Alibaba Cloudが米調査会社Forresterの評価レポートにおいて業界のリーダーとして選ばれたことは前記事で紹介した。
今回はその評価を支える根幹となるアリババのイノベーション戦略と、成長を牽引するAIへの投資やその取り組みにクローズアップしてみる。同社の掲げる 「ユーザーファースト」と「AIへの注力」 が、どのように結びついているのか見ていきたい。
クラウド+AIがもたらす成長戦略
アリババの成長戦略の中心には、クラウドとAIの密接な連携にある。2024年第2四半期の決算では、クラウドコンピューティング事業で296億人民元(42億米ドル)の収益、これは前年同期比7%の増収率を記録し、5四半期連続でみれば3ケタ成長となった。
Alibaba Delivers Solid Q2 Results with Expanding User Base
クラウドとAIがグループ全体の成長を牽引していることは明らかで、
特に興味深かったのは、アリババ・グループのエディー・ウーCEOが発言した次の内容:
Eddie Wu: Right. Well, if you look at the demand that's being created for cloud from Gen AI, you know, initially, a lot of that demand is for the training of models. But then over time, more and more computing power is needed to drive the inferencing. And, you know, looking into the future, we could expect to see there just being a smaller number of companies that are actually doing model training, especially for large foundational models. You can also expect to see a lot of training being done for different verticals, like, for example, autonomous vehicles, but also other specialized industries. So at the present time, there's very strong growth in demand to support both model training and inferencing. But in the longer term, in the future, we think that inferencing will account for the larger share of growth in demand.
要約: ジェネレーティブAIによるクラウド需要は、当初モデルのトレーニングが中心だったが、今後は推論にシフトしていく。トレーニングは大規模モデルを扱う企業が少数になる一方、特定分野向けのトレーニングが増えるだろう。現状はトレーニングと推論の両方の需要が大きく伸びているが、長期的には推論が需要の大部分を占めると予想される。
引用元(原文): Earnings call: Alibaba Group sees steady growth in Q3 2024 amid AI push By Investing.com
これは、AIの利用がより手軽になる一方、特定企業への依存度が高まる可能性を示唆しているのだと思う。
このような状況の中、Alibaba Cloudはユーザーベースの拡大へ向けてクラウド料金の値下げを実施してきた。これは単なる価格競争ではなく、AIのためのクラウド採用を促し、コンピューティングパワー、ストレージ、データベース製品、その他も含めた収益増に繋げるための戦略的な投資だと見える。競合他社が収益化に苦戦する中で、アリババはこの投資が将来の成長に不可欠である言っている。
あらゆる事業の基軸となるAI
アリババは、AIを単なる技術ではなく、あらゆる事業の基軸と捉えていて、
Eコマース、物流、金融、ヘルスケアなど幅広い分野でAIを活用し、ビジネスの変革をスピードアップさせることで市場競争力を高める方針のよう。
Alibaba CloudはオープンソースLLMのQwen 2.5をはじめとする、自社開発のAI技術にもかなりのリソースを注いでいるようだ。AI開発プラットフォームのModel Studio、AIモデルコミュニティのModelScopeなど、AI開発を加速させるためのエコシステム構築にも積極的。
注目すべきは、米政府の貿易制限により最速のNVIDIA製GPUが手に入らない状況にあっても、それらはアリババがイノベーションを推し進めることを妨げるものにはならない、という点で、ヘテロジニアス・コンピューティング技術の開発にも力を入れている。これはCPU、GPU、FPGAなどの異なる種類のプロセッサーを組み合わせることによってAI処理の全体的な効率を向上させる技術。
これらのAI技術開発を牽引をしているのが、アリババの研究開発機関「DAMOアカデミー(達摩院)」で、直近では膵臓がんの早期発見をAIによって実現するPANDAを開発し、米フォーチュン誌の2024年「世界を変える企業リスト」にアリババがトップ10入りしたというニュースも報じられていた。AIが社会課題の解決に大きく貢献する可能性を感じる。
Alibaba CloudでのAIの実装と運用
AIアプリケーションの実装とデプロイについてはかなり充実したサポートを得られるな、という印象。技術情報やナレッジの提供は細やか。
生成 AI のための Alibaba Cloud - Alibaba Cloud
特に、AIアプリケーションの可観測性を始めとする、実装・運用性の問題解決と品質向上にはこだわっているように見受けられる。
Application Real-Time Monitoring Service_ARMS_APM service-Alibaba Cloud
Alibaba Cloud Application Real-Time Monitoring Service (ARMS) は、自社構築およびオープンソースのエージェントを通じて、可観測性データの収集をサポートします。ログ、メトリクス、トレース、プロファイリングを中心に可観測性データベースを構築し、RUM (Real User Monitoring)、APM (Application Performance Monitoring)、STM (Synthetic Testing Monitoring)、コンテナ監視、インフラ監視をカバーします。ARMS は、Prometheus、OpenTelemetry、Grafana のオープンソース標準を全面的に採用し、高い信頼性、高性能、豊富な機能をお客様に提供し、すぐに使える、エンドツーエンド、フルスタックの可観測性機能を実装します。
まとめ
アリババは、クラウド+AIの戦略的な投資によってイノベーションを続けている。
その取り組みはオープンソースLLMの開発、AI開発エコシステムの構築、そして業界特化型のソリューション提供など、多岐にわたる。AIを基軸にビジネスを発展させていくうえで、その中心的な役割を担うAlibaba Cloudは、より一層目が離せない存在になっていきそう。