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この記事は,ドコモアドベントカレンダー13日目の記事です。

ドコモの山本です。業務ではヘルスケア関連のデータ分析に取り組んでいます。
本記事ではメンタルヘルスケアに着目して,特にストレス状態を評価するための手法を紹介したいと思います。

■ 背景

 近年,世界中で精神疾患の患者数が増加傾向にあり,メンタルヘルスケアに対する社会的関心が高まっています。メンタルヘルスケアが重要だということはメディア等を通じてご存知かと思いますが,自分のメンタルの健康状態を正確に把握するのって非常に難しいですよね…「ストレスチェックの方法すら分からない」って人も少なくないのではないでしょうか。
 ストレス状態を知る方法としてはアンケートの様な自記式のチェック方法と,血液や唾液といった生理指標を採取し検査する手法があります。また,"スマートフォンを用いたストレス推定研究"が近年報告されています。現在では子供から高齢者までが1人1台スマートフォンを持っていて,常に持ち歩き使用するものであることから,スマートフォンから取得できる各種センサログや利用履歴ログはユーザのメンタルヘルスの状態を推定するために有用であると考えられています。WHOもこのようなスマートフォンの特性から,メンタルヘルスケアにおいて携帯電話を用いたセルフマネジメントを促しています。
参考:Anthes, Emily. "Mental health: there’s an app for that." Nature News 532.7597 (2016): 20.

【精神疾患患者数】

  • 世界:約272,000,000人(2010年)→ 約322,000,000人(2015年)
    参照:WHO HP 
  • 日本:約2,181,000人(1996年)→ 約3,201,000人(2011年)
    参照:厚生労働省 参考資料

■ メンタルの健康状態チェック方法

 ここでは,メンタルの健康状態をチェックする方法を2種類に分類して紹介します。

① アンケートへの回答

 一般的によく知られている方法がアンケートかと思います.多くの企業でもストレスチェックにアンケートを使ってますよね。メンタルヘルスケアに関する既存研究でもアンケートを用いてメンタル状態を評価している研究が多数存在します。性格診断を目的としたものや,不安状態の測定するためのもの,うつ状態を測定するためのものなど,様々なアンケートが存在します。

  • STAI:State-Trait Anxiety Inventoryの略。不安の2因子である「状態不安」と「特性不安」を測定することを目的とする。状態不安は今この瞬間の自分の不安を指し,特性不安は普段の自分に該当する不安を指す。
  • PHQ:Patient Health Questionnaireの略。特にPHQ-9は大うつ病性障害のスクリーニングツールとして用いられている。質問事項は全9項目から成り,各項目の点数を算出することにより精神状態を評価する。

 これらのアンケートに回答することにより,自身の性格や精神状態を把握することが可能だと言われています。しかしながら,このアンケートベースの方法にはいくつか問題点があると捉えていて,例えばアンケートの設問数が多く回答すること自体にストレスを感じてしまうこと,回答結果が恣意的であること等が挙げられます。日々のストレス状態をチェックするために毎日アンケートに回答するのは嫌ですよね…。

② 生理指標によるストレスチェック

自身が気付けていないストレス状態を把握するためには,アンケートの様な主観的なストレス評価ではなく,客観的なストレスチェック方法が必要になります。ここでは3種類の生理指標を紹介します。

■ 心拍データに基づくストレス指標の算出方法

 本記事では特に心拍データに基づくストレス指標(LF/HF)に着目します。
私たちは精神的にストレスを感じると自律神経系にその影響が現れるため,自律神経系の変調を計測することによってストレスを解析する研究が報告されています。この自律神経機能の解析において多く利用されている生理指標に心拍変動があります。私たちの心拍は常に一定の間隔で鼓動を打つのではなく,じっと安静にしている最中であっても周期的にゆらいでいることが知られています。(この周期的な心拍のゆらぎを心拍変動と呼びます。) 心拍の拍動の間隔を取得する際には,R波から次のR波までの間隔を計測することが一般的であり,この間隔のことをRRI(RR Interval)と呼びます。心拍変動解析とは,この心拍周期の変動を解析する手法であり,解析指標としてよく知られているものにLF/HFがあります。
 RRIを任意の時間幅(例えば5min)で取得し,FFTを用いてスペクトル分解を行うと,低周波数と高周波数にピークを持つ波形が得られます。この内,0.04~0.15HzをLow Frequency,0.15Hz~0.40HzをHigh Frequencyとしてその比をとることによりLF/HFを取得できます。(式1)

RRI.png

$$
LF/HF = \frac{\int_{0.04Hz}^{0.15Hz}f(λ)dλ}{\int_{0.15Hz}^{0.40Hz}f(λ)dλ} ・・・(1)
$$
参考論文

■ Pythonで実装

 Python向けに心拍変動解析用のライブラリがあります。RRIデータさえ取得すれば,簡単にLF/HFを取得することができます。”とりあえずやってみた”程度の簡単な使い方共有です。詳細は公式ガイドをご覧ください。

  • ライブラリのインストール
$ pip install hrv
  • LF/HFの計算

    Input_dataがRRIデータに該当します。各パラメータ(***)は任意に設定してください。

from hrv.classical import frequency_domain
results = frequency_domain(
    rri=input_data,
    fs=***,
    method=***,
    interp_method=***,
    detrend=***
)
  • 出力
print (results)

'''
{'hf': *** ,
 'hfnu': ***,
 'lf': ***,
 'lf_hf': ***,
 'lfnu': ***,
 'total_power': ***,
 'vlf': ***}
'''

これだけです。実に簡単。

Apple Watchで心拍変動データ取得

 最近,Apple watch Series4が発売されましたが,なんとApple Watchでも心拍変動データが収集できるようなのです。ホーム画面>ヘルスケアapp>心臓>心拍変動と画面を遷移していくと…''心拍変動'という項目があります。app上ではHRVデータの中身を確認できないので,ホーム画面>ヘルスケアapp>右上の人型アイコン>”ヘルスケアデータを書き出す”からxml形式でデータを出力します。

app.png

zip形式のデータが手に入るので,中身を確認してみると,

  • export_cda.xml
  • 書き出したデータ.xml

の2ファイルがあります。書き出したデータ.xmlを適当なエディタで開いて,ずっと下の方までスクロールするとこんなログが見つかります。

HRV_log.png

このtime=●●の差分を計算してあげれば,鼓動間隔が入手できるようですね。ただし,どうやってApple Watchで鼓動間隔を取得しているのかは不明なので今後確認してみます。あと,心拍センサから取得したRRIとの整合性も気になります。

Apple Watchから取得した心拍変動の検証を報告している論文があったので参考までに。
Hernando, David, et al. "Validation of the Apple Watch for Heart Rate Variability Measurements during Relax and Mental Stress in Healthy Subjects." Sensors 18.8 (2018): 2619.

■ まとめ

メンタルヘルスケアの重要性からストレス測定手法,LF/HFの算出方法に関して紹介しました。今後ストレス対策の重要性がますます高まっていくと考えられますので,自分のストレス状態を簡単に知ることができ,しかもストレス対策方法までフィードバックしてくれるような技術が出てくると面白いですね。

以上,最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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