結論
Claude Code を使っていて、別のマシンで同じ Anthropic アカウントにログインしたら、片方の PC で進めていた会話の履歴が、過去の分まで丸ごと相手の画面に出てきた。これは情報が漏れているのか――。実際にこの不安は GitHub の Issue として報告されている(#71794、security ラベル付き)。
先に結論を書く。Claude Code の世界には「2つの別々の履歴」があり、両者は同期の挙動がまったく違う。この2つを切り分ければ、いま起きていることの大半は説明がつく。本当のバグなのか、設定どおりの挙動なのか、あるいは自分の環境にあるバックアップや同期ツールが犯人なのかも、自分で確かめられる。
この「履歴が漏れたのか」という不安は、Claude Code に任せた作業でデータが消える・露出する型の事故の入口でもある。切り分けの手順はこの記事で全部無料で説明するので、まずは下を読んでほしい。
読み進める前に自分の今の設定をざっと点検したいなら、実際に報告された事故から作った無料の事故防止チェックリストも配っている。rm -rf の暴走や認証情報の削除、履歴の露出などを、いまの設定で防げるかを一つずつ確かめられる。登録すると、Claude Code に破壊的な変更や新しい事故のパターンが出た時だけ、設定のパッチ付きで知らせる(月に数通ほど・いつでも解除できる)。
そのうえで、同じ型の事故を起きる前に設定で先回りして防ぐ全体像は、Claude Code 事故防止ガイド(¥800・第3章まで無料)に章ごとにまとめている(この履歴の露出は第60章で扱っている)。
ひとつ補足すると、この本が扱うのは履歴の露出だけではない。Claude Code に任せた作業で実際に起きた事故を、起票で実在を確認できたものだけ集めてある——ファイルやコードの消失、本番データベースの削除、セッションや会話履歴の消失と復旧、トークン消費の暴走と無断の従量課金、設定ファイルの汚染、子エージェントの嘘の完了報告と結果の偽造、force-push での他者の作業の上書き、注入された文が「本人の発言」にすり替わる事故、本来は非公開のサイトが全世界に公開された事故まで。巻頭の「事故対応の早見表」で、起きた症状を選べば該当の章へ直接飛べる。いま自分が踏んだ露出の事故は、その地図のうちの1点にすぎないことが多い——全体を一度に押さえておけば、次に別の型を踏んだときも、設定で先回りして防げる。
「2つの履歴」を切り分ける
1. ターミナルの CLI が持つローカルの履歴
端末で claude を起動して使う、いわゆる CLI の会話履歴は、その PC のディスク上に保存される。場所は決まっている。
- 各プロジェクトの会話本体:
~/.claude/projects/<プロジェクトのハッシュ>/*.jsonl - 横断の索引:
~/.claude/history.jsonl
ここが大事な点で、CLI 自身はこれらのファイルをクラウドへ上げたり、別のマシンへ同期したりしない。Anthropic 純正のクラウド同期は今のところ実装されておらず、機能要望として残っている(#7805)。だからこそ、コミュニティが rsync や git を使った同期ツールを自前で作っている。逆に言えば、純粋なターミナルの claude のセッションは、放っておけばそのマシンの中だけにとどまるはずだ。
2. クラウドに紐づく面
一方で、次の面はアカウント単位でサーバ側に会話を保存する。
- claude.ai の Web 版
- デスクトップアプリ / Cowork
- Remote Control
これらは Anthropic アカウントに紐づいて記録されるので、ログインしたすべてのデバイスに会話が出てくるのは設計どおりだ。ここで作った会話なら、別の PC に出てきても異常ではない。
加えて、Memory という機能がある。2026 年 3 月から全ユーザーで既定オンになっていて、好みや進行中のプロジェクト、作業のスタイルを会話やデバイスを跨いで覚えている。ただしこれは要約された記憶であって、会話の全文そのものではない。
どちらに当たっているかを確かめる手順
UI で「履歴が出てきた」と驚く前に、Device B(履歴が出てきた側のマシン)で、UI を開かずにファイルシステムを直接見るのが一番速い。
ls -1 ~/.claude/projects/
wc -l ~/.claude/history.jsonl 2>/dev/null
- もし Device A の会話が
.jsonlファイルとして Device B のディスクに物理的に存在しているなら、何かがファイルをコピーしている。同期ツール、バックアップツール、dotfiles の同期、あるいは~/.claudeが共有ストレージ(OneDrive / iCloud Drive / Dropbox)の下に置かれている、といったあたりがまず疑わしい。Claude Code 本体ではなく、自分の環境側の経路だ。 - もしファイルがディスクに存在しないのに UI には見えているなら、それは CLI のローカル履歴ではなく、クラウドの面がアカウントのサーバ側の履歴を描画している。設計どおりの挙動だ。
よくある「真犯人」
「CLI なのに同期した」と感じるケースの多くは、~/.claude ディレクトリ自体が同期対象に入っているのが原因だ。次で確認できる。
# ~/.claude が実体か、シンボリックリンクで別の場所(クラウド同期フォルダ)を指していないか
ls -ld ~/.claude
readlink -f ~/.claude
~/.claude がクラウド同期フォルダの下にある、あるいはそこへのリンクになっている場合、Claude Code は何もしていないのに、同期ツールが裏でファイルをコピーして別マシンに配っている。Windows の OneDrive がユーザーフォルダ全体を巻き込んでいる構成は特に起きやすい。
制御する方法
- Memory を止める: claude.ai → 設定 → Memory のトグルをオフにする。以降の会話は毎回まっさらから始まる。
- 学習に使わせない: 設定 → プライバシーで、会話を将来のモデルの学習に使う設定をオフにする。オプトアウト済みなら新しい会話と coding セッションは学習に使われない。
- 一時的に残さない: claude.ai の Incognito(ゴーストのアイコン)で始めた会話は、アカウントの設定が学習を許可していても学習に使われない。
-
デバイスごとに分離したい: 作業をターミナルの CLI に寄せ、同じセッションを Web / デスクトップ / Remote に通さない。そして上で見たように
~/.claudeがクラウド同期フォルダの外にあることを確かめる。
正直な限界
サーバ側で Anthropic が実際にどう扱っているかは、利用者の手元からは見えない。もし純粋なターミナルの CLI のセッションが、同期ツールもバックアップも共有ストレージも一切関与せずに、本当に別のデバイスへ全文同期したのであれば、それは security ラベルにふさわしい本物のバグだ。その場合は、各デバイスでどのクライアント(ターミナルの claude か、デスクトップ / Cowork か、claude.ai の Web か)を使ったか、そして Device B のディスクに .jsonl が実在するかを添えて報告すると、原因の切り分けが一気に進む。
「漏れているかもしれない」と感じたら、まずは慌てて消す前に、上の ls と readlink でいま自分の手元で何が起きているかを確かめてほしい。データに関する事故は、思い込みで動くと二次被害につながりやすい。事実を一つずつ確認するのが、結局いちばん速い。
参考(一次情報):
- Issue #71794 — Conversation history unexpectedly syncs across devices without user consent
- Issue #7805 — Cloud-based conversation history for Claude Code(クラウド同期は未実装の機能要望)
- Claude のチャット検索と Memory について(公式ヘルプ)
- プライバシー設定の変更方法(Anthropic Privacy Center)
補足:データ周りの「事故」全般を一度点検したい人へ
今回は同期と露出の話だったが、Claude Code のデータの事故はもっと広い。うっかりした破壊的操作で作業が消える、設定が黙って壊れる、検索が空振りして「消えた」と誤解する――こうした「消えた/壊れた」系のほうが、実際には頻度も被害も大きい。いずれも今回と同じく「事実を確かめてから動く」が効く領域だ。
この種の事故を実例つきで一か所にまとめた無料のトラッカーと、破壊的操作を未然に止める無料の hook 群(MIT ライセンス)を公開している。導入もアカウント登録も不要で、自分の設定が事故に強いかを点検できる。
この「別のPCに履歴が出てきた」不安を含め、データが消える/露出する事故をひとつずつ設定で先回りして防ぐ手順を、有料の手引き Claude Code 事故防止ガイド(¥800・第3章まで無料・以降も毎月更新) にまとめている。今回の主題は第60章で——2つの履歴の切り分け、~/.claude が同期フォルダの下にある真犯人の見つけ方、履歴だけでなく鍵の露出にもつながる経路の断ち方まで——専用の章として深掘りした。第3章まで無料で試し読みできる。無料のトラッカーと hook で足りる人はそれで十分。自分の環境の穴を体系立てて塞ぎたい人向けの、もう一段深い手引きだ。
今回のような「エラーも警告も出ないまま起きる」事故は、毎月あたらしい型で出てくる。ひとつの主題を、実際に報告された事故から逆算して深く追いたいなら、事故防止ガイド(¥800・第3章まで無料・以降も毎月更新)にまとめている。買い切りの一冊で、買えばその範囲は毎月の追記もふくめて無償で更新される。第3章まで無料で試せるので、まず中身を見てから決めればいい。無料のトラッカーと hook で足りる人は、それで十分だ。
ほかにも、800時間の運用データから、トークン消費の削減・複数ベンダー(Claude/Codex/Gemini/Copilot)の並行運用・サブエージェントの沈黙の失敗対策など、テーマ別の手引きを公開している。気になる人は著者の本の一覧から、価格と評価を見て選べる。
ここまでは個人の環境の話だった。だが今回のような「履歴が別の環境に出てくる」事故は、チームに配ると桁が変わる。組織のリスクは平均ではなく、いちばん無防備な1人で決まる。19人が丁寧に設定しても、20人目が何もしていなければ、エージェントは同じリポジトリと同じ認証情報に対して走る。
チーム配布を前提に、中核の文書(PDF・なぜお願いでは止まらないか、最も無防備な1人、実行の層で止める原理、監査と研修、復旧と正直な限界まで)と、そのまま自社のリポジトリに置けるチームの安全ポリシーの雛形(必須の hook・禁止する操作・権限)、弱い設定を pull request で捕まえて安全スコアが閾値を下回ると build を落とす CI の安全ゲート、そして取り返しの付かない操作・子エージェントの境界・利用枠の漏れ・停止が効かない、の4系統の事故の実例集を、社内配布・改変・商用利用OKの買い切りでまとめたのが Claude Code チーム安全導入パック(¥3,000・買い切り/チーム配布可) だ。技術リードや情シスが、ゼロから組織の安全基盤を組む時間を肩代わりする。数万円規模の研修や文書整備のコンサルを、配って改変できる買い切りに置き換えるものとして値付けしている。個人で1台を守るだけなら上の¥800の本で足りる。チームに配って運用を回す立場の人向けの、別の一式だ。