前回の復習と本稿の目的
振動センサーを用いて、回転機器の状態監視をしているとしましょう。もし、異常に高い振動が計測されたら、周波数解析が必要になります。生の振動データからどうやってスペクトルを計算するか、を前回まとめました。得られたスペクトルを再度、下図に示します。このスペクトルから、どのようにして異常振動の原因を明らかにするか、をここでは記述したいと思います。
ベアリングの固有振動数の導出
ベアリング(軸受)は、内径や外径、転動体(コロ)の数や直径など、その幾何形状で決まるいくつかの固有振動数を持ちます。それらと、前回導出したスペクトルのピーク周波数の一致を調べることで、どのベアリングのどの部分が損傷しているかを特定することが可能になります。
そのため、まずは(1)振動センサーで監視しているベアリングの型番、(2)シャフトの回転周期の2点を調べましょう。筆者らのユースケースでは、(1) 異常振動が計測された振動センサーの直近のベアリングは、NSK社のNF205でした。(2) シャフトの回転周波数は3550 (rpm, rotation per minutes) でした。
この2つの情報があれば、ベアリングの特性周波数が計算できます。手計算でも導出できるのですが、もっと簡単な方法をここでは紹介します。
ベアリングメーカーは、たいてい自社のベアリングに対して、"bearing frequency calculator"のようなweb pageを持っています。例えば、NSK社だとこちらに行くと、下に示したような「振動周波数の計算」というページを見つけることができます。
そちらにアクセスし、ベアリングの型番(ここではNF205)を選んだあと、シャフトの回転周期 (3550 rpm) を入れると、当該ベアリングの固有振動数が、下図のように得られます。
注目していただきたいのが、赤線で囲った部分です。
- 保持器の回転周波数 [s^-1] = 1475.325 / 60 = 24.6 Hz
- 転動体の自転周波数 [s^-1] = 10213.786 / 60 = 170.2 Hz
これにより、得られたスペクトルのピークは、上の2つの周波数とその高調波に一致することがわかりました。つまり、ベアリングの保持器と円筒ころが損傷しているため異常振動が検出されたのではないかと推測できました。
根本原因の解明
この推論に無理のある仮定は含まれておらず、すんなり受け入れられるものではあると思います。しかしながら、保守的にみると、ここまではあくまでデータ解析と理論に基づいたspeculationでした。
解析が正しいかを実際に確認することが何よりも重要ですので、筆者らは実際に、ベンダーの協力のもとでオーバーホール期間に当該ベアリングを取り出し、同型機の同一ベアリングと比較しました。その結果、円筒ころや保持器が異常に摩耗していること、その摩耗した鉄粉の混入により、白いグリスが真っ黒に変色していることを確認しました。
その後、当該ベアリングを交換し、再度振動計測をスタートしたところ、振幅が約1/10の通常レベルに低下したことも確認しました。
このあたりの写真を公に公開してよいかどうかは微妙だと思いましたので、ここには載せませんでした。興味のある方はDMいただけますと幸いです。