今年も残すところあとわずか。
年末イベント、年度末リリース、評価や来期の戦略に追われ、息つく暇もない……なんてことになっていませんか?
そんな慌ただしい中で、最近おすすめされた本を読み、
”やっぱり大事だよな” と改めて思わされたこと があったので、ちょっと共有したいなと。
『When No One’s Keeping Score: 人生にもうスコアはいらない』(Drew Robbins著)という一冊です。
タイトルの通り、「世の中は、常にスコアを追い求めることに夢中になってるけど、意義のあるキャリアってもっと奥深いよね」という本なのですが、著者はこう言っています。
「仕事の本当の意義は、ゴールテープを切った瞬間にあるんじゃない。
挫折している最中や、人との何気ない会話、誰も見ていない場所での一歩にこそ宿るんだ」
“私たちの多くは、誰もみていないようなところで踏み出す一歩にこそ、意義を見出すものだ” と。
これ、数十のプロダクト、プロジェクトが動く現場でVPoEをやっている身として、すごく頷ける話なんです。成果やスピードに追われている時ほど、ふと立ち止まる瞬間の大切さを痛感します。
今回はこの本をベースに、私自身の改めての気づきも交えつつ、マネージャーの大事なスキルについて、少し柔らかく紐解いてみたいと思います。
■ 本書の骨格:Meaningful Moves(意義ある行動)の5つ
まずは、この本が提案している「意義あるキャリアを作る5つの行動」を紹介させてください。
著者が「長く活躍し続けている幸せな人々」を観察して見つけた共通パターンだそうです。
- Be Present(今ここに集中する)
- Invest in Relationships(つながりを育む)
- Grow with Purpose(意図を持って成長する)
- Take the Lead(率先して行動する)
- Choose What Matters(重要なものを見極める)
これ、ただのチェックリストではありません。人生を豊かにするための「構え」みたいなものです。
今回は、この中でも全ての土台になる「1. Be Present(今ここに集中する)」に絞って、深掘りしてみたいと思います。
なぜなら、この「今ここ」がおろそかになっていると、信頼関係も作れないし、メンバーの成長にも気づけないから。そして何より、現代のマネージャーにとって一番難しいのがこれだと思うからです。
■ なぜ私たちは「今ここ」にいられないのか?
1. 「既知の枠(ファイル)」で処理していませんか?
忙しいと、ついやってしまいませんか?
メンバーの相談を聞きながら、「あーはいはい、そのパターンね。前もあったわ」って、相手の話が終わる前に答えを用意してしまうこと。
これ、MITのオットー・シャーマー博士が提唱する「U理論」では「ダウンローディング(Downloading)」と呼びます。
ダウンローディングとは、過去に蓄積された経験や思考パターンをそのまま「再利用(ダウンロード)」し、現在の状況に当てはめてしまう状態のこと。
言い換えれば、「新しい事象を“既知のファイル”で理解しようとする処理」です。
脳の省エネにはなりますが、これだと結局「似たような結論」「ありふれた対応」しか出てきません。
でも、本当は「その人にとってのその課題」は、今回が初めての経験がほとんどだと思います。
「Be Present」とは、意図的に過去の情報をストップして今の課題に集中することです。
「知ってるつもり」のフィルターを外して、「今、このメンバーは何に悩み、どの壁を越えようとしているのか?」という、その瞬間の課題に解像度を合わせる。簡単なようで、これが結構難しいんですよね。
私がマネージャーとして、この「ダウンローディングからの脱却」→「今ここに集中する」にこだわる理由は、ここに組織運営上においても大きな価値があるからです。
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組織の“固定化”を防ぐ
- 過去の成功体験だけで回していると、組織はいつか停滞します。ダウンローディングに気づき、手放すことで、常に学び直せる“動的組織”になれます。
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メンバーの潜在力を殺さない
- 「この人はこういう役割」「あのチームはこういう気質」という“既知のファイル”で見ている限り、メンバーの新しい才能や変化には気づけません。
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未来志向の意思決定ができる
- 技術も市場も変化しています。「前例」という過去の枠組みで判断すると、変化の激しい現代では致命傷になりかねません。
2. 「1兆ドルコーチ」も徹底していた「今ここ」の姿勢
この「今ここに集中する」姿勢を誰よりも徹底していたのが、GoogleやAppleの幹部を育てた伝説のメンター、「1兆ドルコーチ」ことビル・キャンベルです。
彼について書かれた書籍の中に、こんな一節があります。
ビルはコーチングセッションで、いつもじっくり耳を傾けてくれた。
スマホのメールチェックしたり腕時計をみたり・・・・いつも全身全霊でそばにいてくれた
彼は、相手の話を聞くときに「ながら作業」を一切しませんでした。
「今ここにいる君の話が、僕にとって一番大事なんだ」という姿勢。それが相手の心理的安全性を高め、本音を引き出していたそうです。
1on1では当たり前かもしれませんが、これをちょっとしたミーティングで常に実践するのは本当に難しいですね。
マネージャーやリーダーになると、多くのプロジェクトを抱え、1日に何度もコンテキストスイッチを切り替えるのが常です。特にオンラインミーティング中は、SlackやTeamsの通知、緊急の依頼が頻繁に飛び込んできます。
しかし、スキル以前に、この「姿勢(スタンス)」の選択こそが、チームの信頼関係を大きく変えてしまうんです。
■ 「注意深く寄り添う」ことで見えてくるもの
話を『When No One’s Keeping Score』に戻しましょう。
著者は、この「Be Present(今ここに集中する)」をすることで注意深く寄り添うことを習慣にすると、仕事の解像度が劇的に上がると述べています。
会話中、同僚の口調に隠された何かがあることに、しばしば気づかされた。
顧客とのミーティングでは、彼らの優先事項が変化していることを示す、かすかな緊張や興奮の気配を察知した。
日常の会議でさえ、注意深く意識を向けることで、急いでいる中では見過ごしてしまいがちな懸念や機会が見えてくることがあった。
これ、みなさんも経験ありませんか?
「あの会議、結論は出たけど、担当者が一瞬曇った顔をしたな…納得したのかな」とか、「同僚の『大丈夫です』が、いつもよりなんか違和感あったな…」とか。
急いでいると見落としてしまう小さな兆候の中にこそ、プロジェクトの命運を分ける重要な情報が隠れていたりします。
「今ここに集中すると」は、そうした「隠れた本物のチャンス」を見つけ出す技術**でもあるんです。
■ マネージャーとして実感する「成長の瞬間」を見逃さないために
そして、この視点はメンバーのマネジメントにおいて最も威力を発揮します。
- あのメンバー、議論で詰まっているけど、必死に考えを言語化しようとしているな
- 朝会の沈黙、これは「停滞」じゃなくて「思考の深化」かもしれない
こうした「成長の兆し」も、自分がダウンローディング(過去の経験則)に頼っていると、「進捗が悪いな」としか映らず、完全に見落としてしまいます。
でも、「Be Present」な状態であれば、それが「彼らが一段階レベルアップしようとしている尊い瞬間」に見えてくるはずです。
その一瞬に立ち会えるか、気づけるか。
それが、後のチームの強さに直結するのだと思います。
■ 明日からできる「Be Present」の練習
とはいえ、いきなり継続的にできるようにはなれません。
本書では、「このスキルを身につけたいなら、小さなことから始めてみよう」として、以下の具体的なアクションを提案しています。
これなら、次のミーティングからすぐに実践できそうです。
1. 会話の前に一度立ち止まり、心を落ち着かせる
不要なタブを閉じ、スマートフォンをサイレントにし、深呼吸をしてみましょう。物理的・心理的なノイズを減らすことがスタートラインです。
2. 最後まで聞く
自分がどう返答するかを考え始める前に、相手が話し終えるのを待ってみましょう。「次になんて言おうか」と考えている間、私たちは相手の話を聞いていません。
3. 相手が話し終えたら、沈黙の時間を設ける
たとえそれが気まずく感じられても、その数秒を使って考えをまとめ、熟考した返答をしてみましょう。沈黙は「考えている証拠」であり、相手への敬意でもあります。
4. 心が逸れていることに気づく
自分を責めることなく、そっと目の前の相手に意識を戻してみましょう。
5. 後で振り返る
本当に何を聞いたのか、そして何か見落としていたことはなかったか、自らに問いかけてみましょう。
■ おわりに
著者はこう言っています。
「意義のあるキャリアは、スコアではなく、小さな一歩の積み重ねから作られる」
私たちマネージャーは、つい結果を急いでしまいがちです。
でも、本当に強いチームを作るのは、派手な戦略でも最新フレームワークでもなく、マネージャー自身が「今、目の前のメンバーの課題や成長」にちゃんと向き合う、その一瞬の積み重ねなんだと改めて感じました。