はじめに
こんにちは。
anyでデザインマネージャーをしている三宅です。
普段はanyのデザイン全体(ブランド+プロダクト)について、制作から組織づくりまで幅広く推進する役割を担っています。
この記事はanyプロダクトチームAdventCalendar2025、24日目
の記事ですが、クリスマス感ゼロの内容でお送りします(笑)。
弊社が展開するAIナレッジプラットフォーム「Qast」は、2025年にUIを大きく刷新し、「Qast 4.0」と呼ぶバージョンをリリースしました。(UI刷新は画面ごとに順次進行予定)
このリニューアルプロジェクトを進める過程で、私は「使いたくなるプロダクト」という言葉を100回くらい口にしていた気がします(笑)。
「使いたくなるプロダクト」とは何なのか。だいぶ感覚的でふわっとしたこの言葉について、その後も考えを巡らせることが多かったので、今回アドベントカレンダーのテーマとして取り上げてみることにしました。
「使いたくなるプロダクト」を考える
BtoB SaaSを前提にした場合、「使いたい」と思わせる要因を大別すると、「コンテンツ面」「機能面」「情緒面」の3つの側面に分けられるのではと思います。
それぞれ見ていきましょう。
コンテンツ|Contents
プロダクトの性質にもよるかもしれませんが、多くのプロダクトはその中にコンテンツ(データ)を入れて使っていくケースが多いと思います。
そもそもコンテンツが何も入ってないプロダクトは誰も使おうと思わないでしょう。まずは十分なコンテンツが蓄積されていること、そして理想的には「他のプロダクトには存在しない、ここでしか見られない有用なコンテンツ」が入っていると、「見に行きたくなる」プロダクトになると考えられます。
コンテンツの成熟度レベル
コンテンツの成熟度レベルを段階に分けるとこんな感じでしょうか。
◎:そのプロダクトにしかない有用なコンテンツがある / コンテンツの質が高い
◯:コンテンツが十分に足りている / 一定の質がある
△:コンテンツが少ない / 質が低い
X:コンテンツがない
◎を実現するのは非常に難しい気もしますが、データを独占する契約を結んでいたり、膨大な量のコンテンツが長期間にわたって蓄積されたことでプロダクトのスイッチングコストが高まっている場合には、◎のレベルに達することが可能になると思います。
機能|Function
プロダクトの価値の根幹になるのはやはり機能ですね。コンテンツ(データ)がいかに蓄積されやすくなるかも機能次第と言えます。
機能の成熟度レベル
◎:使いやすい / そこにしかない極めて利便性の高い機能(キラー機能)がある
◯:使いにくくない / 機能が足りている=やりたいことが大体できる
△:使いにくい / 機能が少ない
X:使えない
ユースケースが多岐にわたるプロダクトの場合、どのユーザーにとっても「使いやすい」と感じさせることは決して簡単ではないため、◯を「使いにくくない」、◎を「使いやすい」としました。
「やりたいことが大体できる」を◯にしていますが、これも決して簡単なことではなく、ここに至るまでにはPMF(Product Market Fit)を乗り越えてしっかりと収益基盤を作り上げ、開発への継続的な投資ができる状態になっていなければいけません。
その上で、やはりそのサービスにしかない「キラー機能」を持つことが理想的な状態と言えます。デザインツールのFigmaが「同時編集」という極めて利便性の高いキラー機能によって右肩上がりにシェアを伸ばし、圧倒的に優位なプロダクトになっていったのは有名な話ですね。
情緒|Emotion
いわゆる「情緒的価値」です。
信頼性を感じる、安心感がある、イケている気分になる、新しさを感じる、ワクワクする、優しい雰囲気を感じる・・・などなど。ただ単純に機能が使えるというだけではなく、こうした心理的にプラスの印象を感じさせられるかどうかも、「使いたくなる」かどうかに影響すると思います。
具体的には、画面のレイアウト、余白、写真やイラストなどの画像、ボタンなどの色・形、マイクロインタラクション、フォント、言葉の選択やボイストーンなどの複合によって実現できるものだと考えています。
情緒の成熟度レベル
◎:機能劣位を補うほどの魅力的な情緒がある
◯:十分に情緒がある
△:情緒が少ない
X:情緒がない
やはり「機能」というのは一定期間は先行できても、いずれ競合に模倣されてしまい、イタチごっこになるケースが多いと思います(先行することも重要だと思いますし、精度によって差をつけることももちろん可能だとは思います)。市場が成熟してくるとさらにその傾向は加速していくでしょう。
そうして機能が均衡したときに、「なんかこっちの方が好き」「なんかこっちの方が信頼できそう」という心理的な印象を与えられるかどうかが重要になってきます。
そうした印象というのは、「自分たちらしさ」「自社のアイデンティティ」といった「模倣しても仕方ないもの」や、アニメーションのコンマ数秒のタイミングによって生まれる心地良さ、数ピクセルのバランスによって生まれる美しくて見やすいUIといった「繊細な感覚を必要としたり、価値を言語化・数値化しにくいもの」によって形成されており、差をつけやすい部分と言えます。
また、顧客から沢山の要望をいただく機能的価値と比べ、情緒的価値というのは顧客から要望が上がってくることはほぼありません。そのため、「顧客からの要望がなくても自分たちが重要だと考えているからやるんだ」という強い意志が必要で、どんな会社でもここに投資するという意思決定ができるわけではありません。だからこそ、差別化しやすいポイントになる、ということが言えます。
実は当初この「情緒的価値」を主題にした記事を書こうとしていたのですが、私が書こうとしていた内容よりもはるかに充実した素晴らしい記事を書かれている方を見つけてしまったため、方向転換しました(笑) 「情緒的価値」についてより深掘りたい方はぜひ↓こちらの記事をご覧ください。
プロダクトが成熟していくステップ
コンテンツ、機能、情緒。
プロダクトはどんなステップを踏んでこれらを充実させ、成熟していくのでしょうか。
すべてのケースで当てはまるものではないかもしれませんが、1つの仮説として整理してみました。
※念の為補足するとこれはあくまでも私個人の整理で、anyのプロダクト開発の公式見解ではありません。
Step1|機能:X → △
機能がなければコンテンツも入れられないので、まず機能を作り、アクセス可能にする必要があります。利用価値のある機能になっていれば、いわゆるMVP(Minimum Viable Product)となります。
Step2|コンテンツ:X → △
Step1で作られた機能が使われてコンテンツが入っていきます。導入を推進する部署や担当者の方である程度コンテンツを入れておいたり、エンドユーザーに直接掛け合ってコンテンツの投入を促進するなど、最初は地道な推進も必要になることが多いと思います。
最低限の機能とコンテンツが備わった後で、自社の思想や"らしさ"を少しばかり盛り込む余裕が生まれるでしょう。プロダクトオーナーが情緒的価値を重視している場合はStep1の機能開発と同時に一定の情緒的価値が備わっているケースもあると思います。
Step4|コンテンツ:△ → ◯
価値があるコンテンツが溜まっていくと、それを見て利用したいと感じるユーザーがネットワーク効果的に増えていきます。コンテンツが思うように溜まっていかない場合は機能の方に何らか使いづらさがある可能性があります。
Step5|機能:△ → ◯
機能が充実し、「やりたいことが大体できる状態」。このステップに到達する頃にはPMFも乗り越え、開発力も高まっていると思います。逆に言えばここまで到達すること自体が非常に難しいとも言えるでしょう。顧客も増え、ユースケースも多様化してきて、すべての顧客に「使いやすい」と感じさせるにはどうしたらよいか、苦慮するフェーズです。
Step6|情緒:△ → ○
この頃には競合プロダクトが次々に出現してきて、自社のプロダクトに似た機能をリリースしたりする事態も起こってきます。機能だけでの差別化に限界を感じ始め、自分たちにしか出せない"らしさ"をこれまで以上にプロダクトに盛り込もうとする動きが見られるようになります。
Step7|機能:◯ → ◎
ここまで来れば相当に強いプロダクトになっているはずですが、残された難関が「キラー機能」を持つことです。顧客の利便性が極めて高いと同時に、技術的にも難易度が高く他社が容易に真似できない機能。ここまでいかずともシェアNo.1になっているプロダクトも多いかもしれません。
Step8|情緒:◯ → ◎
プロダクトの情緒的価値を磨き込み、明確にそれが強みの1つになっている状態。状況に応じてStep7より先に来るケースもあるでしょう。
Step9|コンテンツ:◯ → ◎
以上のような過程を経ながら長期にわたって利用され、膨大な量のコンテンツやデータが溜まっていくと、容易に他のプロダクトに乗り替えることができなくなります。
「使いたくなるプロダクト」の実現に向けて
多くのプロダクトがStep5〜6あたりで壁にぶつかり、競合の存在を意識しながら限られたリソースをどこに張るべきか、頭を悩ませることが多くなるのではと思います。
顧客からの要望に1つ1つ応えていって「一通りやりたいことができる」を目指すか、他社がしばらくは追いつけないようなキラー機能の開発を目指すか、はたまた他社が真似したくてもできないような情緒的価値を持たせるか。チームで議論しても、意見が分かれるところだと思います。
私が最近思うのは、このどれもが正解であり、「全部目指した方が良いのではないか」ということです。
もちろんリソースに限りはありますから、優先順位をつけざるを得ないことはあると思いますが、「どれかはやらなくていい」ではなく、「どれも満たす」ことを目指すことが強いプロダクトづくりには欠かせないのではと感じています。
また、これらのどれを重視するかは個人の価値観や思考特性に大きく影響を受けるように感じます。私自身は情緒的価値のレベルを見極めることと創出することにおいて自分の強みが発揮されやすいと感じているため、ついついその方面の重要性を訴えがちになる傾向(バイアス)が自分にあると感じます。こうした個人特有の思考特性も踏まえた上で、チーム全体として偏りのある視点で議論していないかを冷静に見定め、自社のプロダクトに不足している点を見極める必要があります。
「プロダクトの外」も影響する?
最後に、「使いたくなるプロダクト」を作れるかどうかには、実は「プロダクトの外」も影響するのでは、というお話をしたいと思います。
あるとき、デザイナー採用をお手伝いいただいている業務委託(anyでは"anyフレンズ"と呼びます)のAさんに「Aさんは"好きなHR系のプロダクト"ってあるんですか?」とお聞きしたところ、「B社のプロダクト」という答えが返ってきました。(※アルファベットに意味はないです)
それを聞いて、B社のプロダクト画面を見ていたときにふと思ったのが、プロダクトの画面自体に何か特別オリジナリティを感じるかというとそうではないなということです。
そのときに、もしかするとAさんは、B社のSNSでの発信やイベント・コミュニティ活動、実際に社員の方々との触れ合いを通じて感じる同社の"カルチャー"に好感を持っていて、それで「プロダクトが好きだ」と"錯覚"している可能性があるのではないか、と感じました。
そしてこれはもちろんAさんだけでなく、私を含めて多くの人に起こっている事象かもしれません。
そうした「プロダクト外」の要素も、「プロダクトを好きになるかどうか・使いたくなるかどうか」に影響する可能性があると、それ以来考えるようになりました。冒頭で分けた3つの要素「コンテンツ」「機能」「情緒」に加え、第4の要素と言えるかもしれません。
---お読みいただき、ありがとうございました!
約1ヶ月にわたってお送りしてきたanyのプロダクトチームによるアドベントカレンダーも、明日がいよいよ最終回です。
ぜひ最後までご覧いただければ幸いです!🙌
