモリ処理の利点
Sparkが広く普及した大きな理由の一つに、従来のHadoop MapReduceと比較した際の処理の効率化があります。その鍵となるのがインメモリ処理です。
MapReduceでは処理の各ステップごとにディスクへ書き出しを行うため、複数回の変換や集計を伴う処理では、ディスクI/Oが全体の処理時間を大きく左右します。
一方Sparkでは、中間結果をメモリ上に保持しながら処理を進められるため、
- 同じデータを何度も使う集計
- 段階的に加工を重ねるETL処理
といったケースで特に高い性能を発揮します。
| 特徴 | Hadoop MapReduce | Apache Spark |
|---|---|---|
| データの置き場所 | 各工程ごとにディスクへ書き出す | 基本的にメモリ(RAM)上で処理を継続する |
| 処理速度の傾向 | 安定だがI/O待ちが発生しやすい | メモリを活用し、ディスクへの書き出しを最小限に抑える、高速で反復処理に強い |
| 適した用途 | 単純で一括的なバッチ処理 | 繰り返し計算を行う機械学習や、複雑なデータ加工 |
4. Sparkのアーキテクチャ
Sparkは、1台の司令塔と複数台の作業員という 「マスター/ワーカー(Driver/Executor)」 モデルで動作します。
- Driver Program (司令塔): ユーザーが書いたプログラムを実行し、全体のスケジュールを管理します。処理を小さな「タスク」に分解し、各ワーカーに配分します。
- Cluster Manager: クラスター全体のCPUやメモリといったリソースを管理し、Executorの起動・割り当てを調整します(YARN / Kubernetes など)
- Executor (作業員): 実際にデータを読み込み、計算を行うプロセスです。Driverからの指示に従ってタスクを実行し、結果を返します。
この構成により、Sparkは 大規模データでも効率よく並列処理 できるようになっています。
5. Sparkを構成する主要なコンポーネント
Sparkは「統合分析エンジン」と呼ばれ、用途に合わせて以下のコンポーネントを使い分けることができます。
1. Spark SQL: SQLを使ってデータの抽出や加工ができます。表形式(DataFrame)でデータを扱えるため、最も利用頻度が高い機能です。
2. Spark Streaming: リアルタイムに流れてくるログデータやセンサーデータを、逐次処理するための機能です。
3. MLlib (Machine Learning): 分類、回帰、クラスタリングなどの主要な機械学習アルゴリズムが標準で実装されています。
4. GraphX: ソーシャルネットワークのつながりのような、グラフ構造のデータを解析するためのライブラリです。
6. 簡単なコード例(PySpark)
Pythonを使ってSparkでデータを読み込み、集計する際のイメージは以下の通りです。
from pyspark.sql import SparkSession
# Sparkセッション(司令塔との窓口)を作成
spark = SparkSession.builder.appName("DataAnalysis").getOrCreate()
# データレイクからCSVデータを読み込む
df = spark.read.csv("s3://my-bucket/data.csv", header=True, inferSchema=True)
# 特定の列でグループ化してカウントする(Spark SQLの利用)
result = df.groupBy("category").count()
# 結果を表示
result.show()
# セッションを終了
spark.stop()
7. まとめ
Apache Sparkは、現代のデータ基盤において、膨大なデータを「賢く、効率的に」加工するための不可欠なエンジンです。
- データ基盤の「加工」フェーズにおいて、中心的な役割を果たす。
- 分散処理とインメモリ計算により、大規模データに対して高いスループットを実現する。
- SQLやPythonなど、習得しやすい言語で複雑なデータ操作が可能。
