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AWS大規模障害の教訓:単一クラウドが単一障害点になる時代、金融システムはどう備えるべきか

Last updated at Posted at 2025-10-22

2025年10月20日、AWSのN. Virginia (us-east-1) リージョンで発生した大規模なサービス障害は、クラウドを利用するすべての企業、特に金融システムのようなミッションクリティカルなシステムに、改めて重大な教訓を突きつけました。

本記事では、この障害が示唆した**「単一クラウドサービス自体が単一障害点になりうる」**という現実を受け止め、システム継続性を確保するための具体的かつ実現可能性の高い対策を、そのメリットと課題とともに論じます。

1. 障害の教訓:グローバルコントロールプレーンのリスク

今回のAWS us-east-1での障害は、単なる一つのデータセンターやアベイラビリティゾーン(AZ)の問題に留まりませんでした。

障害の根本原因は、us-east-1に依存するDynamoDBのDNS解決問題から始まり、IAMやDynamoDBグローバルテーブルといったAWS全体のグローバルな基盤サービスに影響が波及しました。これにより、AWSの他のリージョンで稼働しているシステムであっても、認証・設定変更・リソース起動といった根幹の機能が使用不能となり、事実上、世界的なサービス停止に近い状態を招きました。

新たな教訓:単一クラウドサービスのコントロールプレーンが単一障害点である

「マルチリージョン構成にしているから安全」という従来の対策は、このクラウド全体のコントロールプレーンの障害に対しては無力です。ミッションクリティカルなシステムにとって、単一のクラウドプロバイダーが提供する**認証基盤(IAM)や名前解決基盤(DNS/Route 53)**がダウンすることは、許容しがたいリスクとなりました。

したがって、我々が取るべき対策は、クラウドプロバイダーを分けること、すなわちマルチクラウドまたはハイブリッドクラウド戦略に舵を切ることです。

2. 実現可能な対策案(1):IaaSと従来のクラスター

最もシンプルで、既存の運用知識を活用できるアプローチです。クラウドサービスを「高性能な仮想化基盤(IaaS)」と割り切って利用します。

構成の概要

  • AWS EC2とAzure VM(またはオンプレミスVM)の2拠点で、OSレベルのフェールオーバークラスターを構成します。
  • データベースやアプリケーションのデータ同期には、DRBDやサードパーティ製レプリケーションツールを使用します。
  • クラスター管理は、従来のWindows Server Failover Clustering (WSFC) や Pacemaker などの技術を流用します。

メリットと課題

側面 メリット 課題
実現性 従来の運用チームにとって学習コストが低い。移植性が高いため、クラウド間の切り替えが比較的容易。 コスト効率が非常に悪い(待機系VMの24時間稼働)。
耐障害性 クラウドのマネージドサービス依存度が低く、プロバイダー基盤障害の影響を受けにくい。 **グローバルな負荷分散(ロードバランサー)**の設計が複雑化する。
運用 運用モデルがシンプル。 OSレベルのパッチ適用やメンテナンス作業が自前で発生し、運用負荷が高い。

追記:執筆時はオンプレミスの経験を活かすことで比較的簡単に導入可能だと考えていましたが、調査したところ仮想IPアドレスや共有ストレージ、ノード間の低遅延な通信などで技術的な難易度が高く次項のKubernetesを使った方法の方が現実的です。失礼しました。

3. 実現可能な対策案(2):Kubernetesによるコンテナファースト構成

モダンでアジャイルな開発体制を持つ組織にとって最も有望な選択肢です。

構成の概要

  • AWS EKSとGCP GKE(またはオンプレミスK8s)の2つの独立したクラスターでシステムを稼働させます。
  • アプリケーションをコンテナ化し、Kubernetesのデプロイメント定義を共通化することで、高い移植性を確保します。
  • ステートレスなコンポーネントはK8sで管理し、データベースは各クラウドのマネージドサービスを利用しつつ、**データレプリケーション(例:DebeziumによるCDC)**でマルチクラウド同期を行います。

メリットと課題

側面 メリット 課題
実現性 クラウドAPIが抽象化され、プロバイダーロックインを低減できる。高効率なリソース利用が可能。 Kubernetes自体の学習コストと運用スキルが非常に高い。
耐障害性 K8sによる**自動復旧(セルフヒーリング)**機能により、迅速な回復が可能。コントロールプレーンを独立させやすい。 データベースのマルチクラウド同期が複雑で、専門的な設計が必要。
運用 IaCとの親和性が高く、環境構築・切り替えが自動化しやすい。 サービスメッシュなど、高度なネットワーク制御技術の導入が必要になる場合がある。

4. 理想的な対策:ハイブリッド戦略とコントロールプレーンの分離

最高の可用性とビジネス継続性を追求する金融システムが目指すべき理想的な戦略です。

構成の概要

  • プライマリ環境: AWS(高い機能性とコスト効率)でアクティブ稼働。
  • セカンダリ環境: オンプレミスのデータセンター(または別のクラウド)でウォームスタンバイ状態を維持。
  • 認証基盤の分離: AWS IAMとは独立した**外部IDプロバイダー(Okta/Azure ADなど)**を主要な認証基盤として利用。
  • DNSの独立: グローバルなトラフィックルーティングには、CloudflareやAkamaiなど、AWSから完全に独立したDNSプロバイダーを導入。

対策のハイライト

対策 目的 効果
外部IDPの利用 AWS基盤の障害から認証機能を分離する。 障害時もユーザーとシステムがログイン・アクセスを継続できる。
マルチDNSプロバイダー AWSのRoute 53基盤の障害を回避する。 AWSのDNS障害時でも、オンプレミスや別クラウドへトラフィックを自動で切り替えられる。
カオスエンジニアリング 障害対策の**「未知の失敗点」**を発見する。 フェールオーバーの自動化を継続的に検証し、信頼性を極限まで高める。

まとめ

今回の障害は、クラウド時代の**「単一障害点」**の定義を拡張する必要があることを教えてくれました。ミッションクリティカルな金融システムは、単なるリージョン障害だけでなく、プロバイダー全体の基盤障害に備える必要があります。

コストや運用負荷は増加しますが、ビジネス継続性の価値がそれを上回る場合、**「マルチクラウド/ハイブリッドクラウド」と「主要なコントロールプレーン(認証・DNS)の分離」**こそが、今後不可欠な設計思想となるでしょう。

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