2026年10月7日 GitHubから、とても興味深い情報が公開されました。
Building Git infrastructure for agent-scale development
今回の話は、新しいAI機能が追加されたという話ではありません。
AIエージェントが当たり前のようにコードを書く時代に備えて、GitHubがGitを支えるインフラそのものを作り直しているという話です。
これまではGitHubを利用するのは人間の開発者でした。しかし、AIエージェントが開発に加わると、GitHubに対するアクセス方法も大きく変わります。
AIエージェントは、人間と比べ頻繁でコードを変更し、commitやcheckpoint、pushを行います。
さらに、複数のエージェントが同じリポジトリで並行して作業することも考えられます。
実際、その変化はすでに数字として表れています。
GitHub全体のGit activityは、2025年9月の月間 218.2 billion events から、2026年8月には 473.3 billion events へと2倍以上に増加しました。
また、2026年9月には開発者とエージェントによって 73.8億件 ものcommitが行われ、前年同月の5倍以上に達しています。
さらに、
- push:前年比 4.9倍
- Pull Requestのmerge:約 4倍
- GitHub Actions:2026年9月だけで 32.6億回 実行
と、さまざまな処理が急激に増えています。
重要なのは、この急増に対応するために、GitHubが単純にサーバーを増やそうとしているわけではない点です。
従来のGitアーキテクチャでは何が問題になるのか
現在のGitHubでは、Spokesと呼ばれる仕組みによって、一つのリポジトリの完全なコピーを複数のファイルサーバーに保持しています。
既定では5つのコピーを持ち、読み込み性能や冗長性を確保しています。
しかし、ここには課題があります。
Readを増やすためにレプリカを増やすと、そのレプリカがWriteにも関わるため、pushの処理が遅くなります。
人間が操作していた時は許容できたわずかな遅延でも、AIエージェントが高速なループの中で何度もcommitやpushを繰り返すようになると、それがボトルネックになります。
そこでGitHubは、StorageとComputeを分離する新しいアーキテクチャへと移行しようとしています。
Azure Blob Storageが新しいアーキテクチャの重要な部分を担う
非常に興味深かったのがここです。
新しいアーキテクチャでは、authoritative repository dataを Azure Blob Storage に配置し、その上のCompute WorkerがGitのリクエストを処理する構成が示されています。
イメージとしては、次のようになります。
Repository Data
↓
Azure Blob Storage
↓
Compute Workers
↓
Developers / CI / AI Agents
つまり、データを永続的に保持する役割と、Gitリクエストを高速に処理する役割を分離します。
これによってReadとWriteをそれぞれ独立してスケールできるようになります。
例えば、CIや多数のAIエージェントからReadが集中した場合でも、Write側への影響を抑えながら処理能力を増やせる設計を目指しています。
さらに、新しいCompute Workerが必要になった場合には、Azure Blob Storage上の永続データから必要なデータをキャッシュしながら処理できます。
需要が増えたときにはWorkerを増やし、需要が減れば減らす。
クラウドのスケーラビリティを、Gitの基盤そのものにも取り入れていく考え方です。
GitHubが見ているのは「Agent-scale Software Development」
今回の記事を読んで、私が一番重要だと感じたのは、性能の数字そのものではありません。
GitHubがすでに、
「人間がGitを操作する世界」だけではなく、「人間と多数のAIエージェントが一緒にソフトウェアを開発する世界」
を前提として、GitHubの基盤を設計し始めていることです。
一つのリポジトリに、
- 開発者
- 大規模な開発チーム
- CI/CD
- GitHub Actions
- AIコーディングエージェント
などが同時にアクセスし、高い頻度でコードを変更する。
そのようなソフトウェア開発の世界が、現実になり始めています。
しかも、単純にAIエージェントを高速化すればよいという話でもありません。
AIエージェントがより多くの作業を担当するようになったとしても、branch protectionやrequired review、audit logなど、現在チームが利用しているガバナンスやコントロールを維持することも重要になります。
つまり、
AIエージェントのスピードを活用しながら、人間が最終的なコントロールを維持する。
この両方を実現できる開発基盤が必要になってきています。
そしてGitHubの内部ベンチマークでは、新しいアーキテクチャによってWrite throughputが 最大35倍 向上したと報告されています。
今回の発表で注目したこと
GitHub Copilotの進化を追っていると、どうしても、
「AIがどこまでコードを書けるようになったか?」
という部分に目が向きます。
もちろん、それも非常に重要です。
しかし今回の発表を見ると、その裏側では、もっと根本的な変化が始まっていることが分かります。
それは、
「大量のAIエージェントが本当にソフトウェア開発に参加するようになったとき、GitHubそのものはその開発量を支えられるのか?」
という課題です。
AIエージェントがコードを書けるようになったとしても、それらのエージェントが大量にcommitやpushを行えば、最終的にはGitやCI/CDなど、その下にある開発基盤がボトルネックになります。
だからこそGitHubは、CopilotなどAI機能の進化だけではなく、その下に存在する Gitインフラそのもの も変え始めています。
私は今回の発表を、単なるGitHubの性能改善とは捉えていません。
Agentic Software Developmentを本格的に支えるためのインフラレベルの変革が、すでに始まっています。
今回の発表は、それを非常に分かりやすく示す内容だと感じました。