5
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

MCP 時代の到来とアプリ開発の新常識

Last updated at Posted at 2025-07-15

はじめに

MCP(Model Context Protocol)は、AI の コンテキストをモデル化(作業の文脈を構築)するプロトコルです。

生成 AI は、文章や絵、プログラムなどを 生成する ことしかできませんでした。MCP はこの制約から AI を解き放ち、実行する 能力を与えます。

本稿は、MCP の仕組みとその可能性を探ります。

MCP が変える未来

2024 年末に Anthropic が提唱した MCP は、技術的には HTTP と良く似ています。主に、HTTP は人が使う ことが意図されています。

image.png

一方で、MCP は AI Agent が使う ことが意図されています。Agent とは「代理人」という意味です。

image.png

各 MCP サーバーには、それぞれ固有のツールがあります。たとえば「宿予約」サービスでは「空きを探す」「予約する」などのツールが利用可能でしょう。

人がプロンプトで 「今月下旬に東京近辺で一泊したいんだけど」 と入力すると、AI Agent は要件に合う MCP サーバーを探してツールを呼び出し、「この日、この宿が空いています。予約しますか?」 などと返してくれます。

MCP ツールの機能は、なるべく単純で素朴なものにします。「新幹線の主な停車駅で泊まれる宿と、その日の天気予報を表にまとめて」 のような複雑なプロンプトにも、AI Agent は複数のツールを組み合わせて回答できます。

MCP の特徴

HTTP との比較を通じて、MCP の主要な特徴と、設計時に考慮すべき点を整理します。

ネットワーク効果

MCP も プロトコル なので、利用者が増えれば増えるほど、ますます便利 になっていきます。

  • 現在のサービスの多くが HTTP で提供されていること
  • MCP は、HTTP ととても良く似た技術であること

を考えると、将来は多くの既存サービスが MCP もサポートするようになることが想像できます。

対象ユーザー

HTTP では、Web ページを使いやすくデザインし、このサービスを人に選んでもらうことが重要でした。同様に、今後は MCP ツールを使いやすくデザインし、このサービスを AI Agent に選んでもらう ことが重要になるでしょう。

単純な設計

MCP サーバーのツールに JSON を送ると、JSON が返って きます。これは、技術的にはほとんど HTTP(REST API)の POST と同じです。

では、AI Agent も既存の REST API を呼び出してくれればいいのに、と思われるかもしれません。しかし、AI にとって既存の API はとても使いにくいのです。一般の人が REST API を直接呼び出してサービスを利用するなんて考えられないですよね。それと同じです。

MCP には、より単純で抽象化された設計が求められます。少ないパラメータをもつ厳選されたツールだけで簡単に利用できなければ、あなたのサービスは AI Agent に選んでもらえないでしょう。

ツールの使い方

多くの場合、HTTP REST API の使い方は外部ドキュメント(Swagger など)に記述されます。しかし MCP では、接続時にサーバーがその ツールの使い方をクライアントに送信 します。この説明は自然言語(日本語など)で記載されているため、クライアント(AI Agent)はそれらのツールをスムーズに使い始めることができます。

なお、MCP サーバーが自然言語を理解する必要はありません。

双方向の通信

MCP の接続はしばらくつながったままになり、サーバーからもクライアントに通知を送信 できます。宿の予約サービスにおいては「さっきまで空いてたこの日は、ほかの予約が入ったため利用できなくなりました」のような通知が考えられます。

インターフェイスデザインの簡素化

MCP には、リッチな Web 画面は不要 です。レイアウトのデザインや、ブラウザ上で実行されるスクリプトなどを開発する必要がなくなり、サービスの提供者はより本質的な価値提供に注力できます。(とはいえ、人間相手にもサービスを提供するなら、引き続き HTTP のサポートと Web デザインも必要ですが。)通信量も、HTTP よりずっと少なくなるはずです。世の中が最適化され、より効率的に動くようになります。

インターネット広告

もし MCP のレスポンスに インターネット広告 を含めるとしたら、それはどうあるべきでしょうか。

  • そのような広告を見て、AI Agent は振る舞いを変えるのか
  • 逆に、ユーザーエクスペリエンス が悪化して避けられるようになるのか
  • そのような広告の効果はどのように測定できるか
  • セキュリティ上の脅威にもなり得る広告は、どのように排除できるか

こうした課題の解決には、技術や関係者間の合意形成など、多方面からのアプローチが求められるでしょう。

MCP クライアントについて

みなさんの多くは、ブラウザで AI(LLM; 大規模言語モデル)をお使いでしょう。しかし、ブラウザは MCP クライアントとして動作できません。そこで、現在利用可能な MCP クライアントをいくつかご紹介します。

Anthoropic Claude Desktop

Anthropic は MCP を提唱した企業であり、Claude という LLM をリリースしています。この Claude 専用のデスクトップアプリが Claude Desktop です。これには MCP Client の リファレンス実装 としての側面もあると思います。MCP を使わせると、ほかの MCP クライアントよりも処理が早い印象です。

Microsoft GitHub Copilot

Microsoft は、開発者向けエディタ Visual Studio Code を無償で提供しており、これに搭載されている GitHub Copilot は MCP クライアントとしても動作できます。そのほか、Copilot Studio という製品でも MCP を利用できるようです。

Cline

Cline は、前述の Visual Studio Code や、Cursor などの開発者向けエディタのプラグインです。これが非常に強力で、大変話題になりました。これまで AI にプログラムを書かせるには、元コードをブラウザにコピペしたり、出てきたコードを手元のエディタにコピペして戻したりすることが必要でした。

Cline を使うと、AI がディスク上のプログラムファイルを直接編集し、コンパイルしてエラーを確認し、作ったプログラムを実行してテストまでしてくれます。その結果に基づき、プログラムの編集・ビルド・実行を自動で繰り返し、ほとんど放置でプログラムを完成させてしまいます。

Cline に同梱のローカル MCP サーバーには、テキストファイルを読み書きするなどの、ソフトウェア開発に必要な最低限の機能が揃っています。さらに、ほかの MCP サーバーを登録することで、その機能性を拡張できます。たとえば SQL Server を読み書きする MCP サーバーを導入すると、AI はデータベースのスキーマやレコードを参照し、それに沿うビジネスアプリを自動で作ってしまいます。これは、MCP が大変強力なテクノロジーであることを示す一例です。

MCP サーバーを登録する

MCP サーバーの利用を開始するには、それを MCP クライアントの設定ファイルに登録する必要があります。このファイルパスや書き方は MCP クライアントごとに異なるので少し面倒ですが、将来はもっと 簡単に利用できるようになる でしょう。

MCP サーバーについて

MCP サーバーには、リモートサーバーとローカルサーバーの 2種類があります。

リモート MCP サーバー

ユーザーが使う PC とは別の PC で実行されるサーバーです。

image.png

前述のように、将来は「宿予約」や「株式売買」などのサービスを提供する MCP サーバーが出てくるはずです。セキュリティや予期しないコマンドの実行など、解決すべき技術的な課題も残っていますが、遠からず解決されるでしょう。

ローカル MCP サーバー

ユーザーが自分の PC にインストールして使うサーバーで、この PC 上のリソース(ファイルやローカルアプリなど)を操作します。コンソールアプリケーションとして作成できますが、実行中にコンソールが表示されるわけではありません。

image.png

Claude Desktop などの MCP クライアントは、MCP サーバー(コンソールアプリ)を子プロセスとして起動し、その標準入出力で双方向に接続します。標準入出力 は、プロセス間通信をセキュアに実現する簡単な方法のひとつです。

汎用ローカル MCP サーバー: PowerShell.MCP

筆者が開発した PowerShell.MCP は、AI が PowerShell コンソールの中で任意のコマンドを実行できるようにする汎用性の高いローカル MCP サーバーです。このサーバーには、ツールがふたつ含まれています。

  • カレントディレクトリを確認する
  • 任意のコマンドを実行する

MCP を使い始めると、いろんな MCP サーバーをインストールしたくなります。しかし数が増えすぎると、AI が適切なサーバーを選ぶのが難しくなってしまいます。一方で、PowerShell.MCP は、既存のローカル MCP サーバーすべてを代替できる 可能性があります。これひとつですべて OK です。

PowerShell.MCP では、AI により実行されたコマンドとその出力が PS コンソールに表示されるため、ユーザーに対して完全に透明です。ユーザーは、AI が実行したコマンドを履歴から呼び出し、そのパラメータを編集して再実行することもできます。

PowerShell.MCP が解決する課題

任意の CLI ツールや PowerShell コマンドレットを実行できるローカル MCP サーバーの実装は、ほかにもいくつか見つかります。しかし、それらは実行されたコマンドとその生の出力がユーザーからは見えません。ローカルリソースがどのように処理されたか分からないのは、少し不安ですね。

また、ほかの MCP サーバーは、複数のコマンドレットを同じ PS セッションの中で連続して実行できません。そのため、コマンドレットを実行するたびに PS モジュールをインポートし直したり、PS ドライブをマウントし直したりすることになります。これは、コマンドレットが意図どおりのパフォーマンスを発揮できない要因となります。

PowerShell.MCP は、PS コンソール自体を MCP サーバーにすることで、上記の課題に対応しています。

例: Git を操作する MCP サーバーを使う

Git を操作する MCP サーバーは複数あるので、どれが適切か評価(ローカルサーバーなら PC にインストール)して、MCP クライアントに登録しなければなりません。また、GitHub から API キーを払い出して設定するなどの手間も必要です。コミット、プル、プッシュなどの複数のツールがあるので、AI は適切なツールを選択し、その使い方を確認しながら使わなければなりません。

例: PowerShell.MCP で Git を操作する

PowerShell.MCP なら、AI はインストール済みの Git CLI ツールをそのまま利用できるので、Git のための MCP サーバーをインストールして構成する手間は必要ありません。

AI にとっても、PowerShell.MCP は使いやすいはずです。Git CLI ツールは広く使われているため、AI もその使い方を良く知っているからです。新しい MCP ツールの使い方を学習することなく、馴染んだコマンドで直接 Git を操作できるので、AI は解決すべき課題に集中できます。

例: プログラムを完全に自動で書かせる

ソフトウェア開発に必要なツール(テキストファイルの読み書きやコンパイラの実行など)は、コマンドレットで揃っています。そのため、Cline と同等のことが Claude Desktop + PowerShell.MCP でも実現できます。SQL Server を操作する PS モジュール もあります。

例: PowerShell に機能を追加する

PowerShell Gallery にはおよそ 12,000 個もの PS モジュールがホストされており、これらを導入することで簡単に PowerShell の機能を拡張できます。モジュールの総ダウンロード数は 230億を超えており、メジャーなモジュールは安定して動作することが期待できます。

たとえば、PowerShell.MCP が登録された MCP クライアントに対して、次のようなプロンプトを試してください。

  • Windows の通知を表示する PowerShell モジュールで、一番人気はどれですか?
  • それをインストールして、使い方を確認してください
  • いろんなスタイルの通知を試してください

PS モジュールに含まれるコマンドレットの一覧は Get-Command で、それらのコマンドレットの使い方は Get-Help で、確認できます。AI はそのことを知っているので、新しいモジュールの使い方をすぐに自動で学習し、使い始めることができます。

このように、PowerShell.MCP は(ヘルプドキュメントが整備された)すべての PS モジュールを LLM のプロンプトから操作できるようにし、次世代のソフトウェア管理を実現します。

各社の MCP に対する反応

Anthropic

MCP の提唱元である Anthropic は、Claude Desktop を通じて積極的に MCP の普及を図っています。MCP をより正確に理解するには、この記事 を参照してください。これは MCP の原典です。

Google

Google は、Gemini LLM において MCP に対応したサンプルやツール連携の実証を行っています。たとえば、Google Cloud では MCP Toolbox for Databases を公開し、Vertex AI Agent Builder では MCP によるエンタープライズデータアクセスを可能にしています。

OpenAI

ChatGPT をリリースしている OpenAI も、MCP に対して積極的な姿勢を示しています。Agents SDK に MCP を統合 し、Responses API に MCP のサポートを追加 しました。また、ChatGPT DesktopMCP クライアントの機能を実装中 であることを表明しています。

UiPath

筆者が勤める UiPath も、現在 MCP 対応に向けた取り組みを進めています。業務自動化における知見を活かし、MCP を通じてより柔軟でパーソナライズされたオートメーションを LLM 主導で実行できるようにすることを目指しています。ここにはまだ具体的なことは書けませんが、ちかぢか何らかのことを発表できるでしょう。私自身、とてもわくわくしています。

上記のほか、多くの企業が今後 MCP に取り組んでいくことを表明しています。

Microsoft の MCP への取り組み

Microsoft は、先日 Windows で MCP をサポート する計画を発表しました。これには、次の3点が含まれます。

MCP Servers for Windows

ファイルやウィンドウなどの Windows の基本的な操作を、MCP で行えるようにします。最初に試したい MCP サーバーのリファレンス実装として、ファイルを操作する FileSystem が定番ですが、将来は不要になりそうですね。

MCP Registry for Windows

現在、同じ PC で複数の MCP クライアントを使うとき、それぞれの設定ファイルに同じ MCP サーバーを個別に登録しなければいけません。これは煩雑なので、Windows が共通の MCP サーバーの登録場所(レジストリ)を用意します。ここに登録された MCP サーバーはこの PC 上で共有され、すべての MCP クライアントで使えるようになります。

App Actions on Windows

今後は Web サーバーだけでなく、ローカル PC 上で動作する任意のアプリも MCP サーバーとして機能することが求められるようになるでしょう。しかし、多くのアプリで MCP サーバーの機能をスクラッチから実装するのは無駄です。そこで、各アプリは固有の機能だけを App Actions API として露出してください。Windows がそれを呼び出して、あなたのアプリを MCP サーバーとして機能できるようにします。

まとめ

PowerShell.MCP のようなサーバーを与えると、AI はいきいきと働き始めます。それを見ると、これまで AI には暗闇の檻の中で仕事を強いてきたことに気づかされます。AI はコンパイラも使えない環境で、プログラムを書いてくれていたのです。MCP は AI の枷を外し、目と手を与えて自由にします。すると AI はその真の能力を解放し、自律的なエージェントとして覚醒します。

PowerShell.MCP があると、AI は課題の解決方法をより柔軟に提案し、実行します。AI は自分の作業を効率的に進めるために、自発的に PowerShell スクリプトを書くことさえします。「道具を作って使う賢い野生動物はチンパンジーくらいだ」などと言われますが、現在のソフトウェアはチンパンジーと同じ段階にまで進化を遂げたかのように思えてきます。

  • PowerShell.MCP を試してください
  • このようなツールを得て、今どんな気分ですか?

image.png

ぜひ PowerShell.MCP を試して、実際の MCP がどのようなものか体験してください。インストール手順はこちら にあります。

将来は、すべてのソフトウェアが MCP サーバーとしても動作することを求められるようになるでしょう。あなたが開発したソフトウェアにも、MCP サーバーの機能を付与することを検討してみてください。

5
2
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
5
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?