はじめに
前回、Zuoraとは何かを示し、Zuoraの関連サイト・情報リソースをまとめました:
サブスクリプションビジネス支援アプリケーションZuoraの、技術者向け関連サイト・情報リソースまとめ
今回と次回でZuoraのサービス全体像をまとめます:
- まず、サブスクリプションビジネスを回していく上での一連の業務の流れを説明し、
- 続いて、Zuoraの中心サービスであるZuora Centralの役割を説明し、
- 最後に、Zuora Centralの各アドオンの役割、外部システムとの連携について説明します。
今回は1,2について、次回 は3について。
Zuoraの公式サイト において、Zuora Centralは以下のように概要説明されています:
The only platform that orchestrates and automates your order-to-revenue process and serves as the connective tissue between your CRM and ERP.
訳)order-to-revenue processを統合および自動化し、CRMとERP間の結合組織として機能する唯一のプラットフォームです。
- "order-to-revenue process"とは具体的にどんなプロセスか。
- CRMとERPを結びつける結合組織とは具体的にどういうことか。
このあたりの理解を目指します。
なお、この記事では、
- Zuora導入までのコンサル的なこととかZuoraの利用価格などには触れません。そのあたりは各種代理店にお問い合わせください。
- サブスクビジネス自体のベストプラクティスみたいなことにも触れません。
Zuora社がホワイトペーパーを 多数公開 していますので、そちらをご確認ください。
一部 日本語訳 されています。
サブスクリプションビジネスの業務の流れ
サブスクビジネスの定義は以下を満たすことだと考えます(私見) 1:
- 一定の期間のあいだサービス利用を続ける契約を顧客と結ぶ。
- 一定の期間ごとに顧客への請求が行われる。
- 契約の更新をともない、顧客のサービス利用の永続化を目指す。
サブスクビジネスという形態そのものは昔から存在します。たとえば、雑誌の定期購読とか、牛乳の定期配達とか、賃貸契約なんかも上記の定義を満たします。
ただ、新規顧客を増やして収益を増やそうとするだけでなく、既存顧客をつなぎ留め、既存顧客からの収益の増加に力を注ぐ思想なのが、最近のサブスクビジネスだと考えます(私見)。サービス使用量に応じた請求金額にしたり、様々なプランを用意し自由な乗り換えを促したりして、それを実現する。そのあたりも考慮に入れましょう。
さてでは、あなたはサブスクビジネスをスタートさせたとします。
どんな業務が待っているでしょうか。こんな業務が待っています:
1. 商品マスタの登録
サブスクビジネスとして扱う商品・サービスの情報を登録してマスタを作ります。
ZuoraではこのマスタをProduct Catalogと呼びます。プランを複数 登録する機能がデフォルトで用意されており、料金体系や請求の周期などをプランごとに設定することができます。
2. 顧客と契約の登録・管理
顧客データと契約データを作ります。
サブスクビジネスでは契約の変更が常に起こりえます:
- 上位のプランに乗り換える(アップセル)とか、
- 下位のプランに乗り換える(ダウンセル)とか、
- オプション的なプランを追加する(クロスセル)とか、
- 契約を更新するとか、
- 契約を解約するとか。
そのあたりも受け付けて管理していく必要があります。
3. 使用量の投入
従量課金制のサブスクビジネスを提供する場合は、顧客のサービス使用量を記録して、料金計算に反映させる必要があります。
4. 周期的な請求業務
サブスクビジネスでは、1つの契約に対して複数回の請求が起こりえます。年契約で毎月請求とかよくありますよね。
Zuoraでは、Bill Runという機能を用いて請求データを作成します。請求データが作成される際にPDFの請求書ファイルも作成され、顧客に自動的に送付することができます。Bill Runをスケジュール登録することでこのあたりの請求業務を自動化することができます。
5. 周期的な決済業務
請求を出したのち決済を行います。
Zuoraでは、Payment Runという機能を用いて決済データを作成します。顧客の支払い方法がクレジットカードやPaypalなどの電子決済であることが割とデフォっぽく想定されていて、Payment Gatewayという決済処理を扱う外部システムと自動的に連携します。Payment Runをスケジュール登録することでこのあたりの決済業務を自動化することができます。※ 顧客の支払い方法が銀行振込などの非電子決済の場合は、Payment Runを通さずに、手打ちで決済データを作ることになります。
6. 仕訳の生成
請求データと決済データ(その他、請求後の値引きとか決済後の返金とか)から仕訳を切ります。
Zuoraでは、Jurnal Runという機能を用いて仕訳データを作成します。Zuora自身は決算までやる機能はないので、この仕訳データをCSVでエクスポートして、別の会計管理システムにインポートすることになります 2。
7. サブスクビジネスの指標のレポート
いわゆるKPIを算出してサブスクビジネスの動向を見守ることも大切です。
Zuoraでは、レポート機能を用いて各種のKPIを算出してCSV出力します。レポート機能の実行をスケジュール登録することでこのあたりの業務を自動化することができます。また、Zuora Insights というアドオンを使うことで可視化することもできます。これは次回に(使ったことないので大したことは書けないですが…)。
8. 顧客への通知
契約の終了日が来る前に「そろそろ更新時期ですよ」とメールを出すとか、支払いが滞っている顧客に「どうしたんですか」とメールを出すとか、そういうコミュニケーションを随時とる必要があります。
Zuoraでは、顧客にメール通知する機能をNotificationと呼びます。メール通知するトリガとなるイベントとして、あらかじめ用意されているものを使うこともできますし、任意の条件を登録することも可能です。※ なお、Notificationには、外部システムへHTTPリクエストを送信するcalloutという機能も含まれます。これは次回に。
つまり、"order-to-revenue process" とは
上記の通り、「商品を登録して、顧客を登録して、契約を登録して、契約変更を受け付けて、使用量を入れて、請求して、決済して、仕訳を切る。随時、KPIを見たり、顧客への通知を行う」。この一連の流れをZuoraは"order-to-revenue process"と表現しているようです。新規契約や既存契約の変更が"order"。そこから請求・決済を通して、収益("revenue")として計上された仕訳まで落としていく。言われてみりゃまあそうだろうねという感じではないでしょうか。
さて、上記の業務をつかさどるのがZuoraの仕事と言えます。
Zuoraの中心サービスであるZuora Centralと上記の業務を対応を見てみましょう。
Zuora Centralの6つのエンジン(とZuora Billing)
Developer Centerからリンクされている"Integrate to Zuora"というページの図を使います:
https://www.zuora.com/developer/integrate-with-zuora/
中央の円の内側がZuora Centralの領域です。左右に配置されている箱のうち、"Zuoraなんとか"という名前のものがアドオン、それ以外が外部システムです。
Zuora Centralは6つのエンジンから構成されているようです。各エンジンがどんな機能を担うか、Knowledge CenterのZuoraのエディションのページに記載されています: こちら
※ Zuora Billingはアドオンですが、どのエディションでもデフォルトで含まれているので一緒に扱います
上記リンク先のざっくりまとめ表。各エンジンの概説と前節の業務との対応:
エンジンの名前 | 機能概説 | 前節の業務との対応 |
---|---|---|
Pricing Engine | 商品に関する情報、特に価格の決め方を担うよ! | 1. 商品マスタの登録 |
Subscription Orders Engine | 顧客と契約に関する情報を担うよ! | 2. 顧客と契約の登録・管理 |
Rating Engine | 従量課金の使用量とそれに応じた金額決定を担うよ! | 3. 使用量の投入 |
Zuora Billing | サブスクビジネス特有の周期的な請求を担うよ! | 4. 周期的な請求業務 |
Global Payments Engine | 電子決済に関する情報と決済を担うよ! | 5. 周期的な決済業務 |
Subscription Accounting Engine | サブスクビジネス特有の会計を担うよ! | 6. 仕訳の生成 |
Subscription Metrics Engine | サブスクビジネス特有の指標を計算を担うよ! | 7. サブスクビジネスの指標のレポート |
(Notification) 3 | 適切なタイミングでの顧客への通知を担うよ! | 8. 顧客への通知 |
Zuora Central + Zuora Billingにより、前節で見た"order-to-revenue process"がカバーされていることが分かります。
ではZuora Centralだけで十全なのか
全部カバーできてるならZuora Centralだけよくね? という気持ちになりますが、さにあらずです:
- Zuora CentralはUIを提供していますが、顧客データや契約データをぜんぶ手入力するわけにも行きません。
- Zuora Centralは仕訳を生成するまではできますが、決算を行う機能はありません。
- その他、Zuora Centralだけでは不便なこと / Zuora Centralだけではできないことがいろいろあり、アドオンを乗せたり、外部システムと連携するのは必須です。
Zuora Centralは単品で利用することは想定されてないと言えます。
そういうわけで、次回、この絵が表すところをぜんぶ解説します:
ところで: 「結局、ZuoraってERPみたいなものなの?」
これは No だと考えています。
確かに、「商品を登録して、顧客を登録して、請求の管理をして、決済(消込)の管理をして、仕訳を切る」という機能は、ERPに似ています。
しかし、サブスクビジネス特有の考え方や業務、たとえば、
- サービス利用を続ける契約がまず前提としてある。
- その契約は随時に変更される可能性がある。
- 周期的な請求が行われ、その時点での契約の状況を織り込んで請求金額が決まる。
- 従量課金制の場合、使用量を計上して請求金額が決まる。
- 収益認識等を考慮した仕訳を生成する必要がある。
このあたりは、そもそも、ERPには搭載されていない機能です。
従来のビジネスのやり方と、サブスクビジネスのやり方は、土台からして考え方が違う。サブスクビジネスの管理を前提としていないERPではサブスクビジネスを扱いきれない、と考えるべきなのだと思います。守備範囲が違うのです。
それに、上記の通りZuoraにできてERPにできないこともありますが、ERPにできてZuoraにできないことも山ほどあります。
ネットで拾ってきたERPの機能一覧とZuoraがそれを出来るか表:
ERPの機能 | Zuoraで出来るか |
---|---|
財務会計管理 | サブスクビジネス関係の仕訳切るだけできる |
予算管理 | できない |
販売管理(受注・請求) | サブスクビジネス関係だけできる |
購買管理 | できない |
顧客管理 | 一応できる 4 |
営業支援管理 | できない 4 |
倉庫・在庫管理 | できない |
プロジェクト管理 | できない |
人材管理 | できない |
マーケティング管理 | できない |
Eコマース | できない |
ビジネスインテリジェンス(BI) | サブスクビジネス関係のKPIだけ見れる |
Zuoraはサブスクビジネスしか扱えないし、サブスクビジネスだけを扱わせるべき子なのです!
というわけで、ERPとZuoraは別物であり、互いに食い合うシステムではないと私は理解しています。「基幹システムとしてのERPは現存のまま使われればいい。サブスクビジネスという、ERPで扱いきれないとこは俺に任せろ!」というのがZuoraの考え方ではないかと思っています。
続きを投稿しました!!
サブスクリプションビジネス支援アプリケーションZuoraのサービス全体像(その2)
-
完璧な定義ではない。たとえば、契約期間を最初から無期限と定める形態のサブスクビジネスもあって、その場合は"契約の更新"という概念が無くなる。ただ、いずれにしても、顧客が永続的にサービスを利用することを目指すというのはサブスクビジネスの重要なファクター。これがないとレンタルやリースと区別が付かない。 ↩
-
ここ重要なので後でちゃんと書きますが、請求データや決済データそのものを別システムに渡すことはZuoraでは想定されていません。サブスクビジネス特有の仕訳の切り方とかあるので(アップセルやダウンセル時の差額とか収益認識とか)、サブスクビジネスに関する取引データは全部Zuoraに入れる、サブスクビジネスに関する仕訳はZuoraに生成させる、その仕訳をお使いの会計システムに入れてくださいね、という思想。 ↩
-
エンジンとしては独立してない。 ↩
-
単に「顧客マスタを持つ」という意味ではZuoraでも可です。しかし、それはほんとに「顧客マスタを持つ」だけの意味であり、顧客管理+営業支援管理のCRM的な機能はZuoraは持っていません。商談の管理とかできない。 ↩ ↩2