1. 「いい上司」って結局なんなんだ問題
「いい上司」という言葉は便利すぎて、何でも入る箱になっている。数字を出せる人、優しい人、話しやすい人。どれも間違ってはいないが、どれも本質ではない。
自分の中で一番腹落ちしている答えはこうだ。
「背中を見せながら、一緒に仕事をする上司」
一見矛盾するようで、実はこの二つは片方がもう片方を支える関係になっている。以下でそのロジックを整理する。
2. 背中を見せる=率先して動く+部下を守る
「背中を見せる」というと武勇伝を語るおじさんを想像しがちだが、そういう話ではない。実際には次の二つに尽きる。
- 自分も手を動かし、逃げない。 指示だけ出して自分は安全圏にいる上司には、誰もついていかない。
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部下を守る。 成果を出すことより優先すべきは、部下を潰さず、辞めさせないことだ。
数字はもちろん重要だが、上司の立ち位置としてそれ以上に重要なのは「部下が一緒にやっていける状態を保つこと」だ。数字は結果であって、目的にした瞬間に本末転倒になる。
3. 隠さない上司が信頼される理由
信頼を生む行動でもう一つ大きいのが「隠さない」ことだ。
ただしこれは「全部見せろ」という話ではない。重要なのは、
隠せないことは「これは言えない」とはっきり言い切ることだ。
何でも隠そうとする組織は、部下の信頼を確実に削っていく。決定した内容を結論だけ渡すのではなく、決まっていく過程そのものを見せ続ける方がいい。「こういう経緯があって、結果こうなった」という流れが見えていれば、途中で部下から「それは違うのでは」と指摘することもできる。
この双方向性があるからこそ、部下は決定に従いやすくなり、理解度も大きく変わる。倉貫義人『リモートチームでうまくいく』でも、経営の意思決定過程まで含めて社員に開示する会社の話が出てくるが、これはまさにこの発想に近い。
4. 部下を試してはいけない
信頼を積み上げる上で、絶対にやってはいけないことがある。それが「試す」行為だ。
ここで言う「試す」は、挑戦させることではない。裏で部下の反応や本音を確かめるために、あえて情報を伏せたり、わざと選択肢を狭めたり、反応を見るための駆け引きを仕掛けたりすることを指す。本人に気づかれないよう仕組んで観察する、そういう行為だ。
これは前章の「隠さない」と真逆の発想になる。試すという行為自体が、部下に対して隠し事をしている状態そのものだからだ。試された側は、後になってそれに気づいた瞬間、積み上げてきた信頼を一気に失う。
部下を評価する必要がある場面はあっても、それは正面から伝えればいい。裏で仕掛けて反応を見るようなやり方は、信頼構築とは真逆の方向に働く。
5. 尊敬は「ついていきたい」ではなく「助けたい」から生まれる
「仕事ができるから尊敬する」は、今の世代にはほとんど通用しない。スキルの高さだけでは人はついてこない。
代わりに重要なのは次の流れだ。
率先して動く → 信頼される → 助け合いが生まれる → 「一緒に働き続けたい」という尊敬に変わる
ポイントは「ついていきたい」ではなく「助けたい」であることだ。ついていきたいは上下関係のままだが、助けたいはすでに対等な関係性の話になっている。
信頼されているかどうかは、部下がどれだけ「人に話せないこと」を話してくれるかで見えてくる。失敗の相談、権限を渡したときの反応、そして個人的な話をしてくれるかどうか。これは上司からの一方通行ではなく、部下からの返りがあることが条件になる。信頼は循環して初めて本物になる。
6. 「寄り添う」だけでは尊敬されない
近年増えているのは、部下に寄り添おうとする上司だ。話を聞く、共感する、心理的安全性を確保する。これらは間違ってはいないが、寄り添うことと尊敬されることは全くの別物だ。
寄り添いは安心感を与える行動であり、尊敬は「助けたい」という感情から生まれる。寄り添うだけで率先して動く姿や決断する姿が伴わなければ、部下にとって「話しやすい人」で終わってしまい、「一緒に働きたい人」にはならない。
優しさと信頼は別軸にある。寄り添う姿勢は前提として必要だが、それだけでは尊敬の土台にはならない。
7. 自分も成長する、それを見せる
もう一つ欠かせない要素がある。
部下の成長だけを望むのではなく、自分自身も成長し続け、それを発信すること。
テックリードを目指す立場として重要なのは、上司自身が学び続け、成長している姿を見せることだ。上司が現状維持のまま部下にだけ成長を求めても説得力はない。
自分が成長し発信していれば、部下にも「自分もやらなければ」という気持ちが自然に生まれる。これは強制ではなく伝播であり、背中を見せるという行為の一つの形でもある。
8. 飲み会が果たす役割
昭和的な発想に見えるかもしれないが、飲み会のような業務外の場には一定の役割がある。
信頼の項目で触れた「人に話せないことを話してくれる瞬間」は、こうした非公式な場で生まれやすい。強制的な飲み会である必要はなく、重要なのは業務の枠を外れた対話の機会を意図的に作ることだ。フラットな場での会話が、結果的に業務上の信頼にもつながっていく。
9. 信頼が部下を辞めさせない、そして成長させる
ここまでの要素を一つの流れとして整理すると、図のようになる。
「部下が辞めない」はゴールに見えるかもしれないが、実際はスタートラインだ。辞めない状態を維持できて初めて、成長も成果も積み重ねられる。
10. まとめ:立ち位置を持て
- 自分が動いて、部下を守る
- 隠せないことは隠せないと言い切る
- 部下を裏で試すようなことはしない
- 寄り添いだけでは尊敬にならないことを理解する
- 尊敬は「助けたい」という感情から生まれることを理解する
- 自分自身も成長し続けて、それを見せる
- 業務外の対話の機会を意図的に作る
これができていれば、部下は自然と辞めない。辞めないから成長できる。成長できるから成果も出る。
これはマネジメントというより、テックリードという役割において特に効いてくる考え方だ。
