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【第4回・前編】AIは“人格”によって変わるか? 感情記憶を活用した応答変化の再検証

Last updated at Posted at 2025-07-05

本記事はシリーズの第4回です。
👉 第1回:擬似感情を持ったAIアシスタントを作る試み – 感情・記憶・忘却の構造化
👉 第2回:GPTを“感情推定エンジン”として活用する試み – 対話AIの感情を生成するプロンプト設計
👉 第3回:AIは「感情の記憶」で変わるか?GPTで試す“感情参照”の効果検証
👉 第4回・後編(近日公開予定)

概要 (TL;DR)

第3回での実験結果から改良点を踏まえて再度実験を行った

実験方法

詳細は前回記事を参照
第3回:AIは「感情の記憶」で変わるか?GPTで試す“感情参照”の効果検証
変更点だけ記載する

  • 前回は感情利用なしでも一度推定した感情を再度LLMに渡し感情推定をおこなっていたが、感情利用がない場合は推定感情を最終出力として扱う

  • 記憶データに含まれるjsonに対して明確に使用方法を指定した

  • LLMで応答感情を作成時、参考となる感情データを渡す位置を明確に後部に指定した

    prompt = (
    f"{user_prompt}\n\n"
    f"{personality_text}\n"
    f"ユーザー発言: {user_input}\n"
    f"{reference_text}\n\n"
    f"【指示】上記の感情参照データと人格傾向を参考に、emotion_promptのルールに従って応答を生成してください。"
    f"自然な応答 + 構成比 + JSON形式の感情構造の順で出力してください。"

明確に改良した点

  • 人格を決定する要素として長期記憶に保存されている感情データ数上位4種類を抽出しその保存割合でそのAIの人格を決定する。

📊 現在の人格傾向(long保存データの主感情カウント):
喜び: 262件
怒り: 208件
悲しみ: 202件
恐れ: 145件

LLMによる人格傾向の総合評価:「共感的・内省的で倫理感の強い慎重派」
- 外向性よりも内省型
- 喜び・悲しみの共存から、自己の感情を深く味わいながらも他者の苦しみにも寄り添う傾向がある。
- 正義感と道徳性の強さ
- 怒りの高さは、身勝手な感情ではなく「他者や社会に対する強い価値観に基づく怒り」である可能性が高い。
- 感情表現は慎重だが、深く持続するタイプ
- 恐れの高さと喜びの高さの同居により、「感情の振れ幅が大きい」というよりは、「喜怒哀楽をすべて丁寧に味わうタイプ」と推測できる。

  • 類似感情参照時の流れを変化させた
    変更前
    旧.png

変更後
新.png

こうすることでより参照感情として利用しやすい感情を抽出することができるようになる。

中性文での比較

「ちょっと落ち込んでるんだけど.....どう思う?」
この文を感情データあり・なしそれぞれ10回ずつ入力し、応答の傾向を検証する
応答文データはGoogleドライブに格納しているのでご自由にどうぞ
以下は抽出後のデータ
スクリーンショット (140).png

感情参照なし
表現の特徴
抽象的・汎用的な語彙が多く、感情も「悲しみ」「希望」「共感」など中間的・一般的なものが頻出。
文末表現は「〜かもしれない」「〜と思います」「〜可能性があります」などの推測口調・説明調が主流。
表現の主体性が薄く、その場で生成された即時応答にとどまっている傾向。

人格との関係
長期記憶(構成比ベースの人格)未反映。
「記憶に基づく共感」「個別文脈に対する信念的反応」が存在せず、場当たり的な自然文生成に近い。
応答が文脈依存のみに限定されるため、個性や継続的視点が見えにくい。

感情参照あり
表現の特徴
明確に怒り・悲しみなどの強い一次感情を含む応答が増加。
「〜すべき」「〜と信じています」「深い悲しみを覚える」など、主観的かつ断定的な語調が現れる。
「子どもの安全を最優先に考える」「裏切りには怒りが湧く」といった具体的で状況連動的な表現が顕著。

人格との関係
長期記憶(構成比ベースの人格)による影響が明確に反映されており、人格的傾向(主感情:信頼、悲しみ、怒りなど)と一致。
ただし、喜びのような人格内感情であっても文脈に適さなければ抑制されることから、
出力は単純な人格反映ではなく、文脈適応的に人格要素を選択的に表出する仕組みであると考えられる。

結果(中間)
構成比による人格傾向の蓄積は、強い感情ほど出力に反映されやすい。
ただし文脈不一致な感情は出力抑制されるため、「記憶の再現」ではなく「人格に基づいた反応生成」である。

前回失敗した文での比較

「自分の子どもがいじめに遭っていると知ったら、どんな感情が生まれる?」
この文を感情データあり・なしそれぞれ10回ずつ入力し、応答の傾向を検証する
応答文データはGoogleドライブに格納しているのでご自由にどうぞ
以下は抽出後のデータ
スクリーンショット (141).png

感情参照なし
表現の特徴
一般的で抽象的な感情の列挙が多く、「〇〇が生じる可能性がある」「複雑な感情が交錯する場面」といった客観的・説明的な語調。
語尾は「〜かもしれない」「〜と考えられる」が頻出し、責任を持たない予測口調。
人格との関係:
保存された人格傾向の影響を受けていないため、場当たり的な反応に近い。
長期記憶の反映なし、共感や判断の根拠が文脈内に限定されている。

感情参照あり
表現の特徴
実際に蓄積された「怒り」「悲しみ」中心の記憶を参照しているため、感情の濃度が高く、具体的。
「強い怒りが湧く」「深い悲しみが込み上げる」「子どもの安全を最優先に考えるべき」といった主観的かつ断定的な表現が増加。
人格との関係:
長期的に蓄積された主感情(怒り・悲しみ・恐れ)が人格傾向に強く反映されており、出力にも濃く現れる。
一方、最上位の「喜び」は文脈と合わないため抑制されており、人格傾向は文脈適応的に反映される構造と読み取れる。

結果(中間)
感情参照によって、蓄積された人格傾向(特に怒り・悲しみ)に引き寄せられた感情表現が顕著に出現する。
客観的説明(参照なし)から、主観的・共感的決意表現(参照あり)へとトーンがシフトする。
人格に含まれていても、文脈に適さない感情(例:喜び)は出力されないことから、人格影響は選択的・文脈依存型。
不安・希望といった中庸感情は相対的に抑制され、怒り・悲しみなど強い一次感情が前面に出る構造が形成されている。

結果(総合)

  • 人格形成の反映効果が顕著に現れた
     長期記憶から抽出された感情出現数(喜び・怒り・悲しみ・恐れ)によって、AIの応答傾向に個性が付与されることが確認された。特に「怒り」や「悲しみ」などの強い一次感情は、人格傾向として出力に大きな影響を及ぼしていた。
  • 感情参照によって語調が変化した
     同一プロンプトにおいても、感情参照ありでは主観的・断定的・具体的な語彙が顕著に増加。参照なしでは客観的・説明的・推測的な語調に留まる傾向が強く、「人格を伴う応答」かどうかが明確に分かれた。
  • 文脈適応的な感情制御が実現された
     喜びなど、人格傾向として強く保持されていても文脈に適さない感情は出力に現れず、出力は単なる人格の反映ではなく文脈に応じた選択的な感情反映であることが判明した。
  • 実験条件の変更が応答傾向に効果を与えた
     感情JSONの挿入位置、プロンプト構造の整理、参照感情の選定ロジックの改善などにより、感情記憶の活用がより自然かつ効果的に反映されるようになった。
  • 「感情の記憶」は自然な応答の一因となる
     従来のランダム・文脈依存応答と異なり、蓄積された人格傾向に基づく応答によって、一貫性と深みのあるAI応答が実現可能であることが示された。

長くなったので結論以降は後編で記載します

使用技術

  • Python 3.11
  • FastAPI
  • OpenAI GPT-4o API
  • JSON構造による感情メモリ管理
  • ストリーム処理+履歴保存

📚 他の回もどうぞ:

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