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数ベクトル空間から抽象ベクトル空間への手引き

Last updated at Posted at 2022-05-25

書いたこと

  • 線形代数学について
  • 次元という概念の定義が非常に難しい
  • 数ベクトル空間が使われる理由
  • 抽象ベクトル空間を学ぶべき理由
  • 抽象ベクトル空間における次元とはなんだろうか?というヒント

線形代数学

線形代数とは、(1)式の線形性という性質を持つ関数について専門的に調べる代数学です。

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線形代数の地図

(1)式において、線形性を調べるには、代数が、

  • 和と実数倍
  • 関数への適用

といった性質をもつ必要があります。
この代数をベクトルと呼び、その性質を定義していった先に、関数が行列になります。

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抽象ベクトル空間の関門

和と実数倍しか持たないベクトルに対して、次元という概念を定義するまでの過程が非常に難しく、最初の関門となっています。

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数ベクトル空間の利点

1次元、2次元、3次元の数ベクトル空間は、ユークリッド空間において、それぞれ実数直線2次元平面3次元空間に対応します。

従って、多くの参考書や教科書では、最初に抽象ベクトル空間ではなく、予め視覚的に次元を持っている数ベクトル空間をつかって説明されます。

[線形代数]数ベクトル空間から抽象ベクトル空間への手引き.005.jpeg


また理工系の学生や社会人は基本的には「数ベクトル空間」のみを使ってベクトル空間を学ぶことが一般化しています。
これは行列が使われる場所において、その舞台が、数ベクトル空間と同型であることが多いという現実的な理由からです。
(例外としてN元の1次連立方程式が存在する)

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抽象ベクトル空間を学ぶ理由

しかしながら抽象ベクトル空間を学ぶべき理由があります。

  • 数ベクトル空間だけでは、行列の意味を幾何学的な範囲の理解で留まってしまう
  • 行列をベクトル空間(代数学)の舞台で解析できるようになる
  • 次元は行列の型となる

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また何よりも「抽象ベクトル空間」と「数ベクトル空間」の違いは、たった2つだけです。

演算子 抽象ベクトル空間 数ベクトル空間
実数倍
内積(方向) -
ノルム(大きさ) -

実は、数ベクトル空間は、内積とノルムを持つため、視覚的に次元を感じる取ることができるのです

次元とは何か、そのヒントを探る

つまり数ベクトル空間において、「方向」や「大きさ」という情報を使わずに、
N次元数ベクトル空間とはこういう空間です といえさえすれば、N次元 とは?
というヒントがえられそうな気がします。

これは、

1次元数ベクトル空間とは?
2次元数ベクトル空間とは?
3次元数ベクトル空間とは?

と調べていき、N次元に一般化してみようと思います。

ただやはり数ベクトル空間は、せっかく視覚的に次元が与えられていますので、
これを使って調べて見ようと思います。
そこで、

与えられたベクトルから任意の頂点Pを表し、その集合は、それらのユークリッド空間をどうすれば満たすことが出来るかどうか

をそれぞれの数ベクトル空間で調べていきます。

  • 数ベクトル空間は次元が与えられている

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  • 数ベクトル空間のルール

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1次元数ベクトル空間と点Pの集合

$\vec{a} \in R$ とした時、Rの任意の点Pは、

\vec{p} = k\vec{a}  \;\;\;\text{(kは実数)}

と表される。

このとき、
点Pの集合がR空間を満たすことが出来るか

2つの場合で考える

  1. $\vec{a} = \vec{0}$
  2. $\vec{a} \neq \vec{0}$

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「1次元」数ベクトル空間とは

つまり1,2から実数直線を表すR空間は、
ゼロベクトルでない1つの元の実数倍によって表されるベクトルの集合である。

2次元数ベクトル空間と点Pの集合

2次元ベクトル空間の任意の点Pを与えられた2つのベクトル$\vec{a},\;\vec{b}$ を使って、

\vec{p} = k_1\vec{a} + k_2\vec{b} \;\;\;\text{(}k_1, k_2\text{は実数)}

と表す。
このとき、
点Pの集合が$R^2$空間を満たすことが出来るか

3つの場合で考える

  1. $\vec{a} = \vec{0}, \;\vec{b} = \vec{0}$
  2. $\vec{a} \neq \vec{0}, \;\vec{b} \neq \vec{0},\; \vec{a} = k\vec{b}\; \text{(}k\text{は実数)}$
  3. $\vec{a} \neq \vec{0}, \;\vec{b} \neq \vec{0},\; \vec{a} \neq k\vec{b}\; \text{(}k\text{は実数)}$

1. 与えられたベクトルが全てゼロベクトル

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2. 与えられた2つのベクトルの関係が実数倍

次に2においては、$\vec{a}\;\text{と}\;\vec{b}$ は、互いに実数倍であるため、2つは同一直線上に存在する。
これは片方のどちらかがゼロベクトルであった場合も同様です。

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3. 与えられた2つのベクトルの関係が実数倍でない

最後に3においては、$\vec{a}\;\text{と}\;\vec{b}$は、互いに実数倍でないため、2つは、同一直線上に存在しない。

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実数倍かどうかとは一意に表せるかどうかにつながる

2,3において、「実数倍かどうか」とは、
点Pを「与えられたベクトルを使って一意に表せるかどうか」と同一です。

2のベクトルの関係が実数倍の場合、点Pは、$\vec{a},\;\vec{b}$ を使って無限に表せる

\begin{align}
\vec{p} &= k_1\vec{a} + k_2\vec{b} \\
&= k_1\vec{a} + (k_3\vec{b} + k_4\vec{b}) \\
&= (k_1\vec{a} + k_3\vec{b}) + k_4\vec{b} \;\; \text{(}\vec{a}\text{と}\vec{b}\text{が結合できる)} \\
&= k_5\vec{a} + k_4\vec{b}
\end{align}

一方3の実数倍でない場合は、点Pは、$\vec{a},\;\vec{b}$ を使って一意にしか表せない

\begin{align}
\vec{p} &= k_1\vec{a} + k_2\vec{b} \\
&= k_1\vec{a} + (k_3\vec{b} + k_4\vec{b}) \\
&= (k_1\vec{a} + k_3\vec{b}) + k_4\vec{b} \;\; \text{(}\vec{a}\text{と}\vec{b}\text{が結合できない)} \\
\end{align}

「2次元」数ベクトル空間とは

1,2,3から2次元平面を表す$R^2$空間は、
与えられた2つのベクトルが、ゼロベクトルでなくかつ
そのベクトルの一次結合によって一意で表されるベクトル集合である。

3次元数ベクトル空間と点Pの集合

同様に、
3次元ベクトル空間の任意の点Pを与えられた3つのベクトル$\vec{a},\;\vec{b}\;\vec{c}$ を使って、

\vec{p} = k_1\vec{a} + k_2\vec{b} + k_3\vec{c} \;\;\text{(}k_1, k_2, k_3\text{は実数)}

と表す。
このとき、
点Pの集合が$R^3$空間を満たすことが出来るか

以下の2つの場合において考えると、

  1. 実数倍の関係となるベクトルがある場合 (全てもしくは一部がゼロベクトルも含む)
  2. 実数倍の関係となるベクトルがない場合

これらは2次元数ベクトル空間と同様の結論を導きだすことができる。

[線形代数]数ベクトル空間から抽象ベクトル空間への手引き.016.jpeg

3次元数ベクトル空間における次元とは

1,2から3次元空間を表す$R^3$空間は、
与えられた3つのベクトルが、ゼロベクトルでなくかつ
そのベクトルの一次結合によって一意で表されるベクトル集合である。

N次元数ベクトル空間とは、

従って、
1,2,3次元数ベクトル空間について、N次元に一般化した場合、

N次元数ベクトル空間とは、
与えられたN個のベクトルが、ゼロベクトルでなくかつ
そのベクトルの一次結合によって一意で表されるベクトル集合である。

と言えそうだ。

抽象ベクトル空間へ

上記が本当かどうか、
抽象ベクトル空間では、とりあえず、

  1. ベクトルとは何かから始まり → ベクトルの8つの公理を定め
  2. ベクトルだけを扱うよという宣言ができるように → ベクトル空間、部分空間を定め
  3. ベクトルの一次結合の集合は部分空間になるよと確認し → 線形包と名付け(特殊化)
  4. ベクトルが一意に現せるとはどういうことだろうかと考え → 一次独立・一次従属
  5. それによってベクトル空間が生成される場合、その組を → 基底と呼ぶことにしよう
  6. 基底をもつ場合、この要素数はどうやら同じになるんじゃないかと証明を与えてみる
    → すると基底をもつ場合、一意に現せるという性質から、どの基底においても要素数は同じだと証明ができてしまう
    → この要素数を次元と呼んで特別視してみよう

という流れで解説が行われる。

まとめ

されど次元の意味を理解できたとしても線形代数の入り口に立ったに過ぎず、そこから行列へと渡る道のりが続きます。

その時、次元とは何かというしっかりとした理解があれば、その行列をベクトル空間を使って解析することが可能になります。

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