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TES インピーダンス解析の考え方:one-block モデルと測定系の応答を分けて理解する

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Last updated at Posted at 2026-06-20

はじめに

TES、すなわち Transition Edge Sensor は、超伝導転移端における急峻な抵抗変化を利用する高感度な熱検出器である。

X 線 TES microcalorimeter では、X 線が absorber に吸収されると、そのエネルギーが熱になる。熱によって absorber/TES 系の温度がわずかに上昇すると、TES の抵抗が変化する。その抵抗変化を電流変化として読み出すことで、入射 X 線のエネルギーを測定する。

非常に単純化すると、TES の動作は次のように書ける。

X 線が入る
→ absorber / TES の温度が少し上がる
→ TES の抵抗が変わる
→ TES を流れる電流が変わる
→ SQUID などで電流変化を読む

ここで重要なのは、TES が単なる固定抵抗ではない、という点である。

通常の抵抗なら、抵抗値 $R$ はほぼ一定であり、電圧 $V$ と電流 $I$ の関係は

V=IR

でほぼ決まる。

しかし TES の抵抗は、温度 $T$ や電流 $I$ に依存する。

R_{\mathrm{TES}}=R(T,I)

つまり TES は、

電気回路の素子でありながら、
同時に熱的な状態にも強く依存する素子

である。

そのため、TES のインピーダンスを考えるときには、単に

Z=\frac{V}{I}

と書くだけでは不十分である。

TES インピーダンス解析で知りたいのは、ある動作点のまわりで、電流を少し揺らしたときに電圧がどう応答するかである。つまり、

Z(\omega)
=
\frac{\delta V(\omega)}{\delta I(\omega)}

を考える。

ここで $\delta I$ や $\delta V$ は、直流的な値そのものではなく、動作点のまわりの小さな変動である。

この記事の目的は、TES インピーダンスを、式の暗記ではなく、次の流れで理解することである。

電気回路
→ 熱回路
→ 平衡点
→ 小信号近似
→ フーリエ空間
→ 複素インピーダンス
→ 常伝導・超伝導・ゼロバイアスで何が残るか
→ 実験データで何を見ているのか

特に注意したいのは、TES インピーダンスの導出で現れる

1-\mathcal{L}

と、理想電圧バイアス下の electrothermal feedback, ETF による有効熱時定数で現れる

1+\mathcal{L}

を混同しないことである。

もう一つ重要なのは、測定された量には TES 単体のインピーダンスだけでなく、読み出し回路、SQUID 入力コイル、配線、フィルタ、ADC/DAC、デジタル処理などの応答関数が含まれる、という点である。

TES を常伝導や超伝導にして、さらに TES への DC バイアスを 0 にしても、TES の電熱 loop gain は 0 になるが、回路系・読み出し系の周波数応答は消えない。

したがって、実験で見ているものは常に

TES の物理応答
+
バイアス回路の応答
+
読み出し系の応答

の重ね合わせである。

この記事の summary

TES_impedance.png


1. インピーダンスとは何か

直流回路では、抵抗は

R=\frac{V}{I}

で定義される。

しかし、交流信号では、電圧と電流の大きさだけでなく、位相のずれも重要になる。

たとえば、コンデンサでは電流が電圧より先に進む。インダクタでは電流が電圧より遅れる。このような位相差を含めて、交流に対する「抵抗のようなもの」を表すのがインピーダンスである。

インピーダンスは一般に複素数で書かれる。

Z(\omega)
=
\mathrm{Re}[Z(\omega)]
+
i\,\mathrm{Im}[Z(\omega)]

実部は、電圧と電流が同相の成分を表す。虚部は、電圧と電流が位相差を持つ成分を表す。

TES の場合、インピーダンスが周波数に依存する理由は、単に電気回路にインダクタンスがあるからではない。TES の温度が時間遅れを持って変化し、その温度変化が抵抗を変え、抵抗変化が電流・電圧応答に戻ってくるからである。

つまり TES インピーダンスには、

電気回路の応答
+
熱回路の応答
+
電気と熱のフィードバック

が同時に含まれる。


2. 小信号解析とは何か

TES は非線形素子である。

R=R(T,I)

なので、一般には $T$ と $I$ が大きく変わると $R$ の変わり方も変わる。

しかし、動作点の近くでごく小さな変動だけを見るなら、非線形な関数も一次近似できる。

ある点 $x_0$ の近くで関数 $f(x)$ を見ると、

f(x_0+\delta x)
\simeq
f(x_0)
+
\left.\frac{df}{dx}\right|_{x_0}\delta x

と書ける。

これが線形化である。

TES でも同じように、

I(t)=I_0+\delta I(t)
T(t)=T_0+\delta T(t)
R(t)=R_0+\delta R(t)

と分ける。

ここで、

I0, T0, R0:
  動作点、つまり平衡点での値

δI, δT, δR:
  そのまわりの小さな変動

である。

インピーダンス解析は、この小さな変動に対する応答を見る解析である。

したがって、X 線パルスのように TES の状態が大きく動く場合には、ここで得た小信号パラメータがそのまま全パルスに使えるとは限らない。

また、ゼロバイアス状態で小さな AC 信号だけを印加する場合も注意が必要である。この場合、DC 動作点としての Joule power は 0 であり、後で述べる loop gain も小信号の一次近似では 0 である。


3. 熱容量、熱コンダクタンス、熱時定数

TES を理解するには、熱回路の言葉が必要である。

熱容量 $C$ は、

温度を 1 K 上げるのに必要なエネルギー

を表す量である。

同じエネルギーが入っても、熱容量が大きい物体は温度が少ししか上がらない。熱容量が小さい物体は温度が大きく上がる。

微小変化で書けば、

\delta E=C\,\delta T

である。

熱コンダクタンス $G$ は、

温度差があるときに、どれだけ熱が流れやすいか

を表す量である。

温度 $T$ の TES が、温度 $T_b$ の熱浴につながっているとする。平衡点の近くでは、熱浴へ流れる熱の変化は

\delta P_{\mathrm{bath}}=G\,\delta T

と書ける。

ここで $P$ は power、つまり単位時間あたりのエネルギーである。

熱容量 $C$ と熱コンダクタンス $G$ があると、自然熱時定数は

\tau_0=\frac{C}{G}

である。

これは、電熱フィードバックがない場合に、温度変化が熱浴との熱交換によって戻る時間スケールを表す。


4. Joule power とは何か

TES に電流 $I$ が流れ、抵抗が $R$ であれば、電気エネルギーが熱に変わる。

この発熱は Joule heating と呼ばれる。

Joule power は

P_J=I^2R

である。

同じ量は、電圧 $V=IR$ を使えば

P_J=VI=\frac{V^2}{R}

とも書ける。

ただし、TES インピーダンスの導出では、どの量を独立に変動させているのかを明確にする必要がある。

インピーダンスは

Z(\omega)=\frac{\delta V}{\delta I}

であり、電流変動に対する電圧応答を見る量である。

そのため、導出の途中ではまず

P_J=I^2R

から始めるのが安全である。

一方、理想電圧バイアス下の ETF 時定数を導くときには、

\delta V_{\mathrm{TES}}=0

という条件を課す。

この区別が非常に重要である。


5. 電圧バイアスと電流バイアス

TES は通常、近似的な電圧バイアスで動作させる。

電圧バイアスとは、

TES 両端の電圧をほぼ一定に保つ

という意味である。

なぜ電圧バイアスが重要かというと、負の electrothermal feedback が働くからである。

温度が上がると TES 抵抗が上がる。電圧が一定なら、電流は下がる。

I=\frac{V}{R}

なので、$R$ が増えると $I$ は減る。

すると Joule power

P_J=\frac{V^2}{R}

は下がる。

つまり、

温度が上がる
→ 抵抗が上がる
→ 電流が下がる
→ Joule heating が下がる
→ 温度上昇が抑えられる

という負帰還が働く。

これが electrothermal feedback, ETF である。

一方、理想電流バイアスでは電流が一定である。この場合、温度が上がって抵抗が上がると、

P_J=I^2R

も増える。

つまり、

温度が上がる
→ 抵抗が上がる
→ Joule heating が増える
→ さらに温度が上がる

という正帰還になり、不安定になりやすい。

TES を電圧バイアスで使うのは、単に読み出しが便利だからではなく、動作を安定化するためでもある。


6. TES バイアス回路を Thevenin 表現で見る

実際の TES バイアス回路は、多くの場合、電流源とシャント抵抗を用いて構成される。

概念的には、

電流源
  |
  +-- シャント抵抗 Rs
  |
  +-- TES

である。

シャント抵抗 $R_s$ が TES 抵抗より十分小さければ、TES から見た電圧はほぼ一定になる。

R_s \ll R_{\mathrm{TES}}

この意味で TES は近似的に電圧バイアスされる。

一方、微分方程式を書くときには、この回路を Thevenin の定理で

電圧源 + 直列抵抗

に書き換えると扱いやすい。

TES から見た外部回路を、

電圧源 V
  |
直列抵抗 RL
  |
直列インダクタンス L
  |
TES

と表す。

ここで $R_L$ は、シャント抵抗や寄生抵抗を含む有効な負荷抵抗である。$L$ は、配線や SQUID 入力コイルなどに由来する有効インダクタンスである。

このとき、回路方程式は

L\frac{dI}{dt}
=
V
-
IR_L
-
IR(T,I)

である。

右辺は、

電圧源が与える電圧
-
直列抵抗で落ちる電圧
-
TES で落ちる電圧

を表している。

小信号で書けば、

\delta V
=
R_L\delta I
+
L\frac{d(\delta I)}{dt}
+
\delta V_{\mathrm{TES}}

である。

ここで

\delta V_{\mathrm{TES}}=\delta(IR)

である。

注意すべき点は、Thevenin 表現はあくまで等価回路である、ということである。現実の回路が本当に理想電圧源と直列抵抗だけでできているわけではない。この表現は、解析をしやすくするための数学的な道具である。


7. one-block 熱モデル

最も単純な TES の熱モデルでは、TES と absorber をまとめて一つの熱容量 $C$ とみなす。

そして、その熱容量が熱コンダクタンス $G$ を通して熱浴につながっていると考える。

TES + absorber
     |
     G
     |
   heat bath

これを one-block モデル、または single-body モデルと呼ぶ。

このモデルでは、TES と absorber の温度は常に同じであると仮定している。つまり、absorber に入った熱はすぐに TES と一体化し、全体が一つの温度 (T$ で表せると考える。

これは近似である。実際には absorber と TES の間にも有限の熱コンダクタンスがある。しかし、まず最初に one-block モデルを理解することは非常に重要である。

熱方程式は

C\frac{dT}{dt}
=
P_J
+
P_{\mathrm{sig}}
-
P_{\mathrm{bath}}(T)

である。

ここで、

C:
  TES + absorber の熱容量

PJ:
  TES で発生する Joule heating

Psig:
  X 線など外部から入る信号パワー

Pbath:
  熱浴へ逃げる熱パワー

である。

インピーダンス測定では、通常、X 線のような外部信号は入れない。したがって、

\delta P_{\mathrm{sig}}=0

として考える。


8. 平衡点とは何か

TES は、あるバイアス条件のもとで、平均的には一定の状態にいる。

その状態を平衡点、または動作点と呼ぶ。

平衡点での電流、温度、抵抗を

I_0,\quad T_0,\quad R_0

と書く。

ここで

R_0=R(T_0,I_0)

である。

平衡点での Joule power は

P_{J0}=I_0^2R_0

である。

熱的な平衡条件は、

P_{J0}
+
P_{\mathrm{sig}~0}
=
P_{\mathrm{bath}}(T_0)

である。

つまり、

入ってくる熱
=
出ていく熱

である。

インピーダンス解析では、この平衡点そのものではなく、平衡点のまわりの小さな揺らぎを見る。

I(t)=I_0+\delta I(t)
T(t)=T_0+\delta T(t)
R(t)=R_0+\delta R(t)

ここで $\delta I,\delta T,\delta R$ は十分小さいとする。


9. alpha と beta の意味

TES 抵抗は $T$ と $I$ に依存する。

そのため、小さな変化は

\delta R
=
\left(\frac{\partial R}{\partial T}\right)_{I_0}\delta T
+
\left(\frac{\partial R}{\partial I}\right)_{T_0}\delta I

と書ける。

添字 $0$ は平衡点で評価することを表す。

TES では、次の無次元量をよく使う。

\alpha
=
\frac{T_0}{R_0}
\left(\frac{\partial R}{\partial T}\right)_{I_0}
\beta
=
\frac{I_0}{R_0}
\left(\frac{\partial R}{\partial I}\right)_{T_0}

$\alpha$ は、温度が少し変わったときに抵抗がどれだけ敏感に変わるかを表す。

$\beta$ は、電流が少し変わったときに抵抗がどれだけ敏感に変わるかを表す。

実際、

\frac{\delta R}{R_0}
=
\alpha\frac{\delta T}{T_0}
+
\beta\frac{\delta I}{I_0}

と書ける。

これは、

温度が何%変わると、抵抗が何%変わるか
電流が何%変わると、抵抗が何%変わるか

を表している。

$\alpha$ が大きいということは、TES が温度計として非常に敏感であることを意味する。

ただし、$\alpha$ や $\beta$ は TES の固定された定数ではない。どの抵抗値でバイアスしているか、どの温度にいるか、磁場や電流分布がどうなっているかによって変わる。


10. 電気方程式を線形化する

TES 電圧は

V_{\mathrm{TES}}=IR

である。

小信号変化をとると、

\delta V_{\mathrm{TES}}
=
R_0\delta I
+
I_0\delta R

である。

これは積の微分

\delta(IR)=R_0\delta I+I_0\delta R

から来ている。

先ほどの

\delta R
=
R_0\alpha\frac{\delta T}{T_0}
+
R_0\beta\frac{\delta I}{I_0}

を代入すると、

\delta V_{\mathrm{TES}}
=
R_0(1+\beta)\delta I
+
\frac{I_0R_0\alpha}{T_0}\delta T

となる。

第一項

R_0(1+\beta)\delta I

は、温度を固定したときの電流変化に直接対応する電圧変化である。

第二項

\frac{I_0R_0\alpha}{T_0}\delta T

は、温度変化によって TES 抵抗が変わり、その結果として電圧が変化する項である。

TES 単体の小信号インピーダンスは

Z_{\mathrm{TES}}(\omega)
=
\frac{\delta V_{\mathrm{TES}}(\omega)}
{\delta I(\omega)}

なので、

Z_{\mathrm{TES}}(\omega)
=
R_0(1+\beta)
+
\frac{I_0R_0\alpha}{T_0}
\frac{\delta T(\omega)}{\delta I(\omega)}

となる。

つまり、TES インピーダンスを求めるには、

\frac{\delta T}{\delta I}

を求めればよい。

これは、

電流を少し変えたとき、
TES 温度がどれだけ変わるか

を表す量である。


11. Joule power を線形化する

Joule power は

P_J=I^2R

である。

小信号変化は、

\delta P_J
=
2I_0R_0\delta I
+
I_0^2\delta R

である。

ここで第一項は $I^2$ の微分から来る。

\delta(I^2)=2I_0\delta I

第二項は、抵抗が変化することから来る。

$\delta R$ を代入すると、

\delta P_J
=
2I_0R_0\delta I
+
I_0^2
\left(
R_0\alpha\frac{\delta T}{T_0}
+
R_0\beta\frac{\delta I}{I_0}
\right)

である。

整理すると、

\delta P_J
=
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}
+
P_{J0}\alpha\frac{\delta T}{T_0}

となる。

ここで

P_{J0}=I_0^2R_0

を使った。

この式の物理的意味は次の通りである。

P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}

は、電流を変えたことによる Joule power の変化である。

P_{J0}\alpha\frac{\delta T}{T_0}

は、温度が変わり、TES 抵抗が変わったことによる Joule power の変化である。

この段階では、電圧バイアス条件はまだ入れていない。


12. 熱方程式を線形化する

one-block の熱方程式は、外部信号の小変動を考えない場合、

C\frac{dT}{dt}
=
P_J
-
P_{\mathrm{bath}}(T)

である。

平衡点まわりで線形化すると、

C\frac{d(\delta T)}{dt}
=
\delta P_J
-
G\delta T

である。

$P_{\mathrm{bath}}(T)$ については、それそのものを $G\delta T$ と置いているのではない。
平衡点まわりの変化分

\delta P_{\mathrm{bath}}
=
P_{\mathrm{bath}}(T_0+\delta T)-P_{\mathrm{bath}}(T_0)

を一次近似して

\delta P_{\mathrm{bath}}\simeq G\delta T

としている。

ここに $\delta P_J$ を代入する。

C\frac{d(\delta T)}{dt}
=
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}
+
P_{J0}\alpha\frac{\delta T}{T_0}
-
G\delta T

ここで loop gain を定義する。

\mathcal{L}
=
\frac{\alpha P_{J0}}{GT_0}

loop gain は、TES の電熱フィードバックの強さを表す無次元量である。

$P_{J0}\alpha/T_0$ は、温度変化に対して Joule power がどれだけ変わるかを表す。

$G$ は、温度変化に対して熱浴へ逃げる熱がどれだけ変わるかを表す。

したがって、

\mathcal{L}
=
\frac{
\text{温度変化による Joule power 変化}
}{
\text{温度変化による熱浴への熱流変化}
}

と理解できる。

この定義を使うと、

P_{J0}\alpha\frac{\delta T}{T_0}
=
G\mathcal{L}\delta T

である。

したがって熱方程式は

C\frac{d(\delta T)}{dt}
=
-G(1-\mathcal{L})\delta T
+
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}

となる。

ここで $1-\mathcal{L}$ が現れた。

しかし、この $1-\mathcal{L}$ をすぐに ETF 時定数の $1+\mathcal{L}$ と結びつけてはいけない。

ここでは、まだ

電流変動 δI を外から与えたときの熱応答

を考えている。

理想電圧バイアス下の自然な温度戻りとは、条件が違う。

ここでの $G$ は、材料表に載っている熱伝導率をそのまま代入する量ではない。

実際の低温デバイスでは、熱浴へ逃げる power は

P_{\mathrm{bath}}(T,T_b)
=
K(T^n-T_b^n)

のような温度依存性を持つことが多い。インピーダンス解析で使う $G$ は、この非線形な熱流を動作点 $T_0$ のまわりで線形化した局所的な傾きであり、

G
\equiv
\left.
\frac{\partial P_{\mathrm{bath}}}{\partial T}
\right|_{T_0}

である。

したがって、$G$ は単なる材料物性値ではなく、膜構造、配線、absorber stem、TES bilayer、界面、熱浴温度、動作温度などをすべて含んだデバイス全体の有効熱コンダクタンスである。

文献値の熱伝導率 $\kappa(T)$ から

G\sim \kappa A/L

のように見積もることは、オーダー評価としては有用である。しかし、インピーダンス解析に入れる $G$ としては、通常、$P_{\mathrm{sat}}(T_b)$ や I-V 曲線から得た実デバイスの $G(T_0)$ を使うべきである。


13. フーリエ空間で解く

ここまでの方程式は、平衡点まわりで線形化された微分方程式である。

線形化したことで、フーリエ空間で扱えるようになる。

ここでは、時間依存性を

e^{i\omega t}

で表す規約を使う。

このとき、

\frac{d}{dt}
\rightarrow
i\omega

と置ける。

熱方程式

C\frac{d(\delta T)}{dt}
=
-G(1-\mathcal{L})\delta T
+
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}

は、フーリエ空間で

i\omega C\delta T
=
-G(1-\mathcal{L})\delta T
+
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}

となる。

整理すると、

\left[
G(1-\mathcal{L})+i\omega C
\right]\delta T
=
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}

である。

したがって、

\frac{\delta T}{\delta I}
=
\frac{
P_{J0}(2+\beta)/I_0
}{
G(1-\mathcal{L})+i\omega C
}

である。

ここで

\tau_0=\frac{C}{G}

を使えば、

\frac{\delta T}{\delta I}
=
\frac{
P_{J0}(2+\beta)/I_0
}{
G(1-\mathcal{L}+i\omega\tau_0)
}

となる。

この式は、

電流を周波数 ω で少し揺らしたとき、
温度がどれくらい揺れるか

を表している。

低周波では温度が追随しやすい。高周波では温度が追随できない。

この「熱が追随できるかどうか」が、TES インピーダンスの周波数依存性を作る。


14. one-block TES インピーダンス

電気方程式から、

Z_{\mathrm{TES}}(\omega)
=
R_0(1+\beta)
+
\frac{I_0R_0\alpha}{T_0}
\frac{\delta T}{\delta I}

であった。

ここに先ほどの結果を代入する。

Z_{\mathrm{TES}}(\omega)
=
R_0(1+\beta)
+
\frac{I_0R_0\alpha}{T_0}
\frac{
P_{J0}(2+\beta)/I_0
}{
G(1-\mathcal{L}+i\omega\tau_0)
}

ここで

\mathcal{L}
=
\frac{\alpha P_{J0}}{GT_0}

なので、

\frac{R_0\alpha P_{J0}}{GT_0}
=
R_0\mathcal{L}

である。

したがって、

Z_{\mathrm{TES}}(\omega)
=
R_0(1+\beta)
+
\frac{
R_0(2+\beta)\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}+i\omega\tau_0
}

を得る。

これが one-block モデルにおける TES 単体の小信号インピーダンスである。

回路全体で見れば、

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
=
R_L
+
i\omega L
+
Z_{\mathrm{TES}}(\omega)

なので、

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
=
R_L
+
i\omega L
+
R_0(1+\beta)
+
\frac{
R_0(2+\beta)\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}+i\omega\tau_0
}

となる。

実験で最初に測るのは、多くの場合この $Z_{\mathrm{circ}}$ である。TES 単体の $Z_{\mathrm{TES}}$ を得るには、寄生抵抗やインダクタンスの寄与を理解する必要がある。


15. 高周波極限と低周波極限

one-block の式から、いくつか重要な極限が分かる。

高周波では、温度が速い電気的変動に追随できない。そのため、熱応答に由来する第 2 項は消え、

Z_{\mathrm{TES}}(\infty)
=
R_0(1+\beta)

となる。

これは、温度を固定したときの TES の微分抵抗である。単なる $R_0$ ではなく、$\beta$ を含む点が重要である。

一方、低周波極限では、

Z_{\mathrm{TES}}(0)
=
R_0(1+\beta)
+
\frac{
R_0(2+\beta)\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}
}

である。

整理すると、

Z_{\mathrm{TES}}(0)
=
R_0
\frac{
1+\beta+\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}
}

となる。

$\mathcal{L}>1$ では、低周波側の実効抵抗は負になり得る。これは異常なことではなく、電圧バイアス TES における強い electrothermal feedback の反映である。

また、$\mathcal{L}\gg 1$ かつ $\mathcal{L}\gg 1+\beta$ であれば、

Z_{\mathrm{TES}}(0)
\simeq
-R_0

となる。

ただし、これは近似である。厳密には、

Z_{\mathrm{TES}}(0)
=
-R_0
\frac{
\mathcal{L}+1+\beta
}{
\mathcal{L}-1
}

であり、常にちょうど $-R_0$ になるわけではない。


16. なぜ A+B/(1+i ω τ) と書けるのか

one-block の式は、数学的には

Z(\omega)
=
A
+
\frac{B}{1+i\omega\tau_Z}

のような形に書ける。

ただし、

A=R_0(1+\beta)
B=
\frac{
R_0(2+\beta)\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}
}
\tau_Z
=
\frac{\tau_0}{1-\mathcal{L}}

である。

この形は、1つの極を持つ応答として数学的には見通しがよい。

しかし、ここで大きな注意が必要である。

典型的な電圧バイアス TES では、$\mathcal{L}>1$ であることが多い。その場合、

1-\mathcal{L}<0

である。

したがって、$B$ や $\tau_Z$ は正の量とは限らない。

つまり、一般的な 1 次遅れ回路のように、

B > 0
τ > 0
低周波で A+B に増える
高周波で A に戻る

と単純に理解してはいけない。

ここでの $\tau_Z$ は、通常の安定な ETF 時定数ではない。インピーダンスを一つの極を持つ形で書いたときに現れる形式的な時定数であり、$\mathcal{L}>1$ では負になり得る。

TES の安定なパルス減衰や、理想電圧バイアス下の温度戻りを表す時定数とは区別する必要がある。


17. ETF 時定数は別に導く

ここで、よく知られた

\tau_{\mathrm{ETF}}
\simeq
\frac{\tau_0}{1+\mathcal{L}}

がどこから来るのかを別に整理する。

理想電圧バイアスでは、TES 両端の小信号電圧が一定である。

\delta V_{\mathrm{TES}}=0

電気方程式

\delta V_{\mathrm{TES}}
=
R_0(1+\beta)\delta I
+
\frac{I_0R_0\alpha}{T_0}\delta T

に $\delta V_{\mathrm{TES}}=0$ を入れると、

\delta I
=
-
\frac{
I_0\alpha
}{
T_0(1+\beta)
}
\delta T

となる。

つまり、温度が上がると電流が下がる。

これが電圧バイアスの負帰還である。

Joule power の小信号は

\delta P_J
=
P_{J0}(2+\beta)\frac{\delta I}{I_0}
+
P_{J0}\alpha\frac{\delta T}{T_0}

であった。

ここに上の $\delta I$ を代入すると、

\delta P_J
=
-
\frac{P_{J0}\alpha}{T_0}
\frac{2+\beta}{1+\beta}
\delta T
+
\frac{P_{J0}\alpha}{T_0}
\delta T

である。

整理すると、

\delta P_J
=
-
\frac{P_{J0}\alpha}{T_0}
\frac{1}{1+\beta}
\delta T

となる。

これは、温度が上がると Joule power が下がることを表している。

熱方程式は

C\frac{d(\delta T)}{dt}
=
-G\delta T
-
\frac{P_{J0}\alpha}{T_0}
\frac{1}{1+\beta}
\delta T

である。

loop gain を使えば、

C\frac{d(\delta T)}{dt}
=
-
G
\left(
1+
\frac{\mathcal{L}}{1+\beta}
\right)
\delta T

となる。

したがって、有効熱時定数は

\tau_{\mathrm{ETF}}
=
\frac{\tau_0}
{
1+\mathcal{L}/(1+\beta)
}

である。

$\beta=0$ なら、

\tau_{\mathrm{ETF}}
=
\frac{\tau_0}{1+\mathcal{L}}

となる。

これが、

ETF が強いほど熱応答が速くなる

というよく知られた結果である。

ここで強調したいのは、これは

理想電圧バイアス条件 δV_TES = 0 を課したときの自然な熱応答

であるという点である。

一方、インピーダンスは

Z(\omega)=\frac{\delta V}{\delta I}

である。

したがって、

インピーダンス導出で出る 1 - L

ETF 時定数で出る 1 + L

を混同してはいけない。


18. Nyquist plot は何を見ているのか

TES インピーダンスは複素数である。

したがって、周波数ごとに

Z(\omega)
=
\mathrm{Re}[Z(\omega)]
+
i\,\mathrm{Im}[Z(\omega)]

を持つ。

周波数を変えながら、複素平面上に

(\mathrm{Re}[Z],\mathrm{Im}[Z])

をプロットしたものを Nyquist plot と呼ぶ。

one-block モデルでは、理想的には 1つの熱的な極を持つため、TES 単体の $Z_{\mathrm{TES}}$ は半円状の軌跡を描く。

ただし、実験で直接測る量は多くの場合、

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
=
R_L+i\omega L+Z_{\mathrm{TES}}(\omega)

である。

したがって、観測された $Z_{\mathrm{obs}}$ の高周波側では、直列インダクタンス $i\omega L$ の寄与が強く見えることがある。TES の熱応答を議論するには、できるだけ $R_L+i\omega L$ を見積もり、TES 単体の $Z_{\mathrm{TES}}$ に戻して考えるのが望ましい。

Nyquist plot で見ているのは、

高周波では熱が追随しない応答
低周波では熱が追随する応答
その中間で熱応答の遅れが現れる様子

である。したがって、Nyquist plot は TES 内部の熱応答を見るためのツールである。


19. 半円の向きと loop gain

one-block モデルでは、半円の向きは低周波端 $Z_0$ と高周波端 $Z_\infty$ の位置関係で決まる。

高周波端は

Z_\infty=R_0(1+\beta)

である。

低周波端との差は、

Z_0-Z_\infty
=
\frac{
R_0(2+\beta)\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}
}

である。

通常、

R_0>0,\quad 2+\beta>0,\quad \mathcal{L}>0

なので、符号はほぼ $1-\mathcal{L}$ で決まる。

$\mathcal{L}>1$ なら、

Z_0-Z_\infty<0

となり、低周波側が高周波側より左、場合によっては負の抵抗側に回り込む。

一方、$\mathcal{L}<1$ なら、

Z_0-Z_\infty>0

となり、低周波側が高周波側より右に来る。

したがって、測定データで半円の向きが反転して見える場合、それはしばしば

\mathcal{L}=1

の境界をまたいでいることを示している。

物理的には、転移中心付近では $\alpha$ が大きく、$\mathcal{L}$ も大きい。一方、TES が常伝導側の tail に近づくと、$\alpha$ が小さくなり、$\mathcal{L}$ が 1 を下回ることがある。

このとき、半円の向きが変わる。

$\mathcal{L}=1$ の条件は、

\mathcal{L}
=
\frac{\alpha P_{J0}}{GT_0}
=
1

なので、もし $\alpha$, $P_{J0}$, $T_0$ が独立に分かっていれば、

G=
\frac{\alpha P_{J0}}{T_0}

と書ける。

ただし、実験的には $\mathcal{L}=1$ 近傍では応答の極が非常に低周波へ移動し、半円が大きく歪んだり、測定帯域から外れたりする。したがって、この方法は $G$ の主測定法というより、$P_{\mathrm{sat}}(T_{\mathrm{bath}})$ などから求めた $G$ のクロスチェックとして使うのが安全である。


20. 常伝導状態と超伝導状態のインピーダンス

one-block の半円状インピーダンスは、TES が転移中にあり、$\alpha$ が大きく、電熱結合が効いている場合に現れる。

TES が完全に常伝導状態にあるなら、

R(T,I)\simeq R_N

であり、

\alpha\simeq 0,\quad \beta\simeq 0,\quad \mathcal{L}\simeq 0

と見なせる。

このとき TES 単体は

Z_{\mathrm{TES}}\simeq R_N

である。

回路全体では、

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
\simeq
R_L+i\omega L+R_N

となる。

一方、TES が完全に超伝導状態にあるなら、

R_{\mathrm{TES}}\simeq 0

である。

したがって TES 単体は、通常の低周波小信号測定では

Z_{\mathrm{TES}}\simeq 0

と見なせる。

回路全体では、

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
\simeq
R_L+i\omega L

となる。

このとき、応答は one-block 熱モデルの半円ではなく、単純な RL 回路の one-pole 応答である。

時間領域で電圧ステップを加えれば、

L\frac{d\,\delta I}{dt}
=
\delta V
-
R_L\delta I

であり、電気的時定数は

\tau_{\mathrm{el}}^{\mathrm{SC}}
=
\frac{L}{R_L}

である。

ただし、厳密には超伝導 TES 自身にも kinetic inductance や弱結合的な非線形性があり得る。その場合は、

Z_{\mathrm{TES}}^{\mathrm{SC}}
\simeq
i\omega L_k

のような小さな寄与を考えることもある。通常の TES インピーダンス測定の周波数帯では、これは寄生インダクタンス $L$ の一部としてまとめて扱うことが多い。


21. ゼロバイアスで AC を印加すると loop gain は有限になるのか

ここは誤解しやすい。

TES への DC バイアス電流を 0 にした状態で、小さい AC をプローブとして印加する場合を考える。

動作点は

I_0=0

である。

したがって、動作点での Joule power は

P_{J0}=I_0^2R_0=0

である。

loop gain は

\mathcal{L}
=
\frac{\alpha P_{J0}}{GT_0}

で定義されるので、小信号線形応答の意味では

\mathcal{L}=0

である。

では、AC を印加したら Joule heating は本当にないのか。

たとえば

I(t)=I_{\mathrm{ac}}\cos\omega t

とすると、

P_J(t)
=
R I_{\mathrm{ac}}^2\cos^2\omega t

である。

これは

P_J(t)
=
\frac{R I_{\mathrm{ac}}^2}{2}
\left(
1+\cos 2\omega t
\right)

と書ける。

つまり、AC 電流による Joule heating は、

DC 成分
+
2ω 成分

を持つ。

しかし、$\omega$ 成分はない。

したがって、通常の線形インピーダンス測定で見る fundamental 成分、

Z(\omega)=\frac{V_\omega}{I_\omega}

に対しては、ゼロバイアスでの Joule heating は一次の小信号として効かない。

AC heating は $I_{\mathrm{ac}}^2$ に比例する二次効果である。

したがって、AC 振幅を十分小さくすれば、この効果は消える。

結論として、

I_0=0

の動作点では、線形応答としての TES の loop gain は 0 である。

小さい AC を印加しても、TES の one-block 熱的半円が新たに現れるわけではない。

ただし、有限振幅の AC を入れすぎると、平均発熱や $2\omega$ の温度振動により、

測定されるインピーダンスが振幅に依存する
高調波が出る
見かけ上の熱応答が混ざる

ことがある。

これは小信号線形インピーダンスではなく、有限振幅による非線形ボロメトリック効果である。


22. ゼロバイアスでも回路系の応答関数は残る

TES の loop gain が 0 であることと、測定系の応答関数が 0 になることは別である。

たとえば、TES が超伝導で、かつ TES バイアスを 0 にしたとしても、TES に直列につながる SQUID 入力コイル、配線インダクタンス、シャント抵抗、寄生抵抗、フィルタ、読み出し回路は残っている。

超伝導状態なら、理想的には

Z_{\mathrm{TES}}\simeq 0

である。

しかし回路全体は

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
\simeq
R_L+i\omega L

である。

これは単なる抵抗ではなく、周波数依存する電気回路である。

さらに、測定器が出力する量は、必ずしも $Z_{\mathrm{circ}}$ そのものではない。

実際には、電流読み出しチャンネルや電圧印加チャンネルに応答関数がある。

たとえば、電流読み出し側に

H_I(\omega)

という伝達関数があるとする。

真の電流を $I_{\mathrm{true}}$、測定される電流を $I_{\mathrm{meas}}$ とすれば、

I_{\mathrm{meas}}(\omega)
=
H_I(\omega) I_{\mathrm{true}}(\omega)

である。

このとき、測定から作ったインピーダンスは

Z_{\mathrm{meas}}(\omega)
=
\frac{V(\omega)}{I_{\mathrm{meas}}(\omega)}

なので、

Z_{\mathrm{meas}}(\omega)
=
\frac{V(\omega)}{H_I(\omega)I_{\mathrm{true}}(\omega)}
=
\frac{Z_{\mathrm{true}}(\omega)}{H_I(\omega)}

となる。

つまり、電流読み出し側の伝達関数は、インピーダンスに直すと逆数として効く。

したがって、TES を常伝導や超伝導にして、さらに DC バイアスを 0 にしても、

TES の電熱応答は消える
しかし、回路系・読み出し系の応答関数は残る

ということになる。

これは実験データを解釈する上で非常に重要である。


23. low-pass filter が残ると何が起きるか

読み出し系に 1 次の low-pass 的な応答が残っている場合を考える。

典型的な 1 次遅れは、

\tau\frac{dy}{dt}+y=x

で表せる。

ここで x$ が入力、y$ が出力である。

フーリエ空間では、

(1+i\omega\tau)y_\omega=x_\omega

なので、伝達関数は

H(\omega)
=
\frac{y_\omega}{x_\omega}
=
\frac{1}{1+i\omega\tau}

となる。

これが 1 次 low-pass filter の標準形である。

ただし、実際の読み出し系では、単純な独立した RC 回路とは限らない。出力側のインピーダンスが低い場合や、次段の負荷が無視できない場合、gain や時定数は変わる。

したがって、ここでの

H(\omega)=\frac{1}{1+i\omega\tau}

は、読み出し系の高周波応答を理解するための最も単純なモデルである。

電流読み出し側が

H_I(\omega)=\frac{1}{1+i\omega\tau_{\mathrm{read}}}

を持つとする。

このとき、

Z_{\mathrm{meas}}
=
\frac{Z_{\mathrm{true}}}{H_I}
=
Z_{\mathrm{true}}
(1+i\omega\tau_{\mathrm{read}})

となる。

仮に真の回路応答が

Z_{\mathrm{true}}=R+i\omega L

であれば、

Z_{\mathrm{meas}}
=
(R+i\omega L)(1+i\omega\tau_{\mathrm{read}})

である。

展開すると、

Z_{\mathrm{meas}}
=
R
-
\omega^2L\tau_{\mathrm{read}}
+
i\omega
\left(
L+R\tau_{\mathrm{read}}
\right)

となる。

したがって、

\mathrm{Re}[Z_{\mathrm{meas}}]
=
R-\omega^2L\tau_{\mathrm{read}}
\mathrm{Im}[Z_{\mathrm{meas}}]
=
\omega(L+R\tau_{\mathrm{read}})

である。

つまり、高周波側で

Re が下がる
Im が上がる

という挙動が出る。

これは TES の one-block 熱応答ではなく、読み出し系の low-pass 的応答が、インピーダンス変換の中で逆数として効いているためである。

この軌跡は厳密には円ではない。

$\omega$ を消去すると、

\mathrm{Re}[Z_{\mathrm{meas}}]
=
R
-
\frac{
L\tau_{\mathrm{read}}
}{
(L+R\tau_{\mathrm{read}})^2
}
\left(
\mathrm{Im}[Z_{\mathrm{meas}}]
\right)^2

となる。

したがって、Re-Im 平面では放物線的に左上へ曲がる。

限られた周波数範囲では 1/4 円のように見えることがあるが、物理的には one-pole の熱的半円ではなく、読み出し系の transfer function が残った結果として理解すべきである。


24. 高周波側で何を測っているのか

もし、常伝導状態、超伝導状態、転移中のどれを測っても、ある周波数以上で共通に

Re が下がる
Im が上がる
Re-Im 平面で同じような曲がりを示す

なら、それは TES 固有の熱応答ではなく、測定系の共通応答である可能性が高い。

特に、10 kHz 以上などで全ての測定に共通した曲がりが見える場合は、

SQUID feedback loop の有限帯域
室温アンプの帯域
anti-alias filter
DAC/ADC の相対位相
デジタル処理の遅延
電流読み出し側の low-pass 応答
電圧印加側と電流読み出し側の相対 delay

を疑うべきである。

このような効果が残っている場合、測定される量は

Z_{\mathrm{meas}}(\omega)
=
K(\omega)Z_{\mathrm{circ}}(\omega)

または、電流チャンネルの応答を明示すれば、

Z_{\mathrm{meas}}(\omega)
=
\frac{Z_{\mathrm{circ}}(\omega)}{H_I(\omega)}

のように書ける。

したがって、TES の物理を議論するには、まず $K(\omega$) や $H_I(\omega)$ を評価する必要がある。


25. 測定系応答の切り分け方

測定系の高周波応答を切り分けるには、TES の電熱応答が消えている状態を使うのが有効である。

25.1 超伝導状態で測る

TES が完全に超伝導なら、

Z_{\mathrm{TES}}\simeq 0

である。

したがって、本来の回路応答は

Z_{\mathrm{true}}(\omega)
\simeq
R_L+i\omega L

である。

この状態で高周波側に余分な曲がりが出るなら、それは TES の熱応答ではなく、回路系・読み出し系の応答である。

25.2 常伝導状態で測る

TES が十分に normal plateau にあれば、

Z_{\mathrm{TES}}\simeq R_N

である。

したがって、

Z_{\mathrm{true}}(\omega)
\simeq
R_L+R_N+i\omega L

である。

この状態でも同じ高周波曲がりが出るなら、やはり測定系の応答である。

25.3 ゼロバイアスで測る

TES への DC バイアスを 0 にすると、

P_{J0}=0

なので、小信号の TES loop gain は

\mathcal{L}=0

である。

この状態で残る周波数依存性は、TES の電熱応答ではなく、回路・読み出し・有限振幅効果のいずれかである。

AC 振幅を下げても残るなら、線形な測定系 transfer function の可能性が高い。

AC 振幅を下げると消えるなら、AC heating などの非線形効果の可能性がある。

25.4 低周波側で R+i ω L を fit する

超伝導または常伝導のデータについて、十分低い周波数範囲で

Z_{\mathrm{model}}(\omega)
=
R+i\omega L

を fit する。

そのうえで、

K(\omega)
=
\frac{
Z_{\mathrm{meas}}(\omega)
}{
R+i\omega L
}

を作る。

もし $K(\omega$) が超伝導状態と常伝導状態で共通なら、それは TES ではなく測定系の応答である。

この $K(\omega)$ を使って、

Z_{\mathrm{corr}}(\omega)
=
\frac{
Z_{\mathrm{meas}}(\omega)
}{
K(\omega)
}

と補正すれば、TES 固有の応答に近づけることができる。


26. R_N を決めるときの注意

常伝導抵抗 $R_N$ は、TES が本当に normal plateau にある領域で決めるべきである。

転移温度の少し上や、転移の上端の tail では、抵抗がまだ温度や電流に緩やかに依存していることがある。

この場合、

\alpha \neq 0

であり、厳密には完全な常伝導状態ではない。

そのような領域で測ったインピーダンスは、

R_N

ではなく、その温度・電流バイアス点における局所的な小信号インピーダンスである。

高周波極限でも、

Z_{\mathrm{TES}}(\infty)=R_0(1+\beta)

であり、$R_0<R_N$ なら $R_N$ にはならない。

したがって、実験的には次を確認する必要がある。

1. R(T) が温度を上げてもほぼ変わらない。
2. I-V の normal branch が線形である。
3. インピーダンスが半円を示さず、R_N + iωL 的な直線応答になる。
4. bias power を変えても推定される抵抗が変わらない。

$T_c$ の少し上で $\alpha$ が小さいが有限の領域は、$R_N$ 測定点としては不適切な場合がある。


27. two-block モデルへ進む理由

one-block モデルでは、TES と absorber が一つの温度で表せると仮定した。

しかし実際には、absorber と TES の間の熱結合は無限に強いわけではない。absorber に入った熱が TES に伝わるには有限の時間がかかる。

そこで、absorber と TES を別々の熱容量として扱う。

absorber: Ca
   |
  Gae
   |
TES: Ce
   |
 Gbath
   |
heat bath

このようなモデルを two-block モデルと呼ぶ。

ここで、

Ca:
  absorber の熱容量

Ce:
  TES 側の熱容量

Gae:
  absorber と TES の間の内部熱コンダクタンス

Gbath:
  TES から熱浴への熱コンダクタンス

である。

one-block では温度変数が一つだけだった。

\delta T

two-block では、少なくとも二つの温度変数が必要になる。

\delta T_a,\quad \delta T_e

ここで $T_a$ は absorber 温度、$T_e$ は TES 温度である。

TES 抵抗を直接変えるのは TES の温度 $T_e$ である。一方、X 線エネルギーを最初に受けるのは absorber である。

この区別が重要である。


28. two-block モデルの式の意味

two-block モデルの熱方程式は、概念的には次のように書ける。

C_e\frac{d(\delta T_e)}{dt}
=
\delta P_J
-
G_{\mathrm{bath}}\delta T_e
-
G_{ae}(\delta T_e-\delta T_a)
C_a\frac{d(\delta T_a)}{dt}
=
G_{ae}(\delta T_e-\delta T_a)

第一式は TES 側の熱収支である。

TES 側には Joule power が入る。また、熱浴へ熱が逃げる。さらに absorber との間で熱のやり取りがある。

第二式は absorber 側の熱収支である。

absorber は TES と熱をやり取りする。

このモデルでは、$G_{ae}$ が大きければ absorber と TES はほぼ一体として動く。その場合 one-block に近づく。

一方、$G_{ae}$ が小さければ、absorber と TES は別々の温度を持ちやすい。その場合、one-block モデルからのずれが大きくなる。

フーリエ空間では、$\delta I,\delta T_e,\delta T_a$ の連立一次方程式になる。その結果、インピーダンスには複数の熱的な時間スケールが現れる。

Nyquist plot では、

半円からのずれ
肩構造
複数の曲率
高周波側の余分な構造

として見えることがある。

ただし、高周波側の余分な構造をすぐに two-block モデルの熱応答と解釈してはいけない。まず、常伝導・超伝導・ゼロバイアス測定で、同じ構造が出ていないかを確認する必要がある。

全ての状態で共通に出る構造は、TES 内部の熱構造ではなく、測定系の transfer function である可能性が高い。


29. two-block モデルは excess noise の理解にも重要

two-block モデルは、単にインピーダンスの形を少し複雑にするためのモデルではない。

非常に重要なのは、two-block モデルでは absorber と TES の間に内部 thermal fluctuation noise が生じることである。

thermal fluctuation noise とは、熱の流れが平均値のまわりでゆらぐことに由来するノイズである。

熱コンダクタンス $G$ で二つの物体がつながっていると、平均的には高温側から低温側へ熱が流れる。しかし、微視的にはエネルギーのやり取りは確率的であり、その流れにはゆらぎがある。

TES と熱浴の間の thermal fluctuation noise は、single-body モデルにも含まれる。

しかし two-block モデルでは、それに加えて absorber--TES 間の内部 thermal fluctuation noise が現れる。

この内部ゆらぎは、TES 電流のノイズとして観測され得る。

経験的には、TES Johnson noise に余分な係数をかけることで、測定ノイズをフィットすることもできる。しかし、それはノイズの大きさを合わせるだけであり、物理的な起源を説明するものではない。

two-block モデルでは、

余分なノイズは、内部熱自由度の間の thermal fluctuation noise である

という物理的な説明を与えることができる。

ただし、

excess noise = すべて internal thermal fluctuation noise

と単純化してはいけない。

transition に kink がある領域や、$\alpha$ が急激に変化する領域では、別のノイズ機構が支配的になることもある。


30. G_ae は本当に absorber--TES stem の熱コンダクタンスなのか

two-block モデルでは、absorber と TES の間に $G_{ae}$ を置く。

しかし、$G_{ae}$ を単純に

absorber と TES をつなぐ金属 stem の熱コンダクタンス

と決めつけてはいけない。

実際のデバイスでは、熱の流れは複雑である。

absorber
→ Au stem
→ TES bilayer
→ TES 内部の電子系・フォノン系
→ membrane
→ heat bath

のように、複数の経路や内部自由度が存在する。

つまり、two-block モデルの図では

absorber
|
Gae
|
TES

と描いていても、実際には $G_{ae}$ が TES bilayer 内部の有効熱コンダクタンスを表している可能性がある。

これは、モデルと物理構造の対応を考える上で非常に重要である。

モデルのブロックは、必ずしも実物の部品と一対一に対応するわけではない。


31. three-block モデルとさらに複雑な熱構造

two-block モデルでも不十分な場合がある。

その場合、three-block モデルや、さらに多くの熱自由度を含む multi-block モデルを考える。

たとえば、

absorber
TES electron system
TES phonon system
membrane
weakly coupled body
normal / superconducting domains

などが、別々の熱自由度として振る舞うことがある。

一般に multi-block モデルは、行列方程式として書ける。

\mathbf{C}
\frac{d\boldsymbol{\delta T}}{dt}
=
-\mathbf{G}
\boldsymbol{\delta T}
+
\boldsymbol{\delta P}

ここで

\boldsymbol{\delta T}
=
\begin{pmatrix}
\delta T_1\\
\delta T_2\\
\delta T_3\\
\vdots
\end{pmatrix}

である。

フーリエ空間では、

\left(
i\omega\mathbf{C}
+
\mathbf{G}
\right)
\boldsymbol{\delta T}
=
\boldsymbol{\delta P}

となる。

これを解くことで、TES 温度の応答を求め、それを電気方程式に戻すと複素インピーダンスが得られる。

このように、one-block から multi-block への拡張は、数学的には自然である。

ただし、ブロック数を増やせば必ず正しいわけではない。ブロック数を増やすとフィットの自由度も増える。そのため、データには合いやすくなる。しかし、それぞれの熱容量や熱コンダクタンスが本当にデバイス内のどの物理部分に対応するのかは、別途検証が必要である。


32. インピーダンス解析で何が分かるか

TES インピーダンス解析で分かることを整理する。

32.1 微分抵抗

高周波では温度が追随できない。

そのため、高周波極限から

R_0(1+\beta)

に関する情報が得られる。

$R_0$ が別に分かっていれば、$\beta$ を制約できる。

32.2 温度感度 alpha

低周波側の動的応答や、Nyquist plot の曲率から、$\alpha$ や loop gain $\mathcal{L}$ を制約できる。

\mathcal{L}
=
\frac{\alpha P_{J0}}{GT_0}

なので、$P_{J0},G,T_0$ が分かっていれば、$\mathcal{L}$ と $\alpha$ は結びつく。

32.3 熱容量 C

one-block モデルでは、熱極の位置から熱時定数に関する情報が得られる。

ただし、インピーダンスの折れ曲がりから直接見えるのは、単純に $\tau_0=C/G$ そのものではなく、$\mathcal{L}$ を含んだ熱極である。

したがって、$C$ を求めるには、$\mathcal{L}$ と $G$ も合わせて決める必要がある。

multi-block の場合、得られる熱容量は単純な TES 熱容量ではなく、

その周波数帯で TES と一緒に見えている有効熱容量

である可能性がある。

32.4 寄生抵抗とインダクタンス

実験で測る回路全体のインピーダンスは、

Z_{\mathrm{circ}}(\omega)
=
R_L
+
i\omega L
+
Z_{\mathrm{TES}}(\omega)

である。

したがって、インピーダンス測定から $R_L$ や $L$ も制約できる。

これは読み出し回路を理解する上で重要である。

32.5 読み出し系の transfer function

実験で測る量には、読み出し系の transfer function が含まれることがある。

したがって、常伝導・超伝導・ゼロバイアスで共通に見える高周波構造は、TES の熱モデルではなく、測定系の応答として切り分ける必要がある。

32.6 熱モデルの妥当性

one-block で予想される半円からデータがずれる場合、two-block や three-block の熱モデルが必要かもしれない。

ただし、測定系の高周波応答を補正せずに、すぐに multi-block モデルを導入するのは危険である。

まず、

超伝導状態
常伝導状態
ゼロバイアス状態
dummy channel

などで測定系由来の構造を切り分けるべきである。


33. インピーダンス解析だけでは分からないこと

一方で、インピーダンス解析だけでは分からないことも多い。

33.1 熱モデルの一意性

同じようなインピーダンス曲線を、異なる熱モデルが再現できることがある。

したがって、フィットが合っただけで、熱構造が一意に決まったとは言えない。

33.2 ノイズの起源

インピーダンスは線形応答を測るものであり、ノイズの起源をすべて直接決めるわけではない。

Johnson noise、thermal fluctuation noise、excess noise を理解するには、ノイズスペクトルとの同時解析が必要である。

33.3 大信号応答

インピーダンス解析は小信号解析である。

X 線パルスのような有限エネルギー入力では、TES の状態が平衡点から大きく動くことがある。

その場合、$\alpha,\beta,C$ が一定という近似は破れる。

したがって、インピーダンス解析で得たパラメータが、そのまま大信号パルス全体を説明するとは限らない。

33.4 空間不均一性

TES の転移は、空間的に完全に一様とは限らない。

TES 内部には、

電流分布
磁場分布
渦糸
proximity effect
normal / superconducting 領域の共存
膜厚むら

などがある。

このような空間不均一性は、単純な lumped thermal model では表現しきれないことがある。

33.5 測定系の一意性

読み出し系の応答も、単純な 1 pole とは限らない。

実際には、

K(\omega)
=
K_0
\frac{
(1+i\omega z_1)(1+i\omega z_2)\cdots
}{
(1+i\omega p_1)(1+i\omega p_2)\cdots
}
e^{i\omega\Delta t}

のように、複数の pole、zero、遅延が混ざっている可能性がある。

したがって、高周波側の構造を理解するには、TES だけでなく測定系全体のキャリブレーションが必要である。


34. どの順番で学ぶとよいか

TES インピーダンス解析は、いきなり論文の式から入ると混乱しやすい。

次の順番で理解するとよい。

1. 抵抗、インピーダンス、複素数応答を理解する

2. 熱容量 C、熱コンダクタンス G、熱時定数 C/G を理解する

3. TES が R(T,I) という非線形抵抗であることを理解する

4. 平衡点まわりで小信号線形化する

5. α と β の意味を理解する

6. Joule power の小信号変化を導く

7. one-block モデルで Z_TES を導く

8. 1 - L と 1 + L の違いを理解する

9. Nyquist plot で低周波端・高周波端・半円の向きを読む

10. 常伝導・超伝導状態では半円ではなく、主に回路応答を見ていることを理解する

11. ゼロバイアスでは TES の loop gain は 0 だが、回路系の transfer function は残ることを理解する

12. 高周波で全状態に共通する構造は、測定系由来かどうかを確認する

13. two-block モデルで内部熱自由度と内部熱ゆらぎを理解する

14. インピーダンス、ノイズ、パルス、I-V 曲線を合わせて現実の TES を理解する

特に、式を暗記するよりも、

どの変数を固定しているか
どの変数を揺らしているか
どの条件を課しているか
何を TES の応答と呼び、何を測定系の応答と呼ぶか

を常に意識することが重要である。


35. 可視化用 Python コード

最後に、one-block TES インピーダンスを可視化する簡単なコードを示す。

ここでは、任意の $A,B,\tau$ ではなく、one-block TES の式をそのまま使う。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

# -----------------------------
# one-block TES parameters
# -----------------------------
R0 = 0.10        # TES resistance at the bias point [ohm]
beta = 1.0       # current sensitivity
loop_gain = 5.0  # L = alpha * P_J0 / (G * T0)
tau0 = 1.0e-3    # natural thermal time constant C/G [s]

freq = np.logspace(0, 5, 2000)
omega = 2.0 * np.pi * freq

# Fourier convention: exp(+i omega t)
Z_tes = (
    R0 * (1.0 + beta)
    +
    R0 * (2.0 + beta) * loop_gain
    / (1.0 - loop_gain + 1j * omega * tau0)
)

plt.figure(figsize=(7, 5))
plt.semilogx(freq, np.real(Z_tes), label="Re[Z_TES]")
plt.semilogx(freq, np.imag(Z_tes), label="Im[Z_TES]")
plt.xlabel("Frequency [Hz]")
plt.ylabel("Impedance [ohm]")
plt.grid(True)
plt.legend()
plt.tight_layout()
plt.show()

plt.figure(figsize=(6, 6))
plt.plot(np.real(Z_tes), np.imag(Z_tes))
plt.xlabel("Re[Z_TES] [ohm]")
plt.ylabel("Im[Z_TES] [ohm]")
plt.grid(True)
plt.axis("equal")
plt.tight_layout()
plt.show()

この例では

\mathcal{L}=5

としているので、

1-\mathcal{L}<0

である。

スクリーンショット 2026-06-18 21.03.28.png

スクリーンショット 2026-06-18 21.03.38.png

そのため、低周波側の動的抵抗は単純に高周波側より大きくなるのではなく、負の動的抵抗側に回り込む。

これはバグではない。

電圧バイアス TES における electrothermal feedback が、インピーダンスに現れた結果である。

次に、読み出し系の low-pass 的な応答が残った場合の見え方を簡単に可視化する。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

# ============================================================
# Example: TES bias/input circuit + current-readout response
# ============================================================
#
# True circuit:
#   Z_true = R_eff + i omega L_in
#
# Current readout response:
#   I_meas = H_I I_true
#   H_I = 1 / (1 + i omega tau_read)
#
# Measured impedance:
#   Z_meas = V / I_meas = Z_true / H_I
#
# This demonstrates that a low-pass response in the current readout
# appears as an inverse factor in the measured impedance.

# -----------------------------
# Realistic TES/SQUID-scale parameters
# -----------------------------
R_tes = 100e-3      # TES operating resistance [ohm], e.g. 100 mOhm
R_sh  = 4e-3        # shunt resistance [ohm], e.g. 4 mOhm
R_par = 1e-3        # parasitic resistance [ohm], e.g. 1 mOhm
L_in  = 12e-9       # SQUID input coil + wiring inductance [H], e.g. 12 nH

R_eff = R_tes + R_sh + R_par

# Readout bandwidth. This is not the TES L/R pole.
# It represents an effective current-readout / FLL / electronics pole.
f_read = 5.0e5                    # 500 kHz
tau_read = 1.0 / (2.0 * np.pi * f_read)

# Useful frequency scales
f_LR_sh = R_sh / (2.0 * np.pi * L_in)
f_LR_eff = R_eff / (2.0 * np.pi * L_in)

# Frequency grid
freq = np.logspace(2, 7, 2500)    # 100 Hz to 10 MHz
omega = 2.0 * np.pi * freq

# -----------------------------
# Circuit and readout response
# -----------------------------
Z_true = R_eff + 1j * omega * L_in

H_I = 1.0 / (1.0 + 1j * omega * tau_read)
Z_meas = Z_true / H_I

# Convert to mOhm for plotting
Z_true_mohm = 1e3 * Z_true
Z_meas_mohm = 1e3 * Z_meas

# -----------------------------
# Print characteristic scales
# -----------------------------
print("Characteristic frequencies")
print(f"  Rs/(2πL)              = {f_LR_sh/1e3:8.1f} kHz")
print(f"  (RTES+Rs+Rpar)/(2πL)  = {f_LR_eff/1e6:8.2f} MHz")
print(f"  readout pole          = {f_read/1e3:8.1f} kHz")
print()
print("Parameters")
print(f"  RTES = {R_tes*1e3:.1f}")
print(f"  Rs   = {R_sh*1e3:.1f}")
print(f"  Rpar = {R_par*1e3:.1f}")
print(f"  Lin  = {L_in*1e9:.1f} nH")

# -----------------------------
# Plot style
# -----------------------------
plt.rcParams.update({
    "figure.figsize": (7.2, 4.8),
    "font.size": 12,
    "axes.labelsize": 13,
    "axes.titlesize": 14,
    "legend.fontsize": 10,
    "xtick.labelsize": 11,
    "ytick.labelsize": 11,
    "axes.grid": True,
    "grid.alpha": 0.35,
})

# ============================================================
# Figure 1: Re/Im vs frequency
# ============================================================
fig, ax = plt.subplots()

ax.semilogx(freq, np.real(Z_true_mohm), label=r"Re[$Z_{\rm true}$]")
ax.semilogx(freq, np.imag(Z_true_mohm), label=r"Im[$Z_{\rm true}$]")
ax.semilogx(freq, np.real(Z_meas_mohm), "--", label=r"Re[$Z_{\rm meas}$]")
ax.semilogx(freq, np.imag(Z_meas_mohm), "--", label=r"Im[$Z_{\rm meas}$]")

ax.axvline(f_LR_sh, linestyle=":", linewidth=1.2, label=r"$R_s/(2\pi L)$")
ax.axvline(f_LR_eff, linestyle="-.", linewidth=1.2, label=r"$R_{\rm eff}/(2\pi L)$")
ax.axvline(f_read, linestyle=(0, (5, 2)), linewidth=1.2, label=r"$f_{\rm read}$")

ax.set_title("Circuit impedance with current-readout low-pass response")
ax.set_xlabel("Frequency [Hz]")
ax.set_ylabel("Impedance [mΩ]")
ax.legend(ncol=2)
fig.tight_layout()
plt.show()

# ============================================================
# Figure 2: Nyquist plot
# ============================================================
fig, ax = plt.subplots(figsize=(5.8, 5.8))

ax.plot(np.real(Z_true_mohm), np.imag(Z_true_mohm), label=r"$Z_{\rm true}$")
ax.plot(np.real(Z_meas_mohm), np.imag(Z_meas_mohm), "--", label=r"$Z_{\rm meas}$")

# Mark a few frequencies
marker_freqs = [1e3, 1e4, 1e5, 5e5, 1e6, 5e6]
for f0 in marker_freqs:
    idx = np.argmin(np.abs(freq - f0))
    ax.plot(np.real(Z_meas_mohm[idx]), np.imag(Z_meas_mohm[idx]), "o", ms=4)
    ax.annotate(
        f"{f0/1e3:g} kHz" if f0 < 1e6 else f"{f0/1e6:g} MHz",
        xy=(np.real(Z_meas_mohm[idx]), np.imag(Z_meas_mohm[idx])),
        xytext=(5, 5),
        textcoords="offset points",
        fontsize=9,
    )

ax.set_title("Nyquist plot")
ax.set_xlabel(r"Re[$Z$] [mΩ]")
ax.set_ylabel(r"Im[$Z$] [mΩ]")
ax.legend()
ax.set_aspect("equal", adjustable="box")
fig.tight_layout()
plt.show()

この例では、真の回路応答は単純な

Z_{\mathrm{true}}=R+i\omega L

である。

しかし、電流読み出し側に low-pass が残っていると、測定されるインピーダンスは

Z_{\mathrm{meas}}
=
Z_{\mathrm{true}}(1+i\omega\tau_{\mathrm{read}})

のようになり、高周波で

Re が下がる
Im が上がる

という放物線的な曲がりを示す。

スクリーンショット 2026-06-19 14.39.50.png

スクリーンショット 2026-06-19 14.43.10.png

このような構造は、TES の熱的 one-block 半円とは別物である。


36. まとめ

TES インピーダンス解析で最も重要なのは、

何を固定し、
何を変動させ、
どの条件で応答を見ているのか

を明確にすることである。

one-block モデルで TES 単体の小信号インピーダンスを導出すると、

Z_{\mathrm{TES}}(\omega)
=
R_0(1+\beta)
+
\frac{
R_0(2+\beta)\mathcal{L}
}{
1-\mathcal{L}+i\omega\tau_0
}

となる。

一方、理想電圧バイアス下の ETF による有効熱時定数は、

\tau_{\mathrm{ETF}}
=
\frac{\tau_0}
{
1+\mathcal{L}/(1+\beta)
}

である。

特に $\beta=0$ なら、

\tau_{\mathrm{ETF}}
=
\frac{\tau_0}{1+\mathcal{L}}

である。

したがって、

インピーダンス導出で現れる 1 - L

ETF 時定数で現れる 1 + L

を混同してはいけない。

また、TES が常伝導状態や超伝導状態にある場合、転移中のような半円状の TES インピーダンスは基本的に現れない。常伝導状態では $Z_{\mathrm{TES}}\simeq R_N$、超伝導状態では $Z_{\mathrm{TES}}\simeq 0$ と考え、回路全体では $R_L+i\omega L$ の寄与を含む単純な電気回路応答として理解する。

ただし、TES への DC バイアスを 0 にしても、回路系・読み出し系の応答関数は残る。

ゼロバイアスでは

P_{J0}=0,\quad \mathcal{L}=0

であり、TES の線形電熱 loop gain は消える。しかし、SQUID 入力コイル、配線、シャント抵抗、フィルタ、ADC/DAC、デジタル処理などの応答は残る。

したがって、常伝導・超伝導・ゼロバイアスでも共通して見える高周波構造は、TES の熱応答ではなく、測定系の transfer function である可能性が高い。

特に、電流読み出し側に low-pass 的な応答が残っていると、

I_{\mathrm{meas}}=H_I(\omega)I_{\mathrm{true}}

であり、インピーダンスに直すと

Z_{\mathrm{meas}}
=
\frac{Z_{\mathrm{true}}}{H_I(\omega)}

となる。

そのため、読み出し側の low-pass は、測定されたインピーダンスでは逆数として効く。

たとえば

H_I(\omega)=\frac{1}{1+i\omega\tau_{\mathrm{read}}}

なら、

Z_{\mathrm{meas}}
=
Z_{\mathrm{true}}(1+i\omega\tau_{\mathrm{read}})

である。

真の回路応答が

Z_{\mathrm{true}}=R+i\omega L

なら、

\mathrm{Re}[Z_{\mathrm{meas}}]
=
R-\omega^2L\tau_{\mathrm{read}}
\mathrm{Im}[Z_{\mathrm{meas}}]
=
\omega(L+R\tau_{\mathrm{read}})

となり、Re-Im 平面で左上へ曲がる放物線的な軌跡を示す。

これは TES の one-block 熱的半円とは別物である。

one-block モデルは、TES インピーダンス解析の出発点として非常に重要である。しかし現実の TES では、absorber、TES bilayer、membrane、弱く結合した内部自由度などにより、two-block や three-block の熱モデルが必要になることがある。

ただし、multi-block モデルを議論する前に、常伝導・超伝導・ゼロバイアス・dummy channel などを使って、測定系由来の構造を切り分けることが重要である。


帯域を見るときの注意点

TES インピーダンス測定で見える帯域は、TES 単体だけで決まるわけではない。少なくとも次を分けて考える必要がある。

  • シャント抵抗 $R_s$
    TES をどれだけ理想的な電圧バイアスに近づけられているかを決める。
    $R_s/(2\pi L)$ は、電圧バイアスの硬さを表す重要な周波数スケールである。

  • SQUID input coil と配線のインダクタンス $L$
    高周波では $i\omega L$ が無視できなくなる。
    特に $R_s$ が数 m$\Omega$、$L$ が数 nH--十数 nH の場合、数 10 kHz から影響が見え始めることがある。

  • TES 動作抵抗 $R_{\mathrm{TES}}$
    TES branch 全体の電流応答を見るときは、

    f \sim \frac{R_{\mathrm{TES}}+R_s+R_{\mathrm{par}}}{2\pi L}
    

    が目安になる。
    これは $R_s/(2\pi L)$ とは意味が違う。

  • FLL bandwidth
    SQUID を FLL で使う場合、読み出し系には有限の閉ループ帯域がある。
    FLL 帯域が測定したい周波数より十分高くないと、SQUID electronics 側の振幅低下や位相遅れが混ざる。

  • フィルタ、ADC/DAC、デジタル遅延
    anti-alias filter、室温アンプ、ADC/DAC、デジタル処理の遅延も、測定されたインピーダンスに位相回転や高周波構造を作る。

したがって、測定データに高周波側の曲がりや位相遅れが見えたとき、それをすぐに TES 内部の熱構造と解釈してはいけない。まず、

Rs
input L
Rpar
FLL bandwidth
filter
ADC/DAC
delay

を確認し、常伝導・超伝導・ゼロバイアス測定で共通に出る構造がないかを見る必要がある。

広帯域の SQUID electronics を使っても、低温入力回路の $i\omega L$ や測定系の伝達関数は消えない。TES の物理を議論する前に、まず読み出し系の帯域を切り分けることも重要である。

まとめ

実際の TES を理解するには、

I-V 曲線
複素インピーダンス
ノイズスペクトル
パルス波形
デバイス構造
読み出し回路
測定系 transfer function

を組み合わせる必要がある。TES インピーダンス解析は、単なるフィット式の暗記ではなく、

電気回路
熱回路
非線形素子の線形化
安定性
ノイズ
デバイス内部の熱構造
測定系の伝達関数

を結びつけて、TES の内部状態と測定系の影響を分離して読み解くための方法である。

参考文献
  • K. D. Irwin and G. C. Hilton, “Transition-Edge Sensors,” in Cryogenic Particle Detection, Topics in Applied Physics, 2005.
  • M. A. Lindeman et al., “Impedance measurements and modeling of a transition-edge-sensor calorimeter,” Review of Scientific Instruments, 75, 1283, 2004.
  • I. J. Maasilta, “Complex impedance, responsivity and noise of transition-edge sensors: analytical solutions for two- and three-block thermal models,” AIP Advances, 2, 042110, 2012.
  • M. R. J. Palosaari et al., “Analysis of impedance and noise data of an X-ray transition-edge sensor using complex thermal models,” Journal of Low Temperature Physics, 167, 129, 2012.
  • N. A. Wakeham et al., “Thermal fluctuation noise in Mo/Au superconducting transition-edge sensor microcalorimeters,” Journal of Applied Physics, 125, 164503, 2019.
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