はじめに:「電場ゼロの座標系」 なぜ粒子加速で重要か?
宇宙には、数十TeV 〜 PeV といった驚異的なエネルギーを持つ粒子(宇宙線)が飛び交っており、それらがどのように加速されたのかを理解することは、現代宇宙物理・高エネルギー天体物理の中心課題の一つです。中でも「超新星残骸(SNR)の衝撃波」が宇宙線加速の主要候補であることは、1970年代から続く理論的・観測的研究によって現在では広く認識されています。
そのきっかけを作ったのが、1977年の Fermi加速(Diffusive Shock Acceleration, DSA)理論の確立でした。これは、衝撃波を行き来する粒子が、上流・下流の乱流によって散乱されながら繰り返し加速されることで、パワーロー型のエネルギースペクトルを形成する という非常にエレガントな理論です。しかし、この理論には前提があります:
- 粒子が衝撃波を「往復」できること(=上流(星間空間)に戻れること)
- 粒子が電場に引きずられて一方通行にならないこと
このとき、磁場の向きや粒子の運動を整理する上で極めて有用なのが、Hoffmann–Teller(HT)座標系です。
これに関連して、近年の超新星残骸(SNR)における粒子加速の動向やHT系との関係については下記の記事を参考にしてください。
SNRの基礎事項はこちらに簡単に記載しています。
HT 座標系って誰が考えたの?なぜ重要?
Banesh Hoffmann と Edward Teller は、1950年に発表した論文において、電磁場中を運動する荷電粒子の運動を、より直感的に記述できる特別な座標系を導入しました。Hoffmann–Teller 座標系は、1950年に物理学者 Banesh Hoffmann(アインシュタインの共同研究者としても有名)と Edward Teller(原爆の父とも呼ばれる理論物理学者)によって導入された概念です。彼らは、衝撃波を通過する荷電粒子がどのように振る舞うかを記述するために、「運動する磁場の中で電場がゼロになるような特別な座標系」が存在する条件を導出しました。それが今日「Hoffmann–Teller 系」として知られるものです。
この座標系では、運動するプラズマに対してうまくローレンツ変換を行うことで、電場がゼロになる系(E = 0) を構築します。すると、荷電粒子の運動は単純に「磁場に沿った運動」と「磁力線に直交する円運動」の組み合わせとして記述できるようになり、解析がぐっとシンプルになります。
しかも、この座標系が使えるかどうか(=電場ゼロの系が存在するかどうか)によって、
- 粒子が鏡面反射されるかどうか(→ショックドリフト加速が可能か)
- 粒子がDSA に乗れるかどうか(=上流に戻れるか)
といった、粒子加速の本質的なメカニズムが決まってくるのです。
粒子加速史の中での「HT座標系」の役割
衝撃波での粒子加速は、以下のような歴史を経て現在に至ります:
-
1949年〜:Fermiの原始的モデル
磁場に反射する雲を往復する粒子がエネルギーを得るという、確率的な加速過程の初期モデル。 -
1970年代後半〜1980年代:DSAの確立と数値検証
衝撃波の運動とプラズマ流のフレームで考えることで、粒子が平均的にエネルギーを得られることが理論的に示された。 -
1990年代〜:注入問題と電場の役割
DSA に乗るためには、まずある程度のエネルギー(注入)を持った粒子が必要。この“注入段階”での加速には、電場による仕事が不可欠であり、HT座標系での記述が重要になった。 -
2000年代〜:SDA・SSAなど新たな加速機構の導入
ショックフロント近傍での磁場勾配・静電場を利用した Shock Drift Acceleration(SDA) や、Shock Surfing Acceleration(SSA) といったモデルが提案され、DSA の前プロセスとしてのエネルギー注入機構として HT 系が利用されるように。 -
現在:Particle-In-Cell(PIC) 計算・衛星観測とHT系の再評価
日本の研究者らの活躍もあり、準垂直ショック + 高Mach数領域における電子加速理論が大きく前進。HT座標系の使用可能性(サブルミナル条件)と粒子の運命の相関が、数値的にも観測的にも検証されつつある。
HT座標系が「存在できる条件」って何?
HT座標系は、磁場と衝撃波面の法線のなす角(ΘBn)と、上流プラズマの速度 V1 の関係で、存在できるかどうかが決まります。
特に重要なのが、「その座標系に移るための速度(VHT)が光速より小さいかどうか?」です。これを基準に、
-
サブルミナルショック(VHT < c)
→ HT 系が存在する。E=0 の座標系に移れる。 -
スーパーリミナルショック(VHT > c)
→ HT 系が存在しない。磁力線に沿った反射が物理的に不可能になる。
この違いが、DSA の“注入”において決定的に効いてくるのです。
次節からは、HT 座標系の具体的な数学的導出と、Shock Drift Acceleration との関係を順を追って解説していきます。高校〜学部物理で習うローレンツ変換から始めて、どこに“直感の罠”があるのかにも丁寧に触れていきます。「なぜ電場が消えるのか?」を理解することが、宇宙の高エネルギー現象と繋がってくる、というイメージをお伝えできればと思います。
1. HT 系とは何か?一言でいえば「電場を消す座標系」
プラズマの 理想 MHD(Ideal Magnetohydrodynamics) では、導電率が無限大に近い極限を仮定するため、プラズマに共動する座標系では電場が存在しません。この条件を実験室系での電磁場 $\mathbf{E}, \mathbf{B}$ とプラズマの速度場 $ \mathbf{U} $ を用いて書き下すと、次の関係式が得られます:
\mathbf{E} = -\frac{\mathbf{U}}{c} \times \mathbf{B}.
ここで各量は次のとおりです。
- $\mathbf{E}$:実験室系における電場ベクトル
- $\mathbf{B}$:実験室系における磁場(磁束密度)ベクトル
- $\mathbf{U}$:プラズマの流体速度ベクトル(実験室系で定義)
- $c$:光速(電磁場の単位系を合わせるための定数)
この式は、導体(プラズマ)の共動系では電場がゼロであるという完全導体の条件
\mathbf{E}' = 0,
を、ローレンツ力の形
\mathbf{E}' = \mathbf{E} + \frac{\mathbf{U}}{c}\times\mathbf{B}
を用いて実験室系へ変換した結果であり、理想 MHD におけるオームの法則と呼ばれます。
理想MHDって何だっけ??という場合の補足
🔰 つまずきポイント:
なぜ理想 MHD だと $\mathbf{E} = -\frac{\mathbf{U}}{c}\times\mathbf{B}$ になるの?
ここで、つまずく理由は大きく 3 つです:
- 「相対論的な電磁場の変換(Lorentz 変換)」と混ざって混乱する
- オームの法則が $E = ηJ$ ではなくなる理由が曖昧
- 「流体が動くと電場が見える」という直感が持てない
これを一つずつ丁寧に説明します。
① 理想 MHD の本質:「電場なしで導体が動くと 動いている観測者 には電場が見える」
まず「理想 MHD」とは
プラズマが完全導体(電気抵抗ゼロ)である
という近似です。
完全導体の中では、プラズマ自身の静止系で
\mathbf{E}' = 0
が成り立ちます(電子が抵抗なしに動いて全部打ち消すから)。
しかし、そのプラズマが速度 $\mathbf{U}$ で動いている系から見るとどうなるでしょう?
◇ 電磁場のガリレイ変換(非相対論)での基本式
非相対論的には、電場の変換は
\mathbf{E} = \mathbf{E}' - \frac{\mathbf{U}}{c}\times\mathbf{B}
です。
理想 MHD では $\mathbf{E}' = 0$ なので、
\mathbf{E} = -\frac{\mathbf{U}}{c}\times\mathbf{B}
が自然に出ます。
② 「抵抗ゼロ ⇒ 電場ゼロ」という最もシンプルな導出
理想 MHD のオームの法則は:
\mathbf{E} + \frac{\mathbf{U}}{c}\times\mathbf{B} = 0
これは通常の電気回路のオームの法則
\mathbf{E} = \eta \mathbf{J}
が “抵抗 $\eta = 0$” の極限だと思えば理解しやすいです。
抵抗ゼロの導体の中では、電場をかけても電子が無限に流れるから
結果として電場は打ち消されて 0 になる。
ただしこの 0 は「プラズマと一緒に動く系」での 0 なので、
他の座標系(静止した観測者の系)では
\mathbf{E} = -\frac{\mathbf{U}}{c}\times\mathbf{B}
が残ります。
③ “流体の運動が電場を生む” という物理直感
「電場は電荷が作るんじゃないの?流体が動いたらなぜ電場が生まれるの?」
これはローレンツ力
\mathbf{F} = q(\mathbf{E} + \frac{\mathbf{v}}{c}\times \mathbf{B})
を見れば、電荷が動いていれば、磁場から力を受ける。この“磁場による力”を別の観測者視点では“電場のように見える"。これは 電磁場の相対性 であり、特殊相対論のに出てくる「磁場は電場の変換である」という事実です。
④ HT 系の理解とどうつながるのか?
Hoffmann–Teller 系とは:
電場が完全に 0 になるように観測者が「動く」座標系
つまり、上述の変換式
\mathbf{E}' = \mathbf{E} + \frac{\mathbf{v}}{c}\times \mathbf{B}
を使って「$\mathbf{E}'=0$ となる速度 $\mathbf{v}$」を求めるだけです。
その速度が
\mathbf{v}_{HT} = U_1 \tan\theta_{Bn}
となり(後述)、もしこれが光速 $c$ を超えると実在しない
→ スーパーリミナルショック
→ 粒子は上流へ戻れない
→ DSA が壊れる
というロジックにつながります。
⑤ 最後に:つまずいたときの指針
以下の順に理解すると楽になります:
- 理想 MHD → 導体の中では電場ゼロ(電子が全部打ち消す)
- 座標変換すると電場が復活する(Lorentz 変換を簡略化した形)
- 復活した電場は $-\mathbf{U}\times\mathbf{B}/c$
- 「電場ゼロになる系」を逆に探すと HT 系が出る
- HT 系の存在条件が粒子加速の可否(DSA)を決める
これだけ理解できれば、HT 系周りの混乱は一気に晴れます。
衝撃波(shock)では upstream(上流;星間空間)と downstream(下流;爆発源側)で流速が異なり、上流側では
\mathbf{E}_1 = -\frac{\mathbf{U}_1}{c}\times \mathbf{B}_1
のようにモーション電場が生じます。
この電場が曲者で、
- ショック面での粒子の反射
- エネルギーゲイン
- 加速効率
- サブルミナル / スーパーリミナルの境界
など、重要な物理を支配しています。
そこで「電場が消える座標系に行けば粒子運動がめちゃくちゃ単純になるのでは?」という発想が Hoffmann–Teller(HT)系の原点です。
2. 数学的導出:HT 系は “流れと磁場が平行になる座標系”
衝撃波に固定した標準系(NIF: Normal Incidence Frame)を用意します。
2.1 NIF の設定
- 衝撃波法線方向(流れ方向)を x 軸
- 磁場は任意の方向(衝撃角をもつ)
\mathbf{U}_1 = (U_1, 0, 0), \qquad
\mathbf{B}_1 = (B_x, B_y, 0)
NIF の電場:
\mathbf{E}_{\rm NIF}
= -\frac{\mathbf{U}_1}{c}\times \mathbf{B}_1
= \left(0,0,-\frac{U_1 B_y}{c}\right)
つまり NIF では z 方向に確実に電場があります。
任意の磁場ベクトルは、衝撃波面に垂直な成分と平行な成分の2つのベクトルに分割できるので、衝撃波面に垂直な成分をx軸方向、衝撃波面に平行な方向をy軸方向にとっても一般性を失いません。
2.2 y 方向に速度 v_HT でローレンツ変換(非相対論近似OK)
HT 系とは「電場が 0 になる系」です。
座標系が y 軸方向に速度 $v_{HT}$ で移動した系を考えます:
\mathbf{v} = (0, v_{HT}, 0)
ローレンツ変換では:
\mathbf{E}' =
\gamma \left( \mathbf{E} +
\frac{\mathbf{v}\times\mathbf{B}}{c} \right)
z 成分のみを抜き出すと、
E'_z =
\gamma\left(
-\frac{U_1 B_y}{c} + \frac{v_{HT} B_x}{c}
\right)
HT 系の定義は $E'_z=0$ なので、
-\frac{U_1 B_y}{c} + \frac{v_{HT} B_x}{c} = 0
これを解くと
v_{HT} = U_1 \frac{B_y}{B_x}
= U_1 \tan \theta_{Bn}
ここで
\theta_{Bn} = \tan^{-1}\left(\frac{B_y}{B_x}\right)
は衝撃角です。
3. 重要ポイント:HT 系が存在するための条件(サブルミナル条件)
HT 系が実在するためには、
|v_{HT}| < c
が必要です。つまり
U_1 \tan\theta_{Bn} < c
≒ サブルミナル(subluminal) ショックの条件
逆に
U_1 \tan\theta_{Bn} \ge c
なら
→ スーパーリミナルショック(superluminal shock)
→ HT 系は存在しない(E=0系へ行けない)
この条件が超重要
-
HT 系が存在する(サブルミナル)
→ モーション電場を完全に消去できる
→ 粒子運動は “磁力線に沿うミラー反射” として記述できる
→ Shock Drift Acceleration(SDA) の自然な描像が得られる -
HT 系が存在しない(スーパーリミナル)
→ 粒子は上流に戻れない
→ DSA(Diffusive Shock Acceleration)が破綻
→ エネルギー変換効率は著しく低下
Hoffmann–Teller 系は 粒子が衝撃波を往復できるかどうか(=加速が可能かどうか)
を決める臨界条件の指標を与えてくれます。
4. HT 系に移ると粒子運動は “磁場ミラー反射” になる
衝撃波の近くにいる荷電粒子がどのように動くかを理解するために、まず HT(de Hoffmann–Teller)系という特別な座標系に移ります。
HT 系とは、
プラズマが電場を感じないように座標系を選ぶ
というだけのものです。この系では次の2つの性質が成り立ちます:
- 電場が 0 になる(理想MHDの E + v×B = 0 を満たす系だから)
- プラズマ流と磁場が平行になる(電場を消すとこうなる)
この2つの条件がそろうと、荷電粒子の運動は非常に単純になります。
◆ HT 系での粒子運動:実は「磁場ミラー反射」だけ
HT 系では電場が無いので、粒子は磁場だけで運動します。
磁場だけがある場合の基本運動は次の通りです:
-
速度を、磁場方向とそれに垂直な方向に分解できる
v = v_{\parallel} + v_{\perp} -
垂直成分(v⊥)に対応する“磁気モーメント”が保存される
\mu = \frac{m v_{\perp}^2}{2B} = \text{一定} -
磁場が強い領域に入ると v⊥ が大きくなり、代わりに v∥ が小さくなる
(磁気モーメント保存のため) -
ついに v∥ がゼロになり、進行方向が反転する
⇒ これが「磁場ミラー反射」
つまり HT 系では、
衝撃波での粒子運動は「磁場ミラー反射」そのもの
になり、粒子のエネルギーは変化しません
(磁場だけでは仕事ができないため)。
◆ これが SDA(Shock Drift Acceleration)の“素顔”
HT 系ではエネルギーは変わらないので、運動は単純なミラー反射ですが、
元の座標系(衝撃波静止系=NIF)に戻すと話が変わります。
NIF では:
- プラズマが衝撃波に向かって流れている
- そのため E = −U×B/c の電場が存在する
- 粒子はこの電場の中を“ドリフト運動”で進む
よって、
HT 系ではただのミラー反射だった運動が
NIF では電場中のドリフト運動として観測される → エネルギーが増える
これが Shock Drift Acceleration(SDA)です。
さらに、“流れ方向の反射+電場でのドリフト”の組み合わせは、実質的に フェルミ加速(1次加速) の一形態になっています。
5. 「HT系でエネルギー保存→NIFでエネルギー増加」
HT 系でのエネルギーは
\varepsilon' = \frac{1}{2} m {v'}^2 = \text{const.}
NIF に戻すと、
\mathbf{v} = \mathbf{v}' + \mathbf{v}_{HT}
よって
\varepsilon =
\frac{1}{2} m|\mathbf{v}' + \mathbf{v}_{HT}|^2
= \frac{1}{2} m({v'}^2 + 2\mathbf{v}'\cdot\mathbf{v}_{HT} + v_{HT}^2)
反射運動(たとえば磁気ミラー反射)で $\mathbf{v}'$ の符号が変わるため、
\Delta\varepsilon
= m\mathbf{v}'\cdot\mathbf{v}_{HT}
→ HT 系が存在する場合、反射だけで NIF ではエネルギーが増える
これがSDA の重要なポイントです。「ミラー反射しただけでエネルギーが増える」という奇妙さは HT 系を理解すると一気に整理されます。
6. HT 系が粒子加速研究を変えたポイント
6.1 SDA と fast-Fermi acceleration が同じ現象になる
HT 系でみると
- ただのミラー反射(エネルギー保存)
NIF でみると
- ドリフトしながらエネルギー増加
- モーション電場による加速
という両面が統一的に理解できます。
6.2 衝撃角 theta_Bn の役割が明確になる
HT 系の存在条件:
\tan\theta_{Bn} < c/U_1
若い SNR では $U_1/c \sim 0.01$ なので $\theta_{Bn} \sim 89^\circ$ くらいまでサブルミナルです。
つまり、SNR では非常に広い範囲で HT 系が存在し、SDA が起こりうる ということがこの式から即座に分かる。
6.3 電子注入問題にも深く関与する
SSA → SDA → SSDA (cf., 天野・松本)
では、
- ミラー反射が必要
- 電場ゼロ系での保存量が重要
つまり、HT 系の概念が基礎になっています。
7. Hoffmann–Teller 系って、結局なに?
Hoffmann–Teller(HT)座標系は、一言でいえば:
「粒子にとって、一番シンプルに運動が見える“特別な視点”」
です。
もっと具体的に言うと、
- 通常の衝撃波(NIF: Shock Rest Frame)では、プラズマは衝撃波に向かって突っ込んできます。その中で粒子は電場にも磁場にも影響され、複雑に加速されます。
- しかし、ある特別な速度(HT速度)で一緒に動くと、運動する磁場による誘導電場がちょうど打ち消されて、電場がゼロになる座標系が存在することがあります。
- このとき、粒子の運動は 「磁場のミラー反射」 という極めて単純なものになります。
この “魔法の視点” によって、粒子の運動を「保存量」で簡単に扱うことができ、
- HT系ではエネルギーは保存されている
- それを元の座標系(NIF)に戻すと、粒子の運動エネルギーが増えて見える
という、Shock Drift Acceleration(SDA)の根本原理が見えてくるのです。
サブルミナル・スーパーリミナルって何?
HT 座標系に行けるかどうか(=電場ゼロにできるか)は、
「磁場が衝撃波面とどれくらい傾いているか(θBn)」と
「上流プラズマの速さ」
によって決まります。
このとき、
- HT系に行ける(=E=0 にできる)条件:サブルミナルショック
- HT系に行けない(E=0 が不可能):スーパーリミナルショック
になります。実際、HT系に行けるかどうかが、
- SDA が起きるか
- 粒子が DSA に「注入」されうるか
といった「加速できるか否か」の分かれ道になるので、とても重要です。
8. まとめ:HT 系を学ぶと見えてくる世界
Hoffmann–Teller 系の考え方をきちんと理解すると、以下のような粒子加速に関する“点と点”が線でつながります:
- 衝撃波に入っていく粒子がどこで反射されるか?
- その反射でどれくらいエネルギーを得るか?
- どの座標系で見ると運動が一番単純に見えるか?
- そして、DSA に乗れる粒子とそうでない粒子の違いは何か?
この視点は、以下のトピックを学ぶ上でも役立つでしょう。
- 衝撃波と磁場の幾何学(θBn)
- 電磁場中の粒子運動の保存量
- SDA(Shock Drift Acceleration) のメカニズム
- 電子とイオンでの加速の違い(特に注入機構)
- SSA → SDA → DSA の段階的な加速のつながり
- スーパー vs サブルミナルの条件とその物理的意味
- PIC シミュレーションで見えてくる粒子の軌道の「リアル」
- 超新星残骸(SNR)の偏光・放射観測の理論的理解
「HT 座標系って一見マニアックな話に見えるけど、実は粒子加速の“根っこ”に関わる考え方なんだ」とわかると、今後論文やシミュレーション結果を読むときの理解の深さが変わってくると思います。