2026-09-01、Anthropic が Claude Fable 5.1(モデル ID claude-fable-5-1)を出した。同日、Cursor スタッフの Colin が「Cursor でも使える」とフォーラムに書いている。CursorBench 3.2 で 73.4%。数字だけ見ると「いちばん新しいやつに切り替えれば、その数字が自分のエディタにも来る」ように見える。
来ない。
73.4% は max effort の数字だ。Anthropic のデフォルト effort は high で、max ではない。しかも Privacy Mode をオンにしているチームは、Dashboard で 30 日保持のポリシーを承認するまで、ピッカーにモデルが出てこない。レバーは「最新モデルを選ぶ」ではなく、(1) そもそも使える状態か、(2) effort をどこまで上げるか、(3) 日常作業のデフォルトを Opus 5 のままにするか、の三つだ。
月曜にやることだけ先に書く。
- Privacy Mode / Enterprise なら Cursor Dashboard を開いて、Anthropic の 30 日保持(学習用途ではない、危害防止用)をチームとして承認するかどうかを決める。承認するまでリクエストは失敗する。
- 日常の小さな編集に max effort を常時オンにしない。73.4% はそこまで上げたときの数字で、デフォルトは
high。遅い・高い。 - Anthropic の公式アドバイスどおり、大半の仕事は Claude Opus 5 をデフォルトにする。Fable 5.1 は長いエージェント作業・重い推論、あるいは Opus 5 を高めの effort にしても評価が足りないときに上げる。
- API を自分で叩いているなら、会話履歴は append-only。途中のターンを編集しない。effort を変えたいときは、編集ではなく per-message effort(ベータ)で変える。キャッシュも壊れない。
以下、一次情報だけを根拠に、何がレバーで何がレバーでないかを整理する。
何が出たか(スペックは公式どおり)
Anthropic のモデル概要によると、Claude Fable 5.1 は 2026-09-01 リリース。コンテキスト 1M、最大出力 128K。入力 $10 / MTok、出力 $50 / MTok。Fable 5 と同じ。変わったのはキャッシュ読みで、$0.25 / MTok。これはベース入力の 0.025 倍で、他の Claude モデルが 0.1 倍なのに対して四分の一。5 分キャッシュ書きは $12.50、1 時間は $20。
Adaptive thinking は常時オン。effort で深さを舵取りする。thinking をオフにはできない。thinking: disabled も budget_tokens 付きの enabled も 400 になる。
公式の位置づけははっきりしている。大半のワークロードは Claude Opus 5 から始めよ。 Fable 5.1 は、要求の高い推論と long-horizon なエージェント作業向け。あるいは Opus 5 を高めの effort で回しても評価が足りないとき。Fable 5 からの差分も、effort が高いほど広がると書いてある。long agentic coding、複数ファイルの機能追加、リファクタ、長時間のデバッグとコードレビュー、ドキュメント/スプレッドシート/スライド、多段の調査、1M コンテキストをまたいだ接続、コンピュータ利用。
逆に low effort では、記憶から答えがちで、検索・取得ツールを呼びにくくなる。新鮮な情報が要るターンは effort を上げるか、プロンプト側で検証を促す、というのが公式の注意だ。
73.4% は「最新にした結果」ではない
Colin の投稿(2026-09-01)はこうだ。Cursor で使える。CursorBench 3.2 では max effort で 73.4%。自分の作業を検証するのが上手い、と。
ここで切り取るべきは「73.4%」ではなく「at max effort」の四語だ。Anthropic API のデフォルト effort は high。Cursor 側も、ドキュメントでは strongest results には high thinking variant を推奨している。max を常時にする話ではない。ベンチの頂点と、日常のデフォルトは別物だ。
Fable 5 や Opus 5 の CursorBench 数字を横に並べたくなるが、Colin の一次投稿が明示しているのはこの 73.4%(max effort)だけなので、ここではそれに留める。二次報道の比較表は使わない。
「最新にした」だけでは、ベンチの条件(max effort)も、公式の使い分け(Opus 5 がデフォルト)も、Privacy Mode のゲートも、全部スキップしている。スコアはモデル ID ではなく、effort と前提条件の関数だ。
公式の価格・effort 比較
Anthropic の How it compares から、現行ラインの要点だけ抜く。価格は / MTok、入力 / 出力。
| モデル | コンテキスト | 最大出力 | 価格 | レイテンシ | Thinking | デフォルト effort |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Claude Fable 5.1 | 1M | 128K | $10 / $50 | 遅め | Adaptive(常時オン) | high |
| Claude Opus 5 | 1M | 128K | $5 / $25 | 中程度 | Adaptive | high |
| Claude Sonnet 5 | 1M | 128K | $2 / $10 | 速い | Adaptive | high |
Fable 5.1 の入力・出力は Opus 5 のおよそ倍。Cursor ドキュメントも「about twice Claude Opus 5」と書いている。キャッシュ読みだけが例外で安い。Anthropic 側は 0.025× ベース入力(他モデルは 0.1×)。Cursor ドキュメントは Fable 5 比で言い換えていて、キャッシュ読み $0.25 対 Fable 5 の $1.00、つまり 75% 安い。キャッシュ書きは $12.50 / MTok のまま(Anthropic の 5 分書きと同じ数字。1 時間書き $20 は API 側の表)。
Cursor のプランでは、Fable 5.1 は third-party の Other Models プールから引かれる。入力 $10、キャッシュ書き $12.5、キャッシュ読み $0.25、出力 $50(いずれも / MTok)。「最新にした」あとに請求が跳ねるのは、このプールと、max effort で思考トークンが伸びることの両方だ。
Privacy Mode だと、ピッカー以前の話がある
Colin も Cursor ドキュメントも、同じことを繰り返している。Fable 5.1 のプライバシー扱いは他の Fable と同じ。Anthropic が危害防止のためにエージェント入出力を保持する。学習や製品改善には使わない。30 日で自動・恒久削除(安全調査やリーガルホールドを除く)。デフォルトでは人が読めない。他顧客とは共有しない。
Anthropic 側のモデル概要では、30-day data retention、ZDR では原則使えない(明示的に認可された場合を除く)、Covered Model。
Cursor 側の運用はこうなる。
- Privacy Mode がアカウント/チーム/組織でオン、または Enterprise は、管理者がオプトインするまでオフ。Enterprise は Cursor Privacy Mode の設定に関係なく、デフォルトオフ。
- ポリシー承認までリクエストは失敗する(privacy-and-data-governance の文言どおり)。
- オプトインは チーム全体 に効く。
- Teams はポリシー承認が Team 全体。Enterprise は Organization レベルで承認したうえで、team / group の Model Access で誰が選べるかを絞れる。
- Fable 5.1 を有効にしても、Cursor の Privacy Mode 設定も、Cursor 自身の保持も変わらない。変わるのは「Anthropic が危害防止用に I/O を 30 日持つことを、チームとして飲んだか」だけ。
- Privacy Mode がオフの個人/Team では、デフォルトでオン。
「モデルを最新にしたのに出てこない」は、だいたいこのゲートだ。ピッカーをいじる前に Dashboard を開け。
Cursor ドキュメントのもう一つの実務情報。Fable 5.1 のセキュリティガードレールに引っかかると、Cursor が自動で Claude Opus にルーティングする。自分でリトライしたりモデルを切り替えたりしなくてよい。作業は途切れない。API を直接叩く場合の refusal / fallback(許可されたフォールバック先は Opus 4.8 と Opus 5)とは別レイヤなので、混ぜない。
Cursor での手順(ピッカーと Dashboard)
順番を逆にしない。使える状態にしてから、モデルと thinking を選ぶ。
1. Dashboard でポリシーを決める
- https://cursor.com/dashboard/ を開く。
- Team Settings へ。Fable 5.1 の Data Retention Policy を表示できる。
- Privacy Mode / Enterprise なら、承認するかどうかをチームで決める。承認は Team 全体。Enterprise は org 承認のあと、Model Access でグループ単位に落とす。
- 承認しないなら、そのチームでは Fable 5.1 は使えない。Opus 5 / Sonnet 5 で足りるかが本題になる。承認しても Privacy Mode はオフにならない。
2. ピッカーでは「最新」ではなく「役割」で選ぶ
Cursor ドキュメント上のモデル ID は claude-fable-5-1。Anthropic API 側のコンテキストは 1M が default かつ maximum。Cursor の料金は Other Models プールから引かれ、入力・出力は Fable 5 と同じ $10 / $50。
推奨の使い分けは公式のままが安全だ。
- 日常の編集・短い質問: Opus 5(価格 $5 / $25、レイテンシ中程度)。Anthropic も「most workloads は Opus 5」と書いている。
- 長時間のエージェント、複数ファイルの移行、自分の成果物を検証しながら最後まで走らせたい仕事: Fable 5.1。Colin も「verifying its own work」が得意だと言っている。
- さらにベンチの頂点が欲しいときだけ max effort。Cursor は strongest results には high thinking variant を推奨している。thinking variant はある。常時 max ではない。
「Fable に上げたのに遅い・高い」は仕様に近い。比較表の Latency は Slower。デフォルト effort は high。thinking はオフにできない。
API を叩く人向け: effort は途中で変えてよい。履歴は編集するな
Fable 5 から上げるときの破壊的変更は三つ(What's new)。
-
tool_choiceのany/toolは 400。autoとnoneは従来どおり。thinking が常時オンなので、強制ツール呼び出しは思考を飛ばしてしまう、というのが理由。スキーマはstrict: trueか structured outputs へ。 - 以前のモデルは Fable 5.1 の thinking ブロックを読めない。Fable 5.1 は以前のモデルの thinking を読める(一方通行)。途中で Opus 5 などに落とすルータは、そのターンの思考を失う。
- 以前のターンを編集すると thinking が無効化される。 system、tools、過去メッセージをいじると、次リクエストがエラーになるか、オプトインすればブロックが落とされる。会話は append-only。
additive なほうで、月曜の運用に効くのが per-message effort(ベータ)だ。ヘッダは mid-conversation-output-config-2026-07-01。会話の途中で effort を変えても プロンプトキャッシュは無効化されない。難しいステップだけ上げ、定型は下げる。公式ドキュメントの例を短くすると、こうだ。
curl https://api.anthropic.com/v1/messages \
-H "x-api-key: $ANTHROPIC_API_KEY" \
-H "anthropic-version: 2023-06-01" \
-H "anthropic-beta: mid-conversation-output-config-2026-07-01" \
-H "content-type: application/json" \
-d '{
"model": "claude-fable-5-1",
"max_tokens": 4096,
"output_config": {"effort": "high"},
"messages": [
{"role": "user", "content": "Plan a migration from SQLite to PostgreSQL in three short steps."},
{"role": "assistant", "content": "1. Export. 2. Create schema. 3. Import and verify."},
{"role": "system", "content": [], "output_config": {"effort": "low"}},
{"role": "user", "content": "Summarize the plan in one sentence."}
]
}'
effort-only の system メッセージが、次の user ターンから新しいレベルを効かせる。過去ターンは触っていない。キャッシュも thinking の binding も、これなら保つ、と公式は書いている。
やってはいけないのは、リマインダを過去ターンに注入して次リクエストで消す、system / tools を会話の途中で組み直す、古いターンを並べ替える、thinking ブロックを先頭以外から抜く、あたり。append-only を崩すと、The block is bound to a different conversation の 400 が来る(チェックが効くアカウント・設定の場合)。
批評: 最新モデルはレバーではない
Fable 5.1 自体は、公式が言うとおり long-horizon 向けに伸びている。Colin の「自分の作業を検証する」も、その系統の話だ。キャッシュ読みが四分の一(Cursor ドキュメントなら Fable 5 比 75% 安)なのも、長いエージェントセッションでは実質的な値下げだ。
ただし「Cursor のモデル一覧で一番上を選ぶ」は、次のどれも満たさない。
- 73.4% の条件(max effort)を再現しない。デフォルトは
high。 - Anthropic が勧める使い分け(Opus 5 が既定、Fable は足りないとき)を逆転させる。Fable は遅く、入力・出力は Opus の約倍。
- Privacy Mode チームでは、承認なしにモデルが存在しない。承認はチーム全体で、30 日保持を飲むことになる。
- API 利用者は、履歴編集という「普通のチャット UI がやりがちなこと」で thinking を壊す。effort 変更は壊さない。レバーはそっち。
だから月曜の作業は、モデル ID の書き換えではない。Dashboard の意思決定、effort を常時 max にしないこと、Opus 5 をデフォルトに残すこと、履歴を append-only にすること。その四つをやったあとで、長い仕事にだけ Fable 5.1 を載せる。73.4% が欲しくなったら、そのとき初めて max effort を検討すればいい。